井上靖のレビュー一覧
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四人(平信範・建春門院中納言・吉田経房・九条兼実)の同時代人を語り手に
保元・平治の乱から晩年にいたる後白河院の姿を浮かび上がらせていく。
文章生出身の蔵人、院の女御の女房(俊成の娘にして定家の姉)、硬骨な近臣、
院に疎まれていた右大臣のそれぞれの立場に即した語りの内容や口吻も巧み。
話者の一人はこれまで陰気にくすぶっていた皇室や公卿たちの対立が、
武士たちの合戦であっという間に片が付いてしまうことに素直に驚き、
世人の心に小気味よさが萌したと付け加える。
その武士たちも歯が立たない信西入道さえその自害の原因を院の心が離れたからと推測する。
このような時代に実力者の器量を確かめ使い方を考え -
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キリル・ラックスマンが好きすぎて、思わず手を出してしまった1冊。
両親の実家が三重県鈴鹿市白子なので、その影響もありました。
現代においても海外に行くにはそれなりの準備を要するのに、漂流と形で辿り着いた異国に対する恐怖と驚きが巧みに描写されています。
個人的には、江戸に帰ってきた光太夫と磯吉が、日本の窮屈さに嘆いてロシアを恋しく思うシーンが印象的でした。
広い世界を知ったからこそ感じる、鎖国日本の視界の狭さ。
日本の土を踏んでも自由は与えられず、思わずロシア語で会話する二人には涙しました。
なぜ日本に帰りたかったのか、という光太夫の問い掛けに
「ラックスマンがあまりにも日本の石や植物を見 -
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ネタバレ「若しもこの世に変らない人があるとすれば、それは後白河院であらせられるかも知れない。左様、後白河院だけは六十六年の生涯、ただ一度もおかわりにならなかったと申し上げてよさそうである。」
「院はご即位の日から崩御の日まで、ご自分の前に現れて来る公卿も武人も、例外なくすべての者を己が敵としてごらんにならなければならなかったのである。誰にも気をお許しになることはできなかった。」
(本文、第四部より、各々一部引用)
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朝廷内の不和、摂関家の内部争い、武士の台頭、平家滅亡と源氏台頭...平安末期の動乱の時代に、まるで一本の太い幹のようにひたすらそこにあり続けた存在、雅仁親王(後白河院)。大天狗 -
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井上靖の歴史短編小説集。
1:楼蘭
2:洪水
3:異域の人
4:狼災記
5:羅刹女国
6:僧伽羅国縁起
7:宦者中行説
8:褒ジ(女以)の笑い
【ここまでは中国西域の説話】
9:幽鬼
10:補陀落渡海記
11:小磐梯
12:北の駅路
【ここまでは日本の説話】
12話と盛りだくさんです。
通勤途中に1〜2話/日に読み進めるのに丁度よいです。
彼の作風が自分に合うかどうか試したい方に、お勧めの一冊。
人間の感情描写やその表現の細やかさに、
二千年前の楼蘭人や西域の人々の息づかいがそのまま
立ち上ってくるような錯覚を覚えます。
とにかく、お勧めの一冊です。
読み返した数少ない小説の一つです -
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「幼き日のこと」「青春放浪」「私の自己形成史」収録。
「幼き日のこと」には大正時代の農村の生活が詳細にユーモラスに登場する。
おばあちゃんの昔話を聞いているような感覚!祖母亡き今、もっとちゃんと話を聞いておけばよかったという後悔を、少し軽くしてくれる。
実際の出来事が起こった順番を、自伝的小説「しろばんば」では変えたという創作背景も触れられていて、面白い。
全体を通じて、自分にまつわる事柄が淡々と語られている調子が、なんというか、気持ちいい!
延々と自分について語るくどさのようなものが、まったく無いのだ。
ふと、今の自分が作られた背景にどんな出来事が起きてきたか、どんな人との出会いがあったのか -
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これは作家井上靖氏の昭和30年代中心の短篇小説集です。標題に代表されるように西域に主題をとった作品群が多く、この地域に関心の深い私には前から読みたかった作品です。小説というよりは史書のような趣きで、どこまでが創作でどこからが史実かとかわからなくなりそうなくらい、引き込まれます。日本の説話にまつわる作品も集録されており、磐梯山の爆発の事件に主題をとった小磐梯という作品も味わい深いです。ま、核となる作品は間違いなく楼蘭です。実際にあった楼蘭という小国の過酷な運命が描かれており、それと興味尽きない謎の湖、ロプノールの変遷も興味津々です。読後、シンセサイザー奏者の喜多郎の作品を聞きながら床に入ると一層
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終わった〜!10代で挑戦し挫折した井上靖の自伝的三部作を読破。この下巻でも会話がイキイキしてて、特に洪作が宇田に台湾行きに関して一札とられる場面は面白すぎてニヤけてしまった。全作通し、なんて靖氏は昔をよく覚えておられるのだろう!と感嘆しながら読み終えたら、本作の解説を読んで、ガ〜ン・・・「『坊ちゃん』を漱石の自伝小説と思うのは、よほど単純な人間観と文学感を持った読者だろうが、井上氏の三部作、ことに『北の海』を作者の自伝と思い込むのも同様のことである。」(by山本健吉氏)
言い訳をすると、洪作が実在したことを願いたくなるような思いが「井上氏=洪作」という錯覚を起こしたのでしょう・・・素直にモノを