【感想・ネタバレ】グラン・ヴァカンス 廃園の天使Iのレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

読み終わりたくなかった…読み終わってしまった…。
「零號琴」が面白かったのでこちらも、と手を伸ばしたのだけれど凄まじかった。2章のアンヌの登場あたりから面白さがどんどん加速していく。徹底した、容赦のない残酷さ。無慈悲さ。全編とおして、それこそ「天使」みたいな無機質さと美しさを感じる文章。
美しい永遠の夏の区界。表向きのコンセプトは「古めかしく不便な街で過ごす夏のバカンス」だけど、それは「踏みにじられる為のイノセンス、無垢」という意味合いも内包していて、その成り立ちからしてもう、この区界そのものが残忍さと美しさの集積で出来ている。 
「零號琴」のときもそうだったけど、本作も一見美しく豊かな世界観の裏には幾重もの秘密と時間のレイヤーが埋まっていて、読み進めることはそれらを暴く作業になる。つらいんだけど、物語が進むのが面白くてやめられない。個人的にアンヌが好きなのでアンヌのところが辛かったな。ジョゼも可哀想だった。貧しい農夫と刺繍妻の話は本当に怖かったし。
とにかく続きが楽しみ。

⚫︎あらすじ
仮想リゾート〈数値海岸〉の一区画〈夏の区界〉。南欧の港町を模したそこでは、ゲストである人間の訪問が途絶えてから1000年、取り残されたAIたちが永遠に続く夏を過ごしていた。だが、それは突如として終焉のときを迎える。謎の存在〈蜘蛛〉の大群が、街のすべてを無化しはじめたのだ。わずかに生き残ったAIたちの、絶望にみちた一夜の攻防戦が幕を開ける――仮想と現実の闘争を描く〈廃園の天使〉シリーズ第1作。
(ハヤカワオンラインより引用)

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2024年02月09日

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ネタバレ

全く前情報無しに読み始め、序章はちょっと変わった良くある能力バトルかと思いきや。
結構エグい描写が満載でゾクゾクしたが、悪趣味と思う人もいるかも。しかし話はなかなか凝っていてエヴァを想起させる様な描写もありかなり楽しめた。次回作も読んでみます。

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2021年07月13日

Posted by ブクログ

ネタバレ

なんて残酷な、なんて美しい。
絵葉書の中の風景のような《夏の区界》の美しさと、それが崩壊する恐ろしさと。
そして崩壊しながら段々と見えてくる《夏の区界》の正体。
目をそむけたくなるくらいグロテスクなのに、凝視したくなるほど美しい。

挿絵もないし映像化もされていないのに、何故だか映像が想起される小説でした。

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2020年11月01日

Posted by ブクログ

ネタバレ

AIたちが終わりなき夏を過ごす仮想空間「数値海岸<コスタ・デル・ヌメロ>」。ゲストとして訪れる人間をもてなすために構築されたこの世界には、もう1000年もゲストが訪れたことはなく、AIたちがルーチンのように夏の日々を過ごしている。
そんな平穏にして停滞した世界に、ある日突然災厄が訪れる。世界を無効化するために現れた<蜘蛛>、それを操る謎の存在。AIではあるものの確個たる自我を持つ彼らは、自己の存在を死守するために蜘蛛との戦いに臨む。終わりなき夏のとある一日、絶望的な攻防戦が幕を開ける・・・

飛浩隆作品は、これまで短編をいくつか読んでいますが、鴨的には正直なところ「何が描かれているのか/何を伝えたいのかよく判らない」という印象で、ハードルが高いなと思っておりました。が、この作品は非常にストレートに世界観に入っていくことができ、世界観の解像度が半端なかったです。長編向きの作風なんですかね。

