西川美和のレビュー一覧
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一人称が変わりながら時系列が進んでいく作品なので、それぞれの場面について語る時の距離感が皆違うのが面白かった。
お互いや自分自身についての認識にも、微妙に差があるのが絶妙だった。
外から見た人の印象と内実がまるで違ったり、実は正反対だったりする、という事が、違う視点からのアプローチで判明するという作品は小説に限らず世の中にたくさんあるけれど、これはそういうものともまた違う気がした。
事実も内実もほぼ間違いなく、誰からの視点でも一致しているのに、それぞれの認識が少しずつずれている。これが本当に絶妙!
すごく丁寧に作られている作品だと感じた。 -
Posted by ブクログ
終戦の日(になった日)、東京駅から故郷の広島へと帰る少年兵のロードムービー。
「あの戦争」を語るには穏やかすぎるくらいの文章で、そこには怒号も慟哭もない。
主人公は「終戦」という未来を知るには早すぎて、すでに焦土と化した故郷に辿り着くには遅すぎた。あるのは、そうした宙ぶらりんの虚無感と喪失感。「中空」と言い換えれば、何とも現代的ではないか。
故郷を目指す主人公の旅は、彼の過去の回想をさしはさんで進んでいく。過去と今、絡み合う二つの時間軸の先に浮かび上がるのは、もう一つの「その日」である。
過去を見つめなければ現在は見えない。
現在を見つめなければ過去は見えない。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ映画で気になっていた作品だったが,なんとなく本木さんが嫌いになりそうな役柄だったので,見るのに躊躇していた。(好きなので嫌いになりたくなかったから)なので小説で読んでみようと思ったのだけれど,配役を知っていたので脳内で役者さんに当てはめて読んでしまった結果,最初,失敗したと思った。本当にこんなに好きになれない主人公はなかなかいないくらい性格の悪い主人公。
ただ子どもたちの交流を通して,愛を少しづつ知っていくところに救われた。
ー愛するべき日々に愛することを怠ったことの,代償は小さくはない。
この一文は,自分も心に留めておきたい。 -
Posted by ブクログ
四十代、人気作家の妻が、高校からの友人とスキー旅行へ行った際、バスが崖から落ちて、友人ともども帰らぬ人となる。友人の夫と初めて会ったのは、被害者の会。八歳ほど若く、まだ三十代のその夫は、まっすぐな激情型で、妻の死を大いに悲しみ、憤っているが、作家のほうは、もうずいぶん前から妻との仲がうまくいっていなかったこともあり、また、元来のひねくれた性格ゆえ、悲しめない。事故の時、若い編集者を家に連れ込んで性交していた負い目もある。作家のほうに子供はなかったが、友人夫婦のほうには小6と4歳の子供があり、作家は、母親を失い、生活の立ち行かなくなった家族を見て、トラック運転手という不規則な仕事をしている父親に