あらすじ
73人を言葉だけで死に追いやった稀代の殺人者が、怪物〈忌字禍〉を滅ぼすために、いま召還される。10年代の日本SFを代表する作品集。第38回日本SF大賞受賞。解説:伴名練
...続きを読む感情タグBEST3
Posted by ブクログ
言葉が形をもって動き出す、浸食する、襲い掛かる。
言葉を愛する人ほど、鮮烈にイメージし畏怖する状況ではないか。
頭に浮かんだ言葉を自動で記録してくれればいいのに、そうすればこぼれ落ちてゆく思考の中できらめく美しいものをもっとすくいとれるのに、そう考えたことがある人はいるのではないか。
言葉は夢でもあり災厄でもある。
私たちがそれに意味を与える以前から言葉は言葉であったろうか。
相変わらず広く深いイマジネーションの渦に導かれる短編集。連作とも言える。
本当にこの人の書く文章が好きだ。
Posted by ブクログ
SF作家飛浩隆の中短編集。これまでいくつかアンソロジーで短編を読んできた中でも強烈な印象があったけれどやはり凄まじい作家だ。特に表題作『自生の夢』といくつかの派生作品は言語・言葉をテーマとする作品群だが、なんというか読む前と読んだ後で自分が別物に変えられてしまったような感覚がある。変わってしまったのが言葉や意識についての認識なのか、自分の考え方や物の見方なのか、そしてそれがどの程度なのかを思考したり言語化するのは難しいのだけれども。伴名練氏の解説も流石。なんとなく手が伸びず未読のままになっていた『屍者の帝国』、いよいよ読もうかと思う。
Posted by ブクログ
「自生の夢」(飛浩隆)を読んだ。
飛浩隆さんの作品読むのは「廃園の天使Ⅰ グラン・ヴァカンス」以来二冊目。
六つの短篇収録。
やっぱり飛浩隆さんの創造力(!)についていくのは容易じゃないな。
私の貧困な想像力では長い鼻に触れてあぁシワシワの太い蛇の様だなと思うのがせいぜいで全体を理解なんかできっこないのにこんなに面白いのはなんでだ。
「曠野にて」の中で克哉が選択したセンテンス
『鳴き砂の浜へ、硝視体をひろいにいこう。』(本文より)
を読んでニヤリとしてしまった。
「廃園の天使Ⅰ グラン・ヴァカンス」の書き出しのセンテンスだからね。
「廃園の天使Ⅰ グラン・ヴァカンス」では登場人物たちが受け止める激痛に立ち竦んでしまいそうになったもんだから「ラギッド・ガール―廃園の天使〈2〉」が積ndleのままだよ。
読まなくちゃ。
Posted by ブクログ
カルチャーショックってこういうことだろうか…って読みながらずっとびっくりしていた。
難しいけど読みきりたい、と辿り着いた解説を読んでさらに驚いた。これは文脈を読み取れる人ならより一層楽しい読書体験だろうなあと羨ましく悔しい。もっと本を読まねば。
個人的には「海の指」の鮮烈さに圧倒され酔ってしまった。美しくて映像的。漫画も読みたい。
Posted by ブクログ
初読み作家さん。
文庫本での登録になってるけど、単行本が出た時に買っていて、今の今まで積読にしていた。でもそれでよかったと思う。
一応近未来SFにしたけれど、これも、そうなのかな、、と首を捻りたくなる。ここよりも発達した場所の話なのだけど、ここと果たして繋がりのある世界のことなのか。世界の合わせ鏡の行く末を見ているみたいな気持ちだった。
【海の指】
世界が灰洋におおわれ、その中で一度分解されてしまう。国も人種もなくなって、周りを灰洋に覆われた場所で時折やってくる〈海の指〉という津波のような、分解された物事が再生されて地表を蹂躙してさらっていく現象に脅かされながら、人々は生活していた。そんな世界で生きている一組の男女のお話。灰洋に昔捨てた夫が、再生されて帰ってくる描写、夫を捨てに行った場面、再生された夫にさらわれてあっけなく分解されてしまった女をもう一度形作り、再度灰洋へ夫を切り捨てた場面の凄み、とても短編と思えないくらいの濃度の高い話だった。
