井上靖のレビュー一覧

  • わが母の記

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    老髦の母、壊れた精神と小さな体。著者の一人称を主体として、晩年の母をめぐる家族の様子を、淡々と、幾らか抑制の効いた語り口で綴る。
    昭和の家族模様とはかくあり、また今日でもかくあるべきなのかもしれないと感じた。
    壮年期を迎えた方々に、特に読んでほしい一作です。

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    2012年07月19日
  • わが母の記

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    80歳を過ぎて少しずつ記憶が消え、幼児化してゆく母と、見守る息子。息子の語り口調。映画では見せ場、泣かせ所があったが、小説はもっと淡々と描かれている。
    「花の下」「月の光」「雪の面」の三部作。風景の中で、老いた母と若い母が合わせて描かれる場面があり、その文章が綺麗で感動した。

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    2013年11月08日
  • 孔子

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    内容は冗長なのに、エンキョウが見た風景が脳に焼き付いている。物語はゆっくりと行きつ戻りつしながら進む。こういう時間の流れ方はとても贅沢だ。それが本の中であっても、あるいは本の中だからこそ、余計に贅沢に感じるのか。

    井上靖の小説はいつもこうだ。
    読書がすばらしいのは、こういう体験ができるからだと改めて思った。

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    2012年06月16日
  • 後白河院

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    四人(平信範・建春門院中納言・吉田経房・九条兼実)の同時代人を語り手に
    保元・平治の乱から晩年にいたる後白河院の姿を浮かび上がらせていく。
    文章生出身の蔵人、院の女御の女房(俊成の娘にして定家の姉)、硬骨な近臣、
    院に疎まれていた右大臣のそれぞれの立場に即した語りの内容や口吻も巧み。

    話者の一人はこれまで陰気にくすぶっていた皇室や公卿たちの対立が、
    武士たちの合戦であっという間に片が付いてしまうことに素直に驚き、
    世人の心に小気味よさが萌したと付け加える。
    その武士たちも歯が立たない信西入道さえその自害の原因を院の心が離れたからと推測する。

    このような時代に実力者の器量を確かめ使い方を考え

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    2012年05月14日
  • 蒼き狼

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    壮大なドラマ。
    高校生時代に読みました。
    確か当時TVドラマにもなったような気がします。
    いずれも、学生だった私の魂を揺さぶりました。

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    2012年03月12日
  • 額田女王

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    超むつかしい本。課題図書で買ったけど、文体が美しく、ストーリーも魅力的でよく覚えてる。井上靖では唯一読んだ。

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    2011年09月03日
  • 孔子

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    孔子廟は孔子を祀っているんですね。あまり孔子に興味を持っていませんでしたが、お爺さんに勧められて読んでみたら、今も使われている含蓄のある言葉をたくさん遺していることに驚きました。この本に感激して論語も読みました。

    論語は人生の座右の書です。

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    2011年06月20日
  • 淀どの日記

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    淀殿が主役の時代物作品。夫・豊臣秀吉だけでなく、京極高次、蒲生氏郷といった諸大名らの交流も描かれているので舞台が幅広く興味深い。文調はやや固めだが表現が細やかで風情も感じられる。『天涯の貴妃』の原作本とも言われているが、それを抜きにして読んだ方が良いかと。

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    2011年06月03日
  • おろしや国酔夢譚

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    キリル・ラックスマンが好きすぎて、思わず手を出してしまった1冊。
    両親の実家が三重県鈴鹿市白子なので、その影響もありました。
    現代においても海外に行くにはそれなりの準備を要するのに、漂流と形で辿り着いた異国に対する恐怖と驚きが巧みに描写されています。

    個人的には、江戸に帰ってきた光太夫と磯吉が、日本の窮屈さに嘆いてロシアを恋しく思うシーンが印象的でした。
    広い世界を知ったからこそ感じる、鎖国日本の視界の狭さ。
    日本の土を踏んでも自由は与えられず、思わずロシア語で会話する二人には涙しました。 
    なぜ日本に帰りたかったのか、という光太夫の問い掛けに 
    「ラックスマンがあまりにも日本の石や植物を見

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    2011年03月09日
  • 後白河院

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    ネタバレ

    「若しもこの世に変らない人があるとすれば、それは後白河院であらせられるかも知れない。左様、後白河院だけは六十六年の生涯、ただ一度もおかわりにならなかったと申し上げてよさそうである。」
    「院はご即位の日から崩御の日まで、ご自分の前に現れて来る公卿も武人も、例外なくすべての者を己が敵としてごらんにならなければならなかったのである。誰にも気をお許しになることはできなかった。」
    (本文、第四部より、各々一部引用)
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    朝廷内の不和、摂関家の内部争い、武士の台頭、平家滅亡と源氏台頭...平安末期の動乱の時代に、まるで一本の太い幹のようにひたすらそこにあり続けた存在、雅仁親王(後白河院)。大天狗

