井上靖のレビュー一覧

  • あすなろ物語

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    「あすは檜になろう!あすは檜になろうと一生懸命考えている木よ。でも永久に檜にはなれないんだって!それであすなろと言うのよ」(新潮文庫、47p)井上の自伝的小説といわれているこの作品は、あすなろとしての梶鮎太を時系列で描いていた。特に3-5章の出世する友人やライバルへの葛藤をあらわす「あすなろ」や、第6章の自分を貫く「あすなろ」は自分の価値観とも合わせて、こんなこと考えてしまうなと読み進めていた。でも第6章にあるように、今はあすなろで溢れているけど真のあすなろは?そう考えてみると少ないかもしれない。

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    2022年05月09日
  • 風林火山(新潮文庫)

    ネタバレ

    歴史小説のお手本。

    もう何度も読んだのに、やっぱり手元に持っていたくて、電子書籍にて購入しました。

    一応大河ドラマの原作扱いに成っていますが、余りそこには拘らなくて良いかと思います。

    自分の武田好きは、中井貴一さんの方の『武田信玄』から始まっているのですが、ドラマ先行で原作を読んだせいか、新田次郎と云う作家の感性とはちょっと合わない部分を感じました。
    その後の『武田勝頼』も読みました。
    「つまらない」「嫌い」というのではなく、「合わないなぁ」という感じです。

    と云う訳で本書は、初め殆ど期待せずに読んだのですが、この文量でこの物語の芳醇さは何処から出てくるのか、本当に唸らされました。
    決して

    #泣ける #アツい #感動する

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    2022年04月18日
  • 天平の甍

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    我が国の元祖国費留学生達の使命感と壮絶な人生に圧倒された。若い人、特にこれから留学する人達には是非読んでほしい。
    それにしても、鑑真和上の不屈の意志にはただただ頭が下がる。歴史の教科書でサラッと語られている苦難の渡日がこれほどのものだったとは。「偉人の偉さ」を改めて感じることができる良著です。

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    2022年04月18日
  • おろしや国酔夢譚

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    いや何とも面白くそして悲しい史実に基づいた物語だった。江戸時代に、商船が難破してロシアに流れ着いた船員たちが一人欠け、二人欠けしながら10年近くかけてようやく光太夫と磯吉の二人だけが日本に帰り着いたという話。
    ところが話はそこでは終わらない。ようやく帰り着いた日本で、二人は故郷の伊勢に戻ることが許されず江戸で不自由な後半生を送ったという。日本に帰り着いた際の日本側の対処やその後の二人の半生を知るだに、この国って昔から狭量だったんだなあと思うばかり。ロシア正教に帰依してロシアに残ることになった庄蔵と新蔵のほうがある意味、思い切れて幸せに生きたかもしれない。
    もともとは十数人だった船員たち。十人十

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    2022年03月12日
  • 蒼き狼

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    #875「蒼き狼」
     横山光輝の漫画を先に読んでしまつたが、アレはやはり漫画だけあつて成吉思汗をヒーロー的に描いてゐました。内容は同じながら、井上靖の筆致はもつとハードボイルドで突き放した感じがしました。

     著者は元元蒙古民族の興隆を書くつもりだつたのが、成吉思汗といふ一個人にスポットを当てたのは、何より彼自身が蒙古民族の興隆そのものを具現化した人物だつたからだといふ。成程、桁外れの凄い人物ではあります。現在の視点で「英雄」と呼べるのかどうか知りませんが、時代も土地も全く違ふわたくしどもが云々しても詮無い事なのでせうね。

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    2022年02月09日
  • おろしや国酔夢譚

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    実際にあった出来事の、ロシア革命より更に前の18世紀。
    江戸時代の伊勢から漂流した船に乗った人々が
    ロシアという異国で10年どう生きたかどう感じたかをまとめた歴史小説。
    極寒の異国地に漂流し、そこから更に色んな箇所へ移動され
    亡くなる人やロシアに帰依する人や、それでも日本に戻る為に最善を尽くす人がいて
    当時のロシア女帝エカチェリーナ2世との対面まで行ったのに
    やっとの思いで、いざ日本に着けばなんかものすごく虚しい。
    虚しさというより空虚、何だったのだろうか今までの体験はって思い知らされた。
    全く通じない言葉とか身振り手振りだったり、それでも色んな仕事を手伝いたいとか
    自分らは漂流したとはいえ、