【星窓 remixed version】
少年の夏休みの予定(数年前から計画していた星々をめぐる旅行)を放り出して手に入れた«星窓»は、暗黒を映していた。その星窓を飾ってから世界の時間に自分がうまく乗れていない錯覚を感じる主人公。彼のもとに夜な夜な現れる(たまに夢にもやってくる)姉との酒盛り。不思議に揺れる。星窓の存在と、それが切り取った誕生の瞬間の伸び縮みの力が歪める僕の時間軸と、僕の影響を受けざる得ない星窓の関係が面白い。
【#銀の匙】
«Cassy»というネット(のようなもの)につながり内面からの一人称視点でひたすら筆記していく装置のはじまりと、その筆記者の引率を担うアリスの誕生の日の話。
【曠野にて】
生まれて間もなくから«Cassy»を操り、その才能を開花させた詩人は、その能力をさらに伸ばすための合宿に参加していた。他の年齢の上の子たちとは離れて、二つ年上の男の子と、ただひたすらの曠野に言葉を駆使して物語の空間とり遊びを始める。
【自生の夢】
ある日現れた«忌字禍»により世界中の«言葉»が朽ちていこうとしている瞬間、縋るように探し出したのは、無数の文字から抽出し、対話を重ね、その情報をまた合わせて、、、と気の遠くなるような作業で蘇らせた、稀代の作家、言葉で人を思うようにできたといわれる間宮潤堂だった。彼のこれまでの行いと、インタビュアーの対話はやがて実を結び、身を結びあげる。そして忌字禍との邂逅をもつ。そこで出会ったのは、忌字禍に最初に食われたアリス・ウォンだった。
【野生の詩藻】
アリスが創り上げた詩の獣が、彼女の詩をもって野に放たれた。それらを停止させるために立ち向かうのは彼女の兄と、彼女と曠野で幾度も遊んだ彼だった。
【はるかな響き】
骨の女がかなしみをはじめ、夫婦であった男女がピアノ料理を鏡に自己に潜り、それらを観測するわれわれがたどり着く恐ろしい結論が立ち上がり、そしてまたはじまりの骨の女の願いはやがてすべてに影響を及ぼす未来を創造させる。
【ノート】
あとがき?
この物語の書かれた様子が唐突と話される。
物凄く力強い、酔いそうな密度の文章が最初から最後まで続く。読み終わって本当に感動した。
Posted by ブクログ
圧倒されました。面白かったです。
どれも良くて…大好きディストピアの「海の指」は〈灰洋〉に浮かぶ泡洲の、歴史的建造物がごちゃっと積み上がる風景を想像するだけでわくわくしました。画像検索しよう。
DV旦那vs妻と今の夫とふたりの同僚たちとの戦いは壮絶。そして美しくも悲しい終わりでした。
「自生の夢」が凄かった。〈忌字禍〉に対抗するために甦らせられた、言葉による殺人者「間宮潤堂」。〈忌字禍〉に殺されたようなものの詩人「アリス・ウォン」は忌字禍側についているけど、彼女が一番間宮を理解してた。もったいなかったね、と。
圧倒されてうわぁと読んでいたけど、解説で間宮潤堂は伊藤計劃とされてて、なんだかじーんときてしまいました。
帯にされている「あなたの言葉はそれくらい貴重だったんだよ」は最大の賛辞だなぁ。
飛さんの作品、もっと読みたくなりました。
思い返せば、テオ・ヤンセンのストランドビーストってあれか…動画はよく見てた……
Posted by ブクログ
言葉から人格をかたち造るさまざまなSNS上に残る自分の断片を掻き集めたら、人格を再構築できるだろうか高度AIでなくても、どんな人となりなのかぐらいは推測できそうだ。
文字がかたち造る想像の奔流に身をゆだね、異界への旅を堪能する。
外出できないこんな時は読書を楽しもう。
Posted by ブクログ
