【感想・ネタバレ】小説日本芸譚のレビュー

あらすじ

日本美術史に燦然と輝く芸術家十人が、血の通った人間として甦る――。新進気鋭の快慶の評判に心乱される運慶。命を懸けて、秀吉と対峙する千利休。将軍義教に憎まれ、虐げられる世阿弥。将軍家、公卿、富商の間を巧みに渡り歩く光悦。栄華を極めながらも、滲み出る不安、嫉妬、苛立ち、そして虚しさ――美を追い求める者たちが煩悩に囚われる禍々しい姿を描く、異色の歴史短編小説十編。

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Posted by ブクログ

松本清張というと、私にとってはミステリー作家のイメージが強い。本書は短編歴史小説で、10編からなる。

運慶、世阿弥、千利休、雪舟、古田織部、岩佐又兵衛、小堀遠州、光悦、写楽、止利仏師

名前は知っている、名前すら知らない、10名の芸術家の内面が色濃く描かれていて、とても興味深い。芸術への飽くなき探究心と、それに伴う心の葛藤が実によく描かれている。

中でも印象に残るのは、千利休と光悦の話。千利休と豊臣秀吉の対立場面は、恐ろしかった。

俵屋宗達よる下絵の施された料紙に、本阿弥光悦が古人の和歌を書いた「鶴下絵三十六歌仙和歌巻」。今まで写真を見て、“素敵だなあ”“出来上がった絵に文字を書くのは、緊張するだろうなあ”“2人で協力して仕上げるのは大変だろうなあ”と思っていた。そして、2人がタッグを組んだ作品に好感を持っていた。しかし、この小説を読むとこれまでの感覚が覆されて驚いた。

これこそ、小説を読む醍醐味!また、本書を読みたくなると思う。


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2025年10月20日

Posted by ブクログ

思い描いていたような松本清張作品とは違た。

歴史上の人物を身近に感じさせてくれ、
自分の中の世界を広げてくれた作品。

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2020年04月12日

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アーティスト快慶を嫉妬するプロデューサー運慶、足利義嗣が自刃したのちに足利義持に放逐された世阿弥、下品な秀吉を軽蔑していた千利休、絵は下手だったが中国で構図の妙を手に入れた雪舟、商人の茶道を否定し武家の茶道をつくりあげた古田織部、師匠らしい師匠につかなかったため画流ルーツが漠としている岩佐又兵衛、茶碗の目利きしか家康に能を見出してもらえず武士としての手柄も稼がせてもらえなかった小堀遠州、俵屋宗達をうまく操作し商売人としての技量のほうこそ注目される本阿弥光悦、個性の強すぎる画のため売れずに屈折した東洲斎写楽、テーマが古すぎて上手にまとめることができなかった止利仏師のこと、松本清張の博学がふんだんに活かされまるで小説版ギャラリーフェイクでとても楽しめました

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2019年08月25日

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短編小説集。
松本清張作品の中で、私のイチオシ!

この短さでよくここまで深い話をまとめたな、と感銘を受けた。引き込まれる。
一つ一つとても読み応えがある。

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2014年07月12日

Posted by ブクログ

数々の日本史に残る芸術家に関する短編小説。
何を成し遂げたか、というよりも、人間性に迫っていくところが面白い。
もちろん、具体的なところは、想像でしかないわけだが、それをうまく作り込んでいる。

例えば、一流の芸術家だとしても、世代交代というものに思い悩むことがあるだろうし、素晴らしい芸術家ほど、精神的に脆弱であり、二重人格であるかもしれない。

また、ここで取り上げられる芸術家は、歴史上は、表面的には取り上げられる機会が少ないのかもしれないが、例えば、茶道家などは、政治とも深く関係があったわけで、そのような史実を学ぶ上でも有益なヒントを与えてくれる。

ただ、どうしても短編小説なので、ここから、個々人のことを更に深掘りしていく動きが良いのだと思った。

以下抜粋~
・秀吉は信長になろうとしているのだ。これまでの秀吉のやり方を観ていると、戦争でも、部下の操縦でも、みんな信長の真似であった。信長の模倣において、利休を捉えているとしか思えなかった。
なるほど、秀吉は数奇者として異常に熱心である。が、それは何か的が外れていた。美への直感というものが無かった。(千利休)

