あらすじ
近代文学はなぜ多くの鉄道を登場させたのか。夏目漱石『坊っちゃん』から、松本清張『点と線』まで、舞台となった路線に乗り、名シーンを追体験する。ローカル列車に揺られながら、かつて作家たちが鉄道を作品に取り込んだ理由に思いを馳せる。鉄道と文学との魅惑の関係をさぐる、時間旅行エッセイ。
...続きを読む感情タグBEST3
Posted by ブクログ
著者とは二回り近く年長の宮脇俊三を鉄道ファンとしての祖型と言い切ってしまう筆致が良い。宮脇氏が自分史も含め歴史と鉄道を結び付けた。著者は文学と鉄道を絡めて、素晴らしい鉄道紀行文の書き手だと思った。紀行文として絵になる路線が確かにある。既読『いきどまり鉄道の旅』、本書、読んでいる『おんなひとりの鉄道旅』では共通する路線が多いのもそのためだろう。松本清張、太宰治、夏目漱石にまつわる記述も良かった。
Posted by ブクログ
いかにも旅行記的な題がついているけれども、内容は文学エッセーといってよいと思う。だから鉄ちゃん向けの本と思って読んでも面白くないと思う。純文学と鉄道が好きな人にとっては最高の内容だと思う。
Posted by ブクログ
ローカル線に乗り、この国の近代と文学を語るエッセイ。
厳しい坂を上る路線の設定の難しさを語る箇所で、限界勾配などキッチリと書かれている。ルポとしての文章だなと思ったが、若しかしたら関川さん、こういう話好きなのかもしれない。
鉄道の技術トリビアも作家の一人一人の陰を追う旅の文章もたっぷり楽しめた。しかし、トンネルマニアで赤錆びた車止めが好きなんだ、という告白に一寸驚く。関川さんにそんな嗜好が…。
「自分のことは棚に上げていうのだが、鉄道マニアにはどこか気持ちが悪いところがある」この一文には、声には出さないが、笑ってしまった。
林芙美子の母娘二代に渡る放浪については、これは読まなきゃなという気になった。
宮沢賢治が妹への挽歌を歌いに旅をしたオホーツク。
(引用)
年老いた白い輓馬に荷を引かせた男は「そっちだろう」と鉄道線路の行く方をしめした。彼は無愛想で親切であった。通り過ぎるその男の目に、樺太の白い雲が映っている。
関川さんの文章には、スッと風景が立つ処がある。賢治の詩も読み返さねば。
漱石の「三四郎」の里見美彌子、落ち着いていて、心が乱暴なヒロイン。このモデルについては、関川さんが原作の漫画「坊ちゃんの時代」にもあったな。
百閒について、「威張りん坊と泣き虫の振幅の中にある。天真爛漫と脆い精神の混合物であったともいえる。」
短いが、評論として一級の文だと思う。
寂しい一人旅を冷たく見ている自分がいる。僕はテツではないが、関川さんの文章が愛しいものと思っている。近いうちに『深夜急行「昭和」行』も読もうと思う。