辻原登のレビュー一覧

  • 冬の旅
    暗い。とことん。どんどん深く狭く寒い穴を延々と転がり落ちていくかの様な読み口。

    調べた限りでは物語のモチーフはそのまんまシューベルトの歌曲であろうか。この辺り、全く知識が無いので受け売りだが。
    「社会からの疎外」を描くとともに、緒方の場合は進んで死を求めている訳ではなく、彼なりに今よりも良い状態を...続きを読む
  • 許されざる者 上
    日露戦争の史実と当時の町の人々の話と恋愛とか絶妙なバランスで描かれており、とても面白く読み進めた。特に後半はページめくりが止まらなくなった。心に残る良書でした。
  • 籠の鸚鵡(新潮文庫)
    本作は1980年代後半、所謂バブル時代の頃の和歌山を主な舞台とし、当時の実際の事件や動きに虚構を絡ませた、「虚実混じり合った」というような具合に展開する“犯罪モノ”というような小説である。
    1人の女と3人の男が主要視点人物ということになる…
    ヒロインの「増本カヨ子」はスナックを営む。そこの客である町...続きを読む
  • 不意撃ち
    「月も隈なきは」が初出されたのが2018年秋でしょ?!もう辻原登さんのファンにならない訳がないです。

    この本を手にとったきっかけが文學界2月号で「最近独特な手法で書かれている小説が多いけど、まさに小説とはこのことお手本!」だっけかと小説を書きたい人向けに阿部公彦さんが力説されていて積読していた一冊...続きを読む
  • 不意撃ち
    ★「打たれる」のではなく人生を「撃たれる」★突然訪れる、理不尽とも思える出来事。ぷつんと途切れる人生の一瞬が生々しく、また幻のように思いを誘う。すべてに理由があるわけではなく、因果は後付けかもしれない。転換点の浮遊感が素晴らしい。70歳を過ぎた人が書いたとは思えないほど文章が軽やかでうまいなあ。短編...続きを読む
  • 不意撃ち
    ベテラン作家による5本の短編集。連作ではなく、共通するのは主人公たちが「不意打ち」をくらって完結すること。バッドな不意打ちもあれば、ハッピーな不意打ちもある。

