井上靖のレビュー一覧

  • しろばんば

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    当然ながら大人が書き記したものなので、純粋な子供の視点はあり得ない。でも時代がなせる業なのか、何とも言えないほのぼの感というか人間生活が大きな事件もなく淡淡と、それでいて明確に頭に思い浮かべることができる。
    間違いなくこの作家の力量によるもの。教科書で一部が取り上げられていた記憶もあるし、一度読んだような気もするけれども、改めて読んでみて、現在の作家には書くことのできない時間の流れが本作にはあるなぁと。

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    2025年07月22日
  • 風林火山(新潮文庫)

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    大河ドラマの原作という先入観のせいか、テレビドラマのように、見どころになる要所要所に話がスキップして淡々と進んでるように思えて、つまらないとは思わなかったけど、まぁ読みやすいぐらいに思ってましたが、川中島の戦いに全部が詰め込まれてた。歴史小説だから結果は知ってるはずなのにゾクゾクしました。

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    2025年06月10日
  • 風林火山(新潮文庫)

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    今川義元、織田信長の視座で書かれた小説を読んだ。次なるは武田信玄(晴信)と思い、本書を手に取った。黒田官兵衛、竹中半兵衛と並び称される軍師・山本勘助が主役。彼の目線で中部・関東の戦国の様子が語られる。義元の軍師・雪斎が提唱したといわれる甲相駿三国同盟を、勘助も考えていたという書きぶりが面白い。中部・関東はまさに群雄割拠し過ぎて、天下人が現れなかったと言えるのではないか。特に武田や長尾景虎(上杉謙信)にとっては日本アルプスが大きな障壁になったように感じられた。

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    2025年05月18日
  • 天平の甍

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    大きなものに包まれた小市民の生き方の模索、淡淡とした文体もマッチしている。
    現在も同じなんだろうけれども、いかんせん、大きなものが少なくなってしまったのかなぁ。大きなものって凡民の反映でもあると思うから、そうすると現在の世は懐が浅いのかのぅ。

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    2025年05月09日
  • 孔子

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    「論語」は孔子の死後300年後に出来上がった、と言う。架空の愛弟子蔫薑(えんきょう)が物語る本書のように多くの弟子たちが教えを聞き伝えた事で可能となった書物なのだ。ちなみに約2500年前の中国春秋時代末期に生きた孔子と弟子・思想家が、14年間に及ぶ遊説で人々に教え伝えた思想知恵などを綴った書物である。気になった孔子の詩「60にして耳順う、70にして心の欲する所に従って、矩を踰えず」60歳になったら人の言葉が素直に耳に入ってくるようになり、70歳になると自分の心の欲するように振る舞っても、道を踏み外すようなことは無くなった。即ち、聞くことに素直になると知恵と考えが人生経験から自信に変わる、と言うことか。孔子が多くを語った字は「天命」「信」「仁」であり、その行動は不幸な人を助けようとする人への愛情、正しいことへの情熱だったとある。

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    2025年05月03日
  • 猟銃・闘牛

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    虚子自伝に出てきた琵琶湖あたりの描写から、以前に読んだ「比良のシャクナゲ」をぼんやり思い出して再読。井上靖の最初期の短篇3作。根底にある価値観等にどうしても時代(古さ)を感じるところはあるものの、そんなことが気にならなくなるくらい、読ませる力に脱帽。
    「猟銃」はNYで一人三役を演じ切った中谷美紀さんのルポ「オフ・ブロードウェイ奮闘記」を先に読んで知った名作。

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    2025年04月23日
  • 猟銃・闘牛

    購入済み

    井上靖さんの芥川賞作品が読みたくて購入しました。
    特に猟銃は、3人の関わり合いのある女性からの手紙という形式をとっていて面白いと感じました。

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    2025年04月10日
  • 猟銃・闘牛

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    まったく覚えていなかったけれども、孤独感は確かに井上靖の手になるもの。
    「猟銃」の舞台化らしき記事を読んだので久方ぶりに手に取りましたが、井上靖、やっぱええですわい。
    でもあんまり読まれていないのかな、今は。少々残念。
    あと巻末解説の大衆文学に対する見下し感、これってどこか戦前戦後とか言われる時代の空気にマッチしている気がする、決して良い意味で言ってません。はっきり駄目だと思う。
    現在、これに似た空気感が漂っているようで、井上靖のような作家は絶対に必要かなと改めて思う次第で。

