井上靖のレビュー一覧
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10代の頃大好きだった作家だが、この作品は未読だった。晩年に書かれた最後の長編だそうだ。とにかく紡ぎ出される言葉の美しさ。そこに書かれる孔子への限りない憧憬。儒教に対して断片的な知識しかない私にとっては、堅苦しく、封建社会の人々を縛る規範となった哲学、という印象が強かった。孔子の言葉の数々をこれほどあたたかく人間的に解釈し、美しい理想を求める真摯な人間として描いたこの小説を読んで、もうちょっと儒教のことをよく知ってみたい、という気持ちがある。
考えて見ると、イエス・キリストとキリスト教の関係と似たようなもので、本人はもっと柔軟に、しなやかな教えを説いていたのに、後々の人々によってその教えは変わっていったのかもしれない、などと思ったりもしたのだった。
何度か読み返したい美しい作品。その文体だけでも陶然となる美しさだ。 -
Posted by ブクログ
偉大なる青春讃歌に感動した。
当初は高専柔道、七帝柔道の事がメインと思って読み始めたのだが。
人生とは、青春とは、友人とはそして柔道とは。
少し青臭くなるけれどもう一度考えるきっかけになるかもしれない。
もっと若いうちに読んでおけば人生の、特に青春時代の過ごし方ももっと深い物になっていたのではないかと悔やまれる。
同じような思いをしたのが「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったか」を読んだ時。この本ももっと早く読む機会があったら自分の柔道も変わっていたことだろうととても悔やまれたから。
上記二冊、これから青春を迎える全ての若い人、青春まっただ中の人、振り返らなければ青春が見えなくなった人、そして特に柔道が好きな人にはぜひ読んでみてもらいたいと思います。 -
Posted by ブクログ
四人(平信範・建春門院中納言・吉田経房・九条兼実)の同時代人を語り手に
保元・平治の乱から晩年にいたる後白河院の姿を浮かび上がらせていく。
文章生出身の蔵人、院の女御の女房(俊成の娘にして定家の姉)、硬骨な近臣、
院に疎まれていた右大臣のそれぞれの立場に即した語りの内容や口吻も巧み。
話者の一人はこれまで陰気にくすぶっていた皇室や公卿たちの対立が、
武士たちの合戦であっという間に片が付いてしまうことに素直に驚き、
世人の心に小気味よさが萌したと付け加える。
その武士たちも歯が立たない信西入道さえその自害の原因を院の心が離れたからと推測する。
このような時代に実力者の器量を確かめ使い方を考えてでもいるように凝視する後白河院。
そこにひんやりとしたものを覚えるが、それは冷酷さというよりも、
むしろ誰にも心の内を打ち明けることが出来ない帝王の孤独といったものだろうか。
院は公卿朝臣が日和見で役には立たないこと、そして自身も武家の力を借りなければ
ならないことを十分に承知している。だからといって屈服するわけではない。
四人が語り終えても何か得体の知れない不気味さが残りはする。 -
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キリル・ラックスマンが好きすぎて、思わず手を出してしまった1冊。
両親の実家が三重県鈴鹿市白子なので、その影響もありました。
現代においても海外に行くにはそれなりの準備を要するのに、漂流と形で辿り着いた異国に対する恐怖と驚きが巧みに描写されています。
個人的には、江戸に帰ってきた光太夫と磯吉が、日本の窮屈さに嘆いてロシアを恋しく思うシーンが印象的でした。
広い世界を知ったからこそ感じる、鎖国日本の視界の狭さ。
日本の土を踏んでも自由は与えられず、思わずロシア語で会話する二人には涙しました。
なぜ日本に帰りたかったのか、という光太夫の問い掛けに
「ラックスマンがあまりにも日本の石や植物を見たいと言っていたから」
と答えた磯吉。
純粋に日本に訪れたかったラックスマンの思いを汲み取った一言だと思います。
鎖国の罪深さを表したシーンでした。 -
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ネタバレ「若しもこの世に変らない人があるとすれば、それは後白河院であらせられるかも知れない。左様、後白河院だけは六十六年の生涯、ただ一度もおかわりにならなかったと申し上げてよさそうである。」
「院はご即位の日から崩御の日まで、ご自分の前に現れて来る公卿も武人も、例外なくすべての者を己が敵としてごらんにならなければならなかったのである。誰にも気をお許しになることはできなかった。」
(本文、第四部より、各々一部引用)
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朝廷内の不和、摂関家の内部争い、武士の台頭、平家滅亡と源氏台頭...平安末期の動乱の時代に、まるで一本の太い幹のようにひたすらそこにあり続けた存在、雅仁親王(後白河院)。大天狗とまで称された後白河院の生き様を、院の周囲の4人の人物の語りによって描くという手法が、非常に効果的に機能している。おそらく院自らがその生涯の上で何かを働きかけたわけではなく、周囲の皇族たちが、摂関家の人間たちが、平家の思惑が、源氏の思惑が、後白河院という人物に対して幾重もの光を当て続け、そのことで背後に幾重もの大きな影を造り出していたのではないか。本書を読んでいると、後白河院自身は一度も語らないものの、いつのまにか院の姿が立体的に浮かび上がってくる心持ちがする。それこそが、後白河院という人物の本質なのかもしれない。
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永井路子の「王朝序曲」(藤原冬嗣の視点を通して、桓武帝・平城帝・嵯峨帝の生き様を描いた小説)と系統は似ていますが、客観的な視点(語り手である4人の人物の主観的な視点を、外から読み進めることで、読み手は常に批判的な立場をもって後白河院の姿を客観視することが可能となる)の積み重ねで立体的な人物像を生み出す、井上靖の綿密に構築された見事な構成による、渋い味わいのある作品。
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井上靖の歴史短編小説集。
1:楼蘭
2:洪水
3:異域の人
4:狼災記
5:羅刹女国
6:僧伽羅国縁起
7:宦者中行説
8:褒ジ(女以)の笑い
【ここまでは中国西域の説話】
9:幽鬼
10:補陀落渡海記
11:小磐梯
12:北の駅路
【ここまでは日本の説話】
12話と盛りだくさんです。
通勤途中に1〜2話/日に読み進めるのに丁度よいです。
彼の作風が自分に合うかどうか試したい方に、お勧めの一冊。
人間の感情描写やその表現の細やかさに、
二千年前の楼蘭人や西域の人々の息づかいがそのまま
立ち上ってくるような錯覚を覚えます。
とにかく、お勧めの一冊です。
読み返した数少ない小説の一つです。 -
Posted by ブクログ
「幼き日のこと」「青春放浪」「私の自己形成史」収録。
「幼き日のこと」には大正時代の農村の生活が詳細にユーモラスに登場する。
おばあちゃんの昔話を聞いているような感覚!祖母亡き今、もっとちゃんと話を聞いておけばよかったという後悔を、少し軽くしてくれる。
実際の出来事が起こった順番を、自伝的小説「しろばんば」では変えたという創作背景も触れられていて、面白い。
全体を通じて、自分にまつわる事柄が淡々と語られている調子が、なんというか、気持ちいい!
延々と自分について語るくどさのようなものが、まったく無いのだ。
ふと、今の自分が作られた背景にどんな出来事が起きてきたか、どんな人との出会いがあったのか・・・などなど考えたくなります。