飛浩隆のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
遠い未来。人類は〈行ってしまった人たち〉によって整備された〈轍宇宙〉と呼ばれる銀河団に居住地を広げていた。〈行ってしまった人たち〉が遺した楽器を扱う特殊楽器技芸士のトロムボノクは、大富豪フェアフーフェンの依頼で、相棒のシェリュバンと共に惑星〈美縟〉へ赴く。そこは首都全体が巨大楽器〈美玉鐘〉のために設計され、毎週末には建国神話〈美縟のサーガ〉にまつわる假面劇が上演される異様な星だった。だが、トロムボノクとシェリュバンにとって初めての假劇の夜、何者かが放った刺客の〈亞童〉にフェアフーフェンが殺される。サーガが語る美縟建国の真実とは。そして、〈美玉鐘〉が500年ぶりに鳴るとき奏でられるという秘曲〈零號琴〉とは。 稀代のSF作家によるサービス過剰なワイドスクリーン・バロック。
上記のように、あらすじを書こうとすると特殊な用語の乱れ打ちになってしまう。だが、このバカでかい世界観と〈美縟〉の独自文化を情報圧縮力の高すぎる華麗な文体で魅力的にプレゼンし、読者をサクッとわかった気にさせ、最初の假劇と暗殺事件までわずか100ページ。こんな超絶技巧はこの人にしかできない。
とにかく、音楽を見て、触って、嗅いで、食べられるものかのように語る魔術的な文章にはひたすらにうっとりさせられる。「カリヨンの左肩から、音の金砂銀砂が、数段構えの滝となって流れてきた」とか、「美玉鐘の予鈴は、繰り返すたびに音が音の上に折り重なりあって、複雑さ、玄妙さをいや増していく。たとえれば水面に張った油膜にやどる虹のゆらめきであり、あるいはデカルコマニーやマーブリングといった技法だけが示しうる『不測の美』である」とか。
この人は五感のどれを表現するときにも、同時に他の感覚にも訴える描写をするという共感覚的な才能がある。それがただの喩えではなく、本当に音を見、味わうことのできる人が感じた通りに書いているとしか思えないほど、一読してしっくりと身体に馴染んでしまう。そして街全体が楽器を鳴らすために存在する磐記という都市のことも、その鐘の音が聴覚のみならず人体に多大な影響を及ぼすだろうことも、自然に了承させられてしまうのだ。
だから、私はてっきりこの小説も飛浩隆が自分だけの交響曲を最後の一音まで完璧に鳴らしきるために全ての設定があり、キャラが配置されているのだと思いこんでしまったのだ。そのせいで大假劇が開幕してからはここまでプリキュアやまどマギを引っ張ると思わずに戸惑ったし(もちろん大笑いもした)、フェアフーフェンの野望や〈ウーデルス生まれ〉の謎に関してはスカされた気がしてしまった。〈美縟〉の忌まわしい歴史を暴く「無番」の章も、第二部で披露されたヌウラ・ヌウラによる〈真空管〉カリヨン試奏の素晴らしいシーンから導きだされるような壮大なカタストロフを期待していたぶん、既読の飛作品に比べてずいぶんと淡白に感じられたのだ。
だが、それはこの作品の主眼ではなかった。この物語は「最終回」のその先を描くこと、を語るために書かれていた。
物語に従事するため、生みだされた者たち。一旦想像され、人びとに共有されてしまったら、「最終回」のあとも消え去ることは叶わないキャラクターたちはどこへ向かうのか。こうした物語論・キャラクター論は今までの飛作品にも通底するテーマだと思う。今作でも梦卑という便利すぎる家畜が登場した時点でこの話になるだろうという期待はあった。ただ、まさかそれが特撮ヒーローや魔法少女アニメへのオマージュが何重にもかけ合わさった作中劇という形で表されるとは予想外だったのだ。
しかし、はるかはるか遠い未来の別の星で、ウルトラマンやプリキュアや巨神兵を思わせるキャラクターが躍動する物語が生みだされ、それに心躍らせる人びとがいること。それはまさに今、物語を消費しキャラクターを消費し尽くしている私たちを赦し、祝福しているのではないだろうか。
