桃野雑派のレビュー一覧
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ネタバレ『星くずの殺人』の続編であり、前作に登場した女子高生が主人公。
『星くずの殺人』では宇宙ステーションで起こった事件だったが、
本作では打って変わって日本の京都が舞台。
スケールが小さくなったのでは?と思いながら読んでいたが、
京都の名所の数々が巻き込まれる大変大規模な事件が展開されていく。事件の規模なら前作以上だ。
不謹慎かもしれないが読んだ後は京都旅行に行きたくなること間違いなし。
主軸となるテーマは炎上や加害者家族に対する誹謗中傷だろう。
おそらく今現在もなんらかの出来事で起こっている現象であると思うし、こういったトラブルなんかは枚挙にいとまがない。
家族だから、友人だから、果ては同じ地域・都市に住んでいるからと、外野は一括りにして同様の狂気や悪意を孕んだ存在と決めつけて糾弾する。私も含めて心当たりがまったくない人はいないと思う。しかも糾弾する側は自分たちに正義があり、それが正当な権利であると思いこんでいる。
まさに現代のSNSで起こっていることを反映させたような物語だった。
こういった作品を客観的に読んでいると、誹謗中傷している側の醜悪さや幼稚さがありありと見えてくるのに、
そのような行為がなくならないのはなぜなんだろうか。
前述したとおり、やっている側としては正義を執行している感覚があるからなのだろう。
我々は自分に正義があると何をしても許されると思っているフシがある。それが他人を傷つけ、結果的に殺すようなことになったとしても……。
この作品を読んで今一度、正義とは何かということを考えてほしい。
正直に言うと私は正義というものがわからない。そもそもそんなものは人間が勝手に作り出したもので、それが他人を害する大義名分になるというのならそんな概念はなくなってしまってもいいとすら思っている。そのように考えてはいるものの、声高にそれを主張するわけではない。ただ私は巻き込まれたくないだけなのだ。
そんな自分を心底恥じ入るほどに心に刺さった作品だった。 -
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ネタバレ「星くずの殺人」の桃野先生のデビュー作。
1000年前を舞台に武侠の達人が密室で殺害されてしまった事で始まるミステリー作品。
ミステリーだけではなく、女性同士の恋愛や武侠に関わるアクション描写、物語の背景にある歴史的な背景など多くの面から楽しめる作品だと思いました。不器用ながらも血の繋がらない者への愛情や、復讐への惑い、それぞれの優しさなど、交錯していく思惑が複雑に絡み合っていて、それが綺麗に終盤にかけて回収されていく所がとても面白かったです。最後の描写がどうなってしまったのか分からないところが少し惜しい点かなと思いました。恋華と紫苑の恋仲がどうなったかなどの所も描いて欲しかったと想いました。
この作品をアニメ化した際の声優陣を自分なりのキャスティングしてみたので読む際に参考にしてください(敬称略)。
蒼紫苑:小松未可子
梁恋華:安野希世乃
梁泰隆:中田譲治
蔡文和:小山力也
楽祥纒:松本梨香
為門:立木文彦 -
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ネタバレわかりやすくミステリの条件を満たしている部分と満たしていない部分に分かれている作品だった。
ミステリの条件として、これまでに考え付かれていないトリックがある、舞台が斬新で興味を唆るなどが挙げられるだろう。
トリックの条件には当てはまる部分と当てはまらない部分があった。犯人が自分が死んだように見せるというおおまかなトリックはかのアガサクリスティの名著でも使われたトリックであり、目新しさはない。しかし、電磁波を使ってそれを可能にするというトリックは新鮮味を持っている。
舞台設定についてもだ。クローズドサークルとはすでに何度も使われた設定であり、相当ストーリーが面白くないと興味を惹きつけることは難しい。
この小説における新しさはまず、完全なクローズドサークルとは言えない点であろう。
主人公たちは事件が起き、身の安全を守るため脱出ポットで逃げようと試みる。
しかし、参加者たちはそれぞれ宇宙旅行に巨額の金と目的をもって参加しているし、会社も簡単にツアーを中止にできない。さらに、会社からの忠告メールの全文が読めないというアクシデントも発生する。
