王城夕紀のレビュー一覧
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ネタバレ『青の数学』シリーズの王城夕紀さんの作品である。文庫化を機に手に取ったが、この熱量は『青の数学』に匹敵するだろう。設定上の共通点は多い。数学に打ち込む栢山。本作の主人公が打ち込むのは、「天盆」という盤上遊戯。ゲームである。
架空のゲーム「天盆」とは、将棋に近いイメージだろうか。具体的なルール説明や図は、一切出てこない。それなのに、これほどまでに対局の熱気が伝わってくるのは、なぜなのか。具体的数式をほとんど出さずに、数学の熱気を演出した著者ならではの手腕である。『青の数学』シリーズのファンなら、はまるだろう。
テーマが架空のゲームなら、時代や舞台も架空。三国志時代の中国を連想する。本作はいわばファンタジーなのだが、侮るなかれ。本作はファンタジーでなければならないことが、読めばわかる。この国「蓋」において、天盆はただのゲームにあらず。国家の命運さえ左右する。生きるか死ぬかの真剣勝負なのだ。
10人兄弟の家に拾われた主人公の凡天には、天盆の才能があった。あっという間に兄弟たちを追い越し、大人の名人級も次々と破る。平民の身分だけに、それを快く思わない権力者がいる。現代社会にも通じる、権力者の汚さ。しかし、凡天は妨害に屈しない。家族の力強い応援がある。何より、凡天は純粋に天盆が好きだ。
哀しいかな、親が子を殺し、子が親を殺すニュースが珍しくない昨今。実の子ではない凡天に注ぐ、父と母の愛を見るがいい。立派な親の条件とは何だろう。社会的地位が高いことか。そうではない。本作は、凡天が駆け上がる物語であると同時に、家族の物語でもある。信頼関係があるから、決して諦めない。
真っ直ぐすぎるくらい真っ直ぐな物語の結末は、予想外だった。ファンタジーならではの結末と言えるが、この結末は、凡天を、ライバルを、天盆に挑む者たちを、微塵も否定していない。だからきっと、これでよかったのだ。そう思いたい。 -
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文字通り、伊藤計劃トリビュートの作品集である。文庫本で700ページを超える厚さであるが、作品数は8つの中篇集である。どの作品も伊藤計劃の影を感じさせる作品であり、作家らがいかに伊藤計劃氏の影響を受けているのか感じられる。しかもどの作品も驚くほど面白い。各作品に引き込まれるように読んだ。ページ数は多いがあっという間に読み終えてしまった。特に面白かったのは、「仮想の在処」「南十字星」「未明の晩餐」「フランケンシュタイン三原則、あるいは屍者の簒奪」。
以下、個別作品の感想。
◎公正的戦闘規範(藤井 太洋)
格好いい話だ。ドローンや歩行兵器などが登場し、さらに戦争の規範を訴える。無人兵器が実用化されている現代において、生身の人間がどのように戦闘行為に携わるか、戦争の正義を提案しているとまでは言わないが、現代のノールールな戦争より少しはましな状態を描いていると思う。
◎仮想の在処(伏見 完)
「ハーモニー」を彷彿とさせる物語。人間の意識とは、人格とは、存在意義とはなどを考えさせられる。伊藤計劃の作風に近い小説であり、彼の作品を読んでいるかのような感覚になった。
◎南十字星(柴田 勝家)
伊藤計劃っぽさはあまりないけれど、作品自体は面白い。少女との出合い、少女の死、仲間の死、自我の死、いろいろな死が平気でまわりに存在する中で生きている自分。意識がある自分、他人と同化した自分、自分ではない自分、意識と生命の存在を意識したところはやはり伊藤計劃っぽいのかな。
◎未明の晩餐(吉上 亮)
死刑囚に最後の食事を作る料理人の話。読んでいてどんどん引き込まれる。素直に面白い。哀しくもありハートウォーミングでもあり、見事な作品だと思う。
◎にんげんのくに Le Milieu Humain(仁木 稔)
ジャングルで生活する少数民族の話。部族に所属する“人間”と部族出身ではない異人がどのように生活するのかを描いている。普通に読んだだけでは、現実にある少数民族の普通の話のようにも読める。SFとして読むのは無理があると感じたのだが、他の人はどのような感想を持ったのだろうか。
◎ノット・ワンダフル・ワールズ(王城 夕紀)
生命の進化とはを問う物語。その定義を作品に語らせている。おそらく学術的な進化とは異なる解釈がなされていて、「へぇ~なるほど」と思わせる。「ハーモニー」を思い起こさせる作品である。
◎フランケンシュタイン三原則、あるいは屍者の簒奪(伴名 練)
