井上靖のレビュー一覧

  • わが母の記
    自分の母親の晩年を、死を、この様に言葉という形で表現できる作家という生業を羨ましく、また尊敬の念を抱かずにはいられない。

    認知症の祖母を想う。今祖母は、どのような世界を生きているのだろう。
    祖母と過ごした時間が愛おしく、また両親を思慕させられる一冊だった。
  • 風林火山(新潮文庫)
    武田信玄の軍師山本勘助の話。
    山本勘助の名部下っぷりを見せ付けられるが、上司の気持ちをくみとり作戦に盛り込む等。
    しかし、あとがきによると実在したかどうかもわからない人物とのこと。どういう経緯で有名になったのかが気になる。
    井上靖では読みやすいほう。
  • 蒼き狼
     陳舜臣 著『チンギス・ハーンの一族』全4巻 (集英社文庫)と比べてしまう。こちらはフビライが死に帝国崩壊までを描ききる。一方、『蒼き狼』はジンギスカンが末の息子に西夏国を滅ぼす指示を与えた後、半刻して息を引き取る彼の死をもって小説が終る。

     元に滅ぼされるまでの数百年の間、西夏文字を持つ国として...続きを読む
  • 孔子
    孔子の死から30年後に、魯都の「孔子研究会」の人びとが、門弟の一人だった蔫薑という人物のもとを訪れ、孔子やその高弟の子路、子肯、顔回らの人となりを尋ねる話です。

    著者の歴史小説に対しては、大岡昇平が「借景小説」だという批判をおこなっており、本作に対しても呉智英が同様の観点からの批判をおこなっていま...続きを読む
  • 孔子
    孔子のありがたいお言葉の意味を知るための本。伝記ではない。弟子達の孔子研究の様子を描いた不思議な本。


     孔子の伝記小説で、孔子の苦しむ姿が描かれているのかと思って読み始めたが、全然違った。
     孔子の『論語』は孔子の死後すぐにできたわけではなく、死後300年後くらいに孔子門下生によってまとめられた...続きを読む
  • 星と祭 下
    立ち直れない辛さの中で一筋の希望、それは宗教的な救いとヒマラヤの村の祈り。エベレストが目的で読んだ本だったが、悲惨な設定には何度も挫けそうになった。エンディングとしては納得だが、十一面観音はまだそんな心境にはなれず理解は難しい。どうすれば永劫という悟りにたどり着き、殯があけるのだろう。諦めとはどう違...続きを読む
  • わが母の記
    認知症の母を理知的な観察眼をもって記録した本。私の祖母も同じだ。離れて暮らしている為、感情的に巻き込まれることはないのだが、、。(認知症は魂の半分はあの世にいっている状態。向き合う家族に多くの体験と感情をもたらす為に、現世で最後の役目として、半身を残して、我々に語りかける状態だ)という見解を何処かで...続きを読む
  • 蒼き狼
    チンギス・カンは自分は正当なモンゴルの血を継いでいるのだろうかと、不確かな自分の出生に悩む。
    モンゴル族の創生神話による蒼き狼と白い牝鹿の血を受け継ぐ蒼き狼たるべく、彼はひたすら敵を求め侵略征服を続け、歴史上最大の大帝国の礎を築く。
    自分とは何者かと自問自答し、自分というものを自分の力で作り上げてい...続きを読む
  • 孔子
    今、乱世であると思う…いや乱世でない世があったろうか?
    …と思いを馳せたとき、古典・経典の読み継がれる意味が、
    ことさら感じられ手にした一冊だった。
    まさに「論語」成立の過程を臨場感あふれる筆致で描くような小説。

    いつの世も、人は悩み、惑い、糧となる指針を欲するものだろう。
    終盤、本書では、こう語...続きを読む
  • 額田女王
    面白いし、読者を引き込む筆力はさすがだと思います。女心をくすぐるものもあります。