作品の冒頭では、AIたちが「暮らす」南仏の片田舎の港町風の素朴な生活が、淡々と描かれていきます。この過程において、AIが極めて人間的な「官能」の能力を持っていることに、鴨はまず違和感を覚えました(ここでいう「官能」は、いわゆる性的なそれだけではなく、五感を総合する広い概念を指します)。が、後半において、AIたちにそこまでの能力が付与されている理由が明らかにされます。
「数値海岸」は、単なる仮想リゾートではなく、性的嗜虐趣味を持ったゲストの快楽を満たすために、AIたちが従順に苦痛を受け入れることを目的として構築された世界である、という真相。反吐が出そうなほどおぞましい描写が、延々と続きます。でも、AIたちは「そのために作られている」存在であり、粛々と受け入れるしかありません。どこにも逃げ場のない、絶望的な修羅の世界。そんな残酷な世界でも、彼らはそれを守らずにはいられない。

語弊を恐れずに申し上げると、鴨は「村上春樹っぽいな」と思いました。
極めて凄惨で残酷なことが描かれているのに、極めて静謐で美しい筆致。ロジカルに突き詰めるなら、突っ込みどころは満載です。でも、そんな突っ込みどころを圧倒的な力でねじ伏せるだけの美学が、この作品には感じ取れます。そんなところが、ちょっと村上春樹っぽいな、と。
さっそくシリーズ2作目「ラギッド・ガール」を購入しました。この世界観がどのように展開するのか、楽しみにしています。

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2019年05月09日

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ネタバレ

千年間の夏を繰り返し、ゲストをもてなす永遠の平穏を秘めているかのように見えたリゾート地。その突然の崩壊と悲劇の幕開け。露わにされていく、プログラムされたAIたちが秘めてきた叶わぬ想い。
冒頭ジュールとジュリーのボーイミーツガール的な物語を期待したところ、どんどん不穏な方向に運び始め…グロテスクでエロティックでありながらどこか艶かしく官能的。
何が起こっているのやら、と目を離せないまま覗き見るようにじっと読み進めてしまう。

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2017年06月15日

Posted by ブクログ

ネタバレ

永遠の夏休みを演出する仮想空間。
あるときを境にしてゲストがふつりと途絶えたその場所で、AIたちは 千年以上もの間、与えられた“役割”に縛りつけられていた。
甘やかで、切なくも美しい日常。
いつまでも続くかと思えたその世界は、突如として破壊と苦痛の嵐に呑み込まれる。

とある小さな仮想空間が蹂躙されていく様子と、それに抵抗するAI達の姿を描いたSF作品。
あくまでも甘く官能的な描写で彩られる絶望の鮮やかさには、読んでいて思わず眩暈を覚えるほど。

目の前に映像として立ちあがるような細やかな情景。
鋭敏さを増していく感覚のうねり。
いなくなってもなおAIの行動原理を支配する人間の病性…。
しだいに明らかになる世界の姿は、残酷なまでに歪んだ形で、完成されている。

加速する狂気のなかで掴みだされたのは、イノセントな愛情。
それはしかし、鈍い痛みだけを最後に残す。

***

「この記憶が、俺を、拘束している。思い出の思い出が俺を呪縛する。」

「きみの不幸はすべてきみを土壌に咲いている。」

「あの人は劣等感とその裏返しのはったりでできている。その落差の中に純粋な優しさを保持している人だ。それはとてももろい優しさ。」

「ここのAIは、みな同じ。まだ観たことのないものが、好き。好きなんだ。」

「もともとは区界の制作者がデザインした感情だったにしても、それでもぼくらのかけがえのない真正な感情なのだ。」

***

徹底してAIの視点を通すことによって、人間の身勝手な欲望のおぞましさを彫り出している。
一方で、硝視体という不思議な物質から感じられる、あたたかな体温のようなものの“意味”を知ったときには、少しだけ救われたような気がする。

少年の成長譚としてもSFとしても読み応えのあった作品。

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2012年11月02日

Posted by ブクログ

ネタバレ

将来こういったバーチャル世界が数多開発され、その中で旧式のものは整備が追いつかず、似たような状態が起こる可能性があると感じました。

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2021年10月17日

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