井上靖のレビュー一覧

  • 蒼き狼

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    どれほど大きな戦果を挙げていようと、
    どれだけ数多の財宝・女・家畜を得てようとも、
    それにキリはなく。
    その果てしない行為の代償によって、
    死ぬ間際には、
    最愛の人全てが故人となっていた。

    死ぬ時まで戦のことを考え、
    死んでいく。
    事切れる瞬間まで。

    幸せな人生とは何なのだろうか。


    最期まで
    父を想い続けた
    憎き最愛の息子。
    実は、誰よりも愛していたことを知る。
    すでに時遅し。
    あらゆる辛苦を耐えてきたチンギスでも、
    これだけは耐えることはできなかった。

    人間の人生の儚さ。
    そして、寂しさ。


     

    昭和35年10月刊行。

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    2020年03月29日
  • 猟銃・闘牛

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    井上靖は本当に凄い。短編の鋭い切れ味に、恐れ入るしかない。
    日本語の美しさ、その文字から伝わる日本の美しさ、そこに映し出されるあの時代の日本人の男女の孤独感。今も変わらぬ各人の自己中心的な悲哀が、井上靖によって際立つ。

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    2019年11月29日
  • 夏草冬濤(下)

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    大正時代の男子中高生面白い!
    「しろばんば」に次ぐ、作者の自伝的小説です。旧制中学3年となった主人公の学校生活や友達との交流が、日々の小さな出来事を通して描かれています。友達との会話や行動が本当に面白くて、クスクス笑ってしまいます。朝寝坊だったり、物を無くしたり、服装がだらしなかったりと、読みながら「ちょっとアンタ何やってるの!」とお小言したくなるような場面もあり微笑ましいです。
    「しろばんば」でも思いましたが、人間は今も昔も変わらないですね。

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    2019年11月17日
  • しろばんば

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    伊豆湯ヶ島の豊かな自然の中で暮らす少年が、人との出会いや別れを通して成長していく物語。
    淡々とした文章で当時の田舎の日常が綴られていて、派手さはないけれど、じんわりとあたたかな気持ちになれる。
    子どもから大人へと成長していく過程で洪作が感じる様々な思いは、時代は違っても多くの人が共感できるのではないかと思う。
    まさに少年文学の金字塔。

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    2019年06月16日
  • しろばんば

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    好きな本として挙げる人が多いので、手に取ってみた。あらすじによると、ひと昔前の地味目なお話のようで、どうして人気があるのか不思議だったけれど、読み終えてみると、やっぱり良かった。包容力のある時代とそこに生きる人々へのノスタルジーだろうか… 色々なハプニングはあるが、全体に静かな語り口で、読みながら、穏やかな懐かしいような気持ちになる。

    書き出し(夕暮れどきに、しろばんばを追いかけながら戸外で遊びまわる子どもたちの情景描写)が美しい。大正時代の田舎の暮らしに自然と引き込まれていく。
    人間描写が細やかで生き生きとしていて、会話もとても自然。子どもたちがやんちゃで、好奇心いっぱいで、繊細で、とても

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    2019年06月25日
  • しろばんば

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    少年時代の自伝的小説。小学生の少年洪作が曽祖父の妾であったおぬい婆さんと共に過ごす中で様々な出来事を経験して成長していく過程を描いている。

    多感な少年期の感じ方を本当に上手に表現しており、読んでいてこんな気持ちだったな、という箇所が多数あった。また、変に感動させるという意図も感じさせないところもまた良い。おぬい婆さんとのやり取りが心暖かと同時に少し切ない。少年文学の傑作と思う。

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    2019年02月19日
  • しろばんば

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    好きな本を聞かれたら答える作品です。
    この本を少しずつ読むと、その間は心の半分が伊豆湯ヶ島の風景の中ににいます。

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    2018年12月07日
  • しろばんば

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    クレマチスの丘にある井上靖文学館で観た10分ほどの映画がしろばんばと井上靖との出会いであった。600ページ弱の長編だがあっという間に読み終えた。作家の少年時代を読みやすく描いている。曾祖父の妾であるおぬい婆さんとの生活、村の子供達との触れ合い、両親や親せきの人達との関わりを通して洪作の成長していく姿、心の変化を表している。洪作の母は妹が生まれるとおぬい婆さんに洪作を預け、中学に上がるまで彼女と生活することになる。妾という存在であった彼女は本妻の家族の近くで暮らすことに肩身の狭い思いをしたと思うが、本来の負けん気で悪態をつきながらも礼儀や洪作に対する愛は本物であった。洪作は長ずるにつれ、明らかに

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    2018年11月25日
  • しろばんば

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    再読
    『伊豆の踊子』と同じころの天城での少年時代における自身の情感を
    大人の言葉で巧みに描いた傑作
    場面選びも抑制の利いた文章も素晴らしいが
    いつの時代の誰もが共感できる小学生からみた世界の広がりの表現が秀逸
    何度でも読み返したい名作
    内容には関係ないが
    馬車で湯ヶ島から大仁まで4時間(前編三章)なのに
    下田まで3時間(後編二章)と表記されているのはかなり謎
    まともに考えると4時間は有り得ないので低年齢故の錯誤が含まれているのか
    それとも単に表記ミスか
    まあ内容には関係ないんだけど

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    2018年10月20日
  • 幼き日のこと・青春放浪

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    随筆調の自伝
    まったくの私的な見解だが
    伊豆地方民は地元愛がすこぶるうすい気がする
    井上靖ほどの作家はもちろん
    修善寺も韮山も先も後も北条氏に対するおらが感がまったくない
    といって江川家をみるに江戸時代の人心統治が優れていたとも思えない
    というふうに風土をこじつけるような話が随所にみられるが
    昭和も遠くになりけるかな

