飛浩隆のレビュー一覧
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80年代後半から92年までに書かれた中篇4篇を収めた作品集。
「デュオ」
交通事故で恋人を亡くし、自身で演奏する能力も失ってピアノの調律師となった緒方は、恩師からグラフェナウアー兄弟を紹介される。デネスとクラウスのシャム双生児であるグラフェナウアーは、一本ずつの腕をテレパスによって統合し完璧にピアノを奏でる天才だった。耳が聞こえず喋ることもできない兄弟の手話通訳を務めるジャクリーンと親しくなるうち、緒方は双子に“もう一人”が存在することを知る。
特にクラシックにもピアノにも詳しくない人間にも、聴力以外の感覚を喩えに使って双子が奏でる悪魔的な音楽を感じさせる表現力。「ふかふかの鍵」のくだりはピアニストの身体性を伝えていて面白かった。でもやっぱり先に「海の指」を読んじゃったからちょっと物足りなくもある。結末は絶対ジャクリーン本人が銃を握って殺すべきだったと思います。
「呪界のほとり」
追っ手から逃げるうち、呪界-地面を叩けばどこでも水が湧いてくる魔法の世界-から飛び出してしまった万丈と相棒の竜。辿り着いた辺境の星アグアス・フレスカスには、呪界に強い憧憬を抱く老人パワーズがひとりきりで暮らしていた。
ラノベというかゲームのノベライズっぽい。特殊な用語がポンポン出てくるけど、説明過多に感じさせずになんとなく察することができる情報コントロールが巧み。しおらしいのに全然言うこときかない竜のファフナーがかわいい。
「夜と泥の」
若い頃”リットン&ステインズビー協会“で共に働いた蔡に呼びだされ、とある星にやってきた「わたし」。「いいものを見せてやる」と言った蔡に案内されたのは、地球化[テラフォーミング]のために協会が使わした人工衛星たちが暴走し、夏至ごとに一人の”少女“を復活させるという沼だった。
これ好き!『タフの方舟』を思わせるような、地球人の思惑の裏をかく異星の意思が描かれ、それに取り憑かれた蔡の姿はホラー的でもある。ヒトの生みだしたものがヒトの手に負えなくなって野生化していく描写、いいよねー。
「象られた力」
〈シジック〉のイコノグラファー・クドウ圓は、“リットン&ステインズビー協会”の文化事業部に依頼され、つい先日跡形もなく消え去った隣接星〈百合洋〉の言語体系“エンブレム”の謎解明のため動きだす。エンブレムは図形によって情報を多層的に伝達できるため、同じ星系の〈シジック〉〈ムザヒーブ〉でも急速に普及しはじめていた。〈百合洋〉はなぜ滅んだのか、エンブレムに秘められた力とは。
面白かった〜!これも“文字禍”の話。エンブレムに侵食された人びとの陶然とした言葉遣いと、畳み掛けるオブセッションの艶やかさは『13』のころの古川日出男を思いださせる。〈百合洋〉出身の建築家ハバシュが生んだ現代アートの延長のような建物や、圓の恋人・錦がつくるエンブレム・タトゥーのオートマシン、あるいは極小のエンブレムがラメになったアイシャドウや、圓とシラカワが食す〈シジック〉のビーガンじみた菌類食などのディテールから星系の文化を窺いしれるのも楽しい。そんな〈シジック〉の物語をメタ化するオチは、万物から常に物語や意味を見いだそうとする人類のサガを優しく俯瞰で眺めている。この“リットン&ステインズビー協会”もの、シリーズ化してほしかったなぁ。
4作品に共通するのは、実体のないものが実体に干渉し、その精神を支配し、実体よりも実体たろうとする巨大なパワー。これは「フィクション」のメタファーでもあるだろうし、のちの『グラン・ヴァカンス』で結実したヴィジョンなのだろう。 -
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非常にスケールの大きなSFだった。といっても、銀河を股にかけて、という感じではないけれど。良い意味でぶっとんだSFだった。
大假劇が始まってからの盛り上がり方が凄くて、図らずも(図れるものでもないけど)何度も鳥肌が立った。超ド級のヒーローショーを見ているような感じ。
話が進むに連れて、一つの言葉や事物に幾つもの意味・価値が付与されていくので、あらゆるものが何かのメタファーなんじゃないかと、疑ってしまう。隠喩自体は一般的な技法だろうけれど、ここまで多重の意味を内包させるのはなかなかないんじゃないかな、と思う。
面白く読んだけれど、一方で終わり方は少し寂しかった。感情的な意味でも、少し尻すぼみな印象を受けた、という意味でも。美縟という舞台に関しては、かなり仔細に(見える限りでは)余すところなく使い切った贅沢な話だったけれど、それを取り巻く轍世界や、ギルドの全貌、主要な人物についてももう少し掘り下げて欲しかった。長編シリーズの一本、っていう感じ。 -
