井上靖のレビュー一覧

  • 夏草冬濤(上)

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    『しろばんば』の続編。ちょうどこの作品の洪作と同じ年頃に、読んだ以来だと思う。複雑な家庭環境で繊細に立ち回っていた湯ヶ島時代の洪作に比べ、思春期を迎えちょっぴり”坊”の道をそれ始めた洪作に、当時はあまり魅力を感じなかった。オトナになり、今回再読して、物語の中の洪作が引き起こすあれこれを、まるで姉のような・・・母のような?・・・広い心持ちで受け止められたことで感慨にフケたのであった。

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    2009年10月04日
  • おろしや国酔夢譚

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    時は江戸、大黒屋光太夫の漂流記。
    彼はおろしや国(ロシア)で何を見たのか?
    戦後の旧ソ連抑留者を思い起こさずにはいられません。

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    2009年10月04日
  • 夏草冬濤(上)

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    井上靖自伝3部作の2番目。中学時代の多感な年頃が舞台。

    女性というこれまで道の生き物への接し方と刺激的な友人との出会いは、主人公を少年時代からぐっと成長させるが、オトナになりきれないココロとのギャップがまた切ない。

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    2009年10月04日
  • 敦煌

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    淡々とした描写が大陸の歴史の壮大さをかえって引き立たせる。行徳が流れ流れて敦煌にたどり着いたように、大量の経巻も千年の時を越えて現代に届けられる運命にあった。無数の人々が行き交い、悲喜交々の人生があるなかで、何か大きなものの意思によって人間は動かされているのかもしれない。そんな歴史の因果を感じさせる小説だった。

    この小説ではフィクションとして経巻が保存された経緯がドラマチックに描かれているが、これが真実でないとしても、千年以上の昔に保存しようとした人がいたことは間違いないわけで、それだけでも尊い行為だ。何とか自分たちの時代の知識を次の世代へ繋ぎたい、存在していたという証を残したいという人間

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    2025年11月06日
  • 天平の甍

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    唐招提寺に行く予定があるので、予習。

    昔の歴史小説は硬派ですね。
    ドラマチックな場面も淡々と、言い方を変えれば無駄なあおりもなく語られていきます。

    今の作家ならもっとエンタメに寄せるんじゃないかなと思います。そうなると、文庫本3-4冊分くらいはいくんじゃないでしょうか。そんな内容がおよそ200ページに収まっています。エンタメ部分は自分の脳内で膨らませながら読みました。また、中国の人物や地理を調べながらの読書になりました。
    そういうことで、短い小説ですが、結構読むのに時間がかかりました。

    これで唐招提寺参拝を、小説聖地巡礼として行くことができます。

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    2025年10月31日
  • 天平の甍

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    最初が難しくつらかった。中国×歴史×仏教のどの知識もないから。後半鑑真と日本に渡ろうとするあたりからおもしろくなってきた。
    この本は光村の中3の国語の教科書に紹介されているのですが、こんな難しい本読む中3いるでしょうか。

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    2025年10月21日
  • 額田女王

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    小学校6年の時、担任の先生が「この小説はいいで」と言っていたが、50年以上経ってようやく読んだ。小学生の時読んでも、わからなかったと思う(^^) なんちゅー先生や。
    茜さす〜 の歌はあまりにも有名だが、二人の皇子を前にしてすごい歌詠むもんだな、と思っていたけど、その辺の緊迫した状況がとてもリアルに描かれていて、額田女王タダモノでない感強くした。

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    2025年09月23日
  • 天平の甍

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    井上靖の作品は、少ししか読んでこなかった。
    「しろばんば」が一番最初かな。
    歴史ものでは「額田王」と「孔子」。
    「孔子」は自分の孔子のイメージの大方を作っている。
    それ以来だから、20年近くご無沙汰状態だった。