    人間は将来の計画や希望を立てて、それに向かって行動するが、ときにはどうしようもない運命がその企みを一瞬にしてご破算にしてしまう。結局、現実...続きを読む
  • 韃靼の馬 上
    文庫本下巻の半ばまで来ると
    登場人物達が今後
    どうなっていくのかと
    期待と不安を覚えましたが
    同時に彼らとの
    お別れも近づいて
    来ていることに
    一抹の寂しさも
    感じられました。
    それでもこの
    歴史長編ロマンを
    最後まで読んだ時には
    何と素晴らしい物語の
    中に浸れることが
    できたのだろうという
    幸福感...続きを読む
  • 東大で文学を学ぶ ドストエフスキーから谷崎潤一郎へ
    小説とは何か、文学とは何かと今までに問われ答えに窮していたが、この本のおかげで少しは答えられるようになったと思う。名作の名作たる所以はそのオリジナリティにあるのではなく、古典から脈々と受け継がれる人間の内面の物語、筋書きのパスティーシュの巧みさにあるのだ。
  • 許されざる者 下
    日露戦争前後の日本が背景。日本の高揚感、世界から見たときの滑稽な姿。登場人物がそれぞれ大粒。恋愛関係がみんなうまく収められているところが何とも面白いというか、かっこよすぎる。特に「組の姐御」。照葉樹林を見に紀州に行きたくなります。
  • 松尾芭蕉 おくのほそ道/与謝蕪村/小林一茶/とくとく歌仙
    芭蕉、蕪村、一茶、余りに有名かつ定番の俳人であるが、本格的に比較して鑑賞したのは恥ずかしながら初めてであった。
    中でも、蕪村は他の2名と比べて写実的、と云われていると思うのだが、どうしてどうして非常に心理描写を巧みに取り入れた作品が多く、あらためて感銘を受けた次第である。俳諧というものは、素人の私が...続きを読む
  • 冬の旅
    本書の解説では、とても怖い話ですと書かれていた。私が読んで感じたのは、苦しく、辛いということだった。主人公を始め、多くの登場人物たちの人生はどうしてこんなにも辛くて苦しいのだろうと考えてみると、行き当ったのは、救いがない、ということだった。そういう見方をすると、確かに怖い話なのだろう。救いを求めた結...続きを読む
  • 闇の奥
    フィクションなのに、実在した冒険家の手記を読むようで、壮大なドキュメンタリーに感じる。
    熊野の山奥、ボルネオ、チベット、、、小人伝説と蝶を追って消えた1人の探検家を追う、彼の教え子たちの更なる冒険譚。
    大陸を跨ぎながらも森の奥は全て繋がっているようで恐ろしい。
    前に進む怖さより、何もしないことが怖く...続きを読む
  • 東京大学で世界文学を学ぶ
     タイトルに惹かれて購入した。本にするために行った講義を本に纏めたものだそうで、これを読んだら東京大学の文学部の講義受けた気分に浸れるだろうという甘い考えのもとで読んでみた。思いのほかあまり難しくなく、読み切ることができた。もしかしたら辻原氏が本になった後の一般の読者を意識して、易しくしてくれたのか...続きを読む
  • 抱擁
    ぼんやりとしたうす靄の中で一滴ポトンと滴を落とし、それがいつまでも波紋を広げて静まらない。時間が経つごとにこのお話がもたらす不穏な空気がじわじわと浸食してきて息苦しい。幾通りもの解釈がなされるものだと思うのだけど、これが現実か虚構(妄想)かによっても大きな意味を持って成すのでしょう。衝撃を持って本を...続きを読む
  • 許されざる者 下
    おもしろいなあ.いわゆる「大河小説」である.森宮(新宮)の人々を中心に,毒取る(ドクトル)こと槇医師を主人公,日露戦争を背景として描かれた人間模様.人物描写があっさりしすぎているような気がしないでもないが,物語が主人公と言ってもよいので,これはこれでよし.また,戦争はあくまでも背景で,これも詳しく書...続きを読む
  • 枯葉の中の青い炎
     人気なさそうですが(笑)、本屋で何気なく目に付いたので購入。個人的にサイコーです。買ってよかった!!
     現実的にはまったくありえないだろう話と、事実と虚構が融合した話と2タイプに分けられます。
     前者はその非現実性によって、かえって常識的想像をよせつけないまったき一つの空間を創出しています。後者は...続きを読む
  • 村の名前

    2つの中編収録。
    表題は日本の商人が中国奥地で村に呑まれる、少し異質な芥川受賞作。
    比喩表現の少ない写実的で若干ユーモアの入った文体が独特だが、個人的に話の雰囲気と意図が複合された物語構造はかなり好み。吉行淳之介の選評が非常に参考になる。
    『犬かける』は作者のデビュー作らしく、感覚的すぎて上手く掴...続きを読む
  • 隠し女小春
    初読みの作家さん。
    芥川賞、谷崎潤一郎賞など受賞されてる方。
    何かで紹介されてるのを見て購入。

    聡は出版社で校閲の仕事をする独身男性。
    彼は密かにハンガリー製のラブドールを購入し、小春と名付けて毎夜弄び、話しかけ、これが精神衛生上とても良いと考える。
    バーを営む千賀子とは定期的に会う。

    千賀子は...続きを読む
  • 韃靼の馬 下
    読書会 課題図書

    課題図書だから手に取った本
    好きな「ほのぼの系とはは遠い

    そのスケールに圧倒される

    史実とフィクションが絡み合
    い、江戸時代の歴史がリアルに描かれている

    対馬、朝鮮、清、果てはモンゴルまで
    個性のある登場人物が繰り広げる壮大なドラマ

    藩命に命を懸ける主人公

    ラストは切な...続きを読む
  • 許されざる者 下
    舞台は1903年、紀州の新宮(本書では”森宮”と表記)の地においてアメリカ・インドで研究を積んで地元に貢献する医師として活躍しつつ、そのリベラルな政治姿勢から影響力を発揮する槙隆光という人物を主人公に、日露戦争開戦や鉄道の敷設など、様々な歴史の中で活きる人々の姿を描く長編小説。

    主人公のモデルは、...続きを読む