【感想・ネタバレ】グラン・ヴァカンス 廃園の天使Iのレビュー

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Posted by ブクログ

理系ではない頭では設定に理解がついていかない部分はあるけれど、それにしても面白かった。
登場人物はAIであり、グロテスクで救いのない場面が続くけれど、無機質ではない。むしろ、情や執着や羞恥心のような人間味と、生きていることの切なさのようなものがある。もっと雑にいえば、なんだかよくわからないけれど、切ない。
なんだかよくわからないというのは、設定やストーリーではなく、読み終わった後の感情がうまく形容できないという意味である。その、「なんだかよくわからない」を受け入れられる人にはこの本をお勧めしたい。

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2024年02月25日

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ネタバレ

読み終わりたくなかった…読み終わってしまった…。
「零號琴」が面白かったのでこちらも、と手を伸ばしたのだけれど凄まじかった。2章のアンヌの登場あたりから面白さがどんどん加速していく。徹底した、容赦のない残酷さ。無慈悲さ。全編とおして、それこそ「天使」みたいな無機質さと美しさを感じる文章。
美しい永遠の夏の区界。表向きのコンセプトは「古めかしく不便な街で過ごす夏のバカンス」だけど、それは「踏みにじられる為のイノセンス、無垢」という意味合いも内包していて、その成り立ちからしてもう、この区界そのものが残忍さと美しさの集積で出来ている。 
「零號琴」のときもそうだったけど、本作も一見美しく豊かな世界観の裏には幾重もの秘密と時間のレイヤーが埋まっていて、読み進めることはそれらを暴く作業になる。つらいんだけど、物語が進むのが面白くてやめられない。個人的にアンヌが好きなのでアンヌのところが辛かったな。ジョゼも可哀想だった。貧しい農夫と刺繍妻の話は本当に怖かったし。
とにかく続きが楽しみ。

⚫︎あらすじ
仮想リゾート〈数値海岸〉の一区画〈夏の区界〉。南欧の港町を模したそこでは、ゲストである人間の訪問が途絶えてから1000年、取り残されたAIたちが永遠に続く夏を過ごしていた。だが、それは突如として終焉のときを迎える。謎の存在〈蜘蛛〉の大群が、街のすべてを無化しはじめたのだ。わずかに生き残ったAIたちの、絶望にみちた一夜の攻防戦が幕を開ける――仮想と現実の闘争を描く〈廃園の天使〉シリーズ第1作。
(ハヤカワオンラインより引用)

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2024年02月09日

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これほどまでに文章だけで人を惹きつけることができるのか、と思った。どこまでも残酷で、救いがない。「作られた」存在であるAI。だがそこに確かに感情は存在している、心はある。例えそれすらも最初から規定されていたものだとしても。読めば読むほど苦しくなるのに読むのをやめられない。かけ離れているように思える残酷さと美しさが共存していた。そのアンバランスで脆く壊れそうな、高度の低い宝石のような美しさが好きだった。

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2023年11月03日

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ネタバレ

全く前情報無しに読み始め、序章はちょっと変わった良くある能力バトルかと思いきや。
結構エグい描写が満載でゾクゾクしたが、悪趣味と思う人もいるかも。しかし話はなかなか凝っていてエヴァを想起させる様な描写もありかなり楽しめた。次回作も読んでみます。

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2021年07月13日

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ネタバレ

なんて残酷な、なんて美しい。
絵葉書の中の風景のような《夏の区界》の美しさと、それが崩壊する恐ろしさと。
そして崩壊しながら段々と見えてくる《夏の区界》の正体。
目をそむけたくなるくらいグロテスクなのに、凝視したくなるほど美しい。

