あらすじ
詐欺事件を種に不動産屋を強請(ゆす)り、長崎から流れつきバーBergmanのママをつとめる蠱惑的な妻カヨ子を奪いとった地廻りのヤクザ、春駒組若頭の峯尾。彼はさらにカヨ子を使って町役場出納室長の梶に公金横領を唆(そそのか)す。折しも山一抗争の拡大で全国で血みどろの戦いが展開する中、峯尾に組長暗殺のヒットマンという大役が命ぜられる。バブル期の紀州を舞台にエロスと欲望が突き抜ける犯罪巨編!(解説・溝口敦)
...続きを読む感情タグBEST3
Posted by ブクログ
本作は1980年代後半、所謂バブル時代の頃の和歌山を主な舞台とし、当時の実際の事件や動きに虚構を絡ませた、「虚実混じり合った」というような具合に展開する“犯罪モノ”というような小説である。
1人の女と3人の男が主要視点人物ということになる…
ヒロインの「増本カヨ子」はスナックを営む。そこの客である町役場の出納室長の「梶康男」が在り、カヨ子を愛人であると考えている地元暴力団の幹部である「峯尾」が在り、そしてカヨ子の元夫で不動産業の「紙谷覚」が在る。
作中世界の時代、1980年代半ばから後半頃の和歌山というのは、関西空港の建設に向けた土砂を供給する用地の件や空港開港を見込んだ種々の開発関係の事案が色々と出ている、或いはかの山口組を巡る大きな抗争により、そうした大規模な組織に連なる様々な組の栄枯盛衰が色々と見受けられた地域だったという。
「誘う女」のカヨ子…それに戸惑いながらも惹かれることを拒めずに居る梶…そんな場面から物語は起こる。
梶が「絡め取られる」ようになって行く他方、山口組系の様々な組が2つの陣営に分かれて争う渦に、峯尾も巻き込まれて行く。そしてその様子の中でカヨ子との家庭を取り戻そうという想いも在って動く紙谷が在る。
未読の方の楽しみを妨げないという意味でも、これ以上の詳述は避けるが…中盤以降の動きは「で…どうする?どうなる?」と、本当に頁を繰る手が停まらなくなった…
「手に取ったからには一気読みを余儀なくされる」と巻末の解説に在るのだが…正しくそのとおりである!!
Posted by ブクログ
辻原登『籠の鸚鵡』新潮文庫。
1980年代を舞台にした時代とリアリティを感じる犯罪小説。
辻原登の作品は過去に『闇の奥』と『冬の旅』の2作を読んだ限りだが、文学文学している作品より、本作のような大衆小説の方が断然良いように思う。昭和史を巧く絡めることで、まるで実際にあったかのような事件として描かれる物語は結末が良い。実際の事件の結末は小説のような綺麗なものではなく、本作のようなものだろう。
長崎から和歌山に流れ着き、バーのママをとなった増本カヨ子は夫・紙谷寛の不動産詐欺が地廻りヤクザの若頭・峯尾宏の知るところとなり、峯尾の女にさせられる。峯尾は金のために、カヨ子に町役場の出納室長・梶康男を色仕掛けで篭絡させることを命ずる。折しも山一抗争の拡大により組同士の抗争が激化し、峯尾に組長暗殺の大役が命ぜられるが……
本体価格630円
★★★★★
Posted by ブクログ
帯より「誘う女とワル3人、最期に誰が笑うのか?」
ワル3人とは、あの3人か
4人のお話なのね
やくざの抗争がありつつ、個人間のだましあい
そこに女が絡み、なお話でした
Posted by ブクログ
昭和50年代の和歌山。
1人のコケティッシュな女がいる。
この女に群がる3人の男がいる。
1人は不動産屋。1人はヤクザ。1人は町役場の出納室長。
時代はバブル期を目前にし、国際空港の建設に沸く。山口組分裂に伴う、いわゆる「山一抗争」で血みどろの戦いが展開されていた頃でもある。
女は元々、長崎の浦上出身である。流れ流れて和歌山に来た。
女はまず、不動産屋と結婚し、一女をもうける。元々ホステスだった女は、不動産屋が悪行で手にした大金を元手に、自身の小さなバーを持つ。ここに客として訪れたヤクザが女に横恋慕し、不動産屋から彼女を奪い取る。バーの客に役場の出納室長がいることを知ったヤクザは、女を唆して既婚者の出納室長を誘惑させ、これをネタに大金をせしめようとする。
いずれも善人とは言えない女1人に男3人、彼らのもつれた関係の顛末やいかに。
暴力団の抗争に、不動産詐欺、公金横領、そして完全犯罪の計画。犯罪のオンパレードである。昭和のある種の熱狂の中で、あるいはこんなことも本当にあったものか。たまたま見つけた著者インタビューによれば、作中の事件のいくつかには、まったくそのままではないものの、モデルとなった出来事がある。
著者は歴史上の出来事を背景に、時代を駆け抜ける、あるいは時代に翻弄される、男女の欲望のドラマを描いてみせる。
女は、チェホフの「かわいい女」にも譬えられるような、その時々に関係する男に強く影響される女である。とは言いながら、どこか芯の強さもあり、したたかさを秘めてもいる。
そしてまた女はニンフォマニア的な面も持つ。彼女が出納室長に宛てて書く「ラブレター」というのが凄まじすぎて閉口した。欲望を赤裸々に書き綴ったもので、こんな手紙をもらったら、うれしいよりぎょっとすると思うのだが(とはいえこれも著者インタビューによれば実際こうした手紙を書く「マニア」のような人はいるのだそうである)。
まぁこのあたりはともかくとして、一番解せなかったのは、不動産屋と女の間の娘がまだ幼稚園児で、父親が引き取っている点だ。いくら自由が効く仕事とはいえ、小さい子の面倒を誰が日々見ているのか。幼稚園児となればお弁当の日や何かもあるだろうに。
人物像には、ところどころ、共感できない部分もあるのだが、とはいいつつも、女に誘惑されそうになる出納室長がふと女の腕が棒のように伸びてきたと思うシーンや、正体を隠している人物が「さ」行の特徴的な発音で不動産屋に気付かれる場面など、ディテールの書き込みが作品に厚みを生む。
映画や音楽、関西各所の土地柄、文学作品の一節も取り込むあたりもうまい。
貧乏くじを引かされて身を隠しているヤクザ者が唱える説経節「をぐり」の一節、袋小路に突き当たった出納室長が夢見る補陀落浄土。
人間はいつだって愚かで、でもいつだってどこか愛おしい。
タイトルは高峰三枝子の戦前のヒット曲、『南の花嫁さん』の一節から。南国の美しい花嫁の嫁入り風景だ。
「おみやげはなあに」
「籠のオウム」
言葉もたったひとつ
いついつまでも
動画を探して聴いてみた。明るく甘やかで異国情緒がほのかに漂い、透明でどこかしら哀しい。
「籠の鸚鵡」は誰だったのだろう。あるいはそれは手に入りそうで入らない、「青い鳥」だったのだろうか。