辻原登のレビュー一覧

  • 冬の旅

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    暗い。とことん。どんどん深く狭く寒い穴を延々と転がり落ちていくかの様な読み口。

    調べた限りでは物語のモチーフはそのまんまシューベルトの歌曲であろうか。この辺り、全く知識が無いので受け売りだが。
    「社会からの疎外」を描くとともに、緒方の場合は進んで死を求めている訳ではなく、彼なりに今よりも良い状態を模索してささやかながら手の中に掴みかけもするが、悉く上手くいかない。

    流れ流れて辿り着いた和歌山県切目という場所で、傍目にはあまりに哀しい結末を迎えるのだが、緒方にとっては少し違う。
    この世に生を受けてから、人は「訳も分からず、否応なしに」(p395)とりあえず生きるしかない。中にはそれなりに目的

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    2021年06月14日
  • 許されざる者 上

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    日露戦争の史実と当時の町の人々の話と恋愛とか絶妙なバランスで描かれており、とても面白く読み進めた。特に後半はページめくりが止まらなくなった。心に残る良書でした。

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    2020年12月24日
  • 籠の鸚鵡(新潮文庫)

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    本作は1980年代後半、所謂バブル時代の頃の和歌山を主な舞台とし、当時の実際の事件や動きに虚構を絡ませた、「虚実混じり合った」というような具合に展開する“犯罪モノ”というような小説である。
    1人の女と3人の男が主要視点人物ということになる…
    ヒロインの「増本カヨ子」はスナックを営む。そこの客である町役場の出納室長の「梶康男」が在り、カヨ子を愛人であると考えている地元暴力団の幹部である「峯尾」が在り、そしてカヨ子の元夫で不動産業の「紙谷覚」が在る。
    作中世界の時代、1980年代半ばから後半頃の和歌山というのは、関西空港の建設に向けた土砂を供給する用地の件や空港開港を見込んだ種々の開発関係の事案が

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    2019年10月07日
  • 不意撃ち

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    「月も隈なきは」が初出されたのが2018年秋でしょ?!もう辻原登さんのファンにならない訳がないです。

    この本を手にとったきっかけが文學界2月号で「最近独特な手法で書かれている小説が多いけど、まさに小説とはこのことお手本!」だっけかと小説を書きたい人向けに阿部公彦さんが力説されていて積読していた一冊です。

    内容をざっくりお伝えするとすれば、フランス文学者・中条省平さんのお言葉「辻原登は現代日本の純文学を代表する作家で、…ここ数年、純文学とエンタティンメントを途方もない筆力で融合させるクライム・ノヴェル(犯罪小説)の執筆に力を注ぎこんでいる」が1番伝わりやすいと思います。

    私はSFが大好きな

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    2019年08月04日
  • 籠の鸚鵡(新潮文庫)

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    辻原登『籠の鸚鵡』新潮文庫。

    1980年代を舞台にした時代とリアリティを感じる犯罪小説。

    辻原登の作品は過去に『闇の奥』と『冬の旅』の2作を読んだ限りだが、文学文学している作品より、本作のような大衆小説の方が断然良いように思う。昭和史を巧く絡めることで、まるで実際にあったかのような事件として描かれる物語は結末が良い。実際の事件の結末は小説のような綺麗なものではなく、本作のようなものだろう。

    長崎から和歌山に流れ着き、バーのママをとなった増本カヨ子は夫・紙谷寛の不動産詐欺が地廻りヤクザの若頭・峯尾宏の知るところとなり、峯尾の女にさせられる。峯尾は金のために、カヨ子に町役場の出納室長・梶康男

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    2019年06月03日
  • 不意撃ち

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    ★「打たれる」のではなく人生を「撃たれる」★突然訪れる、理不尽とも思える出来事。ぷつんと途切れる人生の一瞬が生々しく、また幻のように思いを誘う。すべてに理由があるわけではなく、因果は後付けかもしれない。転換点の浮遊感が素晴らしい。70歳を過ぎた人が書いたとは思えないほど文章が軽やかでうまいなあ。短編のひとつがエッセイ調になっているのがにくい。