挿絵もないし映像化もされていないのに、何故だか映像が想起される小説でした。

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2020年11月01日

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ネタバレ

AIたちが終わりなき夏を過ごす仮想空間「数値海岸<コスタ・デル・ヌメロ>」。ゲストとして訪れる人間をもてなすために構築されたこの世界には、もう1000年もゲストが訪れたことはなく、AIたちがルーチンのように夏の日々を過ごしている。
そんな平穏にして停滞した世界に、ある日突然災厄が訪れる。世界を無効化するために現れた<蜘蛛>、それを操る謎の存在。AIではあるものの確個たる自我を持つ彼らは、自己の存在を死守するために蜘蛛との戦いに臨む。終わりなき夏のとある一日、絶望的な攻防戦が幕を開ける・・・

飛浩隆作品は、これまで短編をいくつか読んでいますが、鴨的には正直なところ「何が描かれているのか/何を伝えたいのかよく判らない」という印象で、ハードルが高いなと思っておりました。が、この作品は非常にストレートに世界観に入っていくことができ、世界観の解像度が半端なかったです。長編向きの作風なんですかね。

作品の冒頭では、AIたちが「暮らす」南仏の片田舎の港町風の素朴な生活が、淡々と描かれていきます。この過程において、AIが極めて人間的な「官能」の能力を持っていることに、鴨はまず違和感を覚えました(ここでいう「官能」は、いわゆる性的なそれだけではなく、五感を総合する広い概念を指します)。が、後半において、AIたちにそこまでの能力が付与されている理由が明らかにされます。
「数値海岸」は、単なる仮想リゾートではなく、性的嗜虐趣味を持ったゲストの快楽を満たすために、AIたちが従順に苦痛を受け入れることを目的として構築された世界である、という真相。反吐が出そうなほどおぞましい描写が、延々と続きます。でも、AIたちは「そのために作られている」存在であり、粛々と受け入れるしかありません。どこにも逃げ場のない、絶望的な修羅の世界。そんな残酷な世界でも、彼らはそれを守らずにはいられない。

語弊を恐れずに申し上げると、鴨は「村上春樹っぽいな」と思いました。
極めて凄惨で残酷なことが描かれているのに、極めて静謐で美しい筆致。ロジカルに突き詰めるなら、突っ込みどころは満載です。でも、そんな突っ込みどころを圧倒的な力でねじ伏せるだけの美学が、この作品には感じ取れます。そんなところが、ちょっと村上春樹っぽいな、と。
さっそくシリーズ2作目「ラギッド・ガール」を購入しました。この世界観がどのように展開するのか、楽しみにしています。

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2019年05月09日

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90年代グロテスクの孫という印象の仕事。AI周りの描写は2002年という時期を考え合わせると非常によくできており、2019年の今読んでもまるで古ぼけていない。語彙は実に美麗だ。間違いなく何度も読み返し、あちこちのつくりを参考にするだろう。

とはいえこの物語には瑕疵とまでは言えないが、個人的に看過しがたい点がある。
人間の理不尽な残忍さを物語の基盤に埋め込んだだけならいかにもありふれていて薄っぺらいが、被虐者が残忍に「狎れ」た上で己の宿願を果たすため一層凄絶な手段を選択する描写を描くならば凄味は増す。物語後半に、檻に入れられた女のエピソードがあるが、そのことだ。しかし彼女の選択は辻褄が合わない。男から「それ」を得られるなら、硬い道具だってもっと簡単に得られるからだ。このエピソードが凄味を発するには、女がある程度は正気でなくてはならない。道具を持ってこさせる程度の思案もできないほど狂気に落ちているなら、彼女はどんなおかしなことでも選択できるわけだから、何をしたところでそれは彼女の選択ではなく、単純に著者の都合である。

陰惨の極みを描きたい著者の都合が先走って、物語の中でも特に慎重を期さねばならなかった場面でこの手の疑問が湧いてしまうのは大いに興が殺がれる。敢えて好意的に受け止めなければ、この重要な場面はすんなりと流れていかない。

