井上靖のレビュー一覧

  • 北の海(下)
    もう何回読み返しただろう。「しろばんば」、「夏草冬濤」、「北の海」の3部作。
    特に旧制中学を卒業してから秋までを描いた「北の海」が好きだ。四高の柔道部に体験入部し、秋の気配がし出す頃に金沢を去るところが物悲しくも希望に満ちていて洪作を応援したくなる。
    この本を初めて読んで、金沢を旅した学生の頃を思い...続きを読む
  • しろばんば
    舞台がほぼ自分の郷里であることの贔屓目も手伝った側面はあるが、ここまで感情移入して自分の感性ですんなり受け入れることのできる小説は初めてであった。

    郷愁というよりは、多くの人が幼少期に出会ったことのある心の動きがかなり正確に再現されており、そこに懐かしさを感じるといったところ。外的な出来事や環境に...続きを読む
  • あすなろ物語
    作者の自伝小説『しろばんば』を読んでいると、これも自伝小説でその続きなのかと思いがちですが、著者のいくつかの実体験を活かした創作です(『しろばんば』に連なる続編は『夏草冬濤』『北の海』)。

    タイトルの「あすなろ」は、あすは檜になろうと思いつつ、永久に檜になることが出来ない。それで「翌檜(あすなろ)...続きを読む
  • あすなろ物語
    明日は檜になろう、という、様々な翌檜の人物が、その願いは叶わないとしても、自分が自分であるために明日への願いを持って生きていく。特に人生のそれぞれの局面で出会う女性たちとの関係の中で、主人公の鮎太の生き方、翌檜が変わりゆく様が、その場面場面を、幼年期の恋慕や青春、競争やニヒリズムなどを切り取った、絵...続きを読む
  • 敦煌
    莫高窟で発見された文書群が、そこに保管されるに至った経緯を描く小説。宋代の河西回廊の政情と戦乱、その渦中にあって自らの誇りと意志を持ち続けた3人の男が主題となる。

    描写が省かれることも多く、ある意味淡々と消化される日数だったり城邑のあいだの距離なんかがいちいち長いのが面白い。夷狄の土地の広大さを印...続きを読む
  • 猟銃・闘牛
    湊かなえの『告白』を読んだ時のような、書き方の新鮮さに衝撃を受ける。

