関川夏央のレビュー一覧
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ネタバレ明治期の文人・思想家たちの活動を軸に、かの時代の精神性をのぞかせてくれる佳作。
いまなお全国の中学・高校で読まれる「坊っちゃん」「こころ」の作者・夏目漱石。だがなぜ読まれるべきとされているのか理解して頁をめくる若人は多くない。
軍医の肩書きにして『舞姫』や『ヰタ・セクスアリス』を著した森鴎外の理想と現実とは何か。
詠うように生き、それを糧に詠う不実な歌人・石川啄木。彼にとって生活とは、リアリズムとは何だったのか。
足尾銅山事件でも知られるジャーナリストにして大逆事件の首謀者に挙げられた思想家・幸徳秋水。彼の目指す革命、政治、思想の実態はいかなるものだったのか。
彼ら知識人・言論人のほか -
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「坊ちゃんの時代」第四部。
幸徳秋水を中心とした無政府主義者たちによる、「大逆事件」を巡る人間模様。
つくづくこの国は、と思わされる。体制が変わり舵が切られたように見せかけておいて、何も変わっていない。こういうことが何度繰り返されても喉元を過ぎれば熱さを忘れる。
それも、酷く短いスパンで。言論封鎖の次は結社の禁止。そうして人はテロリズム以外の手段を奪われる。
また同じようなことが起こるだろう。まさに世相は大逆事件をなぞっている。そのたびに、主義のない世界は汚泥を飲み下すことを誉めそやす。
主義とは傷だ。そうして、傷のない人間の記憶は、まず痛みから忘れていく。 -
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林芙美子についてしばらく読んでいたのでこれも。
関川夏央氏のものを読むのははじめてだけど、読みやすく、おもしろかった。「放浪記」時代の話だけでなく、流行作家になってから晩年までの話も知ることができて、なんとなく林芙美子の全体像がつかめた気が。
有吉佐和子についてもすごくおもしろく読んだ。有吉佐和子はわたしはかなり好きで以前よく読んだのだが、人となりはあまり知らなかったので興味深かった。帰国子女で、中国とも関係が深く、ニューギニアで暮らしたこともあるとか。同時代の友人として若いころの小澤征爾の話とかも興味深かった。
これまで、評伝ってほとんど読んだことがなかったけれど、評伝っておもしろいんだな、 -
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日本の国民国家としての頂点は1905年5月27日である。
という文章で、この本は始まる。
この日は、日露戦争のヤマ場の戦い、日本海軍連合艦隊とロシア海軍バルチック艦隊の海戦の日である。日本人はこの戦いに固唾をのんだが、この国民的一体感の共有こそ、国民国家完成の瞬間である、と筆者は解釈している。また、この年を筆者は「現代」の始まった年と考えている。そして、この1905年に青春期または人生の最盛期にあった人々が現代人の原形をなす、と考え、それらのモデルを12人の作家に求めた。それは、森鴎外・夏目漱石・島崎藤村・高村光太郎・石川啄木、といった人たちだ。
12人の作家を通じて、「現代人の原形」を描写し -
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新装版初読。語学書と紀行・思索が混然一体となった一風変わった構成。日韓関係を扱った作品群の中では記念碑的存在。私が初めて韓国を訪れたのは04年夏のこと。その時、頭にあったのが本書旧版や、韓国プロ野球創成に参加した在日選手達の見た祖国『海峡を越えたホームラン』に描かれた80年初頭の韓国の姿。実際の韓国は88オリンピック、02ワールドカップを経て変貌を遂げていたにも関わらず、昔日のソウルの面影を求め、何故か釜山の路地裏を彷徨歩いた。80年代を背景にした韓国映画に、今も郷愁を感じるのも本書の影響大。偏愛的懐書。
追記:上記『海峡を越えたホームラン』と同時期同傾向の作品としては、鄭仁和『いつの日か