飛浩隆のレビュー一覧
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『自生の夢』以来の短編集。
その間に長編では『零號琴』や、初期作品と評論を収めた『ポリフォニック・イリュージョン』なども出ている。寡作な作家ということもあって久々に作品に触れた気がした。
本作には5つの短編と1つの中編が収められているが、どれも高水準というか、とてつもない作品たちで、一気に読むのが勿体なく感じるほどだった。
プロットの奇抜さ、面白さは勿論だが、その世界を表現する文章の精度というか純度の高さからか読後クラクラと目眩がするような感覚に陥る。
本当にどれも高いクオリティで、印象的な作品たちなのだが、表題作の『鹽津城』が個人的には物語の深さも射程も、より広くて好き。
次作は『廃園の -
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ネタバレ★5どころか★11くらい進呈したい作品。
気力が弱って本が読めなかった時期にも何故かこれだけはすんなりと読むことができて、端末に入れた電子書籍を御守りのように思っていた一冊。
美褥と美玉、假劇とフリギア、頑固職人と美少年と神々と魔女たち悪女たちの絢爛豪華なSFエンタメ。卓越した文章と物語の引力が先へ先へと導いてくれる。飛浩隆先生、ありがとうございます。
壮大な世界の中にアニメや漫画、特撮、音楽の小ネタが無尽蔵に仕込まれていて、それを見つけるのが愉しい。
個人的な小ネタハイライトは「酒は旨いし姐ちゃんはきれい」という台詞。昭和歌謡(そんな小ネタもあるんかい)の名曲「帰ってきたヨッパライ」の -
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読後、その本のことが頭から離れない…思考が止まらない。そう思える作品が良い本だと思います。この作品がまさにそうでした。
読むだけで痛い。心の奥底まで震える。
自分の深層心理に触れられた気がする。
圧倒的情報量に頭がクラクラした。
次々移り変わる場面…現実世界や仮想現実の区界。家にいながら色々な世界を旅することができる。遥か上の視点から旅をすることができる読者はゲストよりも贅沢かもしれない。
グラン・ヴァカンスと同じく、至る所に散りばめられた残虐性に、その倒錯的な美しさにやはり惹かれてしまう。残酷なのにも関わらず、何故こんなにも美しいのか。圧倒的な文章量なのにも関わらず、最初から最後までつま -
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ネタバレ凄まじかった、これも…。
廃園の天使シリーズⅡ作目。前作で登場した仮想リゾート〈数値海岸〉がどのようにして作られたか、〈大途絶〉がなぜ起こったか、他にもいくつかのキャラクター達の起源が明かされる反面、新たなキャラクターや謎、まだまだわからないことも多い。
上手く言葉に出来ないけど、人間が抱えていながら現実世界では抑制して生きている(対象は自他問わない)破壊衝動みたいなものが、似姿では抑制がはずれ顕著になる。もっとも純粋な悪意みたいなものになる。〈天使〉も〈鯨〉もジョゼに埋め込まれた〈歯の女〉も、もとは人間から抽出された要素が振るう猛威なんだと思うと人間てやっぱり怖いね。でも正直この卓抜した想像 -
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ネタバレ読み終わりたくなかった…読み終わってしまった…。
「零號琴」が面白かったのでこちらも、と手を伸ばしたのだけれど凄まじかった。2章のアンヌの登場あたりから面白さがどんどん加速していく。徹底した、容赦のない残酷さ。無慈悲さ。全編とおして、それこそ「天使」みたいな無機質さと美しさを感じる文章。
美しい永遠の夏の区界。表向きのコンセプトは「古めかしく不便な街で過ごす夏のバカンス」だけど、それは「踏みにじられる為のイノセンス、無垢」という意味合いも内包していて、その成り立ちからしてもう、この区界そのものが残忍さと美しさの集積で出来ている。
「零號琴」のときもそうだったけど、本作も一見美しく豊かな世界観 -
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ネタバレ凄まじい本だった。豊富で繊細な言葉が、こっちの想像力の枠を押し広げていくかんじがする。詩的な文章、色や質感を表す無数の語彙、文体が好きだし、上巻のアヴァンタイトルでもう参ってしまった。それでも作者のいわんとすることに私の貧困な想像力が追いついた気はしなくて、特に下巻の仮劇本番なんか、全然仔細に理解出来ていないんだろうな。一気読みしたこともあって体力すら追いついていないし…疲れた…笑
〈行ってしまった人たち〉の未知なる力によって支えられた世界観や魅力的なキャラクター、何よりストーリーを夢中で追っていたら、最後の最後で物語は時間を遡り、陰鬱で恥辱にまみれ、だからこそ隠されていた「初め」を明かす。S -
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「自生の夢」(飛浩隆)を読んだ。 飛浩隆さんの作品読むのは「廃園の天使Ⅰ グラン・ヴァカンス」以来二冊目。
六つの短篇収録。
やっぱり飛浩隆さんの創造力(!)についていくのは容易じゃないな。
私の貧困な想像力では長い鼻に触れてあぁシワシワの太い蛇の様だなと思うのがせいぜいで全体を理解なんかできっこないのにこんなに面白いのはなんでだ。
「曠野にて」の中で克哉が選択したセンテンス 『鳴き砂の浜へ、硝視体をひろいにいこう。』(本文より) を読んでニヤリとしてしまった。 「廃園の天使Ⅰ グラン・ヴァカンス」の書き出しのセンテンスだからね。
「廃園の天使Ⅰ グラン・ヴァカンス」では登場人物たち -
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遠い未来。人類は〈行ってしまった人たち〉によって整備された〈轍宇宙〉と呼ばれる銀河団に居住地を広げていた。〈行ってしまった人たち〉が遺した楽器を扱う特殊楽器技芸士のトロムボノクは、大富豪フェアフーフェンの依頼で、相棒のシェリュバンと共に惑星〈美縟〉へ赴く。そこは首都全体が巨大楽器〈美玉鐘〉のために設計され、毎週末には建国神話〈美縟のサーガ〉にまつわる假面劇が上演される異様な星だった。だが、トロムボノクとシェリュバンにとって初めての假劇の夜、何者かが放った刺客の〈亞童〉にフェアフーフェンが殺される。サーガが語る美縟建国の真実とは。そして、〈美玉鐘〉が500年ぶりに鳴るとき奏でられるという秘曲〈零