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    2012年04月03日
  • 本覚坊遺文

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    静謐で、噛み締めたくなる美しさを基調に、緩急のある振れ。しとしとと降った長雨のあと、ようやく日の差し始めたまだ少し鈍い色の空に、微かな虹を視たような、透徹として晴れがましい読後感。

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    2010年10月05日
  • おろしや国酔夢譚

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    読み終わった
    みなもと太郎「風雲児たち」に大黒屋光太夫の話しがあってから、ずっと読みたかった一冊。異国の地に一人でいるってことがどういうことか。留学中の身には少しばかり彼の境遇が近く感じられる。本当は全然違うんだけどね。

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    2010年04月13日
  • 楼蘭

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    井上靖の歴史短編小説集。

    1:楼蘭
    2:洪水
    3:異域の人
    4:狼災記
    5:羅刹女国
    6:僧伽羅国縁起
    7:宦者中行説
    8:褒ジ(女以)の笑い
    【ここまでは中国西域の説話】

    9:幽鬼
    10:補陀落渡海記
    11:小磐梯
    12:北の駅路
    【ここまでは日本の説話】

    12話と盛りだくさんです。
    通勤途中に1〜2話/日に読み進めるのに丁度よいです。
    彼の作風が自分に合うかどうか試したい方に、お勧めの一冊。

    人間の感情描写やその表現の細やかさに、
    二千年前の楼蘭人や西域の人々の息づかいがそのまま
    立ち上ってくるような錯覚を覚えます。

    とにかく、お勧めの一冊です。
    読み返した数少ない小説の一つです

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    2009年10月19日
  • 楼蘭

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     オリエント情緒というかシルクロードロマンというかそういうのを感じたい時に
    ぱらっとめくって好きなとこを読んで満足する一冊です。
    ずっと手元に置いておきたい。

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    2009年10月04日
  • 猟銃・闘牛

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    宮本輝さんが、雑誌の中で「人間同士の言うに言われん相性みたいなものを絶妙な言い方で表現していますね。…本当に名作ですよ」とおっしゃっていたので、手にとりました。本当にそのとおりでした。

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    2011年07月18日
  • 幼き日のこと・青春放浪

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    「幼き日のこと」「青春放浪」「私の自己形成史」収録。
    「幼き日のこと」には大正時代の農村の生活が詳細にユーモラスに登場する。
    おばあちゃんの昔話を聞いているような感覚!祖母亡き今、もっとちゃんと話を聞いておけばよかったという後悔を、少し軽くしてくれる。
    実際の出来事が起こった順番を、自伝的小説「しろばんば」では変えたという創作背景も触れられていて、面白い。
    全体を通じて、自分にまつわる事柄が淡々と語られている調子が、なんというか、気持ちいい!
    延々と自分について語るくどさのようなものが、まったく無いのだ。
    ふと、今の自分が作られた背景にどんな出来事が起きてきたか、どんな人との出会いがあったのか

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    2009年10月04日
  • 淀どの日記

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    織田信長の姪であり、浅井長政とお市の方の娘であり、豊臣秀吉の側室である淀殿(茶々)の物語。
    その強気な性格がゆえに、運命に翻弄されていく。

    様々な女性の生き様が印象的でした。

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    2009年10月04日
  • 楼蘭

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    これは作家井上靖氏の昭和30年代中心の短篇小説集です。標題に代表されるように西域に主題をとった作品群が多く、この地域に関心の深い私には前から読みたかった作品です。小説というよりは史書のような趣きで、どこまでが創作でどこからが史実かとかわからなくなりそうなくらい、引き込まれます。日本の説話にまつわる作品も集録されており、磐梯山の爆発の事件に主題をとった小磐梯という作品も味わい深いです。ま、核となる作品は間違いなく楼蘭です。実際にあった楼蘭という小国の過酷な運命が描かれており、それと興味尽きない謎の湖、ロプノールの変遷も興味津々です。読後、シンセサイザー奏者の喜多郎の作品を聞きながら床に入ると一層

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    2023年02月24日
  • 北の海(下)

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    終わった〜!10代で挑戦し挫折した井上靖の自伝的三部作を読破。この下巻でも会話がイキイキしてて、特に洪作が宇田に台湾行きに関して一札とられる場面は面白すぎてニヤけてしまった。全作通し、なんて靖氏は昔をよく覚えておられるのだろう!と感嘆しながら読み終えたら、本作の解説を読んで、ガ〜ン・・・「『坊ちゃん』を漱石の自伝小説と思うのは、よほど単純な人間観と文学感を持った読者だろうが、井上氏の三部作、ことに『北の海』を作者の自伝と思い込むのも同様のことである。」(by山本健吉氏)
    言い訳をすると、洪作が実在したことを願いたくなるような思いが「井上氏=洪作」という錯覚を起こしたのでしょう・・・素直にモノを

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    2009年10月04日
  • 夏草冬濤(下)

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    洪作の下巻の“ワル”っぷりは気持ちがいい程です。洪作すなわち作家井上靖氏が文学に興味を抱き始めたきっかけが興味深い。それにしても、詩歌をたしなむ不良学生たち・・・インテリジェント

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    2009年10月04日