井上靖のレビュー一覧

  • 蒼き狼

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    久しぶりに読んだ井上靖。
    硬質で格調高い日本語がよかった。
    無理に空想を膨らませるのではなく、淡々と、でも見てきたことのようにチンギスカンを描き切る。
    あとがきの、この作を描くに至った経緯が見事。

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    2023年09月03日
  • 額田女王

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    飛鳥時代の万葉歌人、2人の天皇から愛された上になんか挑戦的な歌を詠んだすごい美人、というイメージの額田王。でもこの小説では、それだけではない額田王の姿を描いている。
    2人の男性に翻弄されたり、翻弄したりする恋多き女というイメージ、あるいは、高貴な人に求められたら拒むことのできない身分制度の中の女性の悲哀、というのでもない。もちろん、拒むことができず、奪われ、譲られ、扱われ方に自己を通すことができない悲しみはあるけれど、巫女として絶対に譲れないところを通し続ける凛とした強さが美しかった。
    王朝ロマン文学らしく美しい文体でするする読ませてとても楽しかった。

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    2023年08月31日
  • あすなろ物語

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    ネタバレ

    あすなろの木はUSJのクリスマスシーズンに飾られているクリスマスツリーの木。「明日なろう」と言うのが由来とされている。理想の自分と現実の自分との対比というか描写が面白い

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    2023年08月23日
  • 夏草冬濤(下)

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    主人公が年齢の割に世間知らずでバカ。毎日バカなことばかりしているので、安心して読める癒し系の作品に仕上がっている。
    ハードボイルド文体に近いくらい内面描写に深く立ち入らず、深刻な出来事も起きず、昔のバカなガキの日常系という感じ。すぐ喧嘩して、異性への自意識に煩悶して、年上の女にいいように使われる。サライネス先生あたりが漫画家したらどうだろ。ケロロ軍曹の人でもいいかもしれない。

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    2023年07月31日
  • 天平の甍

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    井上靖(1907~91年)氏は、北海道旭川町(現・旭川市)生まれ、京都帝大文学部哲学科卒の、戦後日本を代表する作家。1950年に『闘牛』で芥川賞を受賞し、社会小説から歴史小説、自伝的小説、風刺小説、心理小説・私小説など、幅広い作品を執筆した。日本芸術院賞、野間文芸賞、菊池寛賞、朝日賞等を受賞。文化勲章受章。
    私は基本的に新書や(単行本・文庫でも)ノンフィクションものを好むのだが、最近は新古書店で目にした有名小説を読むことが増え、本書もその中の一冊である。
    本作品は、名僧・鑒眞(鑑真)の来朝という、日本古代文化史上の大きな事実の裏に躍った、天平留学僧たちの運命を描いた歴史小説で、1957年に刊行

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    2023年03月07日
  • 蒼き狼

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    いきなりだが、ここでワタクシめの「モンゴル」の知識をお披露目しよう

    遊牧民、相撲、元寇、チンギス・ハーン、フビライ・ハーン…
    以上である(ひどい)

    そしてモンゴルのイメージ(失礼を重々承知で…)
    粗野で野蛮な遊牧民…(モンゴルの方、並びに関係者の方、本当にごめんなさい)

    ところが知れば知るほどモンゴルの歴史が面白いではないか
    モンゴル帝国時代の統制力と経済力のレベルの高さ
    力づくだけではない彼らの領土拡大の方法…興味がわく

    先日読んだ「世界史とつなげて学ぶ中国全史」に面白いことが書いてあった
    それは司馬遷の「史記」(匈奴列伝)からの抜粋

    ~匈奴は老人より健康な若者を大切

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    2023年02月16日
  • 額田女王

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    大海人皇子押しの自分にとって、額田女王を横取り?した中大兄皇子は強欲そのものに写ってしまいますね
    他にも嫌いな理由はありますけど…
    ただ、この作品での三角関係は、何故か三人ともいじらしく感じられていいかな

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    2022年12月31日
  • 幼き日のこと・青春放浪

