小川一水のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ユリアン「・・・」
ヤン『どうしたんだい、ユリアン。そんな浮かない顔をして』
ユ「て、提督。この報告書を読まれましたか?」
ヤ『あぁ、なかなか良く出来てるじゃないか。何か不満でもあるのかい?』
ユ「そりゃ、ヤン提督は活躍が報告されてますけど、僕は、言え、私の事はどこ
にも書かれてないんです。不公平じゃないですか!」
ヤ『そうは言うけどね、ユリアン。あのキルヒアイスやロイエンタール、
ミッターマイヤーについても書かれていないよ』
ユ「で、でも提督。あのオーベルシュタインなんて、大活躍じゃないですか」
ヤ『確かに。ユリアン、君は何歳だい。今回報告されているのは、それなりに
年齢を重ねている人の昔話がメインなんだ。君はまだ若い』 『それに、キャゼルヌ
少将のを読んだかい』
ユ「もちろんです、それにしてもキャゼルヌ夫人、すごいですね、
少将もかたなしって感じでした」
ヤ『キャゼルヌ先輩は、本来とても優秀な人だ、なのにあの描かれようだ』
ユ「私は、まだこれからと言う事でしょうか」
ヤ『まぁ、そう言う事だよ。ただあまり期待してはいけないよ。他にもまだまだ
優秀な人材はいるからねぇ。シェーンコップはもちろん、ビュコック提督なんて、
若い頃の話を探し出したらキリがないはずだよ』
フレデリカ ❛私なんて、エル・ファシルにいた頃、当時のヤン中尉にサンドイッチ
とコーヒーを差し入れた話しぐらいしか思い出話が出てこないのよ。これでも
士官学校を次席で卒業してるのだから、他にももっとありそうなものでしょ、
そうは思わない、ユリアン?❜
ユ「・・・」
ヤ『・・・』
フ❛あら、わたし、何か変な事を言ったかしら❜
とまぁ、こんな短編集です。 -
Posted by ブクログ
全10巻(10冊とは言っていない)のシリーズ、『天冥の標」1巻の上巻。
のっけから読ませる! 人や異星人、果てはアンドロイドまで、登場人物の様々な行動が交差し、物語の筋道を作っていく。まだそれぞれの道がどう合流していくのかは見えてこないけど、引きの上手さと、話や文章のテンポがいいからそれがストレスにならず、先が気になってズンズン読んでいけました。
西暦2803年、植民星メニー・メニー・シープ。総督が軍や電力の供給を握るこの星では、最近になって電力供給の制限が始まり、市民の不満は高まっていった。この星で医者を勤めるカドムは友人のアクリラから、街で謎の疫病が流行していると助けを求められる。その感染源は思ってもみないもので……
物語はとにかく重層的です。医師のカドム。身体に改造を加え、独自の文化・生き方を持つ“海の一統”の若きリーダー、アクリラ。一章で出てくる彼らが中心となって物語が進むのかと思いきや、政治の中枢にいる正義感の強い女性議員。軍の人間。市井の人間から距離を置き、自分たちの街を作っている“ラバーズ”と呼ばれるアンドロイドたち。高度な知能を持ちながらも、人間にこき使われている異星人。
それぞれの視点から、物語が語られていく一方で、世界観や歴史的な設定の作り込みも合間合間で語られていきます。総督の権力の起源に到る政治闘争や市民たちの生活の様子もさることながら、ラバーズたちアンドロイドの設定や、身体に改造を施した“海の一統”たちの設定、異星人の独自の生態は、SFならではの想像力の面白さが、物語と深く結びつきます。
庶民以上に電力を生命維持の観点から必要とする彼ら。一方では戦いに臨み、一方では総督の権力の及ばない、新世界を求め、新しい土地へ旅立とうとする。そして、それぞれの道に立ちはだかるものは……
上巻の段階で残された謎は、とても魅力的なものばかり。カドムたちの前に現れた異形の生物の正体は? 電力の制限は総督が、植民星を捨て新たな星へ向かうため、との噂が出てくるのですが、総督の真意と目的は? 権力へ反旗を翻したラバーズたちの運命は? そして、新大陸で見つかった大型ロボットは、一体何を作っているのか?
全10巻のSF大河小説の始まりに相応しく、人も人であらざる者の世界も構築しつつ、さらに大きな展開を予想させます。想像以上にワクワクしながら、下巻も読み進めていけそうです。 -
Posted by ブクログ
たった270ページに、紀元前10万年から西暦26世紀の時間と、2000億人の死を詰め込むなんて、小川一水以外にできるでしょうかあ!