全体の基盤に「言語」のテーマ性、そして伊藤計劃の存在がずっとうっすら漂っている。出典は忘れたけど作者本人がどこかで「SFは美しく残酷なものと信じている」と言ってた通り、本作もすべての文章が美しく、凄絶で、大体ラストは寂しいか恐ろしかった。
「海の指」…グランヴァカンスの筆致に近いかんじ。人への恋しさ、各々が抱えた寂しさ、それを丸ごと蹂躙していく恐ろしい状況。明るくない結末に向かって疾走していく感覚はずっとあるのに文章が面白すぎて最後まで一気読みしてしまう。志津子さんが「来た」ら、絶対怖いよね…
「自生の夢」…一番強く伊藤計劃へのリスペクトというか、存在を意識しているのを感じる。彼に宛てた文章というか、もはや一個人を二次創作したというか…。伴名練がかなり詳しく解説してくれてるので、それを読んでから再読すると解像度がぐんと上がるのでありがたいですね。間宮へのインタビューの担い手だった〈わたし〉〈ぼく〉はそれぞれ「ハーモニー」「虐殺器官」なのかなぁ、と思って読み直すとかなり熱い。
「はるかな響き」…生物が言語を得る以前、すべてに名前がつきカテゴライズされ、私達が「理解」を得る以前にあった「あの響き」を生命は皆求めている。というのはかなりロマンがある設定で素敵だった。
⚫︎あらすじ
73人を言葉だけで死に追いやった稀代の殺人者が、怪物〈忌字禍〉を滅ぼすために、いま召還される。現代SFの最高峰、10年ぶり待望の作品集。「この作者は怪物だ。」――穂村弘
──────────────────────
73人を言葉の力で死に追いやった稀代の殺人者が、怪物〈忌字禍(イマジカ)〉を滅ぼすために、いま召還される----第41回星雲賞日本短編部門受賞作「自生の夢」他、今世紀に発表された読切短編のすべてを収録。最先端の想像力、五感に触れる官能性。現代SFの最高峰、10年ぶり待望の作品集。
「この作者は怪物だ。私が神だったら、彼の本をすべて消滅させるだろう。
世界の秘密を守るために。」----穂村弘
その他の収録作品:
◎「海の指」第46回星雲賞日本短編部門受賞
霧が晴れたとき、海岸に面した町が〈灰洋(うみ)〉となり、異形の事物は奏でられていく。
◎「星窓 remixed version」日本SF大賞受賞第1作
宇宙空間からぽんと切り抜いたガラス板を買ってきた。
◎「#銀の匙」「曠野にて」「野生の詩藻」
天才詩人アリス・ウォンの生み出したもの、遺したもの。
◎「はるかな響き」
人類誕生以前に行われた犯罪、その結果、人類を殲滅させるに至った犯罪。
(河出書房HPより引用)
Posted by ブクログ
伊藤計劃氏から最近のSFにハマり、たどり着いた一冊。少し気を抜くとついていけなくなりそうな、自分の持つ想像力でぎりぎりで楽しめた。海の指、星窓は文章なのに景色の美しさを感じられたし、設定も最初は?だったけど読むほどにSFらしくて面白かった。後半の表題作含む"詩"をテーマとしたアリスウォンの話では、横文字に付いていきつつぎりぎり理解して読み進めた(受け止めきれなかったのが悔しいくらい!)。潤堂の能力は伊藤計劃氏の「虐殺器官」を思い出した。本でこれだけ感じられるものがあって誹謗中傷で人がしぬこの世を思えば、言葉で人を殺める人がいても全然フィクションじゃないなと思う。
著者のほかの本もこれから読んでいきたい。もっと理解したい。
Posted by ブクログ
良品の短編集。SFなので、世界観が掴みにくいものもあるが、冒頭の『海の指』は、読みやすく、いきなりその世界に入っていける。中盤、『自生の夢』、最後の『はるかな響』が、好み。
全編を通して、文字や文章が生物のように自生する世界。
Posted by ブクログ
SF短編集...いくつかはつながっている...
