井上靖のレビュー一覧
-
ネタバレ
歴史小説のお手本。
もう何度も読んだのに、やっぱり手元に持っていたくて、電子書籍にて購入しました。
一応大河ドラマの原作扱いに成っていますが、余りそこには拘らなくて良いかと思います。
自分の武田好きは、中井貴一さんの方の『武田信玄』から始まっているのですが、ドラマ先行で原作を読んだせいか、新田次郎と云う作家の感性とはちょっと合わない部分を感じました。
その後の『武田勝頼』も読みました。
「つまらない」「嫌い」というのではなく、「合わないなぁ」という感じです。
と云う訳で本書は、初め殆ど期待せずに読んだのですが、この文量でこの物語の芳醇さは何処から出てくるのか、本当に唸らされました。
決して -
Posted by ブクログ
いや何とも面白くそして悲しい史実に基づいた物語だった。江戸時代に、商船が難破してロシアに流れ着いた船員たちが一人欠け、二人欠けしながら10年近くかけてようやく光太夫と磯吉の二人だけが日本に帰り着いたという話。
ところが話はそこでは終わらない。ようやく帰り着いた日本で、二人は故郷の伊勢に戻ることが許されず江戸で不自由な後半生を送ったという。日本に帰り着いた際の日本側の対処やその後の二人の半生を知るだに、この国って昔から狭量だったんだなあと思うばかり。ロシア正教に帰依してロシアに残ることになった庄蔵と新蔵のほうがある意味、思い切れて幸せに生きたかもしれない。
もともとは十数人だった船員たち。十人十 -
Posted by ブクログ
実際にあった出来事の、ロシア革命より更に前の18世紀。
江戸時代の伊勢から漂流した船に乗った人々が
ロシアという異国で10年どう生きたかどう感じたかをまとめた歴史小説。
極寒の異国地に漂流し、そこから更に色んな箇所へ移動され
亡くなる人やロシアに帰依する人や、それでも日本に戻る為に最善を尽くす人がいて
当時のロシア女帝エカチェリーナ2世との対面まで行ったのに
やっとの思いで、いざ日本に着けばなんかものすごく虚しい。
虚しさというより空虚、何だったのだろうか今までの体験はって思い知らされた。
全く通じない言葉とか身振り手振りだったり、それでも色んな仕事を手伝いたいとか
自分らは漂流したとはいえ、 -
Posted by ブクログ
ネタバレ高僧を日本に連れてくる使命を受け、遣唐船に乗って普照ら若い僧4人は荒れる海を渡り、唐に留学した。無事に帰国できるか、何者かになれるかもわからない。4人僧の、そして写経に没頭する貧相な中年の日本人僧の運命は…
史実の詳細が物語のスケールの大きさを感じさせてくれます。仏教の用語や唐の時代の中国の地名が多く、1ページ目を開いた瞬間くじけそうになりましたが、地図をみながら主人公たちの足取りをたどりながら読み進めました。
くじけそうな人はネタバレを読んでから本を読んだ方がいいかもしれません。
学ぶことって何だろう。自分にできることってなんだろう。人の価値観ってなんだろう。
考えさせてくれます。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ作中には、伊豆の景色や子どもたちの遊びなど、共通点のある光景が多く登場する。
小学生時代を伊豆で過ごしていた作者の記憶が、元になっているのだろうなと思った。
どの作品も視線が優しく、懐かしい感じがした。
田舎に住む少年の感情の動きが瑞々しく、私にとっては眩しさのようなものも感じた。
好きな作品ばかりだったが、特に好きだった作品の感想を書き留めておく。
『少年』
語り手は、自分が田舎の村の小学生だった頃を思い出していく。
村にやって来た都会の子どもたちへの憧れや羨ましさ、反抗的な気持ちを、否定せずに一つ一つ言葉にしていく姿に優しさを感じた。
息子たちを一ヶ月間田舎で生活させた際、東京で生まれ -
Posted by ブクログ
鮎太が出会う人々みんなが鮎太という人をつくっていく。一人一人の存在が愛しく感じました。
あすは檜になろうと願うがなれない…。何がとは上手く言えないけどこの大きなテーマがやっぱり節々に見えて、切なく、優しい気持ちになりました。