この作品に限らず、90年代にあちこちで見かけたこの手の過剰なグロテスクはしばしば、このようにその前段でだらしない漏らしをしでかす。グロテスクを書きたいという都合が先にあり、その次に物語の体裁を整えるという順序を明かしてしまう。過剰なグロテスクを美しく整えるにはそれに見合うだけ精密な設計が必要だが、それが大抵足らない。おおよそは出来ていても、細部が綻んでいる。書き手はそれを気にも留めない。

しかしそのような、ファサードは大伽藍然として実際には細部の綻んでいる作品というのが、毒と荼味の塩梅がちょうどよくなるものなのかもしれない。

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2019年04月05日

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久々に「ヤバい」小説。田舎の鄙びたリゾートをおそう謎の物体。天才少年の活躍により、どうやら別の世界からやってきた人工知能に襲われていることがわかり、生き残った住民は不思議な力を発揮する「石」を駆使して謎の物体と戦うが、、、というよくある設定で映画マトリックスを想像させるが、大きく異なるのは、襲われている方も人工知能の世界の住人であること。高度に発達したAIにより、各自(各AI?)が独自の個性と記憶と判断能力を持ち、まるで自然人のように振る舞う。AI対AIなのか、そのAIを操っている人間がAIを襲わせているのか、全くわからないままストーリーは進む。読んでいて不思議なのは、まるで自分が傍観者としてすぐ近くでこの大事件を観察している気がすること。アバターやIDなど、ネットの世界で自分を代理させている”人格”があることが、このリアルさを生んでいるのだと思う。

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2018年04月03日

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ネタバレ

千年間の夏を繰り返し、ゲストをもてなす永遠の平穏を秘めているかのように見えたリゾート地。その突然の崩壊と悲劇の幕開け。露わにされていく、プログラムされたAIたちが秘めてきた叶わぬ想い。
冒頭ジュールとジュリーのボーイミーツガール的な物語を期待したところ、どんどん不穏な方向に運び始め…グロテスクでエロティックでありながらどこか艶かしく官能的。
何が起こっているのやら、と目を離せないまま覗き見るようにじっと読み進めてしまう。

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2017年06月15日

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最初20ページ読んだあと、別の本読むために放置していたのだが、20ページ目までの感想は「メシがうまそう」
この後少しでも読み進めれば、メシがうまそうなどと呑気なことは言ってられない展開なのだが、この描写力で残酷ながら美しい人間臭くもAIの域を出られないAIの最期が描写されていく。
謎が多く散りばめられた第一巻だったので、今後に期待。

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2015年01月04日

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ーーー仮想リゾート〈数値海岸〉の一区画〈夏の区界〉。南欧の港町を模したそこでは、ゲストである人間の訪問が途絶えてから1,000年、取り残されたAIたちが永遠に続く夏を過ごしていた。だがそれは突如として終焉のときを迎える。
仮想と現実の闘争を描く〈廃園の天使〉シリーズ第1作


初めて読む作家、飛浩隆の長篇SF

特徴はなんといってもその文章だと思う。
ときには韻文を連ねながら、詩的に美しい文章と、SFとしての「理屈づけ」が絶妙にブレンドされている。

続編への期待を余韻として残しながらも、すごく綺麗な終わり方だった。

シリーズ2作目の既刊『ラギッド•ガール』も早く読みたい。





「決めろ。『しかたがない』ことなど、なにひとつない。選べばいい。選びとればいい。だれもがそうしているんだ。ひとりの例外もなく、いつも、ただ自分ひとりで、決めている。分岐を選んでいる。他の可能性を切り捨てている。泣きべそをかきながらな」

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2014年10月14日

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「最期の言葉は―――そうだ、あの蜻蛉にかけてやったのと同じ科白」

