Posted by ブクログ
2017年02月07日
ローカル線に乗り、この国の近代と文学を語るエッセイ。
厳しい坂を上る路線の設定の難しさを語る箇所で、限界勾配などキッチリと書かれている。ルポとしての文章だなと思ったが、若しかしたら関川さん、こういう話好きなのかもしれない。
鉄道の技術トリビアも作家の一人一人の陰を追う旅の文章もたっぷり楽しめた。しか...続きを読むし、トンネルマニアで赤錆びた車止めが好きなんだ、という告白に一寸驚く。関川さんにそんな嗜好が…。
「自分のことは棚に上げていうのだが、鉄道マニアにはどこか気持ちが悪いところがある」この一文には、声には出さないが、笑ってしまった。
林芙美子の母娘二代に渡る放浪については、これは読まなきゃなという気になった。
宮沢賢治が妹への挽歌を歌いに旅をしたオホーツク。
(引用)
年老いた白い輓馬に荷を引かせた男は「そっちだろう」と鉄道線路の行く方をしめした。彼は無愛想で親切であった。通り過ぎるその男の目に、樺太の白い雲が映っている。
関川さんの文章には、スッと風景が立つ処がある。賢治の詩も読み返さねば。
漱石の「三四郎」の里見美彌子、落ち着いていて、心が乱暴なヒロイン。このモデルについては、関川さんが原作の漫画「坊ちゃんの時代」にもあったな。
百閒について、「威張りん坊と泣き虫の振幅の中にある。天真爛漫と脆い精神の混合物であったともいえる。」
短いが、評論として一級の文だと思う。
寂しい一人旅を冷たく見ている自分がいる。僕はテツではないが、関川さんの文章が愛しいものと思っている。近いうちに『深夜急行「昭和」行』も読もうと思う。