小川一水のレビュー一覧
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巨大ガス惑星、大気を泳ぐ巨大な昏魚、自在に変型する宇宙船で漁をして暮らす人々。
…という世界の設定だけでもわくわく。
そして、夫婦で操船するルールの中で、異例の女性ペアで船を操る、テラとダイオードのぶっ飛びまくりの活躍。
ぷはー、面白かった。
ストーリーとしては、あらすじを書くこともできないんだけど、とにかくどっぷり濃いSFな世界と、シャイなんだかエッチなんだかピュアなんだか、ド可愛い女子ふたりのやりとりに、気持ちよく溺れるべし。
続編あるんだ。
そりゃ、外宇宙へ行くんだよね???
小川一水さん、いつか読みたいと思いつつも、代表作「天冥の標」シリーズに挑まずに、つまみ食いしております。 -
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小川一水という人は『天冥の標』で超有名なSF作家。
日本SF界では次世代の日本SFを代表する一人と言われている。
『老ヴォールの惑星』は初期の中編4話を集めたもの
表題作「老ヴォールの惑星」
他の惑星に住む住人、生命体、知性という概念が、人間の想像を超えるとすると……。
この作品では、生み出される生命体の様式はその惑星の環境が決定づけている。
イメージすることがなかなか難しいが、不思議と納得できる物語。
「漂った男」
誰もいない惑星にたった一人取り残される物語といえばアンディ・ウェア「火星の人」が思い浮かぶ。
不時着した惑星の環境がこの人の幸福と悲劇をもたらすことになる。
全て水面の大きな惑星に浮かぶ人間ひとり、もう砂漠に蟻を探すより気が遠くなる。
頼みの綱が通信機。昔の遠距離恋愛のように画像のない電話だけで他人と繋がるようすが、とてもリアルに展開される。
悲劇も長く続くと日常になり、いい人ばかりではなくなる。
エンディングがとてもいいので、爽やかな読後になる。
その他の中編2話も「孤独と社会」や「幻想と実体」などのテーマを持ちながら、物語自体の面白さですっかりファンになってしまった。 -
ネタバレ 購入済み
士官学校生の恋は
ヤンが士官学校時代。同級生の恋バナをキャゼルヌ少佐にしたことから不穏な話に…キャゼルヌ夫人がまだキャゼルヌ少佐と交際中、名探偵さながらに謎を解く話。 -
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ダイオードとテラの二人。どうあっても二人はFBBで暮らすには不適合であることが判明してしまいました。似たような意識を持つ人もいるし、理解を示してくれそうな気風が生まれそうだという希望もある。ただ、その社会が醸成されるを待つには、二人の人生は短い。そして、待つぐらいだったら変えてやるではなく、ここではないどこかへ行ってしまえ!の二人なのです。悪いことにエダさんという協力者の存在もあって、臨界へ達してしまった二人を止められるものはない。
違ったとこでも達してしまった二人です。
屋根裏で何をしていたか見ていたのですか、ですって。残り香で何をしていたか、ですよ。テラさんってば癖が強い。
「ランナウェイ」してしまった二人を待ち受けるものはなんなのか。GI社会では、二人を縛っていた男女の垣根がどうなっているのか。この縛りがなくなると、「サイクロン」ではなくなってしまうので、物語の魅力が半減してしまうのではないかなぁ。未来の社会が現在よりも進化しているとは限らないので、より硬直化してしまっている可能性は大いにあるのですがね。ダイバーシティ?なにそれ?という社会かもしれない。