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前作「グラン・ヴァカンス」は、舞台となる仮想空間「数値海岸<コスタ・デル・ヌメロ>」の成り立ちやここに至るまでの経緯等がほとんど描かれておらず、謎が謎のまま幕を閉じる作品ですが、この「ラギッド・ガール」に収録されている作品群を読むと、その謎のかなりの部分が解明します。こちらを先に読んでも作品としては十分成立しますが、「グラン・ヴァカンス」を先に読んでおくことを絶対におススメ。物語の解像度が、相当異なってくると思います。
人間が仮想空間を”体感”するために、計算資産をできるだけ食わないように実レベルで開発された画期的技術「情報的似姿」。「ラギッド・ガール」に収録されている作品の半分は、この「情報的似姿」開発の経緯と展開を、生身の人間社会でのひとつのできごととしてサスペンスフルに描写しています。
「グラン・ヴァカンス」の登場人物たちは、全てAIでした。それと比べると、人間が主役の作品は平易で感情移入しやすいんだろうなぁ・・・なんて思いながら読み進めた鴨が浅はかでした(^_^;人間の登場人物たちの方が、数倍グロテスクで感情移入不能であるという、この驚き。特に、作品群のドライバーとなる阿形渓と杏奈・カスキの両女性キャラの異形ぶり、激烈ぶりといったら、正に夢に出そうなほどのユニークさ。特に杏奈・カスキは、作中では相当な美女であることが仄めかされているのに、読後のイメージは「気持ち悪い」の一言しか思い浮かびません。このキャラ設定、どこから想起されるんだろう。飛浩隆の想像力に脱帽。
人間の情動をコピーしたともいえる「情報的似姿」とは、生身の人間本体とは切り離されて独自に仮想空間を動き回る存在であり、人間社会のモラルや規範に縛られない存在です。それ故に、コピー元の本人の意思とは関わりなく隠された欲望や衝動がストレートに表出されてしまう、その醜さを描くのが、この作品群のテーマの一つなのかもしれません。
・・・とか理屈臭いこと書いてますけど、そんなお利口な理屈をこねる作品ではないことは、鴨も肌感覚でよく判りますヽ( ´ー`)ノとにかくグロテスクで醜悪で破壊的な作品ばかりだけれど、でも、美しいんです。破壊し、分解し、浸食する、そのシーンひとつひとつの美しいこと、艶やかなこと、そしてセンシュアルなこと。細かいロジックを突き詰めていけば、突っ込みどころはたくさんあります。が、そんなことを気にしていては楽しめない世界観だと思います。
キャラがぶっ飛び過ぎていて鴨的には☆5つまでには行かない感じですが、でも次作が出たら絶対買います!楽しみです! -
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ネタバレ想像しえぬものが、想像された。舞台となる惑星美縟は假面と假劇の国。ここで500年ぶりに掘り出された美玉鐘による秘曲零號琴が奏でられる。謎が謎を呼び、最後は驚きのENDを迎える。主人公はトルムボノクとシェリュバンだが、周囲を彩る咩鷺も菜綵も素敵だ。假面作家と假劇作家の哦鵬丸とワンダ夫妻も個性ありすぎで、大富豪のパウル・フェアフーフェンは何がしたいのか最後までワクワク。読んでて思ったのは、ワンピースの小説版みたいな・・・。ぶっ飛んだ設定の中で、主人公が格好良く立ち回る。そのうちにその世界の謎が明かされていくみたいな。特に最後の大假劇上演のクライマックスはサンジの結婚式みたいな・・・。彩を添えるはプリキュアならぬフリギア(旋妓婀)。オープニングの主題歌はフリギア・フリギア・フリギア・フリギア って遊びすぎだろ。
面白かったけど、飛さんも書いているように「新しいもの」はないので★4つ。
でも面白かった。特にフリギアが活躍するあたり。 -
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久々にちゃんと本を読んだ…。今年は年間100冊は厳しそうだなぁ。
日本SF大賞を2回も受賞している作家による、600ページの長篇作品。
冒頭から、主人公の職業「特殊楽器技芸士」という文字面に「また凄いのが来たなぁ」と思ったのですが、中身はその文字面を遥かに上回ってきた。
語り口は非常にキャッチーで、キャラの活き活きした(…)動きで楽しく読み進められるのですが、何と言うかオーバーレイされているモノの個性と物量が物凄い。
とにかく色々な要素が詰め込まれていて、個人的には、読んでいて疾走感と理解のバランスが取れないくらい。(こういう時、理解をある程度捨てて波に乗ってしまうタイプです…/でも、日本育ちでまだ良かった。コレ例えば英訳されたとしても、わからないのでは?)