だが、これは映像化できない、不思議な感覚。SFならではというか。映像にはっきりならなくてもイメージとしては大まかに捉えられる、そういう文字媒体ならではの感覚を覚えさせてくれた。
Posted by ブクログ
この作品も恐らくは著者の膨大な想像力の一端に過ぎないのだろうな。設定はSFだが、文学的で叙情的でロマンチックな作品群。ノスタルジックで怪奇的な「海の指」と「星窓」が特に刺さる。表題作を含むアリス・ウォン関連作や「はるかな響き」では【ことば】の可能性が主軸となっている。近い将来、AIが自由意思を持つ未来が訪れようと、生身の人間が持つ言葉の力はそれを凌駕すると信じたい。私は頭で作中の場面をイメージしないと文章を譜に落とせない質だが、Cassyの世界観をイメージするのは至難の技だった。是非改めて再読したい作品。
Posted by ブクログ
「海の指」が個人的には一番読みやすく想像もしやすかったように思います。あとがき(ノート)を読んだら納得。横文字やオリジナルの単語についていくだけで必死になってしまうけど物語の世界の広さや奥深さに感嘆しました。文字や言葉で無限の世界が広がるのが小説の良さだなと改めて感じる。
Posted by ブクログ
短編や中編を集めた作品集。
正直に言うとどの作品もちょっと難しくて、設定や世界観を理解するのに結構時間がかかりました。ただ、物語をある程度理解できると一気に面白く立体的になって夢中になります。
個人的には「海の指」が特に好きでした。一番頭の中でイメージしやすかったですし、世界観や内容も一番好きでした。最後まで読んで思わず鳥肌が立ちました。
この本は、何度も繰り返し読んで理解を深めることで、どんどん面白くなるような気がします。
Posted by ブクログ
鴨が初めて読んだ飛浩隆作品は、この短編集の表題作である「自生の夢」です。ハヤカワ文庫の「日本SF短編50」に収録されていて、何となく流れで読んで、撃沈しました(^_^;全く意味不明、清々しいまでの置いてかれっぷり。鴨ごときのSFリテラシーでは全く歯が立たない作家さんだな、と思ったのが第一印象。
その後、「象られた力」「グラン・ヴァカンス」「ラギッド・ガール」と読み進め、飛作品を読みこなす力がある程度は身についたかな?とちょっとだけ自信を付けて挑んだ本作。
・・・やっぱり撃沈しました(^_^;
冒頭に収録されている「海の指」で「おおっ、行けるかも!?」と思ったんですが、アリス・ウォン・シリーズに突入するとやっぱり理解不能になりましたね・・・手強い。
しかし、ある程度飛作品を読んで挑んだ今回、よくわかったのは「SFリテラシー」と言うよりも独特の「飛作品リテラシー」が必要なんだなきっと、と言うこと。
これらの作品をもって飛浩隆が表現したいことを、鴨は多分10分の1も掴んでいません(^_^;が、目の前に広がる圧倒的にしてワン・アンド・オンリーなヴィジョンの力強さ、美しさ、そして語弊を恐れずに言えばグロテスクさ、気色悪さは、「言語的な肌感覚」(自分で書いててよくわからんワーディングだなーと思いますが、そうとしか表現しようがないのよヽ( ´ー`)ノ)をもってビシバシと伝わってきます。この作品自体は、間違いなく言語で構成され表現されているのに、言語以外の迫力が行間から伝わってくるこのユニークさ。読まないとわからないですね、この感覚は。読んでも結局わからないんですけど(笑)SFという文学ジャンルの中で語るにはもったいない、多分別の軸を有する作品ではないかと。
万人にお勧めできる作品では全くありませんが、チャレンジして損はないと思います。