自分たちは「最終回」の運命を選びながら、梦卑に物語の続きを500年演じさせた〈美玉〉の人びとは罪深い。「最終回」を終え、〈轍宇宙〉の外側へたどり着いたフリギアたちを假劇のために呼び戻したワンダも、罪深いのかもしれない。現実世界の相克として物語という〈かがみ〉を必要とし続ける私たちは弱いのかもしれない。
『グラン・ヴァカンス』はその罪と弱さを徹底的に描いて読者の眼前に突きつける作品だった。だが、『零號琴』には語ることをやめられない弱い生き物である私たちへの、"仕方ないなぁ"という憐れみと慈しみの目線がある。それは、梦卑と同じく人類の想像から生みだされたサイボーグであるシェリュバンが主人公に選ばれていることからも確かだと思う。
「最終回」のその先、を描くのだからすっきりとした結末は描かれなくて当然だ。この小説からはありとあらゆる方向に向かって、豊かすぎる枝葉が自由に伸びている。これは飛浩隆による『はてしない物語』なのだ。この小説自体が人びとの無限の想像力に応える梦卑なのだ。そして伸びた枝葉から生みだされた物語はいつか、フリギアや五聯たちのように地球文化の遠い遠いこだまとなって、私たちを宇宙の果てまで連れていってくれるかもしれない。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ「グラン・ヴァカンス:廃園の天使」以来の第2長編とのこと。
遅筆遅筆とはいいながらも確実に作を重ねている作家で、情けないことに9年前に読んだ「グラン・ヴァカンス」の思い出に酔うばかりで他の著作に手を伸ばせずにいた。
ハードカバー版をチラ見して、重厚そうだなと感じていたが、なに、読み始めれば娯楽そのもの。
キャラクターは丁寧に描き分けられ、漫画やアニメに親和性が高そう、と冒頭十数ページで、容易に軌道に乗れた(萩尾望都の絵柄で脳内再生)。
ところがなんと漫画っぽいとかアニメっぽいという印象を越えて、そのまんまポップカルチャー諸々を取り入れた作りだと判り、断然面白くなった。
あー「プリキュア」ね。そして「まどかマギカ」。てか「ゴレンジャー」って。「ジョジョ」の石仮面かな。手塚治虫「どろろ」じゃん。いや「火の鳥」のムーピー(思えば籘真千歳「スワロウテイル人工少女販売処」の視肉も)。「ナウシカ」の巨神兵というかまあ「エヴァ」かな。
と元ネタを想起できる仕組みが、まず面白い。
しかも後半に行くにつれて、作品を愉しむとはどういうことか、創作物で感情が動かされるとはどういうことか、二次創作とはどういう現象なのか、といった創作論・物語論に斬り込んでいく。
ここが凄い。なのに凄さを言語化できない。
それ以前に後半、どこで何が起き世界がどうなっているのか、よくわからない。混沌。
わからないのに立ち上がってくる圧倒的な抒情。
あ、やっぱり「グラン・ヴァカンス」の作家なのだな、と。
ネットで探しても見つからなかったからレポート用紙3枚で用語集を作りながら読んだというのに、この体たらく。
すごいものを読みました、ゴーグルなしにVR・ARを経験するなら本書に尽きる、ということだけ書き残して、数年後数十年後の再読に賭けたい。
読後ネットで感想などなど漁ったが、作者自身がツイッターで「本作に限らず自作の多くは自罰的心性の産物」と語っていたのが印象深い。
自分向けメモだが、「少女歌劇レヴュースタァライト」特に劇場版と併せて読むのもアリかもしれない。
最後に、「想像しえぬものが、想像された」という帯を考えた編集者? にも喝采を。 -
Posted by ブクログ
すごい。すごい壮大なニチアサ合同劇場版を見てるような作品だった。
街全体を巻き込んだヒーローショー風大スペクタクル仮面劇って舞台立てがまずアツい。光景を想像するだけで超楽しい。
その劇を取り巻く様々な人々の思惑や情念や、主人公ペアの驚き・戸惑いが渾然一体となって迎えた本番がまた最っ高のエンターテインメントなんだわ!