どこまで行っても安住の地が得られない、というのは二人には酷なことではありますが「サイクロン」である以上、ぶち壊す対象は必要です。その結果、象徴としての「ツインスター」になってゆくのか。だとしても、そんなこと知ったことかの二人なんでしょうけども。 -
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24世紀。パナストロ共同体の小惑星パラスで農家を営むタックは、15歳になった娘ザリーカの反抗期に悩まされていた。それに加えて、地球から農業を学びにやってきた研究者のアニーが父娘と同居することになってしまう。そのはるか6000万年前、どこかの銀河のどこかの星で、サンゴのような生き物のなかで意識が芽生えた被展開体がいた。ノルルスカインと呼ばれるようになるその情報生命は、やがて太陽系の地球にまで影響を及ぼす巨大な"敵"との出会いを語り始める。〈天冥の標〉シリーズ第5作。
人間ドラマは箸休め的な回。Ⅲ巻の後日譚で、アダムスも名前だけでてくる。
派手な展開は後半までないけれど、タックを通じて低重力環境下での作業の難しさ、異星での植物栽培の歴史など、24世紀の農業のディテールを読むのがとても楽しい。ティーネイジャーのザリーカが遊びに行く都会のちょっとワルなエリアなど、こういう普通の人が未来でどう暮らしているかって描写、肌感覚がわかるだけにワクワクするなー(タックもザリーカもただの"普通の人"ではないんだけど)。そして彼らや農家の仲間たちの目を通して、ロイズとその子会社が目論むメインベルトの画一化計画は庶民の生活をも苦しめているとわかる。
だが、今回のメインはそっちじゃなくて、これまでもちょいちょい顔をだしてきた〈ダダーのノルルスカイン〉の半生記である。今までの断章でも宇宙スケールの話を軽く話す韜晦っぷりが好きだったのだが、ここだけほとんど一人称に近い文体なのもあり、さらに愛着が湧いた。ノルルスカインとミスチフの関係、萌え〜。二人(?)は意思を持って生命体や機械の情報を操作し介入する、上位存在=神のようでもあり、ウイルスのようでもある概念的な存在。円城塔『Self-Reference ENGINE』における巨大知性体みたいなものと思ってるけど合ってるかな? ともあれ、彼らの生き方は冥王斑ウイルスの、オムニフロラはロイズの鏡像として提示された。さて次巻はどの陣営がどう動くのか。 -
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24世紀。記憶喪失状態で目覚めた少年キリアンは、同じ空間にいた見知らぬ少女アウローラにリードされ、何もわからないまま体を合わせた。そこへ天使を模した姿の「聖少女警察」を名乗る少女が現れ、キリアンは無理やり連れ去られる。アウローラは人間の性的欲求に応えるため生みだされた蛋白機械[プロト・ボット]だと知らされたキリアンは……。軌道娼界《ハニカム》で人を悦ばせるために生きている《恋人たち》と、救世群から逃げてきた少年が純粋な性的快感の境地《混爾》を目指す物語。〈天冥の標〉シリーズ第4作。
こんなにずっとヤッてる小説初めて読んだ……疲れた……(笑)。房中術SFというかカーマスートラSF? セクサロイドの幸福追求というテーマは個人的に大好きなんだけど、高度なイメクラでのセックス描写が繰り返されるのは少しキツい。でもその構造がテーマと骨がらみでもある。
《ハニカム》は人々の欲求に応えるためさまざまな施設を用意し、《ラヴァーズ》は時に痛めつけられるようなプレイにも奉仕する。飛浩隆の『グラン・ヴァカンス』で描かれたヴァーチャル・リゾートにも近いが、ラヴァーズはまだ生まれて30年程度のためか、あそこまでの鬱屈は溜め込んでいない。だが、最初の10人のうちの生き残りであるラゴスが性的不能なのは、やはり蓄積されるものがあるということなのだろうか。
