■おすすめポイント
・日本はそもそも国策によって急激に近代化を果たした国である。明治以降に私たちが手本にしたのは、いわゆる「欧米」だった。明治維新では主に欧州を手本にし、1945年以降は米国主導で国作りを進めてきた。
・しかし著者の落合陽一氏は、「欧米」というものが本当に存在するのか疑問を投げかける。そして「欧州型」「米国型」といった概念をもう一度見直し、日本が今まで何を基軸にしてきたのかを問いかける。
・私たちは今後、何を継承していくべきなのか。落合氏が目論むのは、自信を失って自虐的な道を歩みつつあるこの国の再興だ。ゆえに本書のタイトルは『日本再興戦略』なのである。
・「日本を変えるために何をするべきか」と問われたとき、具体案を出すことはもちろん重要だが、日本再興のためには「意識改革」が必要だと落合氏は断ずる。日本がふたたびポジティブなビジョンをもち、高い生産性を誇る国になるためには、たしかに意識改革が必要不可欠なのかもしれない。
・人口減少を希有なチャンスと捉え、テクノロジーを活用し、西洋的人間観を更新する。それが落合氏の描くビジョンだ。本書ではこれまでの日本の歩みを振り返りながら、これからの政治や企業、教育がどのような考えのもとで改革されるべきかが記されている。新時代の旗手が何を考えているのか、まずはぜひ本書を覗きこんでみてほしい。
■本書の要点
・日本の再興を考えるうえで、「欧米」を見習おうとすることは大きな間違いだ。日本はいま一度、自国の歴史を振り返りながら、どう変わっていくべきなのか整理する必要がある。
・これから求められる産業に対応するためには、戦後につくられた日本人の精神構造を変形させ、システムやテクノロジーの更新を行なわなければならない。
・テクノロジーがますます進化していくなか、画一化や標準化は時代遅れだ。これからは多様性をもって生きていくことが望ましい。
■欧米と日本
・「欧米」というユートピア
・日本の再興を考える際に、明治初期や昭和のことを思い出して、欧米を見習おうと思うことは大きな間違いである。
・そもそも「欧米」というものは存在しない。欧州と米国を一緒くたに考えている西洋人はどこにもいない。日本は欧米という呼び方を捨て、具体的な国について語るべきだ。それだけでもかなり議論がしやすくなるはずである。
・日本の大学システムの設置理念は欧州式だが、資金運用などの面はアメリカ式を取り入れている。また法律はドイツ式の刑法、フランス式の民法、米国式の憲法を基盤としている。このように日本は、歴史も文化も異なる国の方法を継ぎ接ぎで採用している。いいとこ取りといえば聞こえはいいかもしれない。だが時代が変化したことで、その弊害が出ている状況だ。
・日本はいま一度、自国の歴史を振り返りながら、今度どう変わっていくべきかを整理するべきである。
■日本型イノベーションを定義する
・「欧米」という幻想にとらわれてはならないが、欧州や米国から学ぶことを完全にやめる必要もない。重要なのは日本の原点や向き不向きを見極めたうえで、学ぶ価値があるものとないものを峻別していくことだ。
・世界が求めている産業に対応するために、日本は戦後に作られた精神構造を変形させつつ、システムやテクノロジーの更新を行なう必要がある。これまでの工業的な生産様式を、ITやイノベーションに向いた生産様式へと変えるときが来ているのだ。
・同じものを大量に作るのではなく、個々のニーズに合わせて多様なものを柔軟に作る。そういったフットワークの軽さを、これからのリーダー層や経営層は身につけるべきである。
■日本にはカーストが向いている
・インド人に対して、「あなたにとってカーストとは何か」という問いかけると、「ひとつの幸福の形」という答えが返ってくることがある。カーストがあると職業選択の自由はなくなるが、代わりにある種の安定が得られるからだろう。
・日本にかつてあった士農工商は、まさにインドにおけるカーストのようなものである。そういう意味で、日本はカーストにも適応できるといえる。
