井上靖のレビュー一覧

  • 夏草冬濤(下)

    Posted by ブクログ

    ネタバレ

    金枝たちとつるむようになって洪作の世界が大きく広がる。
    このような友人たちと過ごす中学生活は魅力的でまぶしいものだっただろう。
    いつの間にか洪作の幼さはなくなっていて、この時くらいから洪作自身の性質が色濃く表れるように感じた。
    なぜか眉田さんが印象深い。特に物語に大きな影響を与えるわけではないが、そのパーソナリティが当時の井上靖にとっても印象深かったのだろうか、と考える。どこかしら年を取った洪作のようでもある。
    金持ちの友人の夕食会に招かれる場面が好きだ。彼は確かにかなり裕福でどことなく育ちの良さを感じるけれど、嫌味がないと思った。素直に親睦を深めたいと述べるのにも、夕食に誘うスマートさにも好

    0
    2025年10月21日
  • 夏草冬濤(上)

    Posted by ブクログ

    ネタバレ

    上巻の洪作はまだ子供のように感じる。英語の宿題をやったか?と増田に聞かれるだけで不安になるし、鞄をなくしてびくびくする。三島のいとこたちに会えばどぎまぎする。美しい従姉ではなく、きつく当たりつつも心の優しい従妹のほうに好感を持つのもなんだか身に覚えがあって気恥ずかしい。
    若い時代の心情を鮮やかに描く井上靖の技術に読み返すたびに引き込まれる。
    上巻のうちに金枝たちとの出会いがあるのもいい。金枝のグループが目立っていたことを暗示する。冒頭の金枝達の行動と会話は、やはり大人びて感じられる。

    0
    2025年10月21日
  • 北の海(下)

    Posted by ブクログ

    ネタバレ

    金沢で新たな友人と出会う。練習量が全てを決める柔道と出会う。夏の間無声堂で柔道に取り組む洪作と四高生たちをうらやましく思う。W坂で泣けてくる体験をしてみたかった。休みの日に歩いて海に向かう。大天井らは金枝たちのような静岡の友達とは違って野卑だけれど洪作は「付き合う相手によってどうとでもなる」性質だからかそれほど気にせず、金沢での生活を楽しんでいるように感じた。
    最後に洪作は台北へ向かう。なかなか大きい決断だ。周囲が固めてしまってそのような結果になったにせよ私だと台北へ行く勇気は出なかったかもしれない。時代が違うから台北が日本だったことも関係するかもしれないけど。
    台北に行った洪作がどの様な生活

    0
    2025年10月21日
  • 北の海(上)

    Posted by ブクログ

    ネタバレ

    遠山がいい。
    上巻はのんびりしている。遠山と柔道したり宇田先生とすき焼きしたり。それでも洪作の人生が進んでいく予兆はいくつもある。母からの手紙が宇田先生に届いたり、四高に行くきっかけとなる蓮見さんに出会ったり。なんだか青春だ。いつのまにか洪作の年齢を追い越している。信じられない。
    洪作の無頓着さは心地いい。豪胆とは違うけれどどこか肝が据わっている。

    0
    2025年10月21日
  • 風林火山(新潮文庫)

    Posted by ブクログ

    ネタバレ

    文章が読ませる文章であっという間に読み切ってしまいました。井上靖さんの凄みを感じました。
    勘助と同じようにいつの間にか大して理由もないのに義信にいい印象を持たないまま読んでいましたが終盤のシーンには心が震えました。勘助はかの有名なキツツキ戦法を失敗し討死したことは知っていたのですがそれ以外は殆ど知らないままこの本を読みました。
    結局、勘助が勝頼の初陣を見れぬまま討死してしまったのは戦国の世の無情を感じました。
    他の感想で書いている方が大河ドラマに比べて短いと書かれているので機会があれば大河ドラマの方も見てみたいと思います。大河ドラマが見てみたくなるくらい面白かったです。

    0
    2025年09月30日
  • 蒼き狼

    Posted by ブクログ

    心の中にモンゴルができてしまった。
    獲物を追い求め、野を駆ける蒼き狼の末裔たち。彼らはただ生きるため、そして狼の血を継ぐ者であるがゆえに、侵略し、殺戮し、略奪を繰り返す。その圧倒的なまでの力強さと、現代社会の常識や倫理観を超越した生き様が、読後も私の心から離れない。テムジン、ムカリ、ボオルチェ……彼らが仕事中も食事中も、心の中を疾駆し続けている。