今作のテーマは人間にとって切り離せないけれど疎ましい、〈性〉そのものである。自分たちの創造主たる人間に存在理由を証明するため、〈究極のセックス〉を追求する姿にはカズオ・イシグロ『わたしを離さないで』を連想せずにはいられない。Ⅱ巻で疑問視したレイプの問題も、今度は加害者側から掘り下げられる。抑圧や同調圧力、自尊心とそれが傷つけられたと感じたときの防衛反応。さまざまなかたちで人が性衝動を煽られ、時に暴力的な行為に至るのかを突き詰めていく。私はⅡ巻を読んで感じたわだかまりが多少解け、性と生と死に向き合う作者として信頼する気持ちが生まれた。
SMプレイの一環としてハニカムを襲撃するVPのさらに外側に、キリスト教原理主義者みたいに過激な風紀管理ロボが潜んでいて、またまたその裏には宇宙の画一化を目指す保険会社のロイズが関わっているというのもウワーッとなるし、キリアンが家畜人ヤプー化するところもユーモラスかつ恐ろしかった。
ラストはハニカムに降り立ち歓迎される救世群の姿に感動してしまった。冥王斑を忌避しなくていいラヴァーズは、救世群に寄り添う存在としてレゾンデートルを見つけることができるのか。それとも、子をなすことができるか否かという古典的な問いに飲み込まれていってしまうのだろうか。 -
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24世紀。海賊狩りで名を馳せる宇宙戦艦エスレルの艦長サー・アダムスは、小惑星エウレカにある救世群の居住地を襲った海賊の裏にエルゴゾーンと呼ばれる巨大犯罪組織の存在を感知し、調査を始める。エウレカから盗まれたのは、12年前行方知れずになったという木星の宇宙遺跡ドロテアに関する報告書。アダムスの母星ノイジーラント、海賊たちの長イシス、救世群、リエゾン・ドクターらの思惑が絡み合う、宝探しの宇宙冒険活劇。〈天冥の標〉シリーズ第3作。
破天荒な、だが自らの魅力を知り尽くし活用し尽くすことに躊躇がない少年艦長を乗せた装飾過多な宇宙戦艦で、掠奪者たちとバトルしながらその元締めと古代遺跡を探す、クラシカルなスペース・オペラ。スター・ウォーズ的なノリでさまざまな星を旅して風俗を学んでいくのが楽しい。
今回は《海の一統》アンチョークスの先祖、《酸素いらず》アンチ・オックスの人びとが主人公。なぜ肉体改造を施し、電気を動力にする人びとの共同体が生まれたのかが明らかになる。宇宙飛行士が極限状態で見た幻覚が宗教になるというのはありそうだし、リベラルなクリスチャンの未来社会としてノイジーラントの描写が面白かった。
サー・アダムスはⅠ巻のアクリラによく似たキャラクターで、今作の読みどころは彼の魅力に尽きる。ミクマックをはじめとするクルーたちや、セアキとグレアもアダムスという巨大な恒星のまわりを廻る星だ。(ミクマックとの体格差同性愛描写、JUNE…?と思ったけど(笑)) 正義感とアンチ・オックスとしての矜持に溢れ、感情表現が激しいアダムスと一緒に怒ったり泣いたりするうちに冒険は佳境に入っていく。脇キャラではいきなりタイマンバトルを仕掛けてくるデイム・グレーテルおばあちゃんが好き。この人の全盛期の話も読みたい。
ドロテアの謎は残ったままだけど、これは『星を継ぐもの』的な展開になっていくのだろうか。アクリラの代ではアウレーリア家の船として伝わってたけどロイズが持ってっちゃったし……それともアンチョークスのタペストリーになってるのは名前をもらっただけの別の船なのかな?