 美しく清新で、残酷な物語。
 存在意義を失われて1000年。設計されたものと、使用されたことによって蓄積された負の記憶。この数値海岸のAIたちが、ゲスト(人間)によって付けられた爪痕が、来訪者によって抉りだされる。
 その時に生じた、苦しみと痛みと何よりも悲しみは、ひとつとしてみていて気分のいいものではないはずなのに、目が離せない。それは、人間を限りなく模倣したAIたちが、観客でしかない自分では感じることができない苦痛と悲劇に、哲学的ともいえる絶望に見舞われているから。それを憐れむことや先を求める残酷さすら、読者たる自分には自由に選択できるのに比べて、AIたちはどこまでも不自由に、分かりきった決められたロールを繰り返すしかない。その圧倒的な不平等さが、今の日本にはどこにもない、生まれの「身分」による優越感を味わせてくれるのだろうか。

 上の言葉は、自ら「罠のネット」と同化することを選んだジェリーが、最後に見せることができた優しさ。設計されたロールではなくて、彼女自身が生きて獲得したもの。長すぎた夏休みを終える、一言です。この物語を締めくくるのにふさわしい、一文でした。

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2013年10月13日

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ネットで買えばいいものを、なんとなく本屋の本棚から自分の好みに合う本と出会えた時のあのワクワク感がたまらなくて、つい栄のジュンク堂まで出かけましたが、買ってよかった。

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2012年12月10日

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ネタバレ

永遠の夏休みを演出する仮想空間。
あるときを境にしてゲストがふつりと途絶えたその場所で、AIたちは 千年以上もの間、与えられた“役割”に縛りつけられていた。
甘やかで、切なくも美しい日常。
いつまでも続くかと思えたその世界は、突如として破壊と苦痛の嵐に呑み込まれる。

とある小さな仮想空間が蹂躙されていく様子と、それに抵抗するAI達の姿を描いたSF作品。
あくまでも甘く官能的な描写で彩られる絶望の鮮やかさには、読んでいて思わず眩暈を覚えるほど。

目の前に映像として立ちあがるような細やかな情景。
鋭敏さを増していく感覚のうねり。
いなくなってもなおAIの行動原理を支配する人間の病性…。
しだいに明らかになる世界の姿は、残酷なまでに歪んだ形で、完成されている。

加速する狂気のなかで掴みだされたのは、イノセントな愛情。
それはしかし、鈍い痛みだけを最後に残す。

***

「この記憶が、俺を、拘束している。思い出の思い出が俺を呪縛する。」

「きみの不幸はすべてきみを土壌に咲いている。」

「あの人は劣等感とその裏返しのはったりでできている。その落差の中に純粋な優しさを保持している人だ。それはとてももろい優しさ。」

「ここのAIは、みな同じ。まだ観たことのないものが、好き。好きなんだ。」

「もともとは区界の制作者がデザインした感情だったにしても、それでもぼくらのかけがえのない真正な感情なのだ。」

***

徹底してAIの視点を通すことによって、人間の身勝手な欲望のおぞましさを彫り出している。
一方で、硝視体という不思議な物質から感じられる、あたたかな体温のようなものの“意味”を知ったときには、少しだけ救われたような気がする。

少年の成長譚としてもSFとしても読み応えのあった作品。

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2012年11月02日

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全体の辻褄の合い方が心地よかった。
グロさ、官能、残酷さ、優しさ、諸々の要素が絡み合った、AIながら人間味あふれる描写が魅力的だった。
描写が丁寧なためか、感情移入して辛い場面が多かった。酷く痛々しく、醜い。
ありふれた設定かもしれない。それでも引き込まれる強さがあった。

ど好みではない。
続きは読みたいと思う。

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2023年06月08日

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人の訪れることのなくなったリゾート地での一夜の攻防戦。設定はむずかしいものではなく読みやすい、けど耽美でありエログロでありすごくそそられる世界でした。

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2023年01月04日

Posted by ブクログ

情景描写を想像するのが難しく、こういうことかな?と随時思いながら読み進めていった。だが、ストーリーを淡々と読み進めていっただけで、私の感受性が乏しいだけかもしれないが、残酷な場面であっても事実として受け止めただけで、感情が生まれることはなかった。