    彼らの価値観や生活様式は、現代に生きる私たちの共感や理解の範疇にはない。それでも、彼らの放つ圧倒的なスケールと、生命力に満ちた姿に、強く惹きつけられる。
    本能的なカッコよさ。ウォー

    0
    2025年08月23日
  • 敦煌

    Posted by ブクログ

    悠久の時の流れと人々の想いが交錯する歴史ロマン。1900年、敦煌 莫高窟の秘密の部屋から約4万点におよぶ大量の仏教文書が偶然発見された。調査によるとこの文書群が封印されたのは11世紀前半、西夏によって沙州(敦煌)が滅ぼされたころ。なぜここに文書を隠したのか。本当の理由は当時の人々しか知る由もないが、本書では史実とフィクションを織り交ぜて、文書封印に至る背景がドラマティックに描かれている。

    約900年もの間、誰にも知られずに封じられていた文書群。その背後には文字、知識を未来に託そうとする人間の強い意志を感じざるを得ない。命を賭して本を守った『ワンピース』のオハラの学者や、『チ。』の登場人物たち

    0
    2025年08月08日
  • しろばんば

    Posted by ブクログ

    静岡県の伊豆半島を舞台として、1人の小学生が様々な出来事(死別、恋愛、喧嘩、迷子などなど)を通じて精神的に成長していく、井上靖の自叙的な長編小説。
    小学校の課題図書か何かになっており、かねてから気になって調べていた所、電子で誤購入してしまった。

    しかしながら読み始めてみると、おおよそ児童向けとは思えない複雑な心情描写が散りばめられていて、小学校6年間を本当にもう一度体験したような気持ちになった。

    自分の小学校時代を綴るとしてもここまでの解像度で話を書くのは到底無理なので、井上靖の文才にはただただ関心するばかりだった。

    0
    2025年08月05日
  • しろばんば

    購入済み

    なるほどと

    時は大正、伊豆の山深い地区での、主人公の洪作の成長を綴っている。地域差と都会への畏怖と憧れ。近所の噂話や複雑な家族関係、今ではあり得ない教師の対応。子どもへの思いやりがない母・八重の発言。昔はすべての親が毒親だったんじゃないかと思ってしまう。でも、洪作は母親代わりのおぬい婆ちゃの絶対的な愛情を存分に受けていた。洪作を取り巻くすべての人が形こそ違えど、愛情を持って接していた。古き良き時代とは言い切れないが、洪作の成長が丁寧に描かれており、心に訴えてくる作品であった。

    #泣ける #癒やされる #感動する

    0
    2025年07月21日
  • 敦煌

    Posted by ブクログ

    シルクロードの物語を初めて読みました。砂漠とオアシスが目の前に広がるようですごくワクワクしながら読みました。暗がりのなかでの初めて戦闘に遭遇する描写がすごかったです。

    0
    2025年06月24日
  • あすなろ物語

    購入済み

    受験期に現代文の練習問題で本文が引用されており、その短い内容ですっかり引き込まれました。
    全編面白いですが、私はやはり少年期の冴子との話が最も好きです。

    0
    2025年04月10日
  • 補陀落渡海記 井上靖短篇名作集

    Posted by ブクログ

    補陀落渡海記を読みたくて手に取った。
    何だろう。
    何となく自分の運命が規定されていく感じ。
    誰かが強く主張したわけでもなく、明確なルールがあるわけでもない。それなのに死を強要され、受け入れるしかない。ふんわりとした地獄。何だろう。この感じは。塀のない刑務所のような。
    言語化が難しいが、現実で見かける風景だ。

    0
    2025年04月01日
  • 補陀落渡海記 井上靖短篇名作集

    Posted by ブクログ

    補陀落渡海記が心に滲みる。補陀落寺の住職として、生きながら船に乗って観音浄土を目指す金光坊の心情を描写している。淡々とした描写がリアルだ。十分な悟りをひらいたわけではないのに、こんな状況に追い詰められるのが怖い。井上靖ならではの傑作。