物理的よりも心理的なクローズドサークルの要素が強いと言えるだろう。
また、完全な宇宙空間でのクローズドサークルは膨大な知識量が天文学、物理学においても必要となる。その点は細部まで説明がされており、初学者でもなんとかくらいつける。 -
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風呂に入るまでが面倒くさい。
サッと入ってしまえばすぐに済むのに、毎夜、「あぁ、風呂に入らないとなぁ……」と思いながら、何時間も無駄な時間を過ごしてしまう。
スマホというやつは本当に良くない。テレビも見られるし、ラジオも聴ける。こうして、風呂に入るまでの時間はいくらでも溶けていく。
「5分後にお風呂に入りたくなる!」
そんな謳い文句を見て、縋るような気持ちでこの本を手に取った。
本書には、入浴にまつわる18篇の小説と4篇のエッセイが収録されている。どれも5分もあれば読み切れるような短い作品ばかりだ。
しかし、これを読んだら即座に風呂に入れる、という作品は、残念ながら一篇もなかった。
私とて、正直な話、この本を読んだからといって、簡単に風呂に入れるとは思っていなかった。
ただ、少しでも早く風呂に入る決心ができるようになるためのヒントがないかと思ったのだ。そのヒントは、結局「風呂に入らない」2篇の中にあった。
風呂に入らないと決め、痒みや気持ち悪さといった数多の「受難」を乗り越えて、ついには「思い込み」の力で、風呂に入らなくても「入浴の効用」を得られるようになったと主張する青年を描いた、さや香新山作の『プラシーボ!』。
風呂に入らなくても身体を完璧に洗浄する技術が開発された近未来で、人類が入浴という苦難から解放され、ついには入浴が法律で禁止される世界を描いた、日野瑛太郎の『そして誰も風呂に入らなくなった』。
人間というのは天邪鬼なもので、他人から「やれ」と言われればやりたくなくなり、「やるな」と言われれば、やりたくなるものだ。
同じように、風呂に入ることを固く禁じられたなら、私は今すぐ風呂に入りたくて仕方なくなるのかもしれない。 -
Posted by ブクログ
本書は、お風呂にまつわる22篇の短編小説・エッセイ((小説18篇、エッセイ4篇))からなるアンソロジーです。
タイトルに「5分後に」とあるように、1篇5分ほどで読み終えられます。
大変恥ずかしながら、わたしは風呂キャンセル界隈のひとりです。
疲れて帰ってくると、そのまま寝落ちてしまいます。
ですが、疲れた時こそお風呂に入らなくてはいけないという義務感は持っています。
なので、お風呂に入るモチベーションが湧かない日に1篇ずつ読んで、これで入浴できれば最高だと思って購入しました。
が、結論から申し上げますと、本書のおかげでお風呂に入れるようになったということはありませんでした。
お風呂に入るモチベーションが湧かないくらい疲れている日は、小説にも手が伸びなかったからです。
わたしが風呂キャンセル勢なのは、モチベーションの問題ではなく、お風呂に入る体力がないからだとわかりました。
このことを明らかにしてくれたのは本書の功績です。笑
というわけでわたしは体力のある日にまとめ読みしましたが、たぶん編者のかたは、お風呂に入るモチベーションが湧かない日に1篇ずつ読むことを想定しているのだと思います。
以下、感想です。
5分で読める短編小説と言えば星新一作品ですが、本書には星新一作品ほどウィットに富んだ小説は見当たらないかなと思いました。
宇宙が舞台になっているなど、設定が奇抜な作品はいくつかあったのですが。
(ちなみに、宇宙が舞台の小説は3篇もあります。宇宙というお風呂に入りづらい環境を描くことで、逆説的にお風呂の素晴らしさを強調する意図でしょうか。)
どちらかというと、平凡な1日が描かれていて特に衝撃的なオチがあるわけでもない作品のほうが印象に残りました。
特に日向夏『回復の泉』なんかは、RPG風の軽妙な筆致が良かったですね。
「5分後にお風呂に入りたくなる!」の謳い文句からは、お風呂の素晴らしさを称賛する作品ばかり並んでいそうな印象を受けますが、お風呂に入らなくてもよくなったと主張する人を描く作品、更には「人類を風呂から解放する」と高らかに宣言する作品まであるのも非常に面白いところです。
(ネタバレ防止のために、具体的な作品名を挙げるのは避けます。)
本書が風呂キャンセル界隈の人のモチベに効くかはわかりませんが、お風呂というテーマがここまで多様な作品を生むことに感動できるのは間違いないです。