ラギッド・ガールは今作に比べ好評なので、そっちに期待する。

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2022年03月13日

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ネタバレ

将来こういったバーチャル世界が数多開発され、その中で旧式のものは整備が追いつかず、似たような状態が起こる可能性があると感じました。

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2021年10月17日

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清新で残酷で美しく、か。まさにそのとおり。強いイメージを残す。

何十年か越しで続編も書かれているそうだが、これはこれで完結しているよな、と思う。

こんなに読みやすい小説でも一気に読めなくなっている。。。

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2021年04月25日

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 ヴァーチャルの世界に存在する仮想リゾート「夏の区域」が滅びゆく一日を描いた作品。
 ヴァーチャル世界なので、登場してくるのは人間ではなくAI(人口知性)である。
 仮想と現実の闘争、とあるが、現実側の現実感があまりないので、どこまでも仮想の世界内で閉塞されているように思う。
 はてさて、これがSFなのだろうか。
 ここ数冊、SFと呼ばれているジャンルの本を読んでいるが、どれもこれも僕自身のSFイメージとは合致しない作品ばかり。
 どうも、僕のSFイメージが誤っているようだ。
 まぁいいけど……。
 仮想と現実の闘争の中で、AIたちは様々な殺されかたをしていく。
 まぁ、もともと生のないAIたちだから、「殺されかた」という言い方は正しくないのかもしれないが。
 いずれにしてもその殺されかたのイメージが残酷であり、美しくもあり、想像力豊かである。
 映画で例えれば、「エルム街の悪夢」的な映像が浮かぶ殺されかたなのだ。
 思うに「エルム街の悪夢」は現実ではない夢の中の世界のことであり、本書の場合も現実ではない仮想世界のことなので、乱暴な言い方をしてしまえば「何でもアリ」なのだ。
 この「何でもアリ」な姿勢が読んでいて潔さすら感じてしまうくらいに面白い。
 ただ、そうすると「やはりこれSFなのかなぁ」と再び疑問に思ってしまうのも事実なのだが。
 ちょっと長すぎるなぁ、というのが正直な感想。
 途中途中でなかなか物語が進まないじれったさを感じてしまった。
 でもまぁ、面白かったんだけどね。

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2018年01月04日

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飛浩隆の長篇SF。自我を持つAI達が取り残された残酷の楽園の終末を描く。
美しい描写とうまくフォーカスされた人物の心理表現が際立つ。やや描写の詳細さの度合いがブレる頻度が高く、長期間にわたる執筆期間の影響があるのかな、と感じた。ヴァーチャルな世界を読者に視覚化させるために必要な過程として詳細な描写がなされる部分もあり、読中感は常に官能的とまではいかない。
SFといいつつ、SF的要素は飽くまでガジェットで、その中で展開される風変わりなエピソードが読者の欲望をうまく捉えているように感じる。人によっては、自分の中に眠る破滅願望なり、加虐・被虐願望が映し出されるように感じるかもしれない。
ガジェットや人間関係の設定に関しては2巻でメタ的な設定が付け加えられるが、1巻を読んでいる最中は「交感性のダイナミクスを埋め込んだ本を作り得るならばこんな感じになるのかな」と思っていたので作者の意図の一端は掴めていたのかなと思う。

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2015年04月24日

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とても人を選びそうな本。
美しい描写で残酷な展開が続く。
全体の流れとしては突飛ではないけれど、容赦ない展開やぞくりとする一文を期待してページをめくっている自分に気付いて怖くなる(そしてその期待は裏切られない)
この小説を面白かったと感じる自分は、夏の区界を訪れるゲストとなんら変わりない嗜好を持っているのかもしれない。

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2015年04月24日

Posted by ブクログ

文章力に飲み込まれそうだ。
私自身が文章を味わうというよりも、書かれた言葉が私の内を蹂躙し、駆け抜けていくような気さえする。
苦痛と悦楽の坩堝。
それは正反対のようで、実はごく近いものなのかもしれない。