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    「幼き日のこと」は自伝的小説「しろばんば」と対をなすかのうようなエッセイである。事実をもとにしたフィクションがいくつか小説に散りばめられていることがわかり面白い。「青春放浪」も自伝的小説「夏草冬濤」と「北の海」の基になった日々を語っている。著者が幼少期に暮らす年月の少なかった父母との思い出を、その場面毎の絵画として記憶していることが印象的である。

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    2022年12月24日
  • 北の海(下)

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    40年前に読んだものを読み返した。四高柔道部の猛練習のことだけが記憶に残っていたが、今回は、日本海、金沢、犀川、四高生と太平洋、沼津、狩野川、沼中生の対比が味わい深かった。著者の自伝的小説とされているが、洪作の野放図な性格は誇張された創作だろう。それでも楽しく一気に読めた。れい子の心情が切ない。

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    2022年12月15日
  • 夏草冬濤(下)

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    ネタバレ

    伊豆湯ヶ島、浜松を経て三島の親戚宅から旧制沼津中学に通った時期の作者の自伝的小説。奔放で魅力的な友人達との出会いによって、行動範囲と視野が広がってゆく様子が瑞々しく描かれている。当時の中学生が将来を嘱望されたエリートであったことが、日常生活の描写から間接的に伝わってくることも興味深い。続編「北の海」も読みたい。

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    2022年12月10日
  • 天平の甍

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    なんとなく歴史の授業で習った鑑真
    教科書ではさらっとしか習わないのだが、唐から日本へ来るのはやっぱり大変なんだなあ。
    仏教の知識がないので、半分はよくわからなかった。仏教の知識を増やしてから再読したい。
    あと注釈がすごく読みごたえがあります。

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    2022年10月31日
  • 楼蘭

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    ネタバレ

    目次
    ・楼蘭
    ・洪水
    ・異域の人
    ・狼災記(ろうさいき)
    ・羅刹女国(らせつにょこく)
    ・僧伽羅国縁起(そうからこくえんぎ)
    ・宦者中行説(かんじゃちゅうこうえつ)
    ・褒姒(ほうじ)の笑い
    ・幽鬼
    ・補陀落(ほだらく)渡海記
    ・小磐梯(こばんだい)
    ・北の駅路

    表題作を読みたいと、ずっと思っていた。
    中学校の国語の教科書にスウェン・ヘディンの『さまよえる湖』が載っていて、それに関してこの作品を先生から紹介されたので。
    大きくなったら探検家になりたい!と熱い思いを抱かせるヘディンの行動を読んで、この『楼蘭』もさぞや熱い思いがあふれているのだろうと思っていたら、ノンフィクションのルポルタージュか

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    2022年08月10日
  • 敦煌

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    科挙受験中に居眠りをしてしまった趙行徳は全裸で売りに出されている女を救った。対価として女から貰ったボロ布には見たことのない文字が書かれていた。その文字で書かれていることを知ろうと西夏に向かうが途中で遭遇した軍隊に捕まり軍兵の一人とされてしまう。文字の読み書きができることで西夏の武将朱王礼に重用され始めた行徳は彼と共に西夏の将軍李元暠に対し反乱を起こす。何万点という経典や写経が灰塵と化すことを危惧した行徳は反乱前夜に仏教遺跡にそれらを隠し、1900年代に歴史的発見となる。人の生き方は出会によりこうも変わるものかという面白さが光る作品。

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    2022年08月05日
  • 風林火山(新潮文庫)

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    戦国の名武将の影に天才軍師の存在あり。大河を見ていなかったので存在は知ってはいたが読むのは初めて。
    その策略センスは、やはり持って生まれたものなのでしょうと言う事が、信玄の信頼を寄せる様子からよくわかる。各登場人物の感情表現巧みでそれぞれの個性が良く表れていた。由布姫の感情の激しさやそこに惹かれる勘助の心情と言った場面はこの物語の面白さの一つでしょう。
    勘助の最期のシーンは、臨場感あり、映像的で迫力ある印象的なものでした。

