井上靖のレビュー一覧
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ネタバレ金枝たちとつるむようになって洪作の世界が大きく広がる。
このような友人たちと過ごす中学生活は魅力的でまぶしいものだっただろう。
いつの間にか洪作の幼さはなくなっていて、この時くらいから洪作自身の性質が色濃く表れるように感じた。
なぜか眉田さんが印象深い。特に物語に大きな影響を与えるわけではないが、そのパーソナリティが当時の井上靖にとっても印象深かったのだろうか、と考える。どこかしら年を取った洪作のようでもある。
金持ちの友人の夕食会に招かれる場面が好きだ。彼は確かにかなり裕福でどことなく育ちの良さを感じるけれど、嫌味がないと思った。素直に親睦を深めたいと述べるのにも、夕食に誘うスマートさにも好 -
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ネタバレ金沢で新たな友人と出会う。練習量が全てを決める柔道と出会う。夏の間無声堂で柔道に取り組む洪作と四高生たちをうらやましく思う。W坂で泣けてくる体験をしてみたかった。休みの日に歩いて海に向かう。大天井らは金枝たちのような静岡の友達とは違って野卑だけれど洪作は「付き合う相手によってどうとでもなる」性質だからかそれほど気にせず、金沢での生活を楽しんでいるように感じた。
最後に洪作は台北へ向かう。なかなか大きい決断だ。周囲が固めてしまってそのような結果になったにせよ私だと台北へ行く勇気は出なかったかもしれない。時代が違うから台北が日本だったことも関係するかもしれないけど。
台北に行った洪作がどの様な生活 -
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ネタバレ文章が読ませる文章であっという間に読み切ってしまいました。井上靖さんの凄みを感じました。
勘助と同じようにいつの間にか大して理由もないのに義信にいい印象を持たないまま読んでいましたが終盤のシーンには心が震えました。勘助はかの有名なキツツキ戦法を失敗し討死したことは知っていたのですがそれ以外は殆ど知らないままこの本を読みました。
結局、勘助が勝頼の初陣を見れぬまま討死してしまったのは戦国の世の無情を感じました。
他の感想で書いている方が大河ドラマに比べて短いと書かれているので機会があれば大河ドラマの方も見てみたいと思います。大河ドラマが見てみたくなるくらい面白かったです。 -
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悠久の時の流れと人々の想いが交錯する歴史ロマン。1900年、敦煌 莫高窟の秘密の部屋から約4万点におよぶ大量の仏教文書が偶然発見された。調査によるとこの文書群が封印されたのは11世紀前半、西夏によって沙州(敦煌)が滅ぼされたころ。なぜここに文書を隠したのか。本当の理由は当時の人々しか知る由もないが、本書では史実とフィクションを織り交ぜて、文書封印に至る背景がドラマティックに描かれている。
約900年もの間、誰にも知られずに封じられていた文書群。その背後には文字、知識を未来に託そうとする人間の強い意志を感じざるを得ない。命を賭して本を守った『ワンピース』のオハラの学者や、『チ。』の登場人物たち -
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ひまわりめろんさんの座右の書『しろばんば』である
恐らく二千七百回くらい読んでいると思われる
スケールの大きい嘘である
座右と言うが座左とは言わない
座って右にあるということは、対面する者から見ると向かって左ということになる
つまり左大臣の位置ということだ
左大臣と右大臣では左大臣の方が偉いので、もし座左の書というものがあったとしても座右の書の方が偉いということになる
この話はいらなかった
さて『しろばんば』である
井上靖さんの自伝的小説である
そして『しろばんば』は旅立ちの物語である
もっと言うならば男の旅立ちである
自分を守ってくれる故郷で、外の広い世界を垣間見ながら、少しづつ成 -
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ネタバレ鉄木真は、異母弟殺しの代償として「お前は本当に、蒼き狼と白い雌鹿の裔であるのか」というアイデンティティの根幹への疑念を突きつけられた。終生に渡る呪いのように、繰り返しフラッシュバックするこの問いは、罰であり、呪いでもある。鉄木真の父は、鉄木真の母を奪うことで妻とした。長じた鉄木真の妻もまた他部族に奪われ、鉄木真は長子であるジュチと自分の血の繋がりに疑念を抱くようになる。他部族を侵略し、「モンゴル」を拡大してゆく鉄木真、ジュチの苛烈な戦いぶりは、よく似ている。その動機の源泉は、自身の存在証明とも言える、非常に個人的なものだ。皮肉にも、その個人的な動機、欲望に端を発する戦いは際限なく拡大し、鉄木真
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なぜか無性に井上靖が読みたくなり、40年以上前に読んだ本を手にとった。あの時の感動とまた違った風が心の中を駆け抜ける。
8世紀の日本。日本と唐の間の航海は、今では想像もできないほどの苦難があった。しかし、その苦難を乗り越え日本の近代国家成立のために生涯を懸けた留学僧の思いが現代人に深い感動を与える。
圧巻は、業行が、日本に持ち帰るために数十年というか生涯全ての時間をかけ写経した夥しい経典とともに海の藻屑となり沈んでしまう描写だ。業行の人生は一体何だったんだろうか、深く考えさせられる。
救われるのは、日本に無事帰ることができた普照のもとに届いた一つの甍。これが日本に辿りつくことのできなかっ -
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しろばんば、夏草冬濤、北の海、読みました。
洪作くんと、少年時代に戻ることができます。
その年頃の少年が見える、感じる当時の情景が、美しく描かれています。
私自身の体験でも、小学生の頃、楽しかったことが中学生になるとつまらなくなったりして、中学生の頃に仲良かった友達も、卒業したらばらばらになって全然会わなくなって…ということがあります。これらの作品群には、流れていった井上靖の少年時代が詰まっています。それがまた、読者である自分のノスタルジーを呼び覚まします。
もう随分前になりますが、しろばんばシリーズが好きで、湯ヶ島へ、しろばんばの里に足を運びました。浄蓮の滝を見て、西平の湯に入って、ず