    3人の女の手紙から見える男の実態は、それが真実とは限らない。
  • 敦煌
    初めての井上靖作品。元々敦煌含めシルクロードに興味があり、のめり込んでしまった。描写が一つ一つ繊細で、コロナの前に敦煌で行けていればより臨場感があったかもしれない。但し、読み終えた今となっては逆に想像が掻き立てられ、行く先にこの本に出会えてよかったと思う。
  • しろばんば
    本書は伊豆湯ヶ島を舞台に、小学生時代を過ごす洪作が主人公の小説です。井上靖自身がモデルの自伝的小説ですが、全編を通じて何とも言えない良い味を出しています。山奥の小さな村で登場人物も極めて限られている、しかし洪作をとりまく家族環境はとても複雑で、洪作の両親は豊橋に住んでおり、両親よりも曾祖父の妾であっ...続きを読む
  • 天平の甍
    本書は8世紀の奈良時代に第九次遣唐使として留学する4人の日本人僧侶を中心にして、後半は6度にもわたる挑戦で訪日をはたす鑑真の物語です。当時の日本人にとっては海外に行くことは命がけで、しかも船はそんなに頻繁に出ていない。無事に唐に渡れても帰ることができるのは何十年後の可能性もあって、帰りも無事に帰れる...続きを読む
  • 北の海(下)
    単行本で再読時の感想---6年生の頃母が買ってくれた本。特別な日でもないのに読んでごらんと手渡され、思いがけない贈り物がとてもうれしかったのを覚えている。おもしろくて何度も読み返した大好きな作品。これをきっかけに中学生の間は井上作品を随分読んだ覚えがある。先日ふと思い立って30年ぶりくらいにこの本を...続きを読む
  • わが母の記
    著者の自伝的小説三部作「しろばんば」、「夏草冬濤」、「北の海」に続いて読んだ。小説中の洪作、すなわち井上靖は長じて文豪となったわけだが、この「わが母の記」の三つのエッセイでは、その見事な筆致で惚けてゆく母親の晩年を冷静に、しかし優しく描写している。本作を読むことで洪作三部作は完結したのだと感じ入った...続きを読む
  • 天平の甍
    読みにくかったなぁ。
    言葉使いの難しさ、人名の読みにくさ。
    文学というより記録文ではないかと思うようなデータの記述。
    もう途中で投げ出そうかと一度だけ思った。
    不思議なことに一度きりで、そのあとは読みにくいと感じながらも話が普照と鑑真の日本渡来に絞られてくると、多くの身内からさえも白眼視されるその目...続きを読む
  • しろばんば
    私は小学生の一時期を山奥の小さな学校で過ごした。山に登り、川の淵を泳ぎ、田畑を走り、木の実を採り、暗くなるまで遊び惚けた頃がこの小説によって蘇った。まだ己が何者かもわからない時代、ゆっくりと世界が広がってゆく時代、四季の循環がとても永く感じられる時代である。洪作少年を通じて忘れていた郷愁に没入できる...続きを読む
  • わが母の記
    認知症により記憶が失われていき理解に苦しむ行動をとるようになった母親の晩年の思い出。淡々と描いている。事実がもつ力と文豪の確かな表現力。
  • あすなろ物語
    少年期から成年期まで、感受性豊かな自伝的小説。何歳になってもその頃の想いは残り、懐かしさが込み上げる。
  • わが母の記
    晩年の母との日々を綴った作品。約5年ずつを空けた3つの作品から構成されている。5年ごとに老いが進む母。自らの人生の記憶を少しずつ消しゴムで消していくような母。世話をする子供たちのことも分からなくなっていく。しかし、母の中では母なりの世界が展開されているようだった。
    井上靖の簡易でありつつも味わい深い...続きを読む
  • おろしや国酔夢譚
    大黒屋光太夫を船頭とした17人を乗せた「神昌丸」は駿河沖で時化に会いロシアのアレウト列島(アリューシャン列島)のアムチトカ島に乗り付ける。母国日本へ帰りたい一心でロシアの厳しい生活に耐え、ロシア国内を大移動しながら本国送還を願い続け、10年後許しが出て既に死去した12人とロシア正教に帰依した2人を除...続きを読む
  • あすなろ物語
    「あすは檜になろう!あすは檜になろうと一生懸命考えている木よ。でも永久に檜にはなれないんだって!それであすなろと言うのよ」(新潮文庫、47p)井上の自伝的小説といわれているこの作品は、あすなろとしての梶鮎太を時系列で描いていた。特に3-5章の出世する友人やライバルへの葛藤をあらわす「あすなろ」や、第...続きを読む
  • 風林火山(新潮文庫)

    歴史小説のお手本。

    もう何度も読んだのに、やっぱり手元に持っていたくて、電子書籍にて購入しました。

    一応大河ドラマの原作扱いに成っていますが、余りそこには拘らなくて良いかと思います。

    自分の武田好きは、中井貴一さんの方の『武田信玄』から始まっているのですが、ドラマ先行で原作を読んだせいか、新田次郎と云う作家...続きを読む
  • 天平の甍
    我が国の元祖国費留学生達の使命感と壮絶な人生に圧倒された。若い人、特にこれから留学する人達には是非読んでほしい。
    それにしても、鑑真和上の不屈の意志にはただただ頭が下がる。歴史の教科書でサラッと語られている苦難の渡日がこれほどのものだったとは。「偉人の偉さ」を改めて感じることができる良著です。