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    2022年06月19日
  • 天平の甍

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    第9次遣唐使に同行する留学僧として渡唐し仏典を学び、日本に戒律を広めるために鑑真大和上と共に何度も難破の苦難を乗り越え、渡日(帰国)を果たした僧普照を主人公とした物語。日本のために反省をささげ、天平時代の幕開けに大きな役割を果たした留学僧たちの苦労の記録。

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    2022年06月17日
  • 楼蘭

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    ネタバレ

     楼蘭の1つの国の趨勢、異域の人の班超の生涯、宦者中行説の匈奴で得た夢、何れも真に迫っていて、そこに西域や匈奴の風土を感じるかの様でした。班超が歿する前、故国に西域との繋がりを見、彼が「胡人」と呼ばれた描写には、彼の一生の軌跡が表れている様に思います。

     狼へと変わった陸沈康とカレ族の女が出る狼災記、羅刹の棲む島を書いた羅刹女国では、言い伝えや伝承を基にした不可思議な出来事が現実味を帯びて書かれていて惹かれました。狼災記で狼となった2人が、獣の掟に従い獣として生きる様が、人の姿を喪い人で無くなった彼等が、既に人としての生き方が出来ないのだと訴えかけて来ている様に思われました。

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    2022年06月11日
  • 風林火山(新潮文庫)

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    武田信玄の天才軍師、山本勘助が主人公
    勘助が信玄に仕える場面〜川中島の合戦の途中(途中な理由は読めばわかります)までの歴史物語

    勘助の成りは異形が理由で今川義元に召し抱えようとされなかったほど…
    色黒で背が低く眼はすがめでちんば、指も1本ない
    知恵だけが彼の人生を支えた
    永く浪人だったがその知恵を活かし、武田晴信(信玄)の仕官となる
    晴信はそんな異形の勘助を気に入る
    常に孤独で人から疎まれてきた勘助
    勘助自身も人を人とも思わない非人情な男だった
    しかし自分を召し抱えてくれた晴信だけはこの世で唯一好感を持った
    いつしか晴信のためなれ命も惜しくないと思うように…
    晴信もまた、勘助に信頼を寄せ、周

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    2022年06月04日
  • あすなろ物語

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    『あすは檜になろう』としてなれない翌檜(あすなろう)の木のように生きる主人公とそれをとりまく人々の生きる様が、叙情的で美しい文章で綴られている。
    主人公の幼少期から壮年期まで各年代毎に影響を与えた女性や友人などの人物たちが、それぞれの個性を持って描かれ、主人公が成長していく。
    戦中戦後、人が抱く志や願いは移り変わっていくが、一貫して『翌檜の木』の思いが根底として存在しているところに、この物語の切なさ、純粋さ、暖かさ、寂寥感。。などなどが感じられ、何とも言えず心に沁みる読後感でした。

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    2022年05月03日
  • わが母の記

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    井上靖初読、映画は過去、樹木希林氏ご逝去の直後に観ていた。
    著者の母が老い、主に認知症を進行させていく様を長男の立場でありながら極めて客観的に描く。

    耄碌していく母は少女性を復活させ、我儘な振舞いを見せる。
    人は歳を取る毎、ある一定の年齢を経ると子供へ還っていくと言うが、彼女の場合は無垢と狡猾がせめぎ合っている様だった。

    淡々とした文章は、殆ど悲哀を介在させぬ。
    靖自身はあくまで物書きとして実母を観察・取材していたのだ、と思う。
    「全身小説家」と自称した井上光晴のみならず、近代の作家にはこう言ったタイプが多く見られる。
    樹木氏は映画の見所を訊かれる事に辟易としていたが(没後展覧会の映像より

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    2022年01月16日
  • あすなろ物語

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    「あすは檜になろう、あすは檜になろうと一生懸命かんがえている木よ。でも、永久に檜にはなれないんだって!それであすなろうというのよ」
    あすなろうは翌檜と書く
    これは大人の童話である

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    2021年11月28日