神話の世界に特撮や魔法少女の表層を重ね合わせて、さらにその下の地層には美褥という星に秘められた凄惨な歴史と住民たちの秘密があって……
何重ものメタファーをそっと剥がしながら「今の描写ってまさか……」と考察するのもまた楽しい、幾重にもレイヤーがかさなったこの感じ。表現する言葉はきっと色々あるけれど、敢えて作品のテーマに則って音楽に喩えましょう。
最強のマッシュアップ・トラック、全人類必聴! -
Posted by ブクログ
ネタバレ初読み作家さん。
文庫本での登録になってるけど、単行本が出た時に買っていて、今の今まで積読にしていた。でもそれでよかったと思う。
一応近未来SFにしたけれど、これも、そうなのかな、、と首を捻りたくなる。ここよりも発達した場所の話なのだけど、ここと果たして繋がりのある世界のことなのか。世界の合わせ鏡の行く末を見ているみたいな気持ちだった。
【海の指】
世界が灰洋におおわれ、その中で一度分解されてしまう。国も人種もなくなって、周りを灰洋に覆われた場所で時折やってくる〈海の指〉という津波のような、分解された物事が再生されて地表を蹂躙してさらっていく現象に脅かされながら、人々は生活していた。そんな世界で生きている一組の男女のお話。灰洋に昔捨てた夫が、再生されて帰ってくる描写、夫を捨てに行った場面、再生された夫にさらわれてあっけなく分解されてしまった女をもう一度形作り、再度灰洋へ夫を切り捨てた場面の凄み、とても短編と思えないくらいの濃度の高い話だった。
【星窓 remixed version】
少年の夏休みの予定(数年前から計画していた星々をめぐる旅行)を放り出して手に入れた«星窓»は、暗黒を映していた。その星窓を飾ってから世界の時間に自分がうまく乗れていない錯覚を感じる主人公。彼のもとに夜な夜な現れる(たまに夢にもやってくる)姉との酒盛り。不思議に揺れる。星窓の存在と、それが切り取った誕生の瞬間の伸び縮みの力が歪める僕の時間軸と、僕の影響を受けざる得ない星窓の関係が面白い。
【#銀の匙】
«Cassy»というネット(のようなもの)につながり内面からの一人称視点でひたすら筆記していく装置のはじまりと、その筆記者の引率を担うアリスの誕生の日の話。
【曠野にて】
生まれて間もなくから«Cassy»を操り、その才能を開花させた詩人は、その能力をさらに伸ばすための合宿に参加していた。他の年齢の上の子たちとは離れて、二つ年上の男の子と、ただひたすらの曠野に言葉を駆使して物語の空間とり遊びを始める。
【自生の夢】
ある日現れた«忌字禍»により世界中の«言葉»が朽ちていこうとしている瞬間、縋るように探し出したのは、無数の文字から抽出し、対話を重ね、その情報をまた合わせて、、、と気の遠くなるような作業で蘇らせた、稀代の作家、言葉で人を思うようにできたといわれる間宮潤堂だった。彼のこれまでの行いと、インタビュアーの対話はやがて実を結び、身を結びあげる。そして忌字禍との邂逅をもつ。そこで出会ったのは、忌字禍に最初に食われたアリス・ウォンだった。
【野生の詩藻】
アリスが創り上げた詩の獣が、彼女の詩をもって野に放たれた。それらを停止させるために立ち向かうのは彼女の兄と、彼女と曠野で幾度も遊んだ彼だった。
【はるかな響き】
骨の女がかなしみをはじめ、夫婦であった男女がピアノ料理を鏡に自己に潜り、それらを観測するわれわれがたどり着く恐ろしい結論が立ち上がり、そしてまたはじまりの骨の女の願いはやがてすべてに影響を及ぼす未来を創造させる。
【ノート】
あとがき?
この物語の書かれた様子が唐突と話される。
物凄く力強い、酔いそうな密度の文章が最初から最後まで続く。読み終わって本当に感動した。 -
Posted by ブクログ
圧倒されました。面白かったです。
どれも良くて…大好きディストピアの「海の指」は〈灰洋〉に浮かぶ泡洲の、歴史的建造物がごちゃっと積み上がる風景を想像するだけでわくわくしました。画像検索しよう。
DV旦那vs妻と今の夫とふたりの同僚たちとの戦いは壮絶。そして美しくも悲しい終わりでした。
「自生の夢」が凄かった。〈忌字禍〉に対抗するために甦らせられた、言葉による殺人者「間宮潤堂」。〈忌字禍〉に殺されたようなものの詩人「アリス・ウォン」は忌字禍側についているけど、彼女が一番間宮を理解してた。もったいなかったね、と。
圧倒されてうわぁと読んでいたけど、解説で間宮潤堂は伊藤計劃とされてて、なんだかじーんときてしまいました。
帯にされている「あなたの言葉はそれくらい貴重だったんだよ」は最大の賛辞だなぁ。
飛さんの作品、もっと読みたくなりました。
思い返せば、テオ・ヤンセンのストランドビーストってあれか…動画はよく見てた……