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朝廷・公卿・武門が入り乱れる覇権争いが苛烈を極めた、激動の平安末期。千変万化の政治において、常に老獪に立ち回ったのが、源頼朝に「日本国第一の大天狗」と評された後白河院であった。保元・平治の乱、鹿ヶ谷事件、平家の滅亡……。その時院は、何を思いどう行動したのか。側近たちの証言によって不気味に浮かび上がる、謎多き後白河院の肖像。明晰な史観に基づく異色の歴史小説。
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Posted by ブクログ
公家の世から武士の世に、古代から中世への時代のうねりの中心にいた、後白河院という人物について周りの者が語るというスタイルの小説。後白河院の青年期から晩年まで、全四部構成。最終章の語り部である九条兼実の信西入道評、そして後白河院評によって「日の本一の大天狗」の姿が垣間見える。
平安末期から鎌倉初期、つまり院政期から武士の台頭、保元・平治の乱、平家全盛と没落から鎌倉幕府の時代、年代で言えば12世紀の日本の中央権力の有様を復習できる、またある程度わかっていないと読んでもなんのことかわからない。 院政の始まりの部分はいまいちわからない―中公文庫の「日本の歴史 6:武士の誕生」で...続きを読むわかった。道長から次の次の代ですでに院政の萌芽があったのだ。驕れる者は久しからず! 院政の権力自体にパワー的な無理があったから武士が台頭したのかな・・・たぶん。院政の守護者としての北面の武士。ということは道長の時代の武力はいかに存在していたのか、というテーマもまたある。 しかし、こうして歴史ものを読んでいくと江戸250年の平和の実現は相当にすごいことだ。250年も続く事自体が驚くべき。それは逆説的に「なぜ、それ以前の時代は平和が長続きしないのか」という問いを発することになる。鎌倉幕府も室町幕府も。 一番単純に言えば「辺境がある間は平和にはならない」という大胆なまとめかな。島国なので、まあ主な島だけに限ってでいいのだが、日本という国土の中に辺境がある間は、辺境の支配と中央の支配が別であるわけで、支配力と支配力の衝突は常に起こり平和にはならない。秀吉・家康によって辺境は消滅した。 世界に敷衍すれば・・・地続きに辺境があれば平和にはならないのだろう。山とか川とか自然の障壁があればそうでもないかもしれない。資本主義もまた同じか あるいは逆か
井上靖は10代のときから好きな作家である。「あすなろ物語」「しろばんば」に始まり、「淀どの日記」「楊貴妃伝」「敦煌」「天平の甍」「蒼き狼」「本覚房遺文」など、むさぼり読んだ。特に「楊貴妃伝」と「淀どの日記」は好きで何度も何度も読み返し、これは今でも文庫本を手元に置いている。 渡米して日本の本をあま...続きを読むり買えなくなってから少し遠ざかっていたが、先日日本食料品店の古本コーナーで彼の「孔子」を見つけて買い、読んだ。ひさしぶりに読む彼の文体は美しく、ああ、私がこの人の作品を好きなのは、内容もさることながら、文体が好きだからなんだ、と痛感したものである。 そして日本から取り寄せた「後白河院」。昨年の大河ドラマ「平清盛」で、それまであまり詳しくなかった平安末期も人の名前や出来事が身近に感じられるようになったので、やっと、この時代を舞台にした作品を楽しめるようになったからこそ、この作品をじっくり味わうことが出来たようだ。 もっとも、後白河院を想像すると松田翔太さんの大河ドラマの顔が浮かぶのは避けられないのだが(笑)。 この辺りの歴史があまりわかっていないで読むと、それほど楽しめないかもしれない本ではあるが、井上靖の醍醐味はその日本語の美しさ。特に敬語が美しい。だから、私が好きな彼の作品は、高貴な地位にある人を描いたものや、カリスマ性があった人間をその弟子などが回想する形で描いた小説などになってしまうんだろうなあ、と思う。 彼の作品はまだ未読のものが多数あるので、これからまた読んで見たい、という気持ちがふつふつとわきあがっている。
四人(平信範・建春門院中納言・吉田経房・九条兼実)の同時代人を語り手に 保元・平治の乱から晩年にいたる後白河院の姿を浮かび上がらせていく。 文章生出身の蔵人、院の女御の女房(俊成の娘にして定家の姉)、硬骨な近臣、 院に疎まれていた右大臣のそれぞれの立場に即した語りの内容や口吻も巧み。 話者の一人は...続きを読むこれまで陰気にくすぶっていた皇室や公卿たちの対立が、 武士たちの合戦であっという間に片が付いてしまうことに素直に驚き、 世人の心に小気味よさが萌したと付け加える。 その武士たちも歯が立たない信西入道さえその自害の原因を院の心が離れたからと推測する。 このような時代に実力者の器量を確かめ使い方を考えてでもいるように凝視する後白河院。 そこにひんやりとしたものを覚えるが、それは冷酷さというよりも、 むしろ誰にも心の内を打ち明けることが出来ない帝王の孤独といったものだろうか。 院は公卿朝臣が日和見で役には立たないこと、そして自身も武家の力を借りなければ ならないことを十分に承知している。だからといって屈服するわけではない。 四人が語り終えても何か得体の知れない不気味さが残りはする。