前に著者の「グラン・ヴァカンス―廃園の天使」を読んだ際は、絶望感がグロテスクに(そしてあくまで格調高く)描写されていたのが印象に残っていたので、警戒しながら読み進んだのですが(笑、今回はお祭り騒ぎが前面に出てます。特に脚本家のくだりは著者がこんな描写もされるんだ、と思いつつも好きでした。
お祭り騒ぎながらも、舞台装置の設計には一切抜かりなく、轍宇宙、惑星「美縟」、假劇、特殊楽器…。「おなかいっぱい」になれます。想像力、創造力に感服するしかない。昔、ハイペリオンを読んだ時、それ以降ふとしたタイミングで特定のシーンが頭の中に思い起こされるようになったのですが、本著でも同じことが起きる気がします。
序盤の假劇のくだりは、VRゴーグル感やAR感があっておぉと思ったのですが、序の口でしたね。。中盤以降の豪奢さは立体的な言葉のシャワーを浴びているかのようでした。
(自分の理解が追いついているかは別として!)面白くて楽しい本。600ページもあるので気軽に周りには薦めづらいですが、読み始めたら速いし、ハマる人には凄い。 -
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大変重厚な本で、非常に格調高く始まり、音楽の哲学に迫る本格SFとして進んでいくのですが、読んでくと、プリキュアなどの返信アニメとゴレンジャーとか戦隊モノ、そしてウルトラマンら特撮のメタ構造で 、メタメタもメタ、巨神兵まで入り乱れ、「え、私も夢でならこんな世界を見ることあるけど、これ辻褄合うの収まるのー?」とパニクってるうちに…どろろと百鬼丸にメタモルフォーゼして、鎮まるんですねえ。なんという力業!
すごい…すごいよ。
いろいろよくわからなかった点もあるのですが、今度のSF飲み会で、理解力の高い若い後輩たちにきこうっと!
しかし、去年から読んでる『天冥の標』シリーズといい、どうしてこう、おとこの娘が魅力的に描かれるのか…トレンドなん? ああ、楽しかった(やや疲れたが -
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ネタバレ面白かった。読んでいる途中で書かれた年を知って少し驚いた。
デュオ>象られた力>夜と泥の>呪界のほとりで、の順に好き。『デュオ』がすごく読ませる。切なさと恐ろしさが同居した読み心地。設定的にはSFなのだが、偉大なピアニストを殺すべきなのかという葛藤、殺しても死なない「名無し」の行く末、誰が死に、誰が生きるのかという展開の妙が面白い。この文学的なSFこそ本邦のSFの持ち味だと個人的には思う。
『象られた力』はもっとSFへの振り幅が大きいが、破壊や破滅の正体がSF的設定を紐解く中で徐々に明らかにされていく、という仕掛け自体は『デュオ』に似たホラーな感触がある。図形が人間の持つ本来の能力のみならず、なぜ超能力的な力まで呼び覚ますことができたのか、そのあたりの解説が無く腑に落ちた感じがしないのが惜しい。
『夜と泥の』は彼のテラフォーミングを題材にした世界観を彩る掌編と言うところか。描写の美しさに舌を巻く。『呪界のほとりで』は安易な役割語(『象られた力』でも見られるが)で話す老人に入れ込みにくく、全体的に読みづらかった。 -
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日本SFの本を探していれば必ず目に入る題名なので。
思ったよりも昔(1980〜1990年代)に書かれたもの。
最初は目新しい単語と色彩で置き換えただけのSF短編集か、と思っていましたが、後半は全くそんなことなく。社会の仕組みや人間の根本を改変するSFではなく、宇宙の見方、人の感じ方と空気を変える着想と描写に力強さを感じました。
「夜と泥の」「象られた力」が素晴らしい。
宇宙に咀嚼され消化される人類、人工生物によって永遠に引き起こされる神話。視覚言語と、形に詰まったエネルギー、崩壊の文様。図形と形に満ち溢れている世界はなんて力に満ちているのだろう。満ち溢れている力に気づき感じとり、圧倒された。圧倒的な力の存在に気づいた。 -
