松本清張のレビュー一覧

  • 或る「小倉日記」伝―傑作短編集(一)―

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    昭和40年に刊行されたこの短編集には昭和28年に芥川賞を取った『或る「小倉日記」伝』などが収められている。
    巻末などに初出年月が一切書かれていないのでとても困るのだが、比較的初期の作品ばかりのような気がする。『黒い画集』の諸作よりもエンターテイメント性や情動的な密度が低いように思える。
    幾つかの小説は、全く架空の人物をいかにも本物の伝記らしく記述した、虚構の伝記スタイルである。松本清張はこうしたスタイルを得意とし、(比較的初期の頃?)多用したようだ。それぞれリアリティがあるので、虚構と分かっていても面白く読める。
    この短編集の最後の方の幾つかは、これらの中では成熟してきているようで、文学的文体

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    2020年09月13日
  • 火と汐

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    「火と汐」不倫で京都旅行中の妻が、ヨットレースに参加中の夫によって絞殺される。そのトリックとは。 「証人の森」会社から帰ってみると妻の死体に遭遇。疑われる第一発見者の夫。そして、警察の自白強要によって殺人者に確定。しかし、戦況が激しくなり真犯人として名乗りをあえげてきたのが、近所の米配達の青年。「種族同盟」国選弁護人が手腕を発揮して無罪となった青年。しかし、その青年を自分の事務所に雇い入れて、事件の真相が明らかになる。「山」会社からの横領を逃れるために出奔したのが長野県の山間にある温泉地。中居女中と親密になり、山中で見つけたのが女性の死体そしてその犯人と思しき男性。東京に中居女中と移り住み、そ

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    2020年09月02日
  • 奥羽の二人

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    本能寺の変から江戸時代までの十話の短編集。とても読み易かったが主人公皆んな挫折すると言うなんとも切ない作品。

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    2020年08月15日
  • 水の炎

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    相互銀行の設立者の息子で、その野心家で妻を顧みない夫、その夫と親の勧められるままに結婚した若き妻、その妻が通信教育のスクーリングで出会った若き大学助教授、そして、相互銀行の息子をたぶらかす新興企業の面々。

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    2020年08月01日
  • 神々の乱心 下

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    ネタバレ

    80歳を過ぎて、これだけの構想力。松本清張は偉大だ。
    最後の最後で病に倒れ、本作は絶筆となったが、殺人事件の謎はおおよそ明かされ、ラストへ終息するばかりのところ。どのように物語が終結するか、読者の想像に委ねられるのも一興か。

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    2020年07月24日
  • 黒い空

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    室町時代の関東管領であった山内上杉家と扇谷上杉家、扇谷上杉家は滅亡し、山内上杉家が生き残ったという。その子孫の怨念が、この作品の主題となっている。山内上杉家の子孫で関東山内グループの女会長、その婿養子、そして扇谷上杉の子孫の女社員。殺人事件が起こる。

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    2020年07月23日
  • 黒地の絵―傑作短編集(二)―

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    清張の短編集2冊目。
    こないだの『黒い画集』ほどの衝撃は無かったが、それでも印象の強い作品はいくつかあったし、どれも興味をぐいぐいと引きつけられ一気に読まされてしまう、優れた語り口が見られた。
    「紙の刃」などはサラリーマンが苦境に陥り困惑を極める話なのだが、実際の自分の仕事とはえらく違う領域であってもこの仕事上の困窮は身に迫る感じがして、読んでいて辛くなった。
    どうやら松本清張は現代日本人が普遍的に日常的にすれ違うような「イヤな感じ」を見事に抉り出す点で実に傑出しているようだ。
    松本清張は、「イヤな感じ」大魔王である。
    現実生活にもありがちな「イヤな感じ」を、フィクションを読んでわざわざ反芻さ

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    2020年07月12日
  • 実感的人生論

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    松本清張のエッセイを集めたもの。テーマは多彩。「点と線」や「半生の記」を読んでから読んだ方がよいかと。

    雑誌、新聞などに掲載された記事をまとめたもの。
    小説が行き詰まり掲載誌に穴が開かないように埋め合わせで書いた記事が面白い。

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    2020年07月12日
  • 黒革の手帖(上)

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    欲がうずまく夜の世界。
    ストーリーのはじまりから恐喝というスピード感ある展開で一気読みしてしまった。

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    2020年05月31日
  • 岡倉天心

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    岡倉天心は、「茶の本」という日本というものを
    世界に知らしめた人で、法隆寺の秘仏を開き、
    大観、春草を育てた人で、自ら取り立ててくれた文部官僚の九鬼男爵の
    奥さんを寝取って、修羅場をくぐり、東京美術学校の校長を追放された人。
    そして、美術史を編纂し、伊東忠太の建築史にも影響を与えた。
    という風に、ある程度の理解していたが、
    松本清張にかかると、実に 人間臭い岡倉天心が、噴出する。
    手法としては、原典にあたり、そこから解釈して、
    天心はどのような人物だったのか?を明らかにしようとする。
    最初に、東京府巣鴨病院長(精神病学の権威)への九鬼男爵の申請書から
    始まるのであるが、原文そのままなので、読み