・私たちは幸福論を定義するとき、つい物質的価値を求めがちだ。しかし実は生業が保証されることこそが幸福につながるのである。生業が保証されていると、それに打ちこむだけでいいからだ。
・とはいえインドのカーストには問題も多い。日本ではインドよりも職業の行き来がしやすい、コミュニティのようなカースト制度が望ましいだろう。なおその場合、ほとんどの日本人は「農」を担う現代の百姓となる。とはいっても、なにも農業に立ち返れというわけではない。ITの民主化によって、「何かを作り出せる人」が活躍していく時代になるということだ。
・ひとつの特化した専門職をもたず、さまざまな仕事をその時々によって担う多動力が、これからますます重要になってくる。そうした時代では、まさに100の職をもつ「百姓」が求められるというわけである。
■テクノロジーは世界をどう変えるか
・近代の画一化から、現代の多様化へ
・産業革命時のもっとも大きな変化のひとつは、タイムマネジメントという概念の導入であった。それによって近代の軍隊や工場が成り立ち、大量生産方式が生まれた。
・近代以降の私たちは、集約され働くことによって生産効率を上げていった。その基盤にあるのが「時間を同期して、労働力の単位で区切っていく」という考え方だ。しかしここから画一主義が生まれ、マスとマイノリティの対立へと発展。健常者と障碍者という区分け、男女差別など、さまざまな問題の発生に至った。
・しかし今後は、機械が担ってくれる分野の能力は必要なくなる。たとえばデータにもとづく統計や画一化の処理は、機械が代行するようになる。ならば画一化や標準化は機械に任せ、人間はもっと多様性を重視して生きていったほうがいい。それこそがマイノリティの問題やワークバランスの問題に対する抜本的な「解」なのである。
・近代が終わり、現代という多様世界にステージが移り変わると、「技術をオープンソース化していくこと」と「それをパーソナライズしていくこと」が、最大のキーワードになるだろう。そのパーソナライズを支えるテクノロジーは、AIのようなコストがほぼゼロでコピーできる情報処理である。「最適化をめざせる」ことこそが、これからテクノロジーによって起こる社会変化の本質だといえる。
■【必読ポイント!】日本再興のグランドデザイン
・少子高齢化がチャンスである理由
・日本では人口減少と高齢化が着々と進行しており、ネガティブなトーンで語られることも多い。しかしこの2つの要素は、これからの日本にとって大チャンスにもなりうる。
・人口減少と高齢化で働ける人が少なくなった社会では、仕事を機械化してもネガティブな圧力がかかりにくい。今後の日本にとって、機械化はむしろ社会正義なのだ。
・また少子高齢化がいち早く進むため、新しい実験もやりやすい。もし日本が少子高齢化への解決策を打ち出すことができれば、それは“最強の輸出戦略”となるだろう。
・さらに少子化が進行することで、一人ひとりの子供に対して教育コストをかけやすい世の中にもなるはずである。
■日本は機械親和性が高い
・日本が機械化を進めていくうえで有利なのは、「日本人はテクノロジー好き」という点である。日本ではロボットやテクノロジーが、人の技能の最大到達点として崇められることが多い。そのため日本をロボットフレンドリーな社会に変えることは比較的容易だ。逆に労働を神聖視し、AIに対する反発の強い西欧諸国ではこうはならない。
・日本人の場合、仮に意思決定の上流がAIになっても、違和感なく受け入れられるだろう。もちろん国内にもテクノロジーによる変化を受け入れられない層は存在する。しかしこれまでテクノロジーがもたらした実績を示せば、説得できるはずだ。
■政治と教育
・日本だからこそ「機械化自衛軍」を
・日本の国政を考えるうえで、重要なのが国防である。
・日本でもこれからは、明治維新前のように国家よりも地方への帰属意識が増し、「国」という認識が薄れていくと考えられる。また仮に、少子高齢化の進んだ国家の理想的なモデルになれたら、他国からの注目もさらに集まるはずだ。