実に面白い。「屍者の帝国」を思い出す。三原則についてはどこかで聞いたようなものもあるが、最初に出てきた原則を読んで瞠目した。確かに意識があるとかないとかはどのように判別するのだろうかと。それを疑問に思ってしまうと、自分自身が生きているのかどうかさえ疑ってしまう。この恐怖に震えてしまった。
◎怠惰の大罪(長谷 敏司)
人口知能(AI)が出てくるものの、それ以外でSFを感じさせる要素はない。ストーリーはキューバを舞台にした麻薬がらみの裏世界を描いたもの。ゴッドファーザーを思い出させる。長編作品の第一章が掲載されている。SF要素を楽しめるのは、第二章以降なのかもしれない。 -
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ネタバレパイセン本。
王城夕紀『天盆』は、架空の盤戯を舞台にしながらも、人間そのものの業と希望を描き切った稀有な一冊である。
駒を打つ音や盤上を巡る沈黙が、勝敗を超えた精神の葛藤として響いてくる。
主人公・凡天が「好き」という純粋な衝動を力へと転じ、幾多の強者と渡り合う姿は、競技の枠を超え、人が生きる理由そのものを問いかけてくる。
家族との結びつきや師弟の情が温かく紡がれ、勝負の緊張感に人間の柔らかな温もりが対照的に映えるのも印象的だ。
ルールの細部を語り尽くさぬまま、読者に想像の余地を残した筆致は、天盆というゲームを一つの宇宙として際立たせ、物語に深い余韻を与えている。
読み終えた後、静かな達成感とともに、勝つこと、愛すること、そして人として立つことの意味を胸に刻み続ける、重厚な読書体験であった。 -
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「いまさら一人増えたところで、かわりゃあしない」
橋の下でひとりの子を拾う。
舞台は、建国以来「象棋(中国将棋)」や「日本将棋」のような“天盆”というボードゲームを国戯として広く親しむ“蓋”という小国。
幼い頃から“天盆”に取り憑かれた主人公の凡天の楽しそうな勝負の様子は、将棋士藤井聡太を見るよう。
また、舞台は架空の時代の架空の国とされているが、描写される背景からは、中国戦国時代に突然現れて消えていった中山国を思い出す。
建国時精彩に満ちたこの国も末期には腐敗に塗れて消えていった。その亡国の物語は宮城谷氏の小説『楽毅』で知ることができる。
孤児たちを拾い育て続けてきた小勇と静は、どんなに逆境の中でも、家族がひとつとなって“生きる”
何故って?
「理由がなきゃいけないのか」
歴史小説やスポーツ小説のようでいて、家族の絆とは何かを問うドラマ、爽やかさがとてもいい。 -
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気に入って何度も読み返す本の一つである青の数学の続編。
数学の世界や心情が美しく詳細に描写されていて読むとすごく引き込まれる。
また、主人公や登場人物の葛藤や挫折から再び歩み始める、スイッチが入る瞬間があるのだが、その場面を読むと私も頑張ろうと思わせてくれる勇気を与えてくれる本。
やり続けていれば、いつか着く。
やり続けることは苦しい。 あれほど 向かっていたものに再び向かっていく力を失う時もある。 なぜそんなことをしているのかわからなくなる時もある。 限界 にぶつかったように前に進めなくなる時もある。 正しい方向に進んでいるかどうかわからなくなる時もある。 でも希望は目の前にあったのだ。 ただ歩き続ける。 どこまでも歩き続ける。私たちはそれができる。 -
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伊藤計劃氏が亡くなってから16年
この“トリビュート”が出版されてから10年
その間、
大きな地震や災害が続き、パンデミックが現実となる。
理由のよくわからない戦争が続き、ドローンや無人兵器が実戦で用いられる。
SNSを用いた世論誘導、生成AIの実用化やマルウェアなど、目に見えない相手の脅威が現実となる。
現実がSFを超える日、それでも読まれる物語がある。
『虐殺器官』から続く天国と地獄の薄っぺらな境界線上での綱渡り……現代ジャパニーズSFの王道となった感がある。
多少の好き嫌いはあるもののどれも圧巻の出来栄えで、分厚い本の残ページが消えていく。
最終話、長谷敏司『怠惰の大罪』が特に響いた。
まるでドン・ウインズロウ『犬の力』を読んでるようで、SF集であることを忘れた。AIの及ぼす「天国と地獄の境界線」が、ノワールにまで入り込むとは……。
面白かった。