濃密な読書体験だった。
しかしこれは人を選ぶな。

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2014年01月07日

Posted by ブクログ

すごい。
緻密に作られた世界を美しく残酷に崩壊させる、またその手法も表現も
計算されつくした隙の無い文章・文法を使用。完璧としか…
一見ありがちな設定なのかと油断させておきながら、
気が付くとAIたちの深淵を覗く「罠」にこちらが嵌められていて、
その一体感みたいなものが更に作品にのめり込ませる状態。
息苦しい中に最期を求めてページを捲る手が止まりませんでした!
「象られた力」を読んで、作者の美しい文章に魅せられましたが、
長編一冊まるっと堪能できました。素晴らしい!

続きはいつ出るのかなあ…

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2012年12月08日

Posted by ブクログ

2013
再読

9/28
AIなのにビルドゥングスロマンを成り立たせたところに凄みと意義を感じる。
ただし、「苦痛」の描写がかえって痛みを中和してしまった印象を受けた。
適度な読みやすさを確保するためには仕方のないことかもしれない。

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2013年07月03日

Posted by ブクログ

文体もそうだけど出てくる単語が小難しくてちょっと読みづらかった。でもそういうのも加味して面白かった〜〜。なんか久しぶりにSF読んだな〜といった気分。

驚くほど緻密に計算された小説で最初の方に出てきたあのセリフあのシーン全部に意味があって繋がってるんだと気づいた時にちょっとした恐怖を味わってしまった。読み直したらまた面白そう。

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2019年02月06日

Posted by ブクログ

知らない本を買う時は、ほとんど表紙裏の粗筋しか読まない。著者の経歴や刊行年も見ない。だからSFなのだな、ということしか分からない。

中盤まで読んで、こんなはずじゃなかった、と考え始めた。タイトルから、読み始めた時から受けた印象が大きく覆されてきたからだ。だってヴァカンスだ。海岸沿いのリゾートの長い夏休みなのだ。なのに、痛苦に満ちている。
こんなはずじゃなかった。
でもその考えは、私が読書に期待する喜びそのものである。新しい本を読む時、常に望んでいるのは、これまで読んだことがないものを読みたいということだから。

著者のあとがきには「ただ、清新であること、残酷であること、美しくあることだけは心がけたつもりだ。飛にとってSFとはそのような文芸だからである。」とある。まさしく本書はそのようになっている。

2002年に刊行されて、2017年現在長編の続編は未刊行である。ああ〜続きが読みたい!

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2017年01月16日

Posted by ブクログ

構想から10年の歳月をかけて書かれたというSF大作。そして、そこでは「大途絶」から1千年後の「夏の区界」のヴァーチャル世界が実に緻密な筆致をもって描かれる。小説世界の基本構造は極めてシンプルである。ジュールと、ジュリー、ジョゼとアンヌがそれぞれの極をなしつつ、そのムーヴメントが作品の時間を形作っていく。この作品に内包されるもの、そしてここで描かれるものは、「時間」そのものの形象だ。そして、そのすべてを見通すことになる老ジュールこそは、まさにゲルマン神話の「さすらい人=ヴォータン」にほかならないのである。

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2014年04月05日

Posted by ブクログ

名作とのレビューも納得。美しい文章と自然に練り込まれたプロット。ここ一年のベストです。
どうしても続編を読みたいとまでは思いませんでしたが。

解説にネタバレ(プロット)があります。

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2013年04月14日

Posted by ブクログ

やはり飛さんはすごいですね。
描写も設定も展開も複線の張り方もとにかく緻密、濃密。
ベートーベンみたい。

ただ本作品はあまりに痛々しくて読んでいられなくなって挫折してしまいそうになりました。。。
以前、美術館でアネット・メサジェという人の作品を初めて見た時の衝撃を思い出しました。

ともあれ、読む人の五感にここまでの働きかけが出来る作家はそういないと思います。

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2019年01月16日

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