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    2019年05月12日
  • 不意撃ち

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    ベテラン作家による5本の短編集。連作ではなく、共通するのは主人公たちが「不意打ち」をくらって完結すること。バッドな不意打ちもあれば、ハッピーな不意打ちもある。

    人間は将来の計画や希望を立てて、それに向かって行動するが、ときにはどうしようもない運命がその企みを一瞬にしてご破算にしてしまう。結局、現実はなるようにしかならない、この世は不意打ちの連続だ。殺人だって、失踪だって、大地震だって突然、予期せずにやってくる。

    と、読んでいて不意打ちだらけの世の中をネガティブに考えてしまいそう。が、作者が最後に用意した短編「月の隈なきは」で救われた。こんな不意打ちもあるから、人生はおもしろいし、やめられな

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    2019年02月05日
  • 韃靼の馬 上

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    文庫本下巻の半ばまで来ると
    登場人物達が今後
    どうなっていくのかと
    期待と不安を覚えましたが
    同時に彼らとの
    お別れも近づいて
    来ていることに
    一抹の寂しさも
    感じられました。
    それでもこの
    歴史長編ロマンを
    最後まで読んだ時には
    何と素晴らしい物語の
    中に浸れることが
    できたのだろうという
    幸福感んで満たされたのです。

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    2018年03月30日
  • 東大で文学を学ぶ ドストエフスキーから谷崎潤一郎へ

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    小説とは何か、文学とは何かと今までに問われ答えに窮していたが、この本のおかげで少しは答えられるようになったと思う。名作の名作たる所以はそのオリジナリティにあるのではなく、古典から脈々と受け継がれる人間の内面の物語、筋書きのパスティーシュの巧みさにあるのだ。

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    2017年05月01日
  • 許されざる者 下

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    日露戦争前後の日本が背景。日本の高揚感、世界から見たときの滑稽な姿。登場人物がそれぞれ大粒。恋愛関係がみんなうまく収められているところが何とも面白いというか、かっこよすぎる。特に「組の姐御」。照葉樹林を見に紀州に行きたくなります。

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    2016年07月30日
  • 松尾芭蕉 おくのほそ道/与謝蕪村/小林一茶/とくとく歌仙

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    芭蕉、蕪村、一茶、余りに有名かつ定番の俳人であるが、本格的に比較して鑑賞したのは恥ずかしながら初めてであった。
    中でも、蕪村は他の2名と比べて写実的、と云われていると思うのだが、どうしてどうして非常に心理描写を巧みに取り入れた作品が多く、あらためて感銘を受けた次第である。俳諧というものは、素人の私が云うのもおこがましいが、深いものだと感じた。

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    2016年07月14日
  • 冬の旅

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    ネタバレ

    本書の解説では、とても怖い話ですと書かれていた。私が読んで感じたのは、苦しく、辛いということだった。主人公を始め、多くの登場人物たちの人生はどうしてこんなにも辛くて苦しいのだろうと考えてみると、行き当ったのは、救いがない、ということだった。そういう見方をすると、確かに怖い話なのだろう。救いを求めた結果、本書の登場人物たちが行き着いた先は? これはネタばれになるので書かずにおく。

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    2016年01月19日
  • 闇の奥

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    フィクションなのに、実在した冒険家の手記を読むようで、壮大なドキュメンタリーに感じる。
    熊野の山奥、ボルネオ、チベット、、、小人伝説と蝶を追って消えた1人の探検家を追う、彼の教え子たちの更なる冒険譚。
    大陸を跨ぎながらも森の奥は全て繋がっているようで恐ろしい。
    前に進む怖さより、何もしないことが怖くなる気がした。
    現実と夢がどろりと底なしに一緒くたの、本気のファンタジー。

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    2015年10月15日
  • 東京大学で世界文学を学ぶ