この物語の登場人物たちはみんな何者かになろうとしていますが、鮎太が所々で言うように、そのもがく姿こそが"美しい”。
登場する女性たちみんなが輝いている!そんな人達が鮎太が一生抱えていくことになる寂しさとか愛しさとかそういうものを植え付けていく。良かった…。
鮎太を通して作者の人に対する愛をひしひしと感じることができる、とても心に染みる作品でした。
-
Posted by ブクログ
教科書で読んだ名作。
文豪の時点的作品。幼少時代、軍医の父の赴任先でなく一人父の故郷、伊豆は下田街道沿いの湯ヶ島で曽祖父の妾のおぬい婆さんと土蔵で暮らす。
題名のしろばんばという白い虫を追いかける風景を始め、筆者の原風景と少年の成長が伊豆の景色景色と合わせて描かれる。
おぬい婆さんの死、少年は中学受験を控え故郷を離れ父母の赴任する浜松へ向かう。それは少年期の終わりでもある。
昔教科書で一部分は読んだことのある作品。おぬい婆さんに甘やかされながら少しずつ広がっていく世界、敬愛する姉のような存在の叔母の死、初恋など見事に描かれる。正に名作。
中年以降、人生の折り返し点を過ぎて読むとなおさ -
Posted by ブクログ
井上さんの幼少期を描いたとして非常に有名な作品です。
大正時代の日常生活の様子が非常によくわかり、人と人との付き合い方が、主人公の洪作の目線、感情を通して描かれている部分が非常に興味深かったです。日常の一コマ一コマが描かれているのですが、洪作とおぬい婆さんの生活、やり取りが読み手を大正時代に引き込みます。あるいは、自分自身が幼少期だった頃の記憶へと導いていきます。
実際、自分自身も今は亡き大好きだった祖母を思い出しました。幼少期の夏休みに祖母の家で過ごしたこと、一緒に布団を並べて寝たことなど、大きな出来事ではなく、何でもない、ちょっとした祖母とのことを鮮明に思い出していました。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ63年も前の本。イギリスのボーイソプラノ合唱団Liberaが歌う「彼方の光」という美しい曲を今度演奏することになり、2006年のNHKドラマ「氷壁」の主題歌として作られた曲ということで、ドラマは観たことが無かったのでその原作はどんなだろうと興味を持って読んでみた。
山を愛する魚津と小坂という2人の男が中心となって話は進む。2人で雪山登山中にナイロン・ザイルが切れて滑落した小坂は亡くなってしまい、失意の中日常に戻った魚津は切れるはずのないナイロン・ザイルが何故切れたのかという追究を始める。行われた再現実験ではザイルは切れず、世間では2人の技術的な問題があったかどちらかが故意に切ったという憶測が -
Posted by ブクログ
それぞれの信じた道を進んだ結果が人生だが、その結果は自然や時の流れといった抗いようのないことに大きく影響される。はるか昔に起こった出来事だが、海を隔てて命がけで行き来した遣唐使という特殊な環境だからこそ浮かび上がる人生の真相がある。鑑真という人物に興味をもちながら今まで手にしてこなかった天平の甍であったが、読み終わった今、改めてそのことに想いを馳せている。時の流れの中に折り重なって刻まれている幾多の物語の結果として今私はここにいるのであるが、きっとこの本に出て来た人たちと同じように流れに飲み込まれながら自分の物語を紡いて時の流れの彼方に消えて行くのだろう。読む人の年代によって捉え方が変わる小説
-
Posted by ブクログ
米子市の「アジア博物館・井上靖記念館」を訪れた折、購入した本の内の一冊が「わが母の記」だった。「母」という存在は年齢を重ねれば重ねるほど大きく、そして、感謝の度合いも深まってくるものだ。その恩の最たる存在である「母」を井上靖はどんなふうに書き記しているのだろう、という思いから読み始めた。最初の方に父との最後の思いが書いてあったが、さもありなん、男同士というのは、そのようなものだろうということを感じ、自分も息子達からそのような思いを抱かれながら、この世を去っていくのだろうという思いを持った。
主題は「母」。「母」の脳が次第に壊れていくにつれ、記憶がどんどん消されていって、しまいに幼児、赤ちゃん