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    2025年03月31日
  • 北の海(下)

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    いったい君はいつ台北に行くんだねと思いつついつまでも読み続けていたくなる。この後、台北から金沢へと続く話も読みたかったな。

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    2025年02月27日
  • 楼蘭

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    敦煌から続けて読む。中島敦や芥川龍之介とも似てるけど、昭和になってから書かれているので読みやすい。「異域の人」が一番良かったかな。

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    2025年02月24日
  • 風濤

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     本作は発表当時も、またその後の読者にとっても、極めて読み辛く、評価が困難な作品であったと思われる。
       文学賞こそ受賞しているが、同時代の評価としては  ぐらいである。
     理由としては簡単で小説の結構をとっていない。漢文の書き下し文が現代語訳なしで、そのまま挿入される。200箇所弱に及ぶ編注がつくほど、説明なしに当時のモンゴル語、高麗語の言葉が使用される。これはいったいどういうことか?

     元寇に至るまでを高麗の立場で描く。朝鮮半島の人々に課せられた元による様々な苛斂誅求を辛くもくぐり抜けるが、言うまでもなく2回に及ぶ日本征討は失敗に帰し、高麗の全土は荒野と成り果てる。ここには何も希望も幸福も、肯定的なものは何もない。
     強いて言えば高麗の人々の、逃れることが絶対に不可能な状況での不撓不屈の精神とその行動力である。 
     さらに言えばここには一貫した主人公や中心人物はいない。高麗王は元宗から忠烈王に引き継がれ、その宰相は李蔵用から金  へと引き継がれるが、小説的な意味での主人公とは言い難い。敢えて、そのような人物を探すとすれば、篠田一士もいうように、元皇帝たるフビライ汗ということになるが、彼の人間像は人間的であることを拒否した形で現れている。その意味では、ここにある主人公は歴史そのものとでも言うべきものだ。井上靖はそれを、恐らく相当意識して書いていると思われる。
    煩瑣と思われる元――高麗間の交換文書などが漢文の書き下し文が挿入される。多くの読者はそこを読み飛ばすか、あるいはそのゆえに読書を中途で止めてしまうであろうが、恐らく編集者から同様の指摘を受けたであろうが、井上としては、そこは引き下がれない店だったと思われる。歴史そのものに可能な限り推参するという意味で、是非とも、これらの歴史文書を味読されたい、という作家の意志の表れであろう。
     井上には鴎外の舞姫の現代語訳があるが、何ゆえに、鴎外だろうか、と訝しんだが、鴎外が晩年に至る過程で小説、つまりは作り話から、史伝へと沈潜していったことが井上の意識にはあったのだろう。
     これは、ほぼ前作に当たる『蒼き狼』の存在があると思われる。
     大岡昇平は蒼き狼をして歴史小説に非ずと断じた。要は歴史小説を名乗るのであれば、史料に基づき、史料を改変するなかれ、ということに尽きる。その意味では、そもそも井上靖の書く、いわゆる「歴史小説」なるものは、その大半が歴史小説とは言い難い、単なる時代小説、ということになる。何となれば、そのほとんどが小説的空想力で構成されたものだからだ。
     井上には井上の歴史小説についての一家言があるだろう。しかしながら、井上靖の書く小説に歴史小説や時代小説の区別が真の意味であるだろうか? あるいはそれらと現代小説と境目はあるだろうか? 
     以前、私は、『淀どの日記』をして、現代小説と見なすべきではないのか、と述べたが、それもおかしいかもしれぬ。井上はただ単に小説を書こうとしていただけなのだ。
     とすれば、本作『風濤』は、大岡の批判を受けて、そんなものは幾らでも書ける、これがそうだ、としたのであろうか? 
     これ以降、同種の方法論を、とった作品は見られない。強いて言えば、『おろしあ゙国酔夢譚』がそれだが、時代の差もあってか、『風濤』ほど徹底されていない。
     結局のところ、小説家は必ずしも、その文学的信念に従って作品を、書いているわけではなくて、読者に受け入れられるようなものでないと意味がない、と井上は十分過ぎるほど理解していたに違いない。 
     江藤淳




