飛浩隆のレビュー一覧
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前作「グラン・ヴァカンス」は、舞台となる仮想空間「数値海岸<コスタ・デル・ヌメロ>」の成り立ちやここに至るまでの経緯等がほとんど描かれておらず、謎が謎のまま幕を閉じる作品ですが、この「ラギッド・ガール」に収録されている作品群を読むと、その謎のかなりの部分が解明します。こちらを先に読んでも作品としては十分成立しますが、「グラン・ヴァカンス」を先に読んでおくことを絶対におススメ。物語の解像度が、相当異なってくると思います。
人間が仮想空間を”体感”するために、計算資産をできるだけ食わないように実レベルで開発された画期的技術「情報的似姿」。「ラギッド・ガール」に収録されている作品の半分は、この「情 -
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ネタバレ想像しえぬものが、想像された。舞台となる惑星美縟は假面と假劇の国。ここで500年ぶりに掘り出された美玉鐘による秘曲零號琴が奏でられる。謎が謎を呼び、最後は驚きのENDを迎える。主人公はトルムボノクとシェリュバンだが、周囲を彩る咩鷺も菜綵も素敵だ。假面作家と假劇作家の哦鵬丸とワンダ夫妻も個性ありすぎで、大富豪のパウル・フェアフーフェンは何がしたいのか最後までワクワク。読んでて思ったのは、ワンピースの小説版みたいな・・・。ぶっ飛んだ設定の中で、主人公が格好良く立ち回る。そのうちにその世界の謎が明かされていくみたいな。特に最後の大假劇上演のクライマックスはサンジの結婚式みたいな・・・。彩を添えるはプ
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久々にちゃんと本を読んだ…。今年は年間100冊は厳しそうだなぁ。
日本SF大賞を2回も受賞している作家による、600ページの長篇作品。
冒頭から、主人公の職業「特殊楽器技芸士」という文字面に「また凄いのが来たなぁ」と思ったのですが、中身はその文字面を遥かに上回ってきた。
語り口は非常にキャッチーで、キャラの活き活きした(…)動きで楽しく読み進められるのですが、何と言うかオーバーレイされているモノの個性と物量が物凄い。
とにかく色々な要素が詰め込まれていて、個人的には、読んでいて疾走感と理解のバランスが取れないくらい。(こういう時、理解をある程度捨てて波に乗ってしまうタイプです…/でも、日本育 -
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大変重厚な本で、非常に格調高く始まり、音楽の哲学に迫る本格SFとして進んでいくのですが、読んでくと、プリキュアなどの返信アニメとゴレンジャーとか戦隊モノ、そしてウルトラマンら特撮のメタ構造で 、メタメタもメタ、巨神兵まで入り乱れ、「え、私も夢でならこんな世界を見ることあるけど、これ辻褄合うの収まるのー?」とパニクってるうちに…どろろと百鬼丸にメタモルフォーゼして、鎮まるんですねえ。なんという力業!
すごい…すごいよ。
いろいろよくわからなかった点もあるのですが、今度のSF飲み会で、理解力の高い若い後輩たちにきこうっと!
しかし、去年から読んでる『天冥の標』シリーズといい、どうしてこう、おと -
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ネタバレ面白かった。読んでいる途中で書かれた年を知って少し驚いた。
デュオ>象られた力>夜と泥の>呪界のほとりで、の順に好き。『デュオ』がすごく読ませる。切なさと恐ろしさが同居した読み心地。設定的にはSFなのだが、偉大なピアニストを殺すべきなのかという葛藤、殺しても死なない「名無し」の行く末、誰が死に、誰が生きるのかという展開の妙が面白い。この文学的なSFこそ本邦のSFの持ち味だと個人的には思う。
『象られた力』はもっとSFへの振り幅が大きいが、破壊や破滅の正体がSF的設定を紐解く中で徐々に明らかにされていく、という仕掛け自体は『デュオ』に似たホラーな感触がある。図形が人間の持つ本来の能力のみなら -
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日本SFの本を探していれば必ず目に入る題名なので。
思ったよりも昔(1980〜1990年代)に書かれたもの。
最初は目新しい単語と色彩で置き換えただけのSF短編集か、と思っていましたが、後半は全くそんなことなく。社会の仕組みや人間の根本を改変するSFではなく、宇宙の見方、人の感じ方と空気を変える着想と描写に力強さを感じました。
「夜と泥の」「象られた力」が素晴らしい。
宇宙に咀嚼され消化される人類、人工生物によって永遠に引き起こされる神話。視覚言語と、形に詰まったエネルギー、崩壊の文様。図形と形に満ち溢れている世界はなんて力に満ちているのだろう。満ち溢れている力に気づき感じとり、圧倒された。 -
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続き物の二作目だった!しかも三部作だった!これは帝国の逆襲から観始めるようなもんなのかも、と思ったけど、全然関係なく楽しめた。いやありがたい。
SFと言えば宇宙を攻めずにはいられないわけだけど、いや思いこみだけど、ここは宇宙には行かずに仮想現実オンリーで来た。しかし今の現状を考えると、もしかして近い将来にこんな世界が来るのかも、来たらスゴイかも、と思ってワクワクしてしまうし、その世界をめっさ考え尽して、こんな問題が起きて、こうなるんじゃね?って宇宙シリーズよりよほど現実感があるというか、こんなことを考えてる人が普通に大学とかにいるんじゃねーかとか。思ったり。
でもって短編がゆるゆると絡まり -
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ヴァーチャルの世界に存在する仮想リゾート「夏の区域」が滅びゆく一日を描いた作品。
ヴァーチャル世界なので、登場してくるのは人間ではなくAI(人口知性)である。
仮想と現実の闘争、とあるが、現実側の現実感があまりないので、どこまでも仮想の世界内で閉塞されているように思う。
はてさて、これがSFなのだろうか。
ここ数冊、SFと呼ばれているジャンルの本を読んでいるが、どれもこれも僕自身のSFイメージとは合致しない作品ばかり。
どうも、僕のSFイメージが誤っているようだ。
まぁいいけど……。
仮想と現実の闘争の中で、AIたちは様々な殺されかたをしていく。
まぁ、もとも -
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鴨が偏愛するコミック・アーティスト、弐瓶勉氏の代表作「BLAME!」を元ネタに、現代日本を代表するSF作家が腕を振るった二次創作アンソロジー。
「BLAME!」を読んだことのある方ならお分かりの通り、あの作品は世界設定が全てです。その世界の中で、どれだけ物語を展開できるかが腕の見せ所なわけで、プロのSF作家としても面白いお題だったんじゃないかと思いますねー。収録された5作品は、どれも全く異なるテイストの作品でありながら、ちゃんと「BLAME!」の世界の中で展開しており、なおかつ幅広いイメージを読者の眼前に提示します。「BLAME!」の世界観の揺るぎなさ(換言すると、細かいところは各自の想像に委 -
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飛浩隆の長篇SF。自我を持つAI達が取り残された残酷の楽園の終末を描く。
美しい描写とうまくフォーカスされた人物の心理表現が際立つ。やや描写の詳細さの度合いがブレる頻度が高く、長期間にわたる執筆期間の影響があるのかな、と感じた。ヴァーチャルな世界を読者に視覚化させるために必要な過程として詳細な描写がなされる部分もあり、読中感は常に官能的とまではいかない。
SFといいつつ、SF的要素は飽くまでガジェットで、その中で展開される風変わりなエピソードが読者の欲望をうまく捉えているように感じる。人によっては、自分の中に眠る破滅願望なり、加虐・被虐願望が映し出されるように感じるかもしれない。
ガジェットや