人類殲滅に襲いくる異星機械群と、究極知性…UIだな…を中心とした軍人ベースの知性体サブユニットたちが、時間を遡行して当時の人類の資源と科学を駆使しつつ闘い続ける。そのギリギリの砦、邪馬台国での舞台作りもお見事。ロマンスも詰め込んで…これ『天冥の標』くらい長くすることもできたろうなー。それを1冊に、しかも書き下ろすってすっごいなー。
主人公オーヴィルは、ジャンプラでやってる『Heart Gear』のアンドロイド戦士と重ねて読みました -
Posted by ブクログ
ネタバレ西暦248年、不気味な物の怪に襲われた邪馬台国の女王・卑弥呼(彌与)とその従者の幹であったが、突如現れた「使いの王」オーヴィルと人語を発する剣カッティに命を救われる。
彼らは2600年後の未来から来た人工知性体で、太陽系奪回軍の参謀総長である知性体サンドロコットスのサブユニットとして創られた有体知性であるメッセンジャー・O(オリジナル、個体名はオーヴィルを選択)と、遡行軍統括の時間戦略知性体カッティ・サーク(女性の声で本体は別の場所にある)であり、彌与が襲われた物の怪は「ET」と呼ばれていた。
オーヴィルは西暦2598年に、人類の第一拠点である太陽系中枢府で生まれた。彼は人類が知識化したほとんどの情報をすでに保持していたが、人と関わることで、データでは得られない人間的な感性を育む期間が設けられていた。そこで出会ったのが補給廠の窓口で、受領者の頭にコーヒーをかけていたサヤカ・カヤニスキアであった。オーヴィルはいかにも人間的な行動を取るサヤカに興味を持ち、惹かれ合い、2人は付き合い始めた。彼女と関わることで愛を知り、そして別れを知った。
オーヴィルの根底にあるものは、メッセンジャーとして与えられた最優先命令としての「人間への忠誠」ではなく、救えなかったサヤカとの記憶、その彼女が望んでいた言葉。「人に忠実であれ…」
オーヴィルたちが創られた目的であり、サヤカと別れなければならなかった理由でもある、人類の敵ETとは、何者か(ETクリエーター)によって創り出された増殖型戦闘機械で、様々な形態のものが存在する。そしてその目的は人類の根絶であり、既に地球は壊滅させられていた。だが、その後の宇宙戦争において劣勢を悟ったETは、今よりはるかに弱小の過去の人類を掃討するため、時間遡行を行った。
一方、人類の存続を目的とするオーヴィルたち知性体も時間遡行を行うが、ETに先を越され、再遡行が必要になる。カッティは、ETが通過する時間枝を見捨て、一気に十万年前に遡行するという無機質な作戦を提示するが、人と触れ合い、感情を獲得しているオーヴィルたち一部の知性体はそれに反発した。結果的に、十万年前に定住してETを迎撃し続ける部隊と、時間枝の分岐点を守りながら遡行を繰り返して十万年前に向かう部隊とに分かれた。
後者のオーヴィルたちは、四百回以上の戦いの末にようやく本隊との合流を果たす。
そこでカッティから、クリエーターの正体が一億二千万年後、化学合成細菌から進化を遂げた生命体であることを知らされた。
クリエーターは時間遡行理論を手にして過去を調査し、地球人の無人観測基地の設置により、自分たちの先祖である細菌類とその母星が一度壊滅しかけていたことを突き止め、その復讐のためにETが送り込まれたという。
その途方もない事実と遡行戦の疲労により、オーヴィルは極東の小さな島(後の邪馬台国)で、ステーションを築いて凍結に入った。そして千二百三十年後、ETの出現により眠りから目覚め、邪馬台国の女王を助ける。
その時代は、十万年前から勝ち続けてきた人類側の遡行軍と、未来を喰い荒らしてきたETとの、時間戦略的な拮抗点であり、決戦の時であった。
彌与は「使いの王」に従い、ETとの戦いに身を投じた。その中で倭国(日本)を知り、世界を知り、「使いの王」の苦しみを知った。そして、彌与はオーヴィルを苦しみから救いたいと願った。たとえサヤカの身代わりだとしても。それから二人は閨を共にするようになった。
しかし戦況は圧倒的に不利となり、彌与は味方である高日子根の愚行により負傷、カッティは自爆、オーヴィルは深傷を負い死亡。人の軍は希望を失ったかに見えたが、彌与が立ち上がり、声を張り上げ宣言した「人類は負けない、海を渡ってでも生き残る」と。
その時、空に超巨大戦艦が現れ、オーヴィルによく似た男の姿があった。彼は二十一世紀時間軍パスファインダーのオメガと名乗った。彼の時間枝は、彌与の決意によりたった今産まれ、そして未来からの援軍はつまり、人類の勝利を意味していた。
オメガの時代に、オーヴィルたちメッセンジャーの戦いは、魏志倭人伝の御伽噺として伝えられていたが、オメガはオーヴィルの亡骸に触れて記憶を引き継ぎ、全てを理解した。メッセンジャー・Oであり、「使いの王」であったオーヴィルの意思は、同じ頭文字を持つオメガに引き継がれた。
オメガはETとの戦争を終結させた後、元いた時間枝で大勢の人々に歓迎されていた。その中で、不思議な格好をした沙夜という名の娘に出会い、胸の高鳴りを不思議に思いながら声をかける。あの日のオーヴィルのように。
270ページと少なめの長編小説だったが、上記の要約できていない要約以外にも、オーヴィルの同僚のアレクサンドルが恋人シュミナに向けて書いていた児童文学の話、高日子根の彌与に対する思惑や、オーヴィル亡き後、おそらく従者の幹と彌与が結ばれ、その子孫の沙夜と、Oの意思を受け継いだオメガが出会ったであろうことなど、魅力的な内容を含んでいる。また、1963年に優秀なパイロットとして少しだけ登場したハルトマンは、史上最多の撃墜記録を持つ、実在したパイロットのエーリヒ・ハルトマンであり、オーヴィルが史実を利用して人選するという話のつくりには、卑弥呼に関しても言えることだが、歴史的興味を掻き立てられた。
未来の知性体であるオーヴィル視点の記述では、本のことを「私製書籍ー脆くてハンドリングの悪い、恐ろしく低密度なデータベースだ。」というように
書かれていたことも印象的だった。
あえて苦言を呈するならば、カッティとオーヴィルの死後、彌与たち人の軍が海を渡り漢土に逃げ切ったとしても、それからETに滅ぼされずにどうやって生き延びたのかと言うこと。オメガのいる二十一世紀には超巨大戦艦が造られるほどに発展していることにも疑問が残る。
とはいえ、そこまで考えさせられた本作は、史実を基に時間遡行や宇宙戦争を絡めた壮大な物語であり、その広大なスケールを見事に書き上げた「時間SF小説」の傑作だった。