    個人的な感想としては、もう少し神秘性を味わいたかったです。神に仕える女性としての決心や誇りというモチーフは古代的なのですが、彼女の心の動き方には全体的に現代人に似たものがあったのがピンときませんでした。当時の価値観や...続きを読む
  • 幼き日のこと・青春放浪
    著者が生涯に大きく影響を与えたとする幼年、青年時代の随筆。特に曽祖父の妾であるおかのお婆さんに愛されたことへの思いは子どもであるが故の純粋さのみならず美しさを感じる。14.1.25
  • 後白河院
    四部構成で、四人の人物が一人ずつそれぞれに、
    院や院の身の回りでおきた事柄を回想して語る形式の小説。

    語るのは、平信範、建春門院中納言、吉田経房、九条兼実の四人。

    一部(平信範)と二部(建春門院中納言)は、
    場面の設定や身分の関係か、
    ものすごく丁寧な言い回しになっているので、
    まどろっこしくて...続きを読む
  • 異域の人 幽鬼 井上靖歴史小説集
    <異域の人>
    最果ての西域で軍人として一生を終えるオトコの物語。

    軍人として名を上げるため、故郷を遠くはなれ、命を賭して生きる人生。

    平和日本に住むボクが理解することは不可能かもしれない。
  • 氷壁
    昔読んだことがあるけど記憶に無いのと、山登りを始めた今だからこそ、と思い再読。
    冒頭から山をやる人にとって、お!と思う描写。奥穂高、涸沢、徳沢と、馴染みの知名オンパレードで、山から帰ってきたばかりだったのに、胸がワクワクします。
    ナイロンザイル事件が思いのほか早く起こって、そこからは、ドラマが展開す...続きを読む
  • わが母の記
    認知症云々というより、慈愛に満ちた眼差しではあるもののある意味冷酷な生命の記録といった感じ。
    やっぱり生きるというのはどうあれ他人様に迷惑をかけるものなんですな、謙虚にならんといかんです。
    主人公(?)である母にとって旦那のことは完全に忘却の彼方って結構応えますよ、自分もその対象になってしまうかも、...続きを読む
  • おろしや国酔夢譚
    久々に読んだが重い本だ。
    飛行機なども一切なく、もちろんパソコンもなく、まだ日本が鎖国をしていた頃の話。

    海外に対する情報が全くない日本人が漂流しロシアに流れ着き十年を経て日本に戻る。

    過酷な運命だ。
    そして日本に戻ってきた時に感じる疎外感。悲しい物語です。
  • 氷壁
    樋口明雄を皮切りに山岳小説に興味を持ち始めて、一度読んでみたいと思っていた本。山岳小説の傑作らしく、数年前はNHKでドラマ化されたのを見た。これは新装版で、初出は1957年。読めば一目瞭然。文体が古く、昭和臭の香り。といっても若干固いと思うだけで読む分には師匠はない。むしろこれも一つの味に見える。
    ...続きを読む
  • 風林火山(新潮文庫)
    割りと面白かったです。長さでいってもそんなに長くないし文体も読みやすい。娯楽作品ってところでしょうか。
  • 額田女王
    井上靖を読むなんて何年ぶり?

    少女の頃、「茜さすむらさきの……」「むらさきの匂へる……」
    大海人皇子との恋歌に憧れました。
    あれから何十年……
    歴史的にも文学的にも、研究は進み、
    おそらく解釈も変わってきているでしょう……

    そんな昔少女のせいか、井上靖の描く
    額田と言う女性は、私のイメージにピッ...続きを読む
  • わが母の記
    花の下、月の光、雪の面、と被る内容が書かれてあり少し中弛み感があった。映画を観る前に読もうと手に取った本。高齢者が増えていく
    これからの世の中、認知症の発症数も増えていくことでしょう。可能であれば、周りの方をなるべく手こずらせずにこの世を去りたいと私は思う。