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    2020年05月04日
  • 落差 下 新装版

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    何故か、読み進むのが陰鬱で、しんどくなってしまう。ダム工事補償の裏側、教科書採用の裏側、いずれもリベートなど裏のカラクリに焦点が当てられている。加えて、女性遍歴と出世と名誉欲。結局、殺人事件は起こらない。

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    2020年04月27日
  • 西郷札―傑作短編集(三)―

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    表題作はもちろんの出来栄え。松本清張に松平忠輝を書かせると味わい深いな。他の話も、コンプレックスだらけで良い

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    2020年04月10日
  • 眼の壁

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    資金にショートした民間会社。短期資金調達のために金融業者・高利貸金業者社長の口利きで相互銀行から資金調達できることになる。しかし、その実態はパクリ屋、詐欺集団の手中に落ちる。資金調達の担当者は、自殺。その真相を調べるために、その部下、部下の友人の新聞記者が奔走する。右翼団体、代議士、戦中戦後の混乱、貧村地域の悲哀、偽装殺人など徐々に真相が明らかになっていく。

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    2020年04月01日
  • わるいやつら(下)

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    昭和35年から週刊新潮にて約1年間、連載された小説らしい。考えてみれば、半世紀以上も前に書かれた作品。当時の医師や弁護士となると、現在よりさらに社会的な地位や信頼も高かったと推察されるが、こうした職業人をストーリーの中心に据えるのあたりは、松本清張ならであるように思われる。また、骨董の世界の裏と面も、重要なポイントになっている。本作品の特徴は、登場人物がすべて悪人であること。まさに、タイトル通り「わるいやつら」である。弁護士の下見沢、そして槙村隆子のその後の人生が気になる。

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    2020年03月25日
  • わるいやつら(上)

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    亡父の跡を継ぎ病院院長を勤める医師・戸谷。彼には別居中の妻がいる。病院経営にはてんで興味は無く、事業は衰退する一方、彼は骨董品集に余念がない。そのお金の補填で事業家の夫ある妻たち複数人と同時並行で関係を深めて行く。他方、亡父の愛人だった歳上の看護婦長との関係も若い頃から続いている。上巻では、その関係ある不倫相手の夫、続きその愛人、そしてもう1人の愛人の夫、さらに看護婦長をも次々、殺害していく。主人公・戸谷が目下夢中なのは、独身女性事業家であるデザイナーを口説き落とすこと。しかし、友人である弁護士の不審さ。

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    2020年03月21日
  • 象徴の設計 新装版

    購入済み

    期待に応えてくれる名作

    どこかの大学教授が書くよりも歴史の奥行きが学べる。権謀術数を駆使して権力の掌握を得ていった明治政府の主人公たちの裏事情もよくわかったようだった。

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    2020年02月22日
  • 疑惑

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    「鬼熊」ってあだ名だったら嫌だ。本名、鬼塚球磨子(おにづかくまこ)34歳。ホステス。身長171センチ、体重61キロの迫力ナイスバディ。顔はまあまあだが妖艶な雰囲気を持ち、性格は超ヒステリック。ヤクザの子分がいる前科4犯。めっちゃ怖いやん。そんな鬼クマには保険金目当ての夫殺しの容疑がかかっている。状況は真っ黒。しかし物的証拠はゼロ。裁判の行方は如何にー。何度も映像化されて結末は知っていたが、なかなか楽しめた。原作だと鬼クマがこんなに存在感あるのに一切登場しないのも面白い。いろんな意味で『先入観』を問う物語。

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    2020年02月15日
  • 遠い接近

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    紹介文を読まずに読み始めて、
    細かい郡の描写に、
    Wikiとみくらべて清張の実体験なのかな…と思ってたら
    途中からもちろん完全なるフィクションに入った。
    そこからは一気読み。
    赤紙がテキトーに、かつ悪意や欲で配られていた暴露話は、
    文春の昔の号をまとめたものに、
    同じことが載っていたな。

    読み終わったあと昼寝したら、
    警察に追われる夢を見てしまった…。

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    2020年01月05日
  • 遠い接近

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    (相変わらず、松本清張さんの未読作品をつぶしています。本当に作品を多く残された・・・!)

    *****
    昭和17年、主人公は徴兵検査で第二乙種不合格だったのに32歳にして召集令状が来てしまった。入隊後のいじめ、残してきた家族への思い、朝鮮への転属、死なずに復員してきたのに家族6人は広島の原爆で死に、たった一人になってしまった。戦後の混乱そして赤紙を書いた人たちへの恨みに凝り固まって、復讐を目指す。
    *****

    そんなことを言ってはなんだが、ありそうなストーリ、だが、清張さんにかかると迫真だ、ご自身の経験もあるそうなのだが。
    主人公はちょうどわたしの実父と同じくらいの年齢、父も教育招集

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    2019年11月05日
  • 或る「小倉日記」伝―傑作短編集(一)―

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    人は生きるだけで、辛い。
    でも、ここで描かれる悲哀は、自分の欲望から生まれる物語。
    サカナクションのエンドレスだ。
    "この指で僕は僕を指す
    その度にきっと足が竦む
    見えない世界に色をつける
    声は僕だ"

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    2019年11月03日