井上靖のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
今年は、新潮文庫ロングセラーのTOP20作品を読破する!というのを私の中で目標にしていて、そのうちの一冊です。(あと六冊!)
井上靖さんの「あすなろ物語」、タイトルは聞き覚えがあるけど、内容は全然知らなかった。
血の繋がらない祖母と、土蔵で二人暮らしをしていた梶鮎太という少年が、多感な青春時代を経て新聞記者となり、終戦を迎えるまでの成長の記録が、6つの物語として描かれる。
あすなろ(翌檜)、とは「明日は檜になろう」と願いつつ、願うだけで永遠に檜にはなれない常緑針葉樹のことなんだそう。作中で重要なキーワードとして繰り返し登場する。
その説話の通り、鮎太自身が劣等感を抱えていたり、恋がうまくいかなかったり、決して順風満帆などではなく、ままならないことが続く。
でもそのなかで冴子、雪枝、佐分利信子、清香、良きライバルであった左山町介ら、たくさんの人間との出会いと別れの経験が、彼自身を育み、豊かにしているのだと最後まで読んでそれが確信的に分かる。
あすなろの木は、たしかに檜にはなれない。だけれど、その背丈を、青空に向かってまっすぐにまっすぐに伸ばし続ける姿が私にはみえる気がした。 -
Posted by ブクログ
大作家が老いとともに生きる自分の母について書いたもの。母への思いを綴るというよりは、「花の下」「月の光」「雪の面」という3編で足かけ10年を追っていく。作家ならではというべきか、明治の男らしいちいうべきか、感情はあまり出さずに、いまでいう認知症の症状がだんだんと濃くなっていく母について書いている。
書かれているのはおそらく昭和30~40年代頃のことなんけど、周囲の人たちの認知症の人への対し方がいまとちょっと違うなと思った。いまほど研究が進んだり人々の意識のなかでも「普通のこと」「誰でもなること」というものではなかったであろう頃。それゆえの忌避感やこういう接し方しちゃダメじゃんみたいなこともあるんだけど、一方で接し方にゆとりがある感じがした。ま、それは時代のせいでもあれば、みんなでおばあちゃんを看るような家族・親族の一体感もあってのものなのだろうけど。
著者は長男風吹かせてるわりには、結局母と長く一緒に暮らしてくれたのは、(母の希望もあったからだけど)妹2人だったようで、息子とは役に立たないものよ。この頃にしてそうなんだから、いわんや現代をや。