井上靖のレビュー一覧
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先日、行きつけの料理屋のママさんが、「先生にぴったりの言葉を見つけんです。聞いてくださいますか?」と美しいカバーに包まれた小ぶりのノートを大事そうに取り出してこられました。テレビや本で心に響く言葉を見つけた折々に書き記しておかれるのだそうです。「孔子の人柄は、温和であって、しかも厳格であり、威厳を備えながらも、威圧感がなく、礼儀正しく、しかも窮屈を感じさせなかった」「ほう、すごいですね」
「そうでしょう。この言葉を聞いたときに、杉先生そのものだって思ったんです」私自身としては、儒教の創始者であり世界四聖として名高い孔子になぞらえていただくなど、全くとんでもない限りです。いずれにしても、このよう -
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『あすなろ物語』聞き覚えのあるタイトルだけど、どんな物語が思い出せず手に取った作品。
タイトルの『あすなろ』を漢字で書くと翌檜、「明日は檜になろう、明日は檜になろう」と願いながらも永遠に檜になれない。
この木の姿が、いつか何者かになろうと懸命にいきる人間の姿に重ね合わせられており、「なろう係」の物語を想像させられた。
読み進めると想像を見事に裏切られた。
主人公の鮎太が「あすなろ」であったのも小学生の頃までだ。その後は親の脛をかじり時間とお金を無駄に消費する自堕落な生活。周囲が檜になろうと努力するなか彼はただ羨んだり卑屈になったりするだけで動かない。極めつけは、憧れの女性・信子からは「貴方 -
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11月に井上靖さんの短篇集を読み、いずれは長篇も、と思っていたので、まず、本作「敦煌」を読んでみた。
20世紀初頭清朝末期に、敦煌の石窟から四万点を超える経典が発見され、漢語、西夏語、ウイグル語、他多言語で書かれていた、という史実(世紀の大発見)から、作者が西域に思いを馳せ、経典が陰徳されるまでの話をフィクションで描いた作品。
分量的には大作の一歩手前だが、描かれたスケールは空間的にも時間的にもスケールが大きく、喜多郎の「シルクロードのテーマ」をBGMとして耳に入れながら読んだ。
ウイグルの王族の女が飛び降り自殺する流れは、作者の女性観を反映していて(出版は1960年代)、共感が難しいか -
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流石井上靖だけあって特に抑揚のないストーリーではあるのに飽きずに読める。
だけど…額田女王のキャラ設定がどうにも好きになれない。十市皇女について周囲には「大海人ではなく梅の精の子」と頑なに言い張るくせに、侍女にだけ「この子は誰に似てると思う?」と迫って、侍女が畏れをなして黙っていると「気のちいさいひとね」と突き放すくだりは人が悪すぎる。近江に都移りしてからも、鵜野讃良(後の持統帝)に対して「あのお方が?[私より]若くて美しい?」と自信たっぷりに陰口を叩くあたりも、伝わっている歌に垣間見える額田の人柄とは大きく乖離しているようにしか感じられなかった。これなら澤田瞳子の『恋ふらむ鳥は』での額田の -
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時代背景になかなかついていけず、四苦八苦して読みました。「男の嫉妬」がたくさん出てくる印象です。
主人公はそれぞれに関わる女性を中心に、少年から中年へと成長していく過程があります。あまり理想的な幼少期だったとは言えませんが、青年期は成績優秀で友人にも恵まれ充実しています。しかし戦争の招集令状が届き、その後はつらい経験を重ねます。
主人公は、女性に対して臆病で引っ込み思案です。長年好きだった女性にも対しても、冷静に会う勇気がありません。そんな彼の周りで戦後の時代、懸命に生きようとする人物達が印象的でした。
強く生き抜いた時代だったんだと、感じさせられます。