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    2022年01月20日
  • 敦煌

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    とっても好きな本。
    主人公が好き勝手世界史を放浪する。妻子を持たずにいることが推しポイント。
    夢に向かってひたすら突き進むことができて楽しそう。
    所属や見た目にどうしても囚われてしまう女にとって、こういう自由な生き方に憧れるし羨ましく思う。

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    2022年01月09日
  • 天平の甍

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    ネタバレ

    高僧を日本に連れてくる使命を受け、遣唐船に乗って普照ら若い僧4人は荒れる海を渡り、唐に留学した。無事に帰国できるか、何者かになれるかもわからない。4人僧の、そして写経に没頭する貧相な中年の日本人僧の運命は…

    史実の詳細が物語のスケールの大きさを感じさせてくれます。仏教の用語や唐の時代の中国の地名が多く、1ページ目を開いた瞬間くじけそうになりましたが、地図をみながら主人公たちの足取りをたどりながら読み進めました。

    くじけそうな人はネタバレを読んでから本を読んだ方がいいかもしれません。

    学ぶことって何だろう。自分にできることってなんだろう。人の価値観ってなんだろう。
    考えさせてくれます。

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    2023年12月06日
  • しろばんば

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    ネタバレ

    日常がたんたんと綴られている

    洪作とおぬい婆のやりとりが、昔の日本の日常 という感じで心地よい
    強気な婆さんも、亡くなる数年前には人格が丸くなっていく
    人間とは という感じで読んでいて凄く心地が良かった

    昔から長く愛され続ける本って、言葉が分かりやすくて変なトリックがなくて人間味が溢れている
    素敵だなと思った

    豊橋の黄色いぜリィ食べてみたい
    今度買おう。

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    2021年09月01日
  • 晩夏 少年短篇集

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    ネタバレ

    作中には、伊豆の景色や子どもたちの遊びなど、共通点のある光景が多く登場する。
    小学生時代を伊豆で過ごしていた作者の記憶が、元になっているのだろうなと思った。
    どの作品も視線が優しく、懐かしい感じがした。
    田舎に住む少年の感情の動きが瑞々しく、私にとっては眩しさのようなものも感じた。

    好きな作品ばかりだったが、特に好きだった作品の感想を書き留めておく。

    『少年』
    語り手は、自分が田舎の村の小学生だった頃を思い出していく。
    村にやって来た都会の子どもたちへの憧れや羨ましさ、反抗的な気持ちを、否定せずに一つ一つ言葉にしていく姿に優しさを感じた。
    息子たちを一ヶ月間田舎で生活させた際、東京で生まれ

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    2021年08月11日
  • 晩夏 少年短篇集

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    自身が経験した夏ではないのに懐かしいと感じるのはなぜだろう。少年時代の感覚が鮮やかに蘇る。ノスタルジア溢れる名作。

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    2021年08月05日
  • 敦煌

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    壮大なスケール。この作品の主役は悠久なる時間と歴史、季節のように移り変わる民族の栄枯盛衰。
    素晴らしいの一言。

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    2021年07月07日
  • あすなろ物語

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    鮎太が出会う人々みんなが鮎太という人をつくっていく。一人一人の存在が愛しく感じました。
    あすは檜になろうと願うがなれない…。何がとは上手く言えないけどこの大きなテーマがやっぱり節々に見えて、切なく、優しい気持ちになりました。

    この物語の登場人物たちはみんな何者かになろうとしていますが、鮎太が所々で言うように、そのもがく姿こそが"美しい”。

    登場する女性たちみんなが輝いている!そんな人達が鮎太が一生抱えていくことになる寂しさとか愛しさとかそういうものを植え付けていく。良かった…。

    鮎太を通して作者の人に対する愛をひしひしと感じることができる、とても心に染みる作品でした。


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    2021年06月15日
  • しろばんば

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    教科書で読んだ名作。

    文豪の時点的作品。幼少時代、軍医の父の赴任先でなく一人父の故郷、伊豆は下田街道沿いの湯ヶ島で曽祖父の妾のおぬい婆さんと土蔵で暮らす。

    題名のしろばんばという白い虫を追いかける風景を始め、筆者の原風景と少年の成長が伊豆の景色景色と合わせて描かれる。

    おぬい婆さんの死、少年は中学受験を控え故郷を離れ父母の赴任する浜松へ向かう。それは少年期の終わりでもある。

    昔教科書で一部分は読んだことのある作品。おぬい婆さんに甘やかされながら少しずつ広がっていく世界、敬愛する姉のような存在の叔母の死、初恋など見事に描かれる。正に名作。

