飛浩隆のレビュー一覧
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『グラン・ヴァカンス』の先日談。
前著では、アイデアとしては新しい部分は少ないのだが、そんなものを全く弱点だとも思わせない圧巻の表現力が、惹きつけてやまない魅力となっていた。そして今作においては、今まで誰も考えたことのない(あるいは手を出せなかった)怪物を作ってしまうという偉業を成し遂げた。
仮想世界の「数値海岸」は、そこに訪れる人の欲望を映し出し形にする。ゆえにそこでは、アウシュビッツすらもお遊びとしか思えないような、AIに対する高品質な虐待が日々絶え間なくおこわなれる。それを防ぐためにおこわなれた「大途絶」。しかし、数値海岸は、決して平和になることはない。ゲストたちよりももっと残酷な、訳のわからない存在が現れて荒らし回っていく。人々の精神の暗渠としての、仮想世界―――……。
残酷で清新で美しいもの。それが、著者の考えるSF。正しくその言葉通りの、作品でした。
次回作の『空の園丁(仮題)』が、早く読みたいです。
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Posted by ブクログ
『グラン・ヴァカンス』を読んだのはたぶん1年ぐらい前だけど、これは連続で読めば良かったなー。
『グラン・ヴァカンス』を読んだときは、”数値海岸”、”夏の区界”…etcと一つ一つの単語からも感じる凄まじいこだわり、静謐ってこういうことだなと思わされる文章力からなる見事な世界の美しさに圧倒された。そして、それとは全く正反対とも思えるんだけどやはり美しい残酷な痛み・苦しみの表現、これも本当に凄かった。
本書でも飛浩隆の書く世界の美しさというのは改めて感じ入った。が、それよりも彼の書く世界というのが”数値海岸”の中だけでなく、ちゃんと現実の理論があってフィクション(数値海岸)があるとまで練られているところが驚きだった。もちろん、この現実の理論もフィクションではあるのだが、まるで別世界か遠い未来でも見てきたんじゃないかと思えるほど虚構が理に敵っている。第三作が本当に楽しみです。 -
Posted by ブクログ
作家「飛浩隆」はSFとしてのフレームワークがしっかりしている事が好きな理由であるが、SFであるのに多彩な色・香り・風景・音などを感じられる希有な作家であると理解している。物語の内容については前作で語られなかった背景や、異なる平行時間の物語の入った短編集。期待が裏切られることは無いと約束する。
SFファンでなくとも本シリーズは読んでいただきたい作品の一本である。またこれは個人的ベストSFランキングの中では比較的近年にランクインした作品でもあり間違いなくベスト3に入る。
追伸:いつも読み返す時期は冬~春であり、これから暖かくなって行き、初夏を迎えるまでには「夏の扉」を読み返してみたくなる不思議な物語。 -
Posted by ブクログ
「グラン・ヴァカンス」に引き続き、とても良かったです。「夏の視硝体」は前作の後で読むと切なくなりました。
個人的に最も印象に残ったのは「魔述師」。これ、未来版『非実在青少年』問題…ですよね?
現在リアルに起きている論争に関しては、フィクションを愛する者の端くれとして規制に反対ですが、この作品内の<ダイ・イントゥ>の行動には一定の倫理的正当性がある、と感じてしまう。そんな自分に気が付いて少しだけぞくっとしました。
フィクションは現実を直接的に変えたりはしないけれど、優れたフィクションは現実を解釈する私達の内面を揺さぶる。
文章の持つ力というものを見せ付けられた気分です。 -
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ネタバレグラン・ヴァカンスのようなのを想像していたら、「あしたもフリギア!」が出てきて、これは飛浩隆版プリキュア二次創作なんだなと思って読んだ。
プリキュアは見たことがないので、フリギアが出てくるたび「プリキュアはわからないな」と引っかかってしまうので、ここがオジリナルだったらもっと読みやすかったなとは思う。著者的には必須だったのだろうけど。
それと固有名詞がすべて難しい漢字と馴染みないカタカナばかりなので、話は面白いんだけどなかなか読むのに苦労した。
紙で読んだけど、今回ばかりは検索しやすい電子のほうがよかったかもしれない。
前半はそんな感じだったのだけど、後半はさすが怒涛の展開、認識が全てひっくり返り、文字どおり世界が足元から崩れていく感覚はたまらない。
長編だけど一気に読んだ。
主要キャラが皆たっていて、ここで物語が終わったと思えない。
トロムボノクの体が全て見つかるまで見たいけど、あとがきを見ると空の園丁のあとにもう1本予定してるのか。それもうれしいけれど、こちらのシリーズは無理そうだな… -
Posted by ブクログ
ネタバレ穏やかで優しい海辺の田舎町の何気ない一日の風景、心安らぐ平凡な日常のシーンから物語が始まる。
ただ、最初からシミュレーション内の世界であり、登場人物達がAIであることを隠そうとしないためであろうか、のどかだがどこか不思議な雰囲気の導入だとも感じた。
『1000年』という時間が比喩ではなく何度も文中に現れる。
このAIたちに対しては、世界や時間・過去に対する認識や内面が揺れ動く様が人間のようだと感じる一方で、1000年間を(正気のまま)少年であり続けられることやそれだけの長時間を共に過ごしたヒトを失った際の反応など、狂ってしまわない点に「やはり人間とは違うモノだ」と感じる、相反する感想が入れ子になっていた。人間としか思えないような優しく”人間味”のあるキャラクター達に感情移入や思い入れが生じるが、それが間違っていると心の隅で引っかかっているような妙な気分で読み進めていた。
序盤は「正統なSF作品だ」という感想だったが、中盤では巧みな恐怖演出とAI達の恐れが文章から良く感じられ「これはパニックホラーだ!」という印象を抱いた。終盤の世界観が完全に崩壊していく様や通常の動きを越えていくキャラクター達の様子はファンタジーのようでもある。
これは描写が克明で写実的であるためだろうか。
最終盤のジュールがジュリーに追いつくあたりのシーンが特に印象に残っているが、綺麗なシーンは音(無音・静寂)まで感じられそうだと思った。
逆に中盤からの残虐なシーンはAI達の最期があまりにグロい。緻密で鮮やかな描写も相まって著者の暗い性癖を反映しているのではないかと思えるほどだった。思い入れのあったAI達を次々に虐殺された怒り(?)から、「コレを人間で描写することに抵抗があったから作品の世界観を仮想空間とし、キャラクターをヒトのアバターではないAIにしたのではないか」と勘繰ってしまった。
最終章は、今までのエピソードが伏線のように別の側面を持っていたり、グラスアイやドリフトグラスの謎が明かされていく。
外の世界や大途絶の事、天使についてのようなAI達の世界の“外”のことはわからないが、それでも、それはそれとしてスッキリとした終わりかただと感じた。