飛浩隆のレビュー一覧
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【壮麗な終焉とその先に】特殊楽器技芸士のトロムボノクは、巨大楽器の「美玉鐘」の竣工を記念した假面劇が演じられる予定の惑星「美縟」に降り立つ。全住民がその上演を心待ちにする中、トロムボノクと相棒のシェリュパンは、その星に隠された驚愕の過去と直面するのだが......。著者は、『自生の夢』、『グラン・ヴァカンス』などで知られる飛浩隆。
タイトルや装丁からかなり重たい内容を予期していたのですが、著者があとがきで記すように、ドタバタを描いた娯楽読み物としての性格が強い作品でした。しかしそれだけでは表現できない奥行きと立体性を兼ね備えていることもまた確かであり、なんとも独特な味わいの読書体験を経験する -
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久々に「ヤバい」小説。田舎の鄙びたリゾートをおそう謎の物体。天才少年の活躍により、どうやら別の世界からやってきた人工知能に襲われていることがわかり、生き残った住民は不思議な力を発揮する「石」を駆使して謎の物体と戦うが、、、というよくある設定で映画マトリックスを想像させるが、大きく異なるのは、襲われている方も人工知能の世界の住人であること。高度に発達したAIにより、各自(各AI?)が独自の個性と記憶と判断能力を持ち、まるで自然人のように振る舞う。AI対AIなのか、そのAIを操っている人間がAIを襲わせているのか、全くわからないままストーリーは進む。読んでいて不思議なのは、まるで自分が傍観者として
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三本の短編と一本の短めの中編からなる作品集。
この手の本を読んでいつも思うのは「これがSFか?」ということ。
別にSFに拘る必要もないし、読んで面白ければそれでいいのだけれど、例えば本書の冒頭の作品「デュオ」なんかは、SFのS……科学……というよりも、非科学的事象を題材にしている。
江戸川乱歩や夢野久作が書いてもおかしくない内容なのに、SFなのか……。
あるいはSFってもっと広義の意味合いが含まれているものなのか。
まぁ……いいけど(と書きつつも、どうもいつもひっかかってしまう)。
その「デュオ」なんかはブライアン・W.オールディス の「ブラザーズ・オブ・ザ・ヘッド」 -
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ーーー人間の情報的似姿を官能素空間に送りこむという画期的な技術によって開設された仮想リゾート“数値海岸”。その技術的/精神的基盤には、直感像的全身感覚をもつ一人の醜い女の存在があった―第1章たる『グラン・ヴァカンス』の数多の謎を明らかにし、現実と仮想の新たなる相克を準備する、待望のシリーズ第2章。
飛浩隆『廃園の天使』シリーズ第2章の中篇集
凄いの一言。詩のような美しい文章が特徴的だった第1章『グラン•ヴァカンス』の肉厚なバックボーンを、物理世界と仮想世界の両面から描き出す。この中篇たちがあればこそ、第1章がさらに輝きを増す。
表題作は、AR(拡張現実)を一歩進めたような概念と、そこから -
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ーーー仮想リゾート〈数値海岸〉の一区画〈夏の区界〉。南欧の港町を模したそこでは、ゲストである人間の訪問が途絶えてから1,000年、取り残されたAIたちが永遠に続く夏を過ごしていた。だがそれは突如として終焉のときを迎える。
仮想と現実の闘争を描く〈廃園の天使〉シリーズ第1作
初めて読む作家、飛浩隆の長篇SF
特徴はなんといってもその文章だと思う。
ときには韻文を連ねながら、詩的に美しい文章と、SFとしての「理屈づけ」が絶妙にブレンドされている。
続編への期待を余韻として残しながらも、すごく綺麗な終わり方だった。
シリーズ2作目の既刊『ラギッド•ガール』も早く読みたい。
「決め -
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ネタバレWishListは「当時読みたいと思った」本が大量に入っていて、自分でもどうしてこれが読みたくなったかわからないのが多々あるのだが、これもそう。後からWikipediaで見直して「ああ、ラギッド・ガールの人だったんだな」と思いだしてようやく入っていた理由がなんとなく推測できた(ラギッド・ガールはアンソロジーで読んだので、著者名を失念していたのであった)。
本編には表題作を含めて、4つの短編がおさめられている。個人的には幻想的な雰囲気が全体を通じて漂っていて、最後にストンとおとす「夜と泥の」がお気に入り。
本書はハードSFという感じの表現もあるが、基本的にはファンタジーとSFの間ぐらいに位置 -
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「最期の言葉は―――そうだ、あの蜻蛉にかけてやったのと同じ科白」
美しく清新で、残酷な物語。
存在意義を失われて1000年。設計されたものと、使用されたことによって蓄積された負の記憶。この数値海岸のAIたちが、ゲスト(人間)によって付けられた爪痕が、来訪者によって抉りだされる。
その時に生じた、苦しみと痛みと何よりも悲しみは、ひとつとしてみていて気分のいいものではないはずなのに、目が離せない。それは、人間を限りなく模倣したAIたちが、観客でしかない自分では感じることができない苦痛と悲劇に、哲学的ともいえる絶望に見舞われているから。それを憐れむことや先を求める残酷さすら、読者たる自分には -
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『グラン・ヴァカンス』の先日談。
前著では、アイデアとしては新しい部分は少ないのだが、そんなものを全く弱点だとも思わせない圧巻の表現力が、惹きつけてやまない魅力となっていた。そして今作においては、今まで誰も考えたことのない(あるいは手を出せなかった)怪物を作ってしまうという偉業を成し遂げた。
仮想世界の「数値海岸」は、そこに訪れる人の欲望を映し出し形にする。ゆえにそこでは、アウシュビッツすらもお遊びとしか思えないような、AIに対する高品質な虐待が日々絶え間なくおこわなれる。それを防ぐためにおこわなれた「大途絶」。しかし、数値海岸は、決して平和になることはない。ゲストたちよりももっと残酷な