歴史書だけでは分からなかった、源平の戦いの原因が少しは理解できた。後白河法皇が裏で暗躍していたと言われているが、井上靖はそれを否定している。暗躍ではなく法皇自身の考えで政をした。しかも、その政の精神は少しもぶれていない。武士や公家がその時々の状況で烏合集合したに過ぎないと。 この本も旅行には持ってく...続きを読むるのには不向きだった。 チャイナタウン2ホテルに寄付する。
周囲の人間の話により、浮かび上がっていく後白河院の人物像…というのが面白かった。後白河院って、謎が多くて調べれば調べるほどもっと知りたくなる人物。 ちょっと難しいので読み進めるペースが遅くなった。
後白河上皇の一生を4人の側近が語る。 後白河院は、保元の乱、平治の乱など藤原家摂関政治から平家、源氏の武士の時代へのパワーシフトの転換期にあって政治の中心であり続けた人物。 その他登場人物として気になる存在は信西入道。当時の摂関政治という旧弊に立ち向かった、という意味では彼もまた時代を動かした中心...続きを読む人物。 そのような人材を登用したところにも、後白河院の政治力の凄みを感じることができる。 一貫して書かれているのは、後白河院が時の権力者(平清盛、源義仲、義経等)を自らのコントロール下においていた、ということ。それには孤高の判断、つまり、それら権力者と一定の距離感を保ってきたこと、が挙げられるのではないか。 まさに源頼朝が評した「日本第一の大天狗」であったのだろう。
後白河院の近くにいた同時代人四人が語る当時の「現代史」。 本書の発表は1972年。 1995年に発表された辻邦生の「西行花伝」は、本書の形式に倣ったものであることが分かる。 四人とは平信範、建春門院中納言、吉田経房、九条兼実だ。 平信範は、平の名前を持つが、武家平氏の清盛と違って貴族。堂上平氏と呼...続きを読むばれる。鳥羽院、後白河院に仕える。 建春門院中納言は、後白河院の妃、平滋子。 清盛の夫人である時子の妹。 後白河院の間に高倉天皇を産む。 彼女の存在が、後白河院と清盛の融和を生み出していた。彼女の死によって後白河院と清盛な対立は先鋭化する。 吉田経房は、平氏政権の実務官僚だったが、源頼朝に認められ、鎌倉と朝廷との取次役を務める。 九条兼実は、摂関太政大臣。弟に天台座主慈圓がいる。後白河から、高倉•安徳•後鳥羽•土御門まで仕える。 こうした政権の中枢にいた人たちの視点で、平家政権の専横•崩壊、鎌倉政権の誕生を見つめ、頼朝より「大天狗」と呼ばれた後白河院の権謀術数を描き出す。 歴史の脇役ではあるが、転換期を経験した人たちの視点を以て歴史を語らせたことが秀逸。
いつかの大河ドラマの清盛と、今やってる鎌倉殿の13人を必死で思い出しながら読んでる。難しい、観ててよかった。 権威権力は持っているけれど実力(軍事力)を持たない朝廷=後白河法皇が、 軍事力を持つ者らとどのように戦ったか。その時の大勢力に対し、対抗勢力に力をもたせ戦わせることで牽制し、戦わせてやがて滅...続きを読むびていくのを見ている。不気味で冷静で、軍事力はないが権威あるものの戦い方。 後白河法皇、第一部〜第三部、言うことバラバラやん!って思ってたけど、第四部で、実は一目的は貫してるってことがわかった。
『しろばんば』『敦煌』『額田女王』『孔子』。 これまでに読んできた井上靖作品は、これが全て。 後白河を取り上げたものがあったのか、と驚きもあって手にした。 ちょうど先日、アンソロジーで『梁塵秘抄』に触れたばかりだったことだし。 源平争乱のあの時代、白河、後鳥羽、崇徳、後白河あたりの天皇家の確執に、...続きを読む摂関家、武家の覇権争いが重なる。 その構図の複雑さに、どうしてもこの時代を扱ったものを避けて通りたくなる。 だから、四つの章の語り手が、平信範、建礼門院中納言(健御前)、吉田経房、九条兼実と移り変わっていくこの小説はの結構は、表現効果の見事さはわかっても、少しつらい。 近づいて来る者たちに心を許さず、自分に離反する時期が来たら切り捨てる。 こうして一人生き延びたのが後白河という帝王だった、というのが、この作品での後白河像だ。 乱世の中、語ることと書き残すことで身を支えてきた貴族社会の人々の無力感を思ってしまった。
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