井上靖のレビュー一覧
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『北国』『地中海』『運河』『季節』『遠征路』の五つの詩集と、その後に書かれた著者の詩を収録しています。
著者の詩は、そのほとんどが散文詩であり、宮崎健三の「解説」にも書かれているように、いくつかの詩は著者の小説作品のなかにかたちを変えて取り入れられています。著者も『北国』の「あとがき」で、「私にとっては、これらの文章は、詩というより、非常に便利調法な詩の保存器であり、多少面倒臭い操作を施した詩の覚書である」と述べています。興味深いのは、著者の小説作品の文章から、そのエッセンスを結晶化して詩が生まれたのではなく、逆に本書に収められているような凝縮されたことばから、リーダビリティの高い著者の小説 -
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井上靖の作品で、中学生か高校生の時に読んだものは『額田女王』と『黒い蝶』。それ以来読んでいなかった。歴史的作品を多く書く、品の良い作家というイメージだった。先日、『しろばんば』を読み、イメージが少し変わり、親近感が増して、『しろばんば』の世界をもっと知りたくなって手に取った。
湯ヶ島での、おかのお婆さんとの暮らしについて書いているところが、やはり一番面白かった。エッセイなので、『しろばんば』のようにその世界に引き込まれることはなく、お婆さんの語り口も現代風で情感はないけれど、『しろばんば』の背景を色々と知ることができた。
「…わが儘いっぱいに振舞ってはいたが、家庭で育つのと異って、甘えという -
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二千五百年前、春秋末期の乱世に生きた孔子の人間像を描く歴史小説。
『論語』に収められた孔子の詞はどのような背景を持って生まれてきたのか。十四年にも亘る亡命・遊説の旅は、何を目的にしていたのか。
孔子と弟子たちが戦乱の中原を放浪する姿を、架空の弟子・蔫薑が語る形で、独自の解釈を与えてゆく。
孔子サマといえば論語、春秋時代の代表的な思想家ですが、実はあまり好きでなないのです。
たしかに理想は大事だけど、理想だけをふりかざしていては、戦乱の世の中を渡っていけないという思いが強くあり、その理想を他の人に押し付けるかのように思ってしまう・・・・・
「晏子」の晏嬰が斉君を補佐していたころ、孔子が訪れたと -
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昨年の大河ドラマの原作ということで、かなり時代遅れですが、今更のように読んでみました。
井上靖氏が描く登場人物の心象風景を描く物語としては優れているように思えますが、これを歴史的人物に仮託する手法には疑問を感じました。いろいろな細部において、必ずしも歴史的事実に基づいたストーリーとも思えず、歴史小説としては新田次郎氏の武田信玄の方が好ましく感じました。
歴史上の人物にではなく、現代小説として描くか、もしくは、このような伝説的とはいえ高名な人物にモデルを取るのではなく、全く仮想の人物を主人公したほうが、この作品の魅力が増したように思えます。