飛浩隆の作品一覧
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小説・文芸
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Posted by ブクログ
総評
・まず美しい。全てが破壊される悲しみとなかなか掴めない不安が美文に裏打ちされている。
・次作「ラギッド・ガール」を読んだうえで書いているが、なるべく本作中で完結した感想にする。
内的感想
・序盤から「夏」の描写力に驚く。その象徴のようなジュリーのかわいらしさ、幼気な(ように見える)明るさが、読み終わってから振り返ってみると物語を進むための活力であり同時に絶望感の源であったと感じる。昔感じていた「夏が終わる」ことへの不安や焦燥に似たものがあるのか。
・登場人物が自らをAIと自覚し、そこが仮想の世界であると自覚している、という点が不思議と衝撃だった。衝撃というのは、似たような状態は(具体例は思いつかないが)他作品にはあると思うが、たいてい作中で現実世界と並列された仮想世界として描かれる。ただ本作中ではいわゆる現実世界は示唆されるが登場はせず、仮想世界内だけで物語が完結する。それは構造的に見て現実世界であると言えてしまうのでは?
・硝視体が「情報を代謝する」という表現に感動した。「外から何かを受け取り変換し何かを発する能力」の説明としてこのうえない表現。
・監禁される刺繍女のエピソードが印象に残った。「すべてがFになる」が苦痛のエピソードのひとつとして消費される贅沢。
外的感想
・終始圧倒されながら読んでいたため構成に気を配れず。ただストーリーラインとしてはシンプルで、「外敵から世界を守る」というだけではある。それを複雑化しているのは設定の部分で、逆に言えばこれだけの設定を正確に並べるには簡素なストーリーが最適と思える。
・やはり硝視体という存在が秀逸。見た目に美しいが秘密を抱えどこか屈折した個性を持つ、その正体が謎として最初のフックとして機能するうえ、AIたちの状態とも重なる。そして正体が明かされるとAIたちとの一致がさらに深みを増す。
・(続編があるという前提はあるにしろ)仮想世界の中だけで完結し、しかもある程度の謎は回収し切らず残したままにもかかわらず読後に不満がない豪腕。
Posted by ブクログ
残酷描写といえば…で、再読。
初めて読んだ飛浩隆作品がこれでした。
デジタル世界に構築され、AIキャラクターがキャストを務める仮想リゾート。今では当たり前にイメージできる娯楽のありかたが、2002年の刊行時に既に詳細に描き出されている、ばかりか、もう行き着くところまでいってしまっている。
そこでやれることは(悪い意味で)やりつくし、あげくサービス自体が崩壊。AIたちが呼ぶところの「大断絶」によって現実世界からのゲストが途絶え、放棄されて、すでに一千年が経っている。凡人の想像の2歩先を行く物語のはじまり。
とにかく何もかもが美しい。
見捨てられたリゾートで、自律するAIたちが生きている。風光明媚、清らかな風景の見えない下層には、倫理の壊れた舞台設計がある。響きのきれいなフランス名のAIキャラクターたち、その個性と関係性。ちょっと古くさい台詞回しすら、かれらのロールにあてがわれたプロンプトがそうさせていると思えてくる。
硝視体が見せるあざやかなエフェクト、ピクセル単位までこまやかに描き出される五感。姿も武器も異なる敵たちと、万華鏡のように変化する戦いのバリエーション。全体にまぶされたフェティッシュで猥褻なにおい。
ストーリーが展開するごとに世界の深度が増し、絶望の種類まで変わっていく。違う世界の存在を覗かせながら、すべてが見えそうで見えないもどかしさ。
それを描き出す言葉と文章のなにもかも、残酷描写までもが美しい。
そして、あまりの残酷に心を痛めながらも、これはすべてAIたちの話で現実ではないんだという意識が、つねに、うっすらとある。その逃げ道にすがって読み進めている自分の薄情さを自覚する、その罪悪感まで計算済みで作品に絡め取られている心地がする。
2002年に初版刊行。私が読んだのは、電子書籍版の刊行が2013年だったようなので、少なくともそこ以降です。
2002年の時代感覚の中でこれを読んでみたかったなぁ。9.11とFFXの翌年。まだYouTubeもtwitterもなかった頃に、これ。
どれだけの衝撃だっただろう…
Posted by ブクログ
飛浩隆先生。SFなんだけど、簡単にそうくくってしまうのが勿体ないような中編集。
「デュオ」主人公はピアノ調律師。チューニングハンマーを武器に闘う調律師なんているんだ…!それもジョークではなく、洗練された戦術とゆるぎない殺意をもって。音楽の描写も凄い。バイエル8番がこんなにも不穏で、読み手をざわつかせ昂らせることってある?
個人的な「癖に刺さる」という意味でも稀少な一編。
表題作「象られた力」。圧倒的。宇宙世界に生成された多層の文化と、その破壊。文章の美しさ、映像を惹起する力が凄まじい。多文化のひびきに酔い、人々と図像のふるまいに魅了され、そして善悪を超えた圧倒的な力に平伏すしかない。
きわめて映像的でありながら、じゃあ実写?アニメ?CGでなんとかなる?なんて考え始めると、見たいような、でも何を見せられても追いつかない、物足りない気がしてしまう。
主人公、クドウ圓(ヒトミ)がいい。牡鹿みたい、と恋人(も、悪くていい)に評される男。もつれた黒髪、食事の所作までどこか色気がある。彼に見惚れる(文字で書かれた情報なのに見惚れてしまう)そのためにだけでも読む価値はある、そんな愉しみもある小説です。