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     タイトルに惹かれて購入した。本にするために行った講義を本に纏めたものだそうで、これを読んだら東京大学の文学部の講義受けた気分に浸れるだろうという甘い考えのもとで読んでみた。思いのほかあまり難しくなく、読み切ることができた。もしかしたら辻原氏が本になった後の一般の読者を意識して、易しくしてくれたのかもしれない。

     全体を10の講義に纏めている。

    1 我々はみなゴーゴリから、
      その外套の下からやってきた
    2 我々はみな二葉亭四迷から、
      その『あひゞき』から出てきた
    3 舌の先まで出かかった名前
      ~耳に向かって書かれた〈声の物語〉
    4 私をどこかに連れてって
      ~静かに爆発する短

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    2014年02月19日
  • 抱擁

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    ぼんやりとしたうす靄の中で一滴ポトンと滴を落とし、それがいつまでも波紋を広げて静まらない。時間が経つごとにこのお話がもたらす不穏な空気がじわじわと浸食してきて息苦しい。幾通りもの解釈がなされるものだと思うのだけど、これが現実か虚構(妄想)かによっても大きな意味を持って成すのでしょう。衝撃を持って本を閉じ、表紙の絵と金文字のタイトルを見るとぐっと迫るその意味。ゴシックロマンに溢れ、歴史と虚構が絡み合った濃密な世界にくらくらしてしまいました。「わたし」の静かな語りが儚さと哀しみをたたえます。

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    2013年05月03日
  • 許されざる者 下

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    ネタバレ

    おもしろいなあ.いわゆる「大河小説」である.森宮(新宮)の人々を中心に,毒取る(ドクトル)こと槇医師を主人公,日露戦争を背景として描かれた人間模様.人物描写があっさりしすぎているような気がしないでもないが,物語が主人公と言ってもよいので,これはこれでよし.また,戦争はあくまでも背景で,これも詳しく書きすぎると坂の上の雲になってしまうので,これもこれでよし.

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    2013年02月01日
  • 枯葉の中の青い炎

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     人気なさそうですが(笑)、本屋で何気なく目に付いたので購入。個人的にサイコーです。買ってよかった!!
     現実的にはまったくありえないだろう話と、事実と虚構が融合した話と2タイプに分けられます。
     前者はその非現実性によって、かえって常識的想像をよせつけないまったき一つの空間を創出しています。後者はスタルヒンと中島敦がつながったり、リルケと凶悪な銀行強盗犯がつながったり、でも、強引さのかけらもなく、虚構が冷たい事実に溶け込んで生命を吹き込むような感覚です。
     つまり、どちらもそれぞれの作品の中において、確固たる真実性をもっているのです。
     ありえない! 意味わかんない! なんて言わないで、小説

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    2009年11月12日
  • 陥穽 陸奥宗光の青春

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    ボリューム満点。面白かった。本当に子供の頃〜青年期苦労してたんだ。
    ところどころ坂本龍馬が絡む話あり、龍馬伝のキャストで岡田以蔵や近藤長次郎の顔が浮かぶ…。

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    2025年11月29日
  • 闇の奥

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    作者らしい洒脱で意欲的な構成の作品だった。
    小人伝説を追い失踪した“ミカミ”に惹かれ、時を越え捜索隊が数度出されるが、まるで大江健三郎を下敷きとしたような捜索参加者の妄想レポートや煩雑なチベット情勢がギミックのように挟まり、時制の前後も相まって混沌とした進行となる。話の主軸を掴み得ないまま読者は表題の追体験をするのだが、こういった複合的な作品は個人的に好みだった。

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    2025年07月28日
  • 村の名前

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    2つの中編収録。
    表題は日本の商人が中国奥地で村に呑まれる、少し異質な芥川受賞作。
    比喩表現の少ない写実的で若干ユーモアの入った文体が独特だが、個人的に話の雰囲気と意図が複合された物語構造はかなり好み。吉行淳之介の選評が非常に参考になる。
    『犬かける』は作者のデビュー作らしく、感覚的すぎて上手く掴めない。

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    2023年12月04日