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    2018年10月18日
  • 後白河院

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    平安末期から鎌倉初期、つまり院政期から武士の台頭、保元・平治の乱、平家全盛と没落から鎌倉幕府の時代、年代で言えば12世紀の日本の中央権力の有様を復習できる、またある程度わかっていないと読んでもなんのことかわからない。
    院政の始まりの部分はいまいちわからない―中公文庫の「日本の歴史 6:武士の誕生」でわかった。道長から次の次の代ですでに院政の萌芽があったのだ。驕れる者は久しからず!
    院政の権力自体にパワー的な無理があったから武士が台頭したのかな・・・たぶん。院政の守護者としての北面の武士。ということは道長の時代の武力はいかに存在していたのか、というテーマもまたある。

    しかし、こうして歴史ものを

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    2018年10月13日
  • 孔子

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     井上靖の最晩年の長編小説である。この名作には既に多くの評価がなされているから私の愚考を重ねても無意味である。
     架空の孔子の弟子の語りが中心となるこの作品は紛れもなく作者自身の孔子に対する思いを述べたものである。孔子という人物の事績が弟子の記録によって言語化されていることを考えるならば、この作品は紛れもなく昭和の論語といえるだろう。
     一人の作家がたどりついた一つの境地を窺い知るためにもこの作品の価値はある。

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    2018年07月29日
  • 額田女王

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    江戸時代や戦国時代を舞台とした時代ものを読むと、現代の日本と 陸続きだなぁと感じる部分もあるが、この小説の舞台になっている600年代とかになると、 全くどのような生活をしていたのか想像もできない。

    でも作者の井上靖は素晴らしい。あたかもこの時代を生きてきたかのように書いている。素晴らしい作品です。

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    2018年02月02日
  • あすなろ物語

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    井上靖の本は学生時代によく読んだけど久しぶりに、未読のこの本を読んでみた。手持ちの本が掃けて読む本がなかったので息子の本棚にあったこれを手にした。

    もっと子供っぽい内容かと思ったけど、全然そんな本ではなかった。あすなろ、がそういう意味とも知らなかった。

    この時代を生きた男の幼少期から壮年期までを描いたもの。この頃の男子は誰しも一旗あげてやろうって思っていたんだろうな。そして、どの時代にも女性とのかかわりがあって、その様がとても印象的。これがテーマなのかな?

    思いのほか良い本だった。古典というと大げさだけど、こういう定番の本もたまにはいいな、と思った。

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    2017年11月15日
  • あすなろ物語

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    ネタバレ

    明日は檜になろうとする意志の象徴「あすなろ」
    秀才肌の少年は、高校でやや落ちこぼれ、長じては平凡な新聞記者に。といっても、放蕩息子にはならない。
    彼を取り巻く男女の「あすなろ」たちとの交流。未亡人にときめき、大胆な女たちに翻弄されそうにもなるが、決して危うい愛は渡らず、妻帯し、戦地も生き抜く。
    面白みのない人生なのかもしれないが、周囲にそそぐまなざしの暖かさに好感がもてる。
    いまの私小説にはもはやない爽やかさ。

    克己を説いた大学生のでてくる、第一話が好き。
    見上げた樹に教わるように、昔は身近な年上に人生を学んだもの。だからこそ、大人になるのが怖いとは思わなかったあろう。

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    2017年08月23日
  • あすなろ物語

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    様々な生き方をしていく友人、女性に触れながら青年へ成長していく著者の自伝的小説。人々と接する主人公の心の機微が表現されており、自分の感情に強い印象を与えた。

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    2016年09月04日
  • 猟銃・闘牛

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    《猟銃》
    妻・愛人・愛人の娘、その三通からの手紙から
    浮き彫りにされる、恋愛をとりまく
    さまざまな心もよう。

    一つの事実に対して、その人の感情により、
    立場により、こんなにも想いが
    異なるという事実。
    愛すること、愛されることの意味、
    そして、そのことによって変わる人生の重み。

    短編ではありながら、読んだあと、
    しみじみと考えさせられた。

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    2016年07月18日
  • 北の海(下)

    購入済み

    なんど読んでも感動します。

    学生時代に読んで感動しました。読み直すたびに良いなーと思います。

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    2016年03月27日
  • わが母の記 花の下・月の光・雪の面

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    「わが母の記」には、著者が老耄の母への思いを記した「花の下」「月の光」「雪の面」の3編を収録しています。

    著者には、『しろばんば』『夏草冬濤』『北の海』の自伝三部作があり、それらの作品のなかで著者の母は七重という名前で登場しています。おぬい婆さんと激しくやりあっていた気丈な著者の母が、若い頃へ向かって記憶を抹消していき、やがて著者の妹のもとで死を迎えるまでの叙述に、母に対する著者の静かな愛情が染みわたっているように感じました。

    「墓地とえび芋」は、著者の作品のなかで個人的にもっとも好きなもののひとつです。京都の骨董屋に田黄の古印を買いに行った著者が、図らずも骨董屋の主人の葬式に参列すること

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    2016年03月09日
  • 風林火山(新潮文庫)

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    山本勘助の武田家への仕官から川中島までの話です。
    読む前は武田信玄の話だとばかり思っていました。

    合戦の合間に見られる姫と殿と勘助の人間模様に非常に温かさを感じます。
    姫が亡くなった時の「姫が、あの美しい気高いものが!」と叫ぶ勘助の場面が印象的でした。

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    2015年12月26日