    とても面白かった。

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    2025年01月23日
  • 天平の甍

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    久しぶりの再読。鑑真和上の来日という歴史的な大事件をベースに、遣唐使の中でも「留学僧」に焦点を当てた名作。解説や感情描写を廃しているところに不満を覚えている読者も多いようだが、むしろ本書はそこが魅力的だ。

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    2025年01月19日
  • 殺意 サスペンス小説集

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    ネタバレ

    短編ですが、どれも読み応えがあります。舞台は昭和のはじめ頃ですが、読みにくくはありません。「ある偽作家の生涯」で、岡山の和気や西大寺が出てきて驚きました。

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    2024年12月11日
  • しろばんば

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    「自伝三部作」の第一弾。著者をモデルとした伊上洪作の小学校時代をえがいた作品です。

    洪作は、両親のもとを離れて、曽祖父の妾だったおぬい婆さんのもとに預けられています。おぬい婆さんは、洪作の母である七重や、彼女の実家の「上の家」の人々に疎んじられており、彼女の愛情は洪作ひとりに注がれます。そのおぬい婆さんも、洪作が六年生のときにこの世を去ります。洪作は中学校への進学を間近にひかえており、彼の少年時代の終わりが訪れるところまでの成長が、洪作自身の視点からたどられています。

    叔母のさき子の結婚と病死、親戚の「かみき」のわがままいっぱいにそだった姉妹に出会ったときの驚き、一つ年上の御料局のあき子という少女との交流などのエピソードとともに、富士山が見える湯ヶ島の山村での生活についての描写も、生き生きとしていておもしろく読みました。

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    2024年11月29日
  • 夏草冬濤(下)

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    自伝的小説。16歳前後かな。三島から沼津の中学へ徒歩通学している。心情が手に取るようにわかりやすく、文章がとても読みやすい。道ですれ違う女子学生が直視できずうつむいてしまう様子やお金持ちのお宅にお呼ばれしたときに靴下を履いてなくて足が真っ黒だったり、気恥ずかしかったりほほえましかったりするエピソードがたくさん。

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    2024年10月28日
  • あすなろ物語

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    古本屋でたまたま手に取った本で、戦前/戦後の青年の生活と心の移ろいを、なんとも自然に綴った物語。伏線回収とか、特徴のあるキャラクターだったり、ドラマのある話とはある意味無縁で、時代背景やその情景までも、そのまま活字に映しているように思え、読み心地が良かった。
    また、どこかクールで冷静な印象の主人公だけに、どの時期にも”女性”が伴走しているところも、特徴。

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    2024年08月08日
  • 利休の死 戦国時代小説集

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    歴史小説の短編集なんだけど、時代や人物が繋がるようになっていて、しかも個人的に好きだけどあまり知られていない人物が取り上げられていて嬉しい。
    信長と桶狭間、多田新蔵と長篠、松永久秀と平蜘蛛、信康と五徳、天正10年元旦、勝頼と北条夫人、龍宝や松姫に菊姫、見性院や真里姫など信玄の子供たち、森蘭丸と本能寺の変、明智光秀と丹波攻め、佐治とお江、そして利休と秀吉がテーマ。利休の死は秀吉とリ利休のみにわかる、2人の対抗心とも呼ぶようなものだったというスタンス。

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    2024年08月08日
  • あすなろ物語

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    自伝ではないが、自伝的作品と言えるのだろう。
    『しろばんば』は、情景描写が素晴らしい美しい作品だが、『あすなろ物語』は哀感が作品全体を貫いている。
    成長の過程や社会へ出ていく中で、檜になりたいのになれない現実の自分をもどかしく思いながら、戦争という時代をも生きていかなくてはならない。生きることは、どうしてこうも切ないのだろう・・・

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    2024年07月17日
  • 猟銃・闘牛

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    蛇であったり、悪人であったり、人の心の奥にあるものを描く。自分の中のそういうものに覚えがあるから理解できる。しかし設定の無理とか不自然さを感じて、三作ともすっきりしないものが残った。

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    2024年05月27日
  • 孔子

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    自分の考えを架空の人物の講演という形でに語らせて偉人伝を書く、という珍しい設定でした。内容は日本史に名を残す大小説家だけあって蘊蓄が深かったです。

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    2024年05月25日