Posted by ブクログ
2019年04月13日
好きな本として挙げる人が多いので、手に取ってみた。あらすじによると、ひと昔前の地味目なお話のようで、どうして人気があるのか不思議だったけれど、読み終えてみると、やっぱり良かった。包容力のある時代とそこに生きる人々へのノスタルジーだろうか… 色々なハプニングはあるが、全体に静かな語り口で、読みながら、...続きを読む穏やかな懐かしいような気持ちになる。
書き出し(夕暮れどきに、しろばんばを追いかけながら戸外で遊びまわる子どもたちの情景描写)が美しい。大正時代の田舎の暮らしに自然と引き込まれていく。
人間描写が細やかで生き生きとしていて、会話もとても自然。子どもたちがやんちゃで、好奇心いっぱいで、繊細で、とても子どもらしく描かれていて、微笑ましい。村全体で大人も子どもも一緒になって盛り上がり、噂し合い、驚き、心配し、助け合い、笑いながら毎日を送っている。とても人間くさい暮らしだ。かつては、こうした村が、日本の色々なところにあったのだろう。今は過疎化が進んでしまったけれど…
家庭環境は複雑だが、明治や大正の戸主制度の下では、結構あり得ることだったのかもしれない。血のつながりのないおぬい婆さんと洪作の強い結びつきには、胸を打たれる。
周囲の人々の老いや死、未知の世界を見つめる主人公の心のうちが、丁寧に正直に描かれている。特に印象深かったのは、ある冷たい北風が吹く日に、おぬい婆さんが洪作の学校に羽織を届けに来る場面。小柄な老婆が風にあおられながら近づいて来る姿から、洪作は今まで気づかなかった老いを強烈に感じて、眼を離すことができなかった。おぬい婆さんの洪作への深い愛情が伝わって来る感動とともに、哀感が溢れていて、とても心に残った。それ以外にも、心に残る場面は多かった。他の作品も読んでみたい。