西川美和のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
読んで、主人公・衣笠幸夫の姿に、父を亡くして以降の自分自身を重ねてしまった。
喪失は劇的な出来事として訪れるのに、その後の人生は驚くほど平然と、何事もなかったかのように続いていく。悲しみはあるのに、泣き続けるわけでもなく、かといって前向きになれるわけでもない。その宙づりの状態こそが、この作品の核心なのだと思う。
幸夫は、他者の痛みを理解できない冷淡な人間として描かれがちだが、それは「わからなさ」の問題なのだと感じた。人の死がもたらす空白や、その後に残される感情の処理の仕方を、彼は知らないし、学んでもいない。ただ、取り返しがつかないという事実だけが遅れて重くのしかかってくる。その鈍さや遅さは -
-
Posted by ブクログ
雑誌連載をまとめたもので、同じ文字数のコラムが続き、とても読みやすい。肩の力を抜いて読めるが、ウィットに富んだ歯切れいい文章の中に、筆者の聡明で透明な眼差しを感じる。バランスよく地頭のいい方なのがよくわかり、お人柄も素敵だなぁと思った。特に印象的だったタイトル。男子校の膝上の友とのまぶしい青春を描いた「あおばのみち」、籠の鳥のようなゆきちゃんの解答すり替え工作を疑う「ゆきのしわざ」、認知症の伯母の大人っぽさについて書いた「ついのふうけい」、差別表現に緩かった過去への思慕を断ち切る「ぼくらのキャンバス」、敵ながらあっぱれのホークスのホスピタリティに感じ入った「みるはたのし」、おじいちゃんがムカデ
-
Posted by ブクログ
愛の冷めた夫婦と、幸せに見える子供2人の4人家族。両方で妻(母)を失って、夫である幸夫と陽一がそれぞれ妻のいない人生を歩んでいく話。
ラブストーリーとも、家族の物語とも、成長の物語とも違う気がする。
妻を失った直後の感情、だんだんと生活の変化に慣れること、自分や他人を責めること、向き合うことから避けること、子供に自分の存在意義を求めること、自暴自棄に生きる意味が見出せないこと、さまざまな感情が渦巻いて、簡単に前に進めるものでもない。前がどこかもわからない。
永い言い訳、と言うタイトルは、そんな中で人は永久的に自分自身を納得させようと言い訳し続けると言うことか。
でも死と向き合うこと、妻と -
Posted by ブクログ
ネタバレ自分にしては珍しく、本のタイトルをよく思い出す小説だった。そしてそれは、この物語全てを締めくくる言葉だ、と考えることが容易だったからだろう。
この話は幸夫の永い言い訳そのものだ。だから、結局これら全てが言い訳になる、という結末が見えていた。つまり、読みながらこの感情はいつか言い切ることができるようになる、とわかることができた。
この物語で私の心は何に揺さぶられたのだろう。言い訳であった行動や心情に共感しなかったと思う。ただ、悲しい出来事が起こるたびに可哀想にと同情してた。そういえば、もし自分の相手が死んだとしたら、も考えなかったな。それもまた彼の心情に共感しなかったからだろう。
ただ、この物語 -
Posted by ブクログ
ネタバレ何の気無しに手に取った一冊にしてはとてもパンチ力のある一冊だった。
小説の魅力の一つに文章から、この先自分では体験しないであろう人生を追体験できるというのがあるように私は思うが、この本は登場人物の心境が事細かに描かれておりリアリティに舌を巻いた。
衣笠幸夫のように非常になれたり、大宮陽一のように家族の悲しみにやるせ無くなり少し荒れたり、大宮真平のように自分の境遇に対する不平不満に押しつぶされそうになったり…。
読者自身は妻、家族をバス事故で亡くした訳でもないけどその心情がヒシヒシ伝わってくるような、鬼気迫る一作でした。
本当にながいながい言い訳でした。 -
-
Posted by ブクログ
ネタバレ前作も素晴らしかったですが、こちらもやはり、紛れもなく素晴らしいですね。前作が、映画で言うと「ゆれる」「ディア・ドクター」「夢売るふたり」の時期のエッセイだとしたら、こっちは「永い言い訳」の時期のエッセイ。
「あの映画を撮っていた時、西川さんはこんなことを考えていたのか!」という思いが感じられますし、映画に関しての裏話的な話も沢山聞けますし、ましてや西川さんご自身の「映画とは、なんなんだろうなあ?」という様々な気持ちを垣間見ることができる。うーむ。まさに、映画人としての西川美和に興味があるかたなら、抜群に楽しめると思います。で、ワタクシは、映画人・西川美和に途轍もなく興味がある。ということは