・これだった。今まで概念的な知識でしかなかった宗元画の山水が、この眼で実地に見て具象的に実体を把握したことである。内面の充実がそこにある。
(雪舟)

・そのころ、織部は切支丹にひどく牽かれていた。彼の妹は、高山右近の妻だった。
織部は南蛮器物に施された意匠に驚嘆した。色彩は強烈で明るかった。
(古田綾部)

・利休は、町人の茶に我執して自滅した。おれは茶人と同時に武人だった。すると、おれは武人であったが故に、その側のために自滅したのだな、と彼はぼんやりと思った。
(古田織部)

・政一はもっと多芸であった。建築、造庭、書、生花、和歌といった風である。(小堀遠州)

・利休の茶道は、要するに町人茶道であった。
戦国争乱で京都の貴族が逃亡してきて、この地に茶道がひろまったといわれる。
が、利休の「わび」は町人の芸術であった。前の時代の無常観とはちがう。
禅学的な教養をもつ武士階級の感情には当然に反撥があった。利休の死滅後、三万五千石の大名古田織部によって利休の茶道は変改させられる結果になった。
(小堀遠州)

・なぜ蘇我氏が帰化人に人気があったかというと、仏教信奉の問題にかかる。(止利仏師)

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2024年09月15日

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「抽象には何かがあるかも知れないが、それを感じ取るまでには時間と忍耐を要する。写実は瞬時の躊躇なく直截に訴える。それが見事な出来であればあるほど、素朴な感嘆を与える。作家の精神が、民衆の距離のない感動に融け合うのだ。もともと信仰の本質は感動ではないか。」(『運慶』より)

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2023年03月02日

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(01)
歴史に登場する10人の芸術家たち(*02)にそれぞれスポットを当て、彼らの苦渋や葛藤とともに、その作家性や作品の特質を想像の中に描いている。といっても、古代から近世の人物であり、それぞれ残された記録も多いわけではない。そして、その芸術的な行為は、現代の芸術家の生業とも異なる文脈に属している。とりわけ権力との距離や体制、そして芸術を成立させる技術や情報に現代との断絶がある。
しかし、著者は、そこを飛躍し、彼らを生き生きと描いており、その生命は、矛盾はしているが、どうも彼らの現代性にあるのかのようでもある。

(02)
立体としては運慶や止利仏師が、平面としては雪舟、岩佐又兵衛、光悦、写楽が、工芸や数寄としては千利休、古田織部、小堀遠州が、そして舞踊とし世阿弥が取り上げられており、ひとつの書物に収められた布陣としてもバランスが取れている。もちろん彼らにはそれぞれライバルもいて、パトロンもいる。芸に対する構えには、それほど濃淡はないが、先天的な境遇は様々で、そこに歴史的環境を読むのも楽しい。

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2020年12月06日

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ネタバレ

清張が描きたいのは時の権力者と芸術家、また芸術家の師弟・ライバル関係など、その人をとりまくどのような関係性が彼の表現を生み出したかという因縁の部分。したがって主人公の最後の独白はえてして「これでよかったのか、はたして」という具合の逡巡となる。創作というのは常にそれまでの歴史やとりまく環境の上に立つものでもあるし、また同時にあくまでも個人の内面に直結するものでもある。そのあたりの事情を考えさせる小説だ。

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2014年02月09日

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運慶、雪舟、織部など日本史に残る芸術家の心情を描いていて特に新たな世代や価値観における葛藤は興味深い。
それにしても最後の仏師の話は資料が無いと作家の妄想的私小説みたいになっていて当時の編集者がよくOKしたと思う。内容の理解が足りないのかもしれないけどこの連作で1番楽しみにしていたところだったので残念。

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2022年08月20日

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松本清張というと推理小説のイメージが強いが、歴史小説も書いていたんですね。
これは芸術家列伝。
利休あたりは興味深く読めた。

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2018年04月12日

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松本清張の作とは思えない、こんなのも描くのだと感じ入る。清張初期の作とはいえ、「点と線」発表と同じくする時期なのだ。とにかく綿密な調査が作品に重みを添える。2015.8.18

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2015年08月18日

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