    中年以降、人生の折り返し点を過ぎて読むとなおさ

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    2021年03月08日
  • しろばんば

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    井上さんの幼少期を描いたとして非常に有名な作品です。

    大正時代の日常生活の様子が非常によくわかり、人と人との付き合い方が、主人公の洪作の目線、感情を通して描かれている部分が非常に興味深かったです。日常の一コマ一コマが描かれているのですが、洪作とおぬい婆さんの生活、やり取りが読み手を大正時代に引き込みます。あるいは、自分自身が幼少期だった頃の記憶へと導いていきます。
    実際、自分自身も今は亡き大好きだった祖母を思い出しました。幼少期の夏休みに祖母の家で過ごしたこと、一緒に布団を並べて寝たことなど、大きな出来事ではなく、何でもない、ちょっとした祖母とのことを鮮明に思い出していました。

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    2021年02月13日
  • 氷壁

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    ネタバレ

    63年も前の本。イギリスのボーイソプラノ合唱団Liberaが歌う「彼方の光」という美しい曲を今度演奏することになり、2006年のNHKドラマ「氷壁」の主題歌として作られた曲ということで、ドラマは観たことが無かったのでその原作はどんなだろうと興味を持って読んでみた。

    山を愛する魚津と小坂という2人の男が中心となって話は進む。2人で雪山登山中にナイロン・ザイルが切れて滑落した小坂は亡くなってしまい、失意の中日常に戻った魚津は切れるはずのないナイロン・ザイルが何故切れたのかという追究を始める。行われた再現実験ではザイルは切れず、世間では2人の技術的な問題があったかどちらかが故意に切ったという憶測が

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    2020年12月02日
  • 天平の甍

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    それぞれの信じた道を進んだ結果が人生だが、その結果は自然や時の流れといった抗いようのないことに大きく影響される。はるか昔に起こった出来事だが、海を隔てて命がけで行き来した遣唐使という特殊な環境だからこそ浮かび上がる人生の真相がある。鑑真という人物に興味をもちながら今まで手にしてこなかった天平の甍であったが、読み終わった今、改めてそのことに想いを馳せている。時の流れの中に折り重なって刻まれている幾多の物語の結果として今私はここにいるのであるが、きっとこの本に出て来た人たちと同じように流れに飲み込まれながら自分の物語を紡いて時の流れの彼方に消えて行くのだろう。読む人の年代によって捉え方が変わる小説

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    2020年08月16日
  • 蒼き狼

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    自分がテムジンになったような感覚で惹きつけられながら入り込んで読めた。いつかチンギスが馬で走り回った草原の風を感じたいと思いました。

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    2020年07月31日
  • わが母の記

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     米子市の「アジア博物館・井上靖記念館」を訪れた折、購入した本の内の一冊が「わが母の記」だった。「母」という存在は年齢を重ねれば重ねるほど大きく、そして、感謝の度合いも深まってくるものだ。その恩の最たる存在である「母」を井上靖はどんなふうに書き記しているのだろう、という思いから読み始めた。最初の方に父との最後の思いが書いてあったが、さもありなん、男同士というのは、そのようなものだろうということを感じ、自分も息子達からそのような思いを抱かれながら、この世を去っていくのだろうという思いを持った。
    主題は「母」。「母」の脳が次第に壊れていくにつれ、記憶がどんどん消されていって、しまいに幼児、赤ちゃん

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    2020年06月18日
  • 天平の甍

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    鑑真来日に尽力した留学僧や同時に唐へやって来た僧侶たちの小説
    漢字だらけな割に読みやすい
    人生色々、皆違って皆いいと感じました

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    2020年04月01日