井上靖のレビュー一覧
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ネタバレ楼蘭の1つの国の趨勢、異域の人の班超の生涯、宦者中行説の匈奴で得た夢、何れも真に迫っていて、そこに西域や匈奴の風土を感じるかの様でした。班超が歿する前、故国に西域との繋がりを見、彼が「胡人」と呼ばれた描写には、彼の一生の軌跡が表れている様に思います。
狼へと変わった陸沈康とカレ族の女が出る狼災記、羅刹の棲む島を書いた羅刹女国では、言い伝えや伝承を基にした不可思議な出来事が現実味を帯びて書かれていて惹かれました。狼災記で狼となった2人が、獣の掟に従い獣として生きる様が、人の姿を喪い人で無くなった彼等が、既に人としての生き方が出来ないのだと訴えかけて来ている様に思われました。 -
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武田信玄の天才軍師、山本勘助が主人公
勘助が信玄に仕える場面〜川中島の合戦の途中(途中な理由は読めばわかります)までの歴史物語
勘助の成りは異形が理由で今川義元に召し抱えようとされなかったほど…
色黒で背が低く眼はすがめでちんば、指も1本ない
知恵だけが彼の人生を支えた
永く浪人だったがその知恵を活かし、武田晴信(信玄)の仕官となる
晴信はそんな異形の勘助を気に入る
常に孤独で人から疎まれてきた勘助
勘助自身も人を人とも思わない非人情な男だった
しかし自分を召し抱えてくれた晴信だけはこの世で唯一好感を持った
いつしか晴信のためなれ命も惜しくないと思うように…
晴信もまた、勘助に信頼を寄せ、周りからどれだけ非難されようとも彼の能力をかっていた
勘助の印象が読み進めるうちにどんどん変わっていく
皆に嫌われ、人と関わらないよう暮らしながらも、生きるためなら人を踏み台にしても平気だったまるで害虫のように生きていた勘助が、いつの間にか策士、軍師となり、晴信に信頼されなくてはならない人物に
そして晴信と由布姫を愛しみ、二人の子である勝頼の初陣を夢見る人物へと静かに変貌を遂げる
途中から勘助ジジイがめちゃくちゃ格好いいキレ者になるのだ!光る!眩しいっ!
その反面、滑稽な人間臭さも溢れ出す
由布姫の気高さに圧倒され、すぐ言いなりになっちゃうし、由布姫のために斬ろうとした於琴姫の立派な態度と人柄にほだされて、お守りします!なーんて言っちゃうし…
晴信の出来心のせいで振り回されてるのに晴信を憎めないし…
あんなに人嫌いだったのが嘘のように皆んなを愛してしまって右往左往してしまう勘助ジジイが何だか可愛らしい
井上靖の手にかかると各人物に磨きがかかるのか非常にそれぞれが魅力的である
晴信(信玄)も想像以上に柔らかくキレものながらに温かい人物像であった
由布姫は最高にいい女だ
己の運命を受け止めつつも最後まで気高く自分を曲げない
そしてもちろん軍記物らしさも満載である
戦略や合戦は読んでいて鳥肌が立ってしまう
合戦場面も簡潔にし過ぎると迫力に欠ける、そして深追いし過ぎると読み手に緊張感がなくなる
本書は大小様々の合戦描写があるが、この匙加減も見事であった
そう一言で陳腐に言うと単に面白いのです!
やっぱり井上靖って凄いなぁ
押し付けがましくなく、変な小細工なく、自然体で引き算がうまい
何より最高に居