海賊狩りの矜持に胸を熱くなる爽やかな冒険小説。だが、彼らもいつか救世群を追い詰める一因になるのかと思うと続きを読むのが少し悲しくなってくる。 -
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2010年代。感染症専門医の圭伍は、腐れ縁の同僚・華奈子と共に正体不明の疫病が発生したパラオのリゾート地へ向かう。二人が離島へ到着すると、滞在客は一部を除いて目の周りに大きな黒い斑が浮かび、既に死亡しているか瀕死の状態にあった。圭伍たちは顔に斑を持ちながら生きている少数民族の青年ジョプを発見、保護し、彼がウイルスのキャリアだということを突き止める。半年後、島で唯一の回復者となった日本人の少女・千茅は、ジョプと共に圭伍たちが管理する隔離施設にいた。顔の斑以外は完治していたが、体内のウイルスが他者に感染する可能性は残っているため、隔離され続けているのだった。その間にも疫病は広まり、「冥王斑」と名付けられた印を持つ回復者たちは激しい差別に晒されていく。〈天冥の標〉シリーズ第2作。
10年以上前に「パンデミック下の日本」を予見していた物語としてそりゃー話題になるわ、と納得せざるをえないリアリティ。特に、大衆やメディアが感染者の倫理観を問うて非難するところなど、2年前に散々見た!という気持ちになるし、都市機能が漫然と動き続けていたり、外国の要人が出歩くのを止められなかったり、日本社会の体質を読みすぎている。2010年には"いつか"の悪夢だったものが現実に顕現してしまったのが恐ろしい。けれどこの話を2010年代に設定した著者には、その"いつか"がほど近いこともわかっていたのかもしれない。
Ⅰ巻の舞台は完全なるSF世界だったが、今作は冥王斑の存在以外ほとんどリアリズム小説だ。日本の医師団とWHO、米軍のイニシアチブをめぐる駆け引きや、現地で適当につけられた「疾病P」という名前があれよと言う間にPlutoと紐付けされ、大層な病名になってしまうところなど、案外こういうもんなんだろうなと面白く読んだ。千茅以外の合宿所メンバーや医師たちが最後までジョプをけっして平等に取り扱わないのも日本人だな〜と思った。
ただ、惜しむらくは主人公・圭伍のことを私は好きになれなかった。圭伍は仕事はできるけど出世欲はなく、ほどほどに堕落しているけれども熱意は失っていない、巻き込まれ型の中年男性である。この手のヤレヤレ系キャラが元々苦手なのだが、そこへさらに「冥王斑の患者は生殖行動に影響を及ぼすフェロモンを分泌する」という設定が入ってくる。そのせいで圭伍は10代の患者の乳房に触れてしまい後悔するが、自分の体が発するフェロモンのせいだと理解した患者は彼を許し、恋愛感情を持つという展開になっていく。これが個人的には受け入れがたい。
最後には他の職員によるレイプにまで発展するこの設定に意味を持たせるのなら、世界中の隔離施設内での性犯罪が作中社会でもっと問題になっているべきだと思うし、そうでないならフェロモンではなく本人が自覚して患者の人権を不当に踏み躙る行為としてレイプを描くべきだったと思う。シリーズものなのでフェロモンの設定が今後どう生きてくるかによって意見が変わるかもしれないが、この巻を読む限りでは千茅と圭伍の悲恋を描くために付けたのかと思ってしまう。華奈子がジョプに性的魅力を感じるシーンなどはないので余計に不自然な感じがする。
他にもお清めセックス概念が堂々と語られていたり(挿入後も喋り続けるから笑ったけど)、圭伍と華奈子を聖人にしないためにわざと露悪的に書いているのはわかるけど、その点はあまり好きではなかった。でも小説全体はとても楽しんだし、好きになれないキャラクターも巻が変わって数百年飛べばもういないと思うと許せるものだ。 -
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ネタバレ初めは全く関係のない短編集かと思ったのだが、人間の狭いスケールと時間感覚で測れるものではないと分かった。それほど壮大な宇宙感覚でまとめられた1冊で、神話のような悠久の時が流れている。
人類にとって当たり前に暮らす日々の均衡が崩れたらどうなるか、身体の能力に限界のあることをもどかしく思った。けれど『ギャルナフカの迷宮』や『漂った男』での人間の生きる力の逞しさにも出会い、「それでも生きよう」と思えるような前向きさを貰った。
特に『漂った男』が良かった。
偵察機で他の星で「生命の匂い」のする風を受ける、そういう表現が新鮮に届いた。パラーザの海はまるで羊水のようだと思った。その海に包まれて生きる地獄を、狂いながらも続けるところが特に良い。
最後の数ページで緊張感が一気に増し、なんとか帰還してほしいと思っていた自分に気付いた。