    0
    2025年03月24日
  • しろばんば

    Posted by ブクログ

    ひまわりめろんさんの座右の書『しろばんば』である
    恐らく二千七百回くらい読んでいると思われる
    スケールの大きい嘘である

    座右と言うが座左とは言わない
    座って右にあるということは、対面する者から見ると向かって左ということになる
    つまり左大臣の位置ということだ
    左大臣と右大臣では左大臣の方が偉いので、もし座左の書というものがあったとしても座右の書の方が偉いということになる

    この話はいらなかった

    さて『しろばんば』である

    井上靖さんの自伝的小説である
    そして『しろばんば』は旅立ちの物語である
    もっと言うならば男の旅立ちである

    自分を守ってくれる故郷で、外の広い世界を垣間見ながら、少しづつ成

    0
    2025年03月15日
  • 後白河院

    Posted by ブクログ

    公家の世から武士の世に、古代から中世への時代のうねりの中心にいた、後白河院という人物について周りの者が語るというスタイルの小説。後白河院の青年期から晩年まで、全四部構成。最終章の語り部である九条兼実の信西入道評、そして後白河院評によって「日の本一の大天狗」の姿が垣間見える。

    0
    2025年02月10日
  • 蒼き狼

    Posted by ブクログ

    ネタバレ

    鉄木真は、異母弟殺しの代償として「お前は本当に、蒼き狼と白い雌鹿の裔であるのか」というアイデンティティの根幹への疑念を突きつけられた。終生に渡る呪いのように、繰り返しフラッシュバックするこの問いは、罰であり、呪いでもある。鉄木真の父は、鉄木真の母を奪うことで妻とした。長じた鉄木真の妻もまた他部族に奪われ、鉄木真は長子であるジュチと自分の血の繋がりに疑念を抱くようになる。他部族を侵略し、「モンゴル」を拡大してゆく鉄木真、ジュチの苛烈な戦いぶりは、よく似ている。その動機の源泉は、自身の存在証明とも言える、非常に個人的なものだ。皮肉にも、その個人的な動機、欲望に端を発する戦いは際限なく拡大し、鉄木真

    0
    2025年01月22日
  • 敦煌

    Posted by ブクログ

    壮大すぎる舞台設定と奥深すぎる歴史。歴史上消え去った数多い人物を架空で思い描いてストーリーにし、一部を史実に繋げる見事さが際立つ。

    0
    2025年01月06日
  • 風林火山(新潮文庫)

    Posted by ブクログ

    タイトルからして武田信玄と思ったら、その軍師の山本勘助だった。

    軍師といわれたら、真っ先に諸葛亮孔明、黒田勘平あたりが思い浮かぶけど、勘助もまた面白い。
    スマートさが全く無い、泥臭いけどしっかり勝つ。二人の姫を思う勘助の気持ちも、深い愛情を感じてたまらない。

    最後の上杉謙信との戦の描写は痺れた、げき格好良かった。

    0
    2024年11月14日
  • 天平の甍

    Posted by ブクログ

    なぜか無性に井上靖が読みたくなり、40年以上前に読んだ本を手にとった。あの時の感動とまた違った風が心の中を駆け抜ける。

    8世紀の日本。日本と唐の間の航海は、今では想像もできないほどの苦難があった。しかし、その苦難を乗り越え日本の近代国家成立のために生涯を懸けた留学僧の思いが現代人に深い感動を与える。

    圧巻は、業行が、日本に持ち帰るために数十年というか生涯全ての時間をかけ写経した夥しい経典とともに海の藻屑となり沈んでしまう描写だ。業行の人生は一体何だったんだろうか、深く考えさせられる。

    救われるのは、日本に無事帰ることができた普照のもとに届いた一つの甍。これが日本に辿りつくことのできなかっ

    0
    2024年09月26日
  • しろばんば

    Posted by ブクログ

    しろばんば、夏草冬濤、北の海、読みました。

    洪作くんと、少年時代に戻ることができます。
    その年頃の少年が見える、感じる当時の情景が、美しく描かれています。

    私自身の体験でも、小学生の頃、楽しかったことが中学生になるとつまらなくなったりして、中学生の頃に仲良かった友達も、卒業したらばらばらになって全然会わなくなって…ということがあります。これらの作品群には、流れていった井上靖の少年時代が詰まっています。それがまた、読者である自分のノスタルジーを呼び覚まします。

    もう随分前になりますが、しろばんばシリーズが好きで、湯ヶ島へ、しろばんばの里に足を運びました。浄蓮の滝を見て、西平の湯に入って、ず

    0
    2024年08月23日