酒井昭伸のレビュー一覧
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惑星間を転位ゲートで繋げるテテュス河を舞台に過酷な逃亡劇が続くなか、意外な味方と恐るべき敵が現れる……。
イカダで逃亡しつつ各惑星を冒険する主人公たちと、ジャンプごとに死亡と復活を要求される最速の宇宙船で追跡する神父大佐たちの対比、この絵面が何よりも面白い。
神話の類型を彷彿とさせる現地種族チチャタクと賢者的な神父との出会いが冒険を盛り上げる。さらに深まるシュライクの謎、そして現れる脅威が、読者を怒涛のラストに引きずり込んでいく。
いくつもの危機を乗り越えていくたびに深まっていく主人公たちの絆。ヒロインが12歳の少女であるため、本作の段階では恋愛まで深まらないが、暗示的な描写が続編に期待をもたせる。シリーズ全四部作の中で、三作目である本作が最も好きだという人がいるのもわかる気がする。(四作目はまだ未読だが)本作は王道SFアドベンチャーとしての魅力が凝縮されている、シリーズ最高傑作だろう。 -
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『ハイペリオン』『ハイペリオンの没落』に続くシリーズ第三弾。前作から約300年、青年と少女の冒険が始まる。
ズバリ前作より読みやすい。親しみやすい若き主人公と、秘密を持った少女、従順で優秀なアンドロイド、有能だがおちゃめなしゃべる宇宙船など、魅力あるメンバーで繰り広げられる冒険活劇。
さらに、彼らを追跡するデ・ソヤ神父大佐とその部下たちも敵ながら好感がもてる上、その心熱き闘いの様子が主人公たちの冒険と交互に描かれていく。文章量的にもダブル主人公制といっていいだろう。
両者の距離が次第に縮まっていく逃亡劇と追跡劇のなかで、前作までの濃密な世界観が掘り下げられていき、新たな謎が浮かび上がる。もちろん前作の人物やその痕跡が登場したりもする。本作のストーリー自体は一本道で読みやすいが、過去作で積み上げられてきた土台がさらにその面白さを増し深めているため、ここまで読んできてよかったと心底思った。
絶望的な危機を間一髪で乗り越え続ける主人公たち。果たしてその行方はいかに。そしてヒロインにまつわる謎とは……?先が気になりすぎるSFアドベンチャー。 -
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ついに旅立った火星探検隊。クルー間で孤立するエルマは、火災や感染症など次々に発生する困難に立ち向かうが……。
果たして無事に火星にたどり着けるのか?が全体の筋のはずだが、宇宙に出て新たな意識に覚醒……することもなく、結局これ人権がテーマなの?と思うほど、宇宙飛行士どうしでの醜い争いが発生する。地上から引きずってきた性差別と人種差別が火種である。人間関係の軋轢に加えて、宇宙飛行上の物理的トラブルも多発するなか、ついに最悪の事態が……。
EVA(宇宙船外活動)の緊張感は宇宙飛行ものならでは。次々と襲い来る宇宙でのトラブルはドラマを盛り上げる。人的トラブルも多くは結論が出ない人権問題で、エルマの苦悩は深い。そのなかで、徐々に変わっていく宿敵パーカーとの関係や、さらに深まる夫婦の絆が、繊細な心理描写と相まって心に染み込んでいく。ラストの美しい情景ですべてが満たされる読後感。
前作『宇宙へ』がシーズン1なら本作はシーズン2。尺的に、映像化するなら映画よりドラマかも。見てみたいなぁ。エルマの物語の続きにも期待。 -
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ヒューゴー賞/ネビュラ賞/ローカス賞。宇宙飛行士を目指す女性科学者・パイロットの姿を描いた歴史改変SF。
ハードSFの難解さはなく、サイエンス部分があまり理解できなくても人間ドラマとして楽しめる本作。
後半に入り、自らの弱点との戦いや宿敵パーカーとの対立が深化し、宇宙飛行士への思いがさらに強まっていく。
様々な困難のなかで、夫婦の絆やパイロット仲間たちとの関係が深まっていく姿は感動的だ。
ロケットの打ち上げや軍用ジェット機発進の描写は迫力があり、これは本物の宇宙飛行士やパイロットの助力があるという。また本作では、計算者をフィーチャーするため、IBM機の性能が低く見積もられているのも面白いところである。
上下巻合わせてもエルマの物語はまだ始まったばかりのエピソード1という感じ。まだまだ読み足りない。続刊「火星へ」が楽しみだ。 -
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House of the Dragonの原作だけど、この本自体は歴史学者(大学匠:アーチメイスター)が書いてGRRMが訳した(体裁の)ウェスタロスの歴史書(the World of Ice and Fire)(のターガリエン朝部分)だから「伝聞」や「残された記録」での構成で、真実かどうかはわからない部分もあるし、ドラマが原作にないその真実を描いてるのか、大河ドラマみたいに「史実ではないフィクション」なのか?が入れ替わってておもしろい。
人の話や書いたものを後世の人がまとめた文書を、さらに現代の人が訳した形の小説…ウンベルト・エーコの『前日島』とか夢野久作『ドグラマグラ』とかみたいで好き。
とりあえず、レイニラは祖母のアリッサ似らしいとわかった。
(電子書籍で読んだけど感想書いてる人少ないので紙の本の方で感想) -
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長門有希が読んでたやつ。枠物語の古典『カンタベリー物語』風の体裁をとっているが、中身は極めて濃厚なSF。
28世紀の宇宙時代、巡礼という名目で7人の男女が旅をしながらそれぞれの物語を語っていく。この説明だけ見ると未来版もしくはSF版『カンタベリー物語』的なものを想像してしまう。そういった趣きもあるにはあるが、中世の多様なドラマが収録されていたかの古典に比べると、本作はガッツリとした一つの大きな物語が設定されていて、やや面食らった。枠物語の「枠」の部分――世界観のキーとなるシュライクの謎――が思いのほか濃厚で、長大なSF巨編ともいえる展開を広げるのだ。そのあたり、実質的には短篇集だった『デカメロン』や『カンタベリー物語』とは大きく異なる性質を持つ。
とはいえ、7人がそれぞれに語る自分語りはそれ単体でも魅力のある話である上、それらが全体のSF世界における物語と絶妙なハーモニーをなして味わい深いものとなっている。旅の舞台となるハイペリオンの風景、背景の歴史、そしてシュライクの謎に引っ張られて先が気になる。SFにありがちな用語の読みにくさはありつつも、最後まで読まないと収まらない系の小説。 -
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その時、エルマとナサニエルの夫婦は、忙しい仕事から逃れて待望の休暇を取って、ナサニエルが父親から相続した山荘にいた。1953年3月3日、午前9時53分。外界がまばゆい光に包まれたのだった。とっさに二人は、ワシントンD.C.に核爆発があったと考えた。しかしラジオからはそのまま音楽が流れ続けている。ということは、電磁インパルスが発生していないということだ。核爆発じゃない。それならなんだろうか。音はまだ届かない。あれほど眩かったのに。ということはとてつもない大きさの爆発だということだ。流星体が落下したのかも…。元WASP(Women's Airforce Service Pilots)で物理と数学の博士号をもっているエルマは夫のロケット科学者であるナサニエルとともに、これからの困難な時代を生きていく。そして、女性の力を世界に見せていくのだ。
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ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の映画(Part1)を観て、どうしても読みたくなって買い求めた。思った通りだった。私の生涯ベストの一つである「指輪物語」に追いつかの如くの「ファンタジー」だったのである。
私がファンタジーに求めるものは二つ。物語の最初から、既に「世界」は完璧に出来上がっていていなくてはならない、というのが一つ。もう一つは、物語の奥の奥に、必ず答えの決まらない「問いかけ」が用意されていること。そしてラストに、ファンタジーだからこそ許される答えを僅かに提示すること。まだ3部作の最初を読んだだけだけど、一つ目は見事にクリアした。
時は、地球の西暦で教えられる。標準年10191年。0を一つ間違えているわけではない。これも、映画では冒頭に出てくるけれども、原作では「後世」に作られた本の一節で初めて知らされるのに過ぎない。遠い未来の話は、殆ど遠い過去の話とイコールだ。
「汝、人心(ひとごころ)を持つがごとき機械を造るなかれ」『オレンジ・カトリック(OC)聖典』より
‥‥つまり人間社会はAIの洗礼を既に受けて、新しい段階に入っているらしい(著作の頃はまだAI概念は不確かだったけど)。
砂の惑星は、「香料」を産出するがために、あらゆる争いのもとになっている。冥王サウロンの「ひとつの指輪」の如き存在なのかもしれない。
主人公ポールは、やがて砂の惑星の民から救世主と呼ばれる。物語の冒頭から、それは決定しているかの如く描かれる。ある時は、「クウィサッツ・ハデラック」と言われ、もう一方の情報では「ムアディップ」と呼ばれる。一方では彼は、アトレイデイス公爵の跡継ぎとして砂の惑星アラキスに降り立ったポール・アトレイデイスなのである。重要な公爵暗殺劇も、物語の冒頭から「後世の」「ムアディップ伝」の中で語られているから、映画で筋書きがわかっていた私以上に、本書読者には驚きが無い展開である。私にとっては、映画ストーリー以上に最初に展開を種明かしをしている物語の構造に、驚きを禁じえなかった。おそらくこの「構造」こそが、「砂の惑星」の魅力なのだろうと、今は思う。
102世紀の世界ではあるが、魅力的な機械が散見する。トンボのような羽ばたき機は砂上に飛ぶのだとすれば確かに合理的であるし、身体中の水分を殆ど外に出さない循環型スーツも、あり得るテクノロジーである。そして、砂の惑星の主とも言える砂蟲の圧倒的な存在感。ここから宮崎駿が王蟲を創造するのは遠くはなかっただろう。
映画は2部作と思いきや、殆どこの3部作のうちの上巻のみで終わった。とすれば、映画も3部作なのか?そんな情報はどこにもないし、次が作られる保証さえなかったはずだ。本作のヒット如何に関わらず、どうやらPart2の制作は決定したようだ。とりあえず、それだけが「見える未来」である。
(得るに時あり、失うに時あり、保つに時あり、棄るに時あり)
『OC聖典』に含まれる、〈伝道の書〉からの引用だ。
(愛しむに時あり、悪むに時あり、戦うに時あり、和らぐに時あり)
(462pのレディ・ジェシカの呟きである)