・そのとき問題になるのが、国を守るための自衛軍をどうするかである。著者の考えでは、自衛軍の柱になるのは「自動化」だ。他国ではロボットの軍隊をもつことが人道的に認められないかもしれない。しかし日本のように「自衛しかしない」と決まった憲法があるのなら、「機械化自衛軍」をもつことは道義上も正当化できる。
■民主主義をアップデート
・国防を盤石にしたうえで、内政として取り組まなければならないのは、民主主義のアップデートである。
・日本に限らず、民主主義はスケールダウンを計る必要がある。いまの中央政府が決める政策は、あくまで最大公約数的なものになりがちだ。東京では正しくても、大阪や四国にとっては正しくないといったことが起こりやすい。地方が地方のことを決定できれば、それぞれ最適な選択肢を選べるようになる。
・現在の民主主義が抱える問題を解決するには、地方自治を一気に進めるしかない。もちろんこれからも、東京がアイディアの中心であることに変わりはないだろう。しかし地方のことは、あくまでも地方が実行すべきである。東京の価値観を日本全体に根付かせるのではなく、地方それぞれの幸福の形を追求することが、新しい民主主義のあり方になるにちがいない。
■新しい日本で必要な2つの能力
・日本をアップデートし、再興させるためには、私たちの意識改革が欠かせない。教育現場においても、これまでの常識を捨て、新しい時代を生きるための能力を育んでいくべきである。具体的には「ポートフォリオマネジメント」と「金融的投資能力」という2つの能力が、これからは必要になってくる。
・ほとんどの日本人は今後、さまざまな仕事をもつ「百姓」として生きることになるだろう。つまりさまざまな職のポートフォリオを自分自身で組みながら、生計を立てていかなくてはならない。
・このような新しい生き方にうまく対応していくためには、幼児期から教育を見直すことが大切である。これまでの教育は集団行動に特化し、協調性を伸ばすことに重点を置いてきた。しかしこれからは、自分の五感を使って好きなものを見つけ出すような、サロン型教育へと移り変わっていくべきである。
■会社・仕事・コミュニティ
・「ワークスアズライフ」の時代
・これから訪れる「脱近代」の時代では、個人の働き方も大きく変わると予想される。職のポートフォリオを作り、自分自身で生業をマネジメントしていく働き方が主流になれば、ワークとライフを対比させていた考え方は無意味になり、ワークとライフが一体化していくはずだ。
・そうした時代においては、ストレスフルな仕事とどのように向き合うかを考えることが、ますます重要になってくる。クリエイティビティと生産性を向上させるうえで、ストレスマネジメントは大きな課題なのだ。
・「自分探し」は古い
私たちは技術革新や最先端技術の創発速度が、人間の学習スピードより速い時代を生きている。たとえばコンピュータービジョンやディープラーニングに関するコミュニティは、査読なしで高速な情報交換をしているため、部外者が最先端に追いつくことは非常に困難だ。しかしこれは逆にいうと、誰もがビギナーであり、ある程度の地点までは到達できるということでもある。
・私たちが近代から大切にしてきた人間性のうちで、これからとりわけ大切になってくるのが、「いま必要なものを、ちゃんとリスクを取ってやれるかどうか」である。リスクをあえて取る方針は、機械には取りにくい判断なのだ。
・近代的な人間は、「自分らしいものを見つけ出し、自分らしく生きる」ことを是としてきた。しかしこれからは、「いまやるべきことをやる」ことが正義である。自分探しに時間を割いている暇はない。「いまある選択肢の中から、自分ができるものをまずやってみる」ことが、これからの生き方の基軸となるだろう。
■一読のすすめ
・日本の歴史や世界の時流、最先端テクノロジーを考察に絡めつつ、これからの日本がどのように進んでいくべきかを見事に提示した一冊である。本書で扱われる分野は多岐に渡るため、その真意は通読してはじめて深く理解できるはずだ。要約を読んでキーワードや内容が気になったという方には、ぜひとも購入をおすすめする。