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続き物の二作目だった!しかも三部作だった!これは帝国の逆襲から観始めるようなもんなのかも、と思ったけど、全然関係なく楽しめた。いやありがたい。
SFと言えば宇宙を攻めずにはいられないわけだけど、いや思いこみだけど、ここは宇宙には行かずに仮想現実オンリーで来た。しかし今の現状を考えると、もしかして近い将来にこんな世界が来るのかも、来たらスゴイかも、と思ってワクワクしてしまうし、その世界をめっさ考え尽して、こんな問題が起きて、こうなるんじゃね?って宇宙シリーズよりよほど現実感があるというか、こんなことを考えてる人が普通に大学とかにいるんじゃねーかとか。思ったり。
でもって短編がゆるゆると絡まりながら、リンクしながら進むし、その絡まり方がなかなかにうまくできていて、好きよ。 -
Posted by ブクログ
ヴァーチャルの世界に存在する仮想リゾート「夏の区域」が滅びゆく一日を描いた作品。
ヴァーチャル世界なので、登場してくるのは人間ではなくAI(人口知性)である。
仮想と現実の闘争、とあるが、現実側の現実感があまりないので、どこまでも仮想の世界内で閉塞されているように思う。
はてさて、これがSFなのだろうか。
ここ数冊、SFと呼ばれているジャンルの本を読んでいるが、どれもこれも僕自身のSFイメージとは合致しない作品ばかり。
どうも、僕のSFイメージが誤っているようだ。
まぁいいけど……。
仮想と現実の闘争の中で、AIたちは様々な殺されかたをしていく。
まぁ、もともと生のないAIたちだから、「殺されかた」という言い方は正しくないのかもしれないが。
いずれにしてもその殺されかたのイメージが残酷であり、美しくもあり、想像力豊かである。
映画で例えれば、「エルム街の悪夢」的な映像が浮かぶ殺されかたなのだ。
思うに「エルム街の悪夢」は現実ではない夢の中の世界のことであり、本書の場合も現実ではない仮想世界のことなので、乱暴な言い方をしてしまえば「何でもアリ」なのだ。
この「何でもアリ」な姿勢が読んでいて潔さすら感じてしまうくらいに面白い。
ただ、そうすると「やはりこれSFなのかなぁ」と再び疑問に思ってしまうのも事実なのだが。
ちょっと長すぎるなぁ、というのが正直な感想。
途中途中でなかなか物語が進まないじれったさを感じてしまった。
でもまぁ、面白かったんだけどね。 -
Posted by ブクログ
鴨が偏愛するコミック・アーティスト、弐瓶勉氏の代表作「BLAME!」を元ネタに、現代日本を代表するSF作家が腕を振るった二次創作アンソロジー。
「BLAME!」を読んだことのある方ならお分かりの通り、あの作品は世界設定が全てです。その世界の中で、どれだけ物語を展開できるかが腕の見せ所なわけで、プロのSF作家としても面白いお題だったんじゃないかと思いますねー。収録された5作品は、どれも全く異なるテイストの作品でありながら、ちゃんと「BLAME!」の世界の中で展開しており、なおかつ幅広いイメージを読者の眼前に提示します。「BLAME!」の世界観の揺るぎなさ(換言すると、細かいところは各自の想像に委ねても問題ないぐらい必要最小限で柔軟な初期設定)がよくわかる、「BLAME!」ファンにはたまらない作品集ですね。
一方で、「BLAME!」を読んだことが無い人にとってどうか、という視点では、結構ハードル高そうな気が。あの世界観を肌感覚で理解していないと、よくわからないまま終わってしまう可能性も高いと思います。
鴨的には、やはり酉島伝法・飛浩隆の両氏が圧巻。とんでもなく美しい舞台設定で魅せる酉島作品、圧倒的なタイムスケールで「悲恋もの」を描いてしまう飛作品。キャラクターが魅力的な九岡作品、ハードSFとして「こう来たか!」と唸らせる小川作品。いずれもさすがの読み応えです。
ただなぁ、野崎まど作品が・・・orz 癖のある作家だということは事前知識で知ってはいましたけど、鴨はこれダメですわ(^_^;これが収録されていなかったら☆5つだったかなー。