鴻巣友季子のレビュー一覧

  • 灯台へ(新潮文庫)

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    ネタバレ

    文学史に燦然と輝く、モダニズム文学の傑作。
    本当に読んでよかった。

    第一部では、主にラムジー夫人の視点から、孤島の別荘を取り巻く人間模様と夫人の思考(意識の流れ)をひたすらに描写し続ける。描かれるのはたった1日なのに、情景と思考の記述が膨大で、この時点で文字どおり「実写化不可能」な作品だと思い知らされる。
    1920年代に書かれた作品にも関わらず、男性像と女性像に対して赤裸々な描写が見られ、フェミニズム文学としても記念碑的作品だと言える。
    読み始めてしばらくは面白さが全然わからなかったものの、チャプター17の全員での会食から突然面白くなった。ここで描かれる人物像がとても丁寧で、「どこかが残念な

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    2025年11月27日
  • ほんのささやかなこと

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    かつてアイルランドにあった「ふしだらな娘」の収容所に閉じ込められた少女をみた主人公が……の話。

    アトウッドの「侍女の物語」とは違って、これは100%真実。
    最近も、この種の施設から乳幼児数百人の遺体が見つかったらしい。
    1996年まで実在していたそうで、私が最初の妊娠をした時にもあったんだと思うと恐ろしい。

    自分の家族が不利益を被るとしたら、私はどう行動するだろうか……と思う。

    ファーロングは、自分自身が「助けられた」ことを理解していたからこんな行動ができた。
    「ウィルソンさんがいなければ、うちの母さんは十中八九、あの施設に入れられていただろう。自分がもっと昔に生まれていたら、いま助けよ

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    2025年11月27日
  • ほんのささやかなこと

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    訳者の鴻巣友季子氏が好きなので手にとった。
    1985年のアイルランドで商売をする石炭商ビルが主人公。働き者の妻と5人の娘と苦しい家計ながら「真っ当に」暮らしている。善良で物欲に囚われないビルが配達に行った修道院で逃亡を図る少女と会う事で自らの出自や取り巻く環境に改めて想いを巡らす。史実に基いた中編小説。1996年までこの修道院はカトリック教会とアイルランド政府の結託の元、女性虐待や強制労働を強いてきたらしい。 ビルのその後が気になる所、余韻を残す作品。

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    2025年11月23日
  • 英語と日本語、どうちがう?

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    お気に入りシリーズの最新作。by鴻巣さんってことで期待度も大。そして面白かったのでした。読むのが9割ってのはよく分かるし、授業での対訳とは意味合いが異なるってのもごもっとも。人称とか時制とか、日本語と考え方が異なる部分の役が大変ってのもむべなるかな。いと興味深し。

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    2025年11月20日
  • 灯台へ(新潮文庫)

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    ウルフ初かも。いや初じゃないかも?
    二部の、寂寥たる屋敷の描写が本当に素晴らしくて、大人になって良かったなと思った。
    解説読んでへえ~となったけど、それはそれ。小説は理由で読むものじゃないもんね!

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    2025年11月13日
  • 恥辱

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    社会的に地位がある人の転落に次ぐ転落と複雑な親子関係を描いた作品。酷い目に遭いながらも、現実路線でそれでも生きていくことの大変さ。選択の難しさ。罪と罰、そして恥のあり方。こういったことをテーマにしながら南アフリカに残る白人と黒人の微妙な空気感までを浮かび上がらせる。文体は簡潔でリズム良く話が進む。非常に良かったです。

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    2025年11月11日
  • ほんのささやかなこと

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    妖精や魔女の国、アイルランドのクリスマス。
    カトリックの絶対支配の階級社会。
    その中で誠実に生きる労働者の男性。
    寒くて暗い中の仄明るいアイルランドのクリスマス。幻想的にも見えるクリスマスの様子が実態として浮かんでくる筆致がよい。
    精一杯労働し、家族との生活を守る1人の男性の虐げられた女性の救済への葛藤が読んでいて苦しい。(これまで必死で守ってきたものが絶対的な権力に抗うことで失ってしまうかもしれない、これは普遍的なテーマだろう。)
    キリスト教の暗部と共同体としての機能を明示しており、辺境の文学としての面白さもあった。アイルランドの空気感がよい。(イギリス児童文学への系譜を感じる。)

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    2025年11月01日
  • ギンガムチェックと塩漬けライム 翻訳家が読み解く海外文学の名作

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    小学校時代に読んだ児童文学がいっぱい。
    「あしながおじさん」「若草物語」「ジェイン・エア」
    「嵐が丘」は好きすぎて3回くらい読んだ。
    「風と共に去りぬ」は恋愛小説の枠を超えて、土地をめぐる不動産小説であり、世界が’ひっくり返る敗戦小説であり、女性同士の複雑な友情関係を描くシスターフッド小説であり、血縁関係にない家族を抱える介護扶養小説でもある、という分析にめっちゃ納得した。
    最近はもっぱらしか読んでないけど外国文学もまた読んでみたくなった。
    特にオースティンの「高慢と偏見」エドガー・アラン・ポーの「アッシャー家の崩壊」
    タイトルの塩漬けライムとは、酢漬けのピクルスの意。
    この頃まだピクルスは日

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    2025年10月21日
  • 灯台へ(新潮文庫)

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    結構長くてまじめな感想を書いていたのに誤操作で消えてしまい、心が折れて放置してしまった……
    改行は少ないわ主語は分かりにくいわ、読みやすさとは程遠い文体だし続きが気になるタイプの作品でもないのだが、鋭い人間観察眼があり、精細に描写された登場人物像は現代にも通じるところがあって、面白かった(と思う)

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    2025年10月11日
  • ほんのささやかなこと

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    ネタバレ

    自らが過去に受けた恩恵と助けを思い返し、「最終的に、この町の不正と犠牲を見てみぬ振りをしたまま、キリスト者として生きていけないとビルは結論する。自らの良心に従わず、沈黙を通して声をあげずにいるなら、個人の幸福は成り立たないと考えたのだ。」(「訳者あとがき」P.154)「…ファーロングはあらゆる感情を圧倒する恐れを感じつつも、おれたちならやり遂げるさ、と心のどこかで愚かしくも楽観するどころか、本気で信じているのだった。」(P.137)

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    2025年10月11日
  • ほんのささやかなこと

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     1985年、不景気で閉塞感漂うアイルランドの小さな町が舞台です。政治・宗教的な背景があるものの、簡潔な文章で分かりやすく、本編が130ページほどの中編小説です。その割に奥深く、当時の時代の空気感が上手く表現されていると感じました。

     当時のアイルランドには、カトリック教会が運営する母子収容施設と洗濯所があり、洗濯場では恵まれない少女や女性が監禁、労働、虐待を受けていた史実(「マグダレン洗濯所」の闇)があったようです。

     主人公は、40手前の石炭商を営むビル・ファーロング。妻と5人の娘がいて、家族思いで真面目に慎ましく暮らしています。ただ、彼の母親が未婚の母で、父親を知らないという出自があ

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    2025年10月10日
  • 恥辱

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    これすごい本かも。「恥辱」のレベルが二段階どころか三段階くらいに分けられていて、原始的共同体や女性の受動性の無条件の肯定さえも許さぬような気迫を感じた。

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    2025年10月01日
  • 嵐が丘

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    先頃鑑賞した映画「エマニュエル」に登場する人物が読んでいたこともあり、久々に「嵐が丘」へ目を通した。作者のエミリー・ブロンテは若くして亡くなったため生涯で著したのはこの長編(文庫本で700頁に及ぶ大作だ)ひとつだけだが、これが不朽の物語として時代を超えて人々に愛され続けるとはよもや彼女自身も想像していなかったのではなかろうか

    本作の魅力としては恋愛、復讐、ゴシックホラーなど様々なジャンルがミックスされた展開になっているところが挙げられるが、なかでも特筆すべきはストーリーの中心を担うヒースクリフと云う異色キャラの存在だ。この男が純粋なロマンチストなのか、それとも只の悪鬼なのかは永遠の謎にして、

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    2025年09月28日
  • 老いぼれを燃やせ

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    どれも練られた短編で、最初はちょっととっつきにくいけど、アトウッドだから、このくらい読めなきゃとちょっと我慢してるとじわっと面白くなってきて、「ダークレディ」でレールに乗れた感じ
    にやにやしたり

    文学の素養があるともっと楽しめるんだろうとひしひしと感じられ、改めて古典も勉強したいと思わせてもらいました

    という真面目な話ではなく、軽いノリだと、老いぼれってこのくらい意地悪でもいいのね〜、とちょっと嬉しくなったりも

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    2025年09月25日
  • ギンガムチェックと塩漬けライム 翻訳家が読み解く海外文学の名作

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    翻訳家である著者が、海外文学の名作・代表作を紹介、名作たる由縁を解説する。
    翻訳家であるがゆえに、原作の英文が当時どのような背景があってこのように日本語に翻訳されたかなども述べられており、非常に興味深く、おもしろかった。
    海外文学好きには是非読んでいただきたい一冊だった。

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    2025年09月23日
  • ほんのささやかなこと

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    ネタバレ

    1985年クリスマス間近、アイルランド南東部の町ニューロスで燃料屋を営むファーロング。
    婚外子の自分を身ごもった女中の母だったが、仕えていたウィルソン夫人の計らいにより、その出自に比して最低限の困難で今の生活にたどり着くことが出来た。
    決して大金持ちでも大物でもないが、この不況の中、それなりの稼ぎもあり5人の娘にも恵まれ、望む教育を与えることができ、和やかで心温まるクリスマスを迎えることができている。
    ある日、燃料を届けに行った女子修道院で出会った少女達の姿に、この町の暗部に気付いてしまう。。。

    訳者鴻巣さんのあとがきでは5人の娘を育てる家庭像から若草物語への言及があったが、
    自分的には直近

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    2025年09月21日
  • ギンガムチェックと塩漬けライム 翻訳家が読み解く海外文学の名作

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    翻訳家の仕事は改めて大変そうだと思った。翻訳するには歴史的背景や原作者の意図することを読み解いていかなければならない。そんな翻訳家の英語文学の解説なので、大変参考になった。改めて全部読み直してみたくなった。

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    2025年09月17日
  • 別冊NHK100分de名著 フェミニズム

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    上野千鶴子の担当する章が興味深かった。

    ホモソーシャルな集団(往々にして男性中心のコミュニティを指す)では、同性愛嫌悪(ホモフォビア)とミソジニー(女性蔑視)を持つことで成員資格が与えられる。つまり、異性愛者として女性を性の対象として扱うことができてはじめて「仲間」として認められる。

    ホモソーシャルの考え方を使えば、非モテ男性や弱者男性、インセルといった現象も説明できる。
    冷静に考えたら別にモテなくて落ち込む必要はないのに女性に性的にモテなくて落ち込む人が存在する。
    それは実は女性にモテないのではなく、自分が男社会で「仲間」と認められないから落ち込むのではないだろうか?

    そういうのは本当

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    2025年09月14日
  • ほんのささやかなこと

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    アイルランドでの実際にあった大規模で長期にわたる人権侵害を題材にとった中編。人間は神の名の下にいくらでも残酷になれるが、神の名の下に善意を発揮することもできる。

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    2025年09月06日
  • ギンガムチェックと塩漬けライム 翻訳家が読み解く海外文学の名作

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    翻訳家の鴻巣友季子さんが海外文学の名作を紹介している。小説の形態や技法、時代背景などはもちろんのこと、翻訳家なので原文の英語についても説明されていておもしろい。little 、young といった簡単な単語やwish+仮定法過去完了が持つニュアンスを知ると、印象が少し変わったり、より深く作品を味わうことができて興味深かった。
    これらの作品は、著者にとってはなつかしい再会の書が多いそうで、30年ぶりに読み返してやっと真意がわかったということもあったそうだ。その感動をこの本で伝えてくれている著者の「『わからない』は一生の宝」という言葉には説得力があるなあと思う。ほとんどの作品は、読み返したくなった

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    2025年08月28日