あらすじ
73人を言葉だけで死に追いやった稀代の殺人者が、怪物〈忌字禍〉を滅ぼすために、いま召還される。10年代の日本SFを代表する作品集。第38回日本SF大賞受賞。解説:伴名練
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Posted by ブクログ
初読み作家さん。
文庫本での登録になってるけど、単行本が出た時に買っていて、今の今まで積読にしていた。でもそれでよかったと思う。
一応近未来SFにしたけれど、これも、そうなのかな、、と首を捻りたくなる。ここよりも発達した場所の話なのだけど、ここと果たして繋がりのある世界のことなのか。世界の合わせ鏡の行く末を見ているみたいな気持ちだった。
【海の指】
世界が灰洋におおわれ、その中で一度分解されてしまう。国も人種もなくなって、周りを灰洋に覆われた場所で時折やってくる〈海の指〉という津波のような、分解された物事が再生されて地表を蹂躙してさらっていく現象に脅かされながら、人々は生活していた。そんな世界で生きている一組の男女のお話。灰洋に昔捨てた夫が、再生されて帰ってくる描写、夫を捨てに行った場面、再生された夫にさらわれてあっけなく分解されてしまった女をもう一度形作り、再度灰洋へ夫を切り捨てた場面の凄み、とても短編と思えないくらいの濃度の高い話だった。
【星窓 remixed version】
少年の夏休みの予定(数年前から計画していた星々をめぐる旅行)を放り出して手に入れた«星窓»は、暗黒を映していた。その星窓を飾ってから世界の時間に自分がうまく乗れていない錯覚を感じる主人公。彼のもとに夜な夜な現れる(たまに夢にもやってくる)姉との酒盛り。不思議に揺れる。星窓の存在と、それが切り取った誕生の瞬間の伸び縮みの力が歪める僕の時間軸と、僕の影響を受けざる得ない星窓の関係が面白い。
【#銀の匙】
«Cassy»というネット(のようなもの)につながり内面からの一人称視点でひたすら筆記していく装置のはじまりと、その筆記者の引率を担うアリスの誕生の日の話。
【曠野にて】
生まれて間もなくから«Cassy»を操り、その才能を開花させた詩人は、その能力をさらに伸ばすための合宿に参加していた。他の年齢の上の子たちとは離れて、二つ年上の男の子と、ただひたすらの曠野に言葉を駆使して物語の空間とり遊びを始める。
【自生の夢】
ある日現れた«忌字禍»により世界中の«言葉»が朽ちていこうとしている瞬間、縋るように探し出したのは、無数の文字から抽出し、対話を重ね、その情報をまた合わせて、、、と気の遠くなるような作業で蘇らせた、稀代の作家、言葉で人を思うようにできたといわれる間宮潤堂だった。彼のこれまでの行いと、インタビュアーの対話はやがて実を結び、身を結びあげる。そして忌字禍との邂逅をもつ。そこで出会ったのは、忌字禍に最初に食われたアリス・ウォンだった。
【野生の詩藻】
アリスが創り上げた詩の獣が、彼女の詩をもって野に放たれた。それらを停止させるために立ち向かうのは彼女の兄と、彼女と曠野で幾度も遊んだ彼だった。
【はるかな響き】
骨の女がかなしみをはじめ、夫婦であった男女がピアノ料理を鏡に自己に潜り、それらを観測するわれわれがたどり着く恐ろしい結論が立ち上がり、そしてまたはじまりの骨の女の願いはやがてすべてに影響を及ぼす未来を創造させる。
【ノート】
あとがき?
この物語の書かれた様子が唐突と話される。
物凄く力強い、酔いそうな密度の文章が最初から最後まで続く。読み終わって本当に感動した。
Posted by ブクログ
言葉から人格をかたち造るさまざまなSNS上に残る自分の断片を掻き集めたら、人格を再構築できるだろうか高度AIでなくても、どんな人となりなのかぐらいは推測できそうだ。
文字がかたち造る想像の奔流に身をゆだね、異界への旅を堪能する。
外出できないこんな時は読書を楽しもう。
Posted by ブクログ
全体の基盤に「言語」のテーマ性、そして伊藤計劃の存在がずっとうっすら漂っている。出典は忘れたけど作者本人がどこかで「SFは美しく残酷なものと信じている」と言ってた通り、本作もすべての文章が美しく、凄絶で、大体ラストは寂しいか恐ろしかった。
「海の指」…グランヴァカンスの筆致に近いかんじ。人への恋しさ、各々が抱えた寂しさ、それを丸ごと蹂躙していく恐ろしい状況。明るくない結末に向かって疾走していく感覚はずっとあるのに文章が面白すぎて最後まで一気読みしてしまう。志津子さんが「来た」ら、絶対怖いよね…
「自生の夢」…一番強く伊藤計劃へのリスペクトというか、存在を意識しているのを感じる。彼に宛てた文章というか、もはや一個人を二次創作したというか…。伴名練がかなり詳しく解説してくれてるので、それを読んでから再読すると解像度がぐんと上がるのでありがたいですね。間宮へのインタビューの担い手だった〈わたし〉〈ぼく〉はそれぞれ「ハーモニー」「虐殺器官」なのかなぁ、と思って読み直すとかなり熱い。
「はるかな響き」…生物が言語を得る以前、すべてに名前がつきカテゴライズされ、私達が「理解」を得る以前にあった「あの響き」を生命は皆求めている。というのはかなりロマンがある設定で素敵だった。
⚫︎あらすじ
73人を言葉だけで死に追いやった稀代の殺人者が、怪物〈忌字禍〉を滅ぼすために、いま召還される。現代SFの最高峰、10年ぶり待望の作品集。「この作者は怪物だ。」――穂村弘
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73人を言葉の力で死に追いやった稀代の殺人者が、怪物〈忌字禍(イマジカ)〉を滅ぼすために、いま召還される----第41回星雲賞日本短編部門受賞作「自生の夢」他、今世紀に発表された読切短編のすべてを収録。最先端の想像力、五感に触れる官能性。現代SFの最高峰、10年ぶり待望の作品集。
「この作者は怪物だ。私が神だったら、彼の本をすべて消滅させるだろう。
世界の秘密を守るために。」----穂村弘
その他の収録作品:
◎「海の指」第46回星雲賞日本短編部門受賞
霧が晴れたとき、海岸に面した町が〈灰洋(うみ)〉となり、異形の事物は奏でられていく。
◎「星窓 remixed version」日本SF大賞受賞第1作
宇宙空間からぽんと切り抜いたガラス板を買ってきた。
◎「#銀の匙」「曠野にて」「野生の詩藻」
天才詩人アリス・ウォンの生み出したもの、遺したもの。
◎「はるかな響き」
人類誕生以前に行われた犯罪、その結果、人類を殲滅させるに至った犯罪。
(河出書房HPより引用)