    まず一番印象に残っているのは簡潔な文体。
    今の歴史小説を書く作家さんとはどこか違う。
    今の作家さんなら、万葉集などの古典籍を引用するにしても、必ず訳を添えたり、人物や語り手に言い換えさせたりと読者に配慮するだろう。
    あるいはそもそもそういうものを引用しないとか。
    そういう配慮がまるでないというか、読者もある程度そうしたものを読みこなすだろうという期待があるのか。
    すがすがしいまでの簡

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    2025年09月14日
  • 額田女王

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    ★3.5だがおまけで。
    多分史実に忠実ではないんだろうけど、作品として面白いし想像を掻き立てる。そして教養はあるに越したことはないと改めて痛感す。解釈の深みが格段に変わってくること疑いなし。
    さて、中大兄が結構魅力的に描かれているような気がするのだけれども、どうも人望無きお方のように当方には見えてしまう、この作品を読んでもそう思う。
    そういった人物に惹かれる主人公、微妙なズレを感じなくもなく。でもそれだけこの小説世界に浸って読んだとも言えるかと。

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    2025年09月08日
  • しろばんば

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    児童書版では前半までしかおさめられておらず、ぬい婆との関係など、気になりすぎて購入。

    ぬい婆とのなんてことない「生活」。
    例えば、嵐の夜に握り飯をこさえて、見回りを待つ、みたいなこと。遅いだのなんだの文句を言うけど。

    他人を見回る地縁の「他人事じゃない感覚」や「握り飯ひとつたべなされ、と振る舞う様子」に何か温もりを感じる。

    村の誰が里帰りするだの、その人は出世しただの落ちぶれただのも他人事じゃない。
    主人公とぬい婆が、都会に行くにも帰るにも、筒抜けで、好奇心まんまんで見送り、迎えが来る。それすら他人事ではない。

    後半に、主人公がぬい婆にお土産にした羊羹を、ぬい婆が小さく切って、近所に配

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    2025年08月09日
  • 黒い蝶

    000

    購入済み

    講談社の馬場さん経由

    面白いです。
    ブン屋崩れの頃の話で、芥川賞貰った闘牛とかと同じ頃の作品、お仕事です。
    もちろん色々もっているのですが、もう、盛り盛りと。
    その辺りも楽しい。
    お好みで。

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    2025年08月03日
  • 敦煌

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    約1000年前の、フィクションだけど、時を越えてくる物語。こんな壮大な体験が500円せずに味わえるって、本ってつくづく凄いと思う。中国大陸の奥深さ多様さ無常などを感じました。

    地球儀で見てみると、主人公趙行徳が移り渡ってきた開封から敦煌は、ちょうど北海道から鹿児島くらい。意外にそんなに長くはない、いや長いかとか思ったり。仏教が中国に伝わってきたルートという意味では敦煌〜開封はぜんぜん一部でしかなく、インド〜敦煌もめちゃくちゃ長いし、インド自体もデカいし。あと、シルクロードという捉え方だとさらに長い。丸い地球儀だと中国から中東が見えない、当たり前だけど。

    そんなふうに距離感を確認した上で、改

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    2025年08月01日
  • 楼蘭

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    中国、インド、日本が舞台の物語12編の短編集。
    「薬屋のひとりごと」から西域に興味がわき調べてみると、「楼蘭て実際にあった国の名前なのか」「その楼蘭の小説があるのか」ということで買ってみた本。

    【楼蘭】
    かつてシルクロードの要衝として栄えた楼蘭は、大国や大いなる自然の力に翻弄され滅んでいったまるで蜃気楼のような都市。そこに生きた人々の営み、彼らの想像を超える苦悩と翻弄の歴史、そして悠久の時の流れの中に埋もれていった文明の儚さに深い哀愁とロマンを感じる。

    楼蘭は漢の命により紀元前77年に鄯善と名前を変えて場所を移し、紀元5世紀ころまで続いたようだ。当たり前の事ではあるが、鄯善移住後すぐの世代

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    2025年07月31日
  • あすなろ物語

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    本屋でたまたまこの本に出会った時に、「明日は檜になろう、明日は檜になろう‥」という父の言葉が思い出された。

    そうか、この本だったんだ。

    しかしまあ、呑気に言葉通り受け止めてしまったものだ。まさかこれほど人間の生き物らしさを濃縮した味わい深いものだったとは。

    そしてこの現代においては、「檜になりたい」より「あすなろでありたい」だ。どちらが良いとか、悪いとかそういうことではなくね。

    「あすなろだって良いじゃない。あすなろにも色々あるわよ。」と言わんばかりの人物がたくさん出てきて、それもそれで面白かった。

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    2025年07月29日
  • しろばんば

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    当然ながら大人が書き記したものなので、純粋な子供の視点はあり得ない。でも時代がなせる業なのか、何とも言えないほのぼの感というか人間生活が大きな事件もなく淡淡と、それでいて明確に頭に思い浮かべることができる。
    間違いなくこの作家の力量によるもの。教科書で一部が取り上げられていた記憶もあるし、一度読んだような気もするけれども、改めて読んでみて、現在の作家には書くことのできない時間の流れが本作にはあるなぁと。

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    2025年07月22日
  • 風林火山(新潮文庫)

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    大河ドラマの原作という先入観のせいか、テレビドラマのように、見どころになる要所要所に話がスキップして淡々と進んでるように思えて、つまらないとは思わなかったけど、まぁ読みやすいぐらいに思ってましたが、川中島の戦いに全部が詰め込まれてた。歴史小説だから結果は知ってるはずなのにゾクゾクしました。

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    2025年06月10日
  • 風林火山(新潮文庫)

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    今川義元、織田信長の視座で書かれた小説を読んだ。次なるは武田信玄(晴信)と思い、本書を手に取った。黒田官兵衛、竹中半兵衛と並び称される軍師・山本勘助が主役。彼の目線で中部・関東の戦国の様子が語られる。義元の軍師・雪斎が提唱したといわれる甲相駿三国同盟を、勘助も考えていたという書きぶりが面白い。中部・関東はまさに群雄割拠し過ぎて、天下人が現れなかったと言えるのではないか。特に武田や長尾景虎(上杉謙信)にとっては日本アルプスが大きな障壁になったように感じられた。

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    2025年05月18日
  • 天平の甍

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    大きなものに包まれた小市民の生き方の模索、淡淡とした文体もマッチしている。
    現在も同じなんだろうけれども、いかんせん、大きなものが少なくなってしまったのかなぁ。大きなものって凡民の反映でもあると思うから、そうすると現在の世は懐が浅いのかのぅ。

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    2025年05月09日
  • 孔子

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    「論語」は孔子の死後300年後に出来上がった、と言う。架空の愛弟子蔫薑(えんきょう)が物語る本書のように多くの弟子たちが教えを聞き伝えた事で可能となった書物なのだ。ちなみに約2500年前の中国春秋時代末期に生きた孔子と弟子・思想家が、14年間に及ぶ遊説で人々に教え伝えた思想知恵などを綴った書物である。気になった孔子の詩「60にして耳順う、70にして心の欲する所に従って、矩を踰えず」60歳になったら人の言葉が素直に耳に入ってくるようになり、70歳になると自分の心の欲するように振る舞っても、道を踏み外すようなことは無くなった。即ち、聞くことに素直になると知恵と考えが人生経験から自信に変わる、と言う

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    2025年05月03日
  • 敦煌

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    ものすごくスリリングというわけではなかったけれど、このページ数の短さと登場人物の少なさで大河スペクタクルを描き出しているのは凄いことだと思う。読んでる間よりも読み終わった後の方が満足度が高いこの感じも、まさに「名作」だなという感想。
    個人的なハイライトは、「行徳はこの夜のために、あるいは自分は長く漠地を流歴していたのではなかったかと思った。」(240P)。西田敏行主演の映画もいずれ観るつもりだけど、この感慨は映画じゃ味わえないだろう。間違いなく、読んで後悔のない本ではあった。

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    2025年05月02日