酒井昭伸のレビュー一覧
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歴史改変もののSF。
もし1950年代に巨大隕石が地球に落下し、アメリカの東海岸が全滅したら・・・というお話。
1950年代というと、米ソが宇宙競争をしている状況であるが、本書ではまだアポロ計画にのっとった月への到達がなさ得れていないという状況である。
本書では、元女性パイロットの天才数学者の女性が主人公であり、コンピューターが未だ発達していない状況で、「計算者」として、それこそ「人間コンピューター」として働く物語である。
話はSFであるが、1950年代当時のアメリカをリアルに映し出し、黒人差別、女性蔑視等が激しい時代の状況を克明に反映させている。
巨大隕石による気候変動のため、地球からの脱出を計画する人類。やっとロケット打ち上げは軌道に乗り始めたが・・・。
下巻が楽しみ。 -
Posted by ブクログ
シンプルで素朴なSFだからこそ面白くて、考えさせる事も多い。
隕石の衝突と人類滅亡という、オールドファッションな題材を、1950年代というオールドファッションドな舞台で語られる。
科学は未だ素朴であって、大量生産・大量消費というway of life の時代。
科学はまだ手の届く範囲にあって、最新技術がIBM(パンチカード式計算機)だった時代だ。
科学者は皆、暗算か筆算で計算するのが主だった。
軌道計算も手計算がメインで計算機はサブに過ぎない。
思えば実際の歴史でもよくこんな時代に宇宙開発なんてものに手を出したなぁという驚愕と共に、科学と科学者たちの苦労、アイデアがいまの時代につながっているんだなぁなんて改めて感慨深くもなる。
使い古された題材に、リアルな記憶が残る時代背景。しかし、この物語は決してノスタルジーものではない。断じて。
昨今の科学技術は素人というか多くの人にとって距離が離れてしまった。
便利に使っているスマホの中身など知らないし、ましてやプログラムも高度で複雑だ。
車のエンジンも家電製品も気密性(機密性)が高まっているからおいそれといじれない。
技術や科学から人の存在を感じにくく、科学や技術と人との距離がどんどん広がっている気分になる。
しかし、1950年代はというと、技術や科学は手が届く範囲にあって、テレビや雑誌で科学特集も多かっただろうし、車の調子が悪ければ近所の詳しいおじさんに話せばちゃちゃっとエンジンいじってくれたりもあっただろう。
この物語の主人公は女性だ。
当時の米国もというと公民権運動、黒人差別、女性蔑視と必ずしもユートピアではなかった。
しかし、まだ科学や技術は手の届く範囲で、だからこそこの物語では、ロケットや軌道の説明セリフもシンプルで素朴だ。
女性蔑視や人種差別という葛藤も、多数派(差別側)も被差別側も描かれ方はわかりやすい。
さらに、隕石の衝突によって生じる気候変動も、シンプルに劇的で空恐ろしい。
この物語で描かれている葛藤や問題は現在進行形の問題でもある。しかしそれらは複雑すぎて“手に負えない”という無力感・無関心、諦念を我々に引き起こしているのかもしれない。
素朴でシンプルな時代が舞台である分、人種差別や女性蔑視、気候変動も未解決のままむしろ今は悪化しているのではないかということに気づかせる。
これらは米国だけではなくて、日本だって同じなのだ。
50年代については親さえ生まれてないから実際のことは知らない。
しかし、少なくともテレビは芸人が叫んでいるバックに笑い声を被せているだけで中身のない番組ばっかりじゃなくて、ジャーナリズムや文化芸術、議論は機能していて、近所の車に詳しいおじさんは実は戦争中に戦車とか戦闘機に乗ってたり整備したり工場に動員されてたりしていたんだろう。
決して当時はユートピアではない。しかし、少なくとも現在のようなディストピアではなかったのだろう。
それはそれとして、物語としてこの本は面白い。SFにありがちなオタクっぽさは皆無。
シンプルで素朴なSFだからこそ面白くて、考えさせる事も多い物語だ。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ12年振りのアーサー・C・クラーク。コロナの影響でどこにも行けないゴールデンウィークだからこそ、ハードSFでどっぷりと世界観に漬かりたいと思い読むことにした。
タイトルからは内容の想像が湧かないが、主人公である少年、アルヴィンの冒険譚といったところ。ただし、少年の冒険とそれを通じた成長を描くだけではなく、物語は人類の今後と宇宙の終焉まで見据えた壮大な物語へと発展してゆく。そのダイナミズムに圧倒される上に、人生の歩み方に関する哲学的な問いまで吹っ掛けられる心地にもなり、視覚的にも精神的にもガンガン揺さぶりをかけてくる、長期休暇に持って来いの小説だった。
この物語の舞台は、超絶凄いコンピュータに都市の全てをコントロールされ、あらゆる苦痛から解放された都市「ダイアスパー」から始まる。管理される世界というと、レイ・ブラッドベリ『華氏451度』、オーウェル『1984年』、ザミャーチン『われら』、ハスクリー『すばらしき新世界』……と、ディストピアと称されるSFを想起する。
私もこのジャンルは大好きでよく読むのだが、読んだ感想として必ずといってよいほど思うのが、「この世界はこの世界で、幸せはあるんじゃないかな」ということだ。自由という言葉の意味などは相対的なものなのだから、自分の周りの社会や、直近の過去や容易く想像できる近未来と比較しているのに過ぎないのだと思う。そうであれば、これから先に上述したような小説の世界観が到来したとしても、それがあまりにも急激な変化でなければ、自明のものとして受容できるのではないか、と。
で、本小説においてはその思いが極めて強かった(まあ、ざっと調べる限り、ディストピア小説なんて呼ばれていないのだけど)。ディストピア小説でよくある設定として、しっかり管理している体だけど結局崩壊する、といった世界観がある。ソ連崩壊的な。
これと対照的に、本小説の都市「ダイアスパー」では、実に十億年もの気が遠くなるような年月を、綻びもなく維持し続けている。もちろん、不穏なことも書いてはある。そこには子どもが存在せず、失意や悲劇という過剰がない故に失われてしまった「想い」がある。都市の外に出ることに恐怖感を植え付けられている。それでも、人はそうした揺りかごですやすやと眠るような幸せの中で生活しているのだ。ユートピアと呼んでさえ良いと思う。この均衡を崩す存在としてアルヴィンがいるが、その存在すらも都市の成立時に意図して組み込まれたものであり、人類はアルヴィンのような人物が現れないダイアスパーを作れた、ということになる。
小説の終盤でアルヴィンが自分の行動が本当に正しかったのかと自問自答する描写があるが、これも尤もなことだと思う。彼が行っているのは、見方によってはユートピアの破壊であるし、十億年単位で平和を維持できるシステムなど、現実には未来永劫出現しないかもしれない。
巻末の解説には、「宇宙に広がり、より高度の知性を身につけようとすることこそが知的生命の証なのだ」(p.476)とあるが、そもそもこうした前提自体に違和感をおぼえてしまう。
でも、この物語を一人の少年の物語と見るならば、アルヴィンは、心の持ち方や生きていく指針を探し求めているだけだ。ダイアスパーとリスを繋ぐことの是非は置いておくとして、彼のそうした気持ちは素敵だなと思う。アルヴィンは確かにユートピアを破壊してしまったのかもしれないが、既存の社会を最適解だと考える必要はないのだし、完全なユートピアなど望むべくもない現実世界においては、こうしたエネルギーこそが世界を動かしてゆくのだろう。
この物語において、アルヴィンは子どもの象徴として描かれる。子どもがこうした気持ちを持つものだとするのであれば、子どもが生まれ続ける限り……生命が受け継がれてゆく限り、生命は変化し続けることを運命づけられているのかもしれない。 -
Posted by ブクログ
NHKの100分de名著で取り上げられるということで、積読を消化したのですが、予想以上の面白さにビックリしました。古典SFって思索的なイメージが強かったのですが、この作品はそのイメージにプラスして、冒険小説のようなワクワク感があるのです。
物語の舞台となるのはダイアスパーという都市。そこでは人間の誕生や死の概念すらも、現代とは全く違います。生まれてくる人間は、始めから成人の身体。不老不死となった人間は、死のタイミングも自ら選ぶようになり、その記憶はメモリーバンクに保存され、新しい身体へ移されます。そして、その記憶は概ね20才前後で蘇る。
そんな人間の誕生から、都市のシステムまで全て管理しているのが、政府や国家でななく、ダイアスパーにある巨大コンピュータ。このコンピュータの管理により、ダイアスパーは完全・完璧な都市として常に機能し続けているのです。
こうした設定が70年前のSFで既に書かれていたという事実……。改めてクラークのすごさを実感します。
この作品の主人公となるアルヴィンは、そんな完全・完璧な都市に違和感を持ちます。そして、都市の外の世界に思いをはせます。しかし都市の他の人々は、外の世界に対し恐怖心を持っていて……
そしてアルヴィンは徐々に都市の秘密に迫っていきます。謎の怪人物の登場、都市の地下に眠る巨大な地図、そして都市の外、他の惑星への誘い……。
アルヴィンの強い好奇心に読者である自分も感化されたのか、都市の秘密にアルヴィンが迫っていく描写が、どうしようもなくワクワクするのです。何より都市の地下に潜る場面は本当にワクワクしたなあ。映画のインディ・ジョーンズを観ているようというか。
アルヴィンの冒険はついに都市の外へ。未知の惑星、文化や自然、超能力。しかし、クラークの想像力はまだまだ終わりません。物語は際限なく広がり、アルヴィンの冒険は、これまで何千年と続いてきた都市や文明の関係性を揺るがす事態にまで、発展していきます。
作品を読み終えた段階で、これはSFの何のカテゴリに当たるのかな、と少し思いました。それほどこのSFで使われるギミックや設定は多いのです。未来社会、テクノロジー、管理社会、宇宙、ファーストコンタクト、超能力、異生物、ロボット、コンピュータ、そして神……
こうした様々な要素を使いこなし、際限なく広がる世界観や作品のビジョンを表現する。本当にただただ圧倒されます。
しかしそうした圧倒的な物語、世界観、ビジョンが展開され示されるなかで、人間の普遍的なものの素晴らしさを謳いあげている作品であるようにも思います。
未知のものに対する好奇心
外の世界を恐れない心
アルヴィンのこの心と行動が、文明、そして銀河系の新たな胎動となるのです。それだけ壮大な物語でありながらも、その根底にあるのが人間の誰しもが持つ心にあることに、クラークの人間観が表われているように思います。
クラーク作品のイメージは『幼年期の終わり』のような思想的な作品のイメージが強かったのですが、困難な状況の中で人の強さや技術の可能性を描いた作品であったり、ジュブナイルを描いたりと、人に対する熱さや暖かさを感じる作品もあったことを、この作品で思い出しました。
思索的な部分もありながら、人間の可能性を強く信じた作品でもあり、ジュブナイルもののような冒険、そして成長物語でもある。様々なSFの要素を、そして様々なクラークの側面を楽しめる贅沢で、そして面白い傑作でした! -
Posted by ブクログ
ー “来世というものはあるのかしら。目が覚めてみたら、すべてが夢だったなんていうことがあるのかしら。きっとあるわよね、人間というものは、こんな苦しみを受けるために創られたんじゃないもの”
ああ、ファニー、きみは知らなかったんだ!人はまさに、そのような苦しみを受けるために生まれてきたことを。つまるところ、人が自意識と呼ぶものは、苦しみの波濤のあいまに生じる澄んだ潮だまりにすぎない。人はみな、みずからの苦しみに耐え、それを抱きしめるように創られている、運命づけられている。そう、狼の仔を腹に隠したスパルタ人の泥棒がその仔に腸を食いつくされるように。 ー
やっと4冊読み終わった。長かった…。
SFの全てが詰まっているとは、まさにその通りで、ありとあらゆるSFの構成要素がこの作品の中にあり、それでいてとっ散らかることもなく素晴らしい結末まで一気に読ませてくれる傑作。
もう、とにかくすごい!
300年後が舞台の『エンディミオン』と『エンディミオンの覚醒』全4冊が残っているのでまだまだ終わりそうにもないな…。
しばらく時間をおいて読むか。 -
Posted by ブクログ
ー リイ、タラとプリンデナスといっしょに、演説の草稿を書いてくれー全〈ウェブ〉向けの警告と宣戦布告、両方のだ。四十五分以内にたのむ。
簡潔に、明快に。チャーチルとストルデンスキーの資料を参考にするといい。現実的だが挑戦的に、楽観的だが決死の覚悟を感じさせる方向でな。ニキ、統合参謀本部の動向をリアルタイムでモニターする必要上、わたし専用の司令マップ・ディスプレイを用意してほしいーインプラント経由でデータを読むタイプだ。CEO以外には読めないようにしておくこと。
バーブラは上院におけるわたしの手足となってくれ。上院に常駐して、状況を把握し、操れる者は操り、脅しをかけ、甘言を弄し、今後三、四回の投票では、わたしに反対票を投ずるよりもアウスターとの決戦を支持したほうが安全だと思い知らせてやるんだ。なにか質問は? ー
いよいよアウスターとの全面戦争が始まる。
そして7人の巡礼者は一人また一人と…。
おもしろ過ぎる!スピーディーな展開がたまらん!
後半が楽しみだ。 -
Posted by ブクログ
ー 人間の経験の本質は、華々しい経験、たとえば結婚式がそのいい例だが、カレンダーの日付につけた赤丸のように、記憶にくっきりと残る華やかなできごとにではなく、明確に意識されない瑣末事の連続のほうにあるのであり、一例をあげれば、家族のひとりひとりが各自の関心事に夢中になっている週末の午後の、さりげない接触や交流、すぐにわすれられてしまう他愛ない会話.…というよりも、そういう時間の集積が創りだす共同作用こそが重要であり、永遠のものなのだ。 ー
まじか!こんないいところで終わってしまうのか!
というのも、『ハイペリオン(上)(下)』はほんの序章に過ぎず、全体の四部の一でしかないのだからしょうがないのだが、それにしてもある程度この作品だけで完結してくれると思ったら、一番いいところで終わってしまうなんて…。
とある事情でハイペリオン巡礼に参加した7人の男女。
旅の道中、到着するまでに各自、自己紹介がてらこの巡礼の背景と目的を順番に語り合うのだが、まさに自己紹介が終わったところで物語終了だなんて(笑)
とにかく各自の自己紹介エピソードが面白く、あらゆるSFの要素を盛り込んだ非常に贅沢な作品。
こんな傑作を今まで知らなかったなんて!!
とにかく面白い。早く続きが読みたいなぁ〜。 -
Posted by ブクログ
ー 教会が滅びるつもりなら、それもまたよし。ただしその死は、キリスト再臨の知識に満ち、栄光に輝くものでなければならぬ。進んで減びるのではないにせよ、暗黒のなかに歩みいるのであれば、毅然とー雄々しく、たしかな信仰心をもって進まねばならぬ。
死の収容所のなかで、核の炎のなかで、癌病棟で、ユダヤ人大虐殺のさなかで、孤独な静寂につつまれ、何世代も何世代ものあいだ、死に直面しながらも信仰心を失わず、希望こそいだかぬにせよ、これらのすべてにはなんらかの理由があるのだ、これほどの苦しみを味わい、これほどの犠牲をはらうだけの意味があるのだと祈りながら、暗黒を見すえつつそのあぎとへと歩んでいった、何百万もの先人のように。
論理も事実も納得のいく理屈もなかった先人らが暗黒のただなかへはいっていくさいには、それこそごくごくかぼそい希望の糸と、いまにもゆらぎそうな信仰心しかなかったにちがいない。しかし、その先人たちが暗黒をまえにしてわずかな希望をつなぐことができたのなら、わたしにもまたおなじことができるはずだ…そして、教会にも。 ー
28世紀、謎の惑星ハイペリオンに巡礼団として派遣された7人の物語。
なぜ、巡礼するのか。旅の道中に一人一人が順番に語っていく。
意味不明な設定が解説なしに次々に物語られ、物語の中で少しずつその意味が部分的に分かっていく。物語がだんだん立体的になり、読み進めていくとイメージ出来るようになってくる。イメージ出来るようになるともっと面白くなってくる。物語の中に読者を引き込んでいく引力が強い作品。
続きが気になるなぁ〜。
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Posted by ブクログ
ネタバレ今日一日を人生最後の日のような気持ちで過ごせたら、きっと毎日が最良の日になるだろう。アイネイアーのように生きたい、彼女のような勇気を持って死ぬまで全力で過ごしたい、そんなことをこの本を読んで感じた。
誰しもあのような最期を迎えるわけではないが、未来において必ず死ぬという点では同じだ。いずれ訪れるその日まで、どのように過ごすかは自分で選ぶことができる。そういうアイネイアーからのメッセージを多くの人が共有して世界が変わっていったのだろう。
幼年期の終わりでは個が消えて全てが共有された形として人類は進化するが、彼らの世界もいずれそうなるのかもしれない…続きがあるとすればだが。