猪瀬直樹のレビュー一覧
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おそらく10年ぶりくらいに再読、以前より戦前の官制や統帥部関係についての知識がついているのでより楽しく読めた。
この本の妙は総力戦研究所での論戦と実際の戦争への動きを見事にリンクさせている部分だと思う。陸軍省燃料課の石油確保をめぐる騒動と鈴木貞一による出来合わせの答弁、また実際に蘭印の石油を手に入れた後の顛末を研究所で論議の末両手を上げて降参のポーズをとる仕草に見事につなげている。ノンフィクションにも(むしろノンフィクションだからこそ?)文才が必要と分かる。
戦後80年、戦争前にこのような議論が行われていたこと、そして行われていながらなぜ戦争に突入してしまったのかは忘れてはならないと思う。 -
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最近読んだ2冊の本で取り上げられており、読んでみました。
対米戦前、若きエリートを緊急に招集し創設された「総力戦研究所」。そこでは開戦前に日本必敗を正確に分析していた。それでも、なぜ日本は開戦へと踏み切ったのか…
設立当初は分析結果を政府がどう活かすかという目的があったとは思うが、アメリカに石油を止められ「ジリ貧」に陥った政府はアメリカと戦うことが正当であるとする分析結果を求めるようになる。結論ありきと、それを正当化するための分析結果。結局、出所不明、計算方法不明、つじつま合わせの数字が開戦への正当な裏付けとして用いられた。あと、必敗という分析報告に対して東條英機の返答、ロシアにも勝てない -
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戦争が終わる時期の緊迫したやりとりがとてもスリリングでもあり、終戦を迎えた日本の様子を知ることができる一冊でした。
戦争犯罪人をA級、B級、C級と戦犯と区分されていますが、私は勝手にイメージからA級ほど重い罪とされたと勘違いしていました。この間違った解釈を本書で正すことができました。本書189ページにある一節を抜粋します。
A級戦犯に元首相や大将が多かったので、B級やC級よりランクが高いと誤解されているが、罪別に分類したにすぎない。「平和に対する罪」がA級である。B級は捕虜や非戦闘員に対する残虐行為で、これまでと同じである。フィリピンの「バターン死の行進」が捕虜の虐待にあたり、のちに山下大将 -
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1983年初刊のノンフィクション。
昭和16年、軍を含む官庁や民間から選りすぐりの若手人材が「総力戦研究所」に集められた。
彼らは、各方面から持ち寄ったデータをもとに、模擬内閣を組織して開戦後の経過をシミュレーション。
その結果は「日本必敗」というもの。
しかしながら、敗戦に至るまでの過程を、原爆投下以外ほぼ正確に予測したこのシミュレーションは、結局採り入れられることなく日米戦へ突入。
優れた分析がありながらも、開戦に至ってしまったプロセスは必読です。
データよりも結論ありきの空気が優先されてしまうのは、現代でも変わらぬとても重い教訓だと思います。 -
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立場が人を作ると言うが、その立場は現実をみる眼を曇らせるというのもまた正しいと思う。先に描きたい絵があると、どうしてもその絵を飾るような事実を集めたくなってくるものだ。
本書で取り扱われている総力戦研究所では、各方面のエリートが集められ模擬内閣でそれぞれの「立場」を与えられる。しかしその「立場」は期限が定められており、かつゲームの役職といった雰囲気の自由さがあったように推察される。立場ゆえのしがらみがなければ、事実に執着して結論を出せる。日米戦争に対して「必敗」という正しい結論を下せたのもその自由さゆえであろう。
総力戦研究所のことは本書を読むまで、その存在さえ知らなかった。日米戦争は軍部 -
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ボリュームがあって後半は特に読むのが大変だったけど、面白かったです。前半だけでも読んでみて。
日本国の天皇(ミカド・プリンス)とは何か?を日本はもちろん海外からの視点でも少しづつ丁寧に、しつこくしつこく謎を解きほぐしていきます。世界一周して取材、スゴイ。
西武グループが皇族の土地を買い上げて建てた『プリンスホテル』の謎から堤康次郎の執念が明かされ、『ミカド』というゲームの謎はアメリカの「ミカド」という町からオペラ「ミカド」につながっていく。めちゃくちゃ面白い。
猪瀬氏は天皇を『空虚な中心』と表現しています。天皇を神聖化するための数々のタブーや暗黙の了解により、国民は天皇の実態をよく知らない -
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第二次世界大戦および太平洋戦争は、日本の歴史上大きな転換期であった。この戦争の敗北で、これまでの価値観を根本的に覆す羽目になったのだ。その敗因として、日本はアメリカに関する情報や国内の補給線を十分に維持できなかったなど多々あげられる。そもそも、アメリカに宣戦布告をした時点で敗北が決定したのであろうか。そのようなことをあれこれ思い巡らす。このように、日本はこの戦争を依然として検討する余地があるのだが、実は、戦争直前の時点で日本が負けるとわかった組織が存在した。それが本書で取り上げる「総力戦研究所」である。この組織こそまさに、太平洋戦争で起こった出来事を見事に的中させたのだ。自分が観測したかぎり
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第二次世界大戦とは何だったのか?いや独ソ戦、独英戦は、日米の戦いとあまりに距離も遠く性質が違うものなので太平洋戦争=大東亜戦争とは何だったのかという疑問は子供の頃から頭を離れなかった。また日本中のインテリが集まってあの戦争を総括できていないので、俺ごときが考えても仕方ないと諦めていた。
この本は、あの戦争は近代ヨーロッパ文明に対する日本のアンチテーゼが根底にあったことを示していると思う。日本でも朝鮮や中国とタッグを組んで西欧に対抗しようという勢力はあったが、アジアはアジアでバラバラで纏まりがなく、ついに日本は中国を侵略してしまうのであった。日米の工業生産力が4:1といわれていて負けることは必至 -
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ネタバレ「昭和16年夏の敗戦」に続く完結編と著者は書いていますが、これは日本人必読の書かと思いました。
ある女性が手にした祖母の日記に、「ジミーの誕生日の件、心配です」とあったことから物語は始まります。少しネタバレですが、ジミーとはいまの上皇様(天皇明仁)のこと。2・26事件から「日本のいちばん長い日」 (半藤一利)を経て、東京裁判・処刑までを追っています。東京裁判の開廷は憲法施行日(5月3日)、28人を起訴したのは昭和天皇誕生日(4月29日)、そして処刑されたのは次の天皇誕生日(12月23日)。そこに時限装置としての意図を見出しながら歴史を追う展開となっています。
天皇明仁は、皇太子時代の -
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猪瀬直樹『救出 3.11気仙沼公民館に取り残された446人』小学館文庫。
東日本大震災から早くも10年。気仙沼公民館に孤立した446人の避難者の救出劇を描いたノンフィクション。
命をつないだ情報のリレー。携帯電話の充電を気にしながらマザーズホーム園長の内海直子が家族に宛てた「火の海 ダメかも がんばる」という1通のメールがロンドンに暮らす息子に伝わり、信じれない奇跡を産み出す。
本作の舞台となった気仙沼公民館は東日本大震災で津波が遡上した大川と海の近い海抜ゼロメートルの非常に危険な場所にある公共施設で、付近には水産加工場や魚市場などがあったことを覚えている。気仙沼は津波だけでなく、津波火