飛浩隆のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ネタバレ「グラン・ヴァカンス:廃園の天使」以来の第2長編とのこと。
遅筆遅筆とはいいながらも確実に作を重ねている作家で、情けないことに9年前に読んだ「グラン・ヴァカンス」の思い出に酔うばかりで他の著作に手を伸ばせずにいた。
ハードカバー版をチラ見して、重厚そうだなと感じていたが、なに、読み始めれば娯楽そのもの。
キャラクターは丁寧に描き分けられ、漫画やアニメに親和性が高そう、と冒頭十数ページで、容易に軌道に乗れた(萩尾望都の絵柄で脳内再生)。
ところがなんと漫画っぽいとかアニメっぽいという印象を越えて、そのまんまポップカルチャー諸々を取り入れた作りだと判り、断然面白くなった。
あー「プリキュア」ね。そ -
Posted by ブクログ
すごい。すごい壮大なニチアサ合同劇場版を見てるような作品だった。
街全体を巻き込んだヒーローショー風大スペクタクル仮面劇って舞台立てがまずアツい。光景を想像するだけで超楽しい。
その劇を取り巻く様々な人々の思惑や情念や、主人公ペアの驚き・戸惑いが渾然一体となって迎えた本番がまた最っ高のエンターテインメントなんだわ!
神話の世界に特撮や魔法少女の表層を重ね合わせて、さらにその下の地層には美褥という星に秘められた凄惨な歴史と住民たちの秘密があって……
何重ものメタファーをそっと剥がしながら「今の描写ってまさか……」と考察するのもまた楽しい、幾重にもレイヤーがかさなったこの感じ。表現する言葉はきっと -
Posted by ブクログ
ネタバレ初読み作家さん。
文庫本での登録になってるけど、単行本が出た時に買っていて、今の今まで積読にしていた。でもそれでよかったと思う。
一応近未来SFにしたけれど、これも、そうなのかな、、と首を捻りたくなる。ここよりも発達した場所の話なのだけど、ここと果たして繋がりのある世界のことなのか。世界の合わせ鏡の行く末を見ているみたいな気持ちだった。
【海の指】
世界が灰洋におおわれ、その中で一度分解されてしまう。国も人種もなくなって、周りを灰洋に覆われた場所で時折やってくる〈海の指〉という津波のような、分解された物事が再生されて地表を蹂躙してさらっていく現象に脅かされながら、人々は生活していた。そんな世 -
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圧倒されました。面白かったです。
どれも良くて…大好きディストピアの「海の指」は〈灰洋〉に浮かぶ泡洲の、歴史的建造物がごちゃっと積み上がる風景を想像するだけでわくわくしました。画像検索しよう。
DV旦那vs妻と今の夫とふたりの同僚たちとの戦いは壮絶。そして美しくも悲しい終わりでした。
「自生の夢」が凄かった。〈忌字禍〉に対抗するために甦らせられた、言葉による殺人者「間宮潤堂」。〈忌字禍〉に殺されたようなものの詩人「アリス・ウォン」は忌字禍側についているけど、彼女が一番間宮を理解してた。もったいなかったね、と。
圧倒されてうわぁと読んでいたけど、解説で間宮潤堂は伊藤計劃とされてて、なんだかじーん -
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ネタバレAIたちが終わりなき夏を過ごす仮想空間「数値海岸<コスタ・デル・ヌメロ>」。ゲストとして訪れる人間をもてなすために構築されたこの世界には、もう1000年もゲストが訪れたことはなく、AIたちがルーチンのように夏の日々を過ごしている。
そんな平穏にして停滞した世界に、ある日突然災厄が訪れる。世界を無効化するために現れた<蜘蛛>、それを操る謎の存在。AIではあるものの確個たる自我を持つ彼らは、自己の存在を死守するために蜘蛛との戦いに臨む。終わりなき夏のとある一日、絶望的な攻防戦が幕を開ける・・・
飛浩隆作品は、これまで短編をいくつか読んでいますが、鴨的には正直なところ「何が描かれているのか/何を伝 -
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何層に渡るのか全く分からない程の重層的展開。それでいて物語を貫く一本の線。作者も言うとおり「新しい」ものではない。ではないが、このパイのような、ミルクレープのような...なぜか甘いものしか比喩に出てこないが、新しくないものでもひたすら重層的に編むことで、見たことのない世界が創出された気がしてならない。
「あしたもフリギア!」など、その際たるものである気がする。誰もが知っているはずのもの、その枠組みの中に、どこかで見たことのあるものの中に初めてのものを見出す感覚。
それでいて、読みやすい。複雑ではある。何だっけ、誰だっけと思うこともある。しかしその語り口、キャラクターの強さ、そして浮かぶ光景と鳴 -
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90年代グロテスクの孫という印象の仕事。AI周りの描写は2002年という時期を考え合わせると非常によくできており、2019年の今読んでもまるで古ぼけていない。語彙は実に美麗だ。間違いなく何度も読み返し、あちこちのつくりを参考にするだろう。
とはいえこの物語には瑕疵とまでは言えないが、個人的に看過しがたい点がある。
人間の理不尽な残忍さを物語の基盤に埋め込んだだけならいかにもありふれていて薄っぺらいが、被虐者が残忍に「狎れ」た上で己の宿願を果たすため一層凄絶な手段を選択する描写を描くならば凄味は増す。物語後半に、檻に入れられた女のエピソードがあるが、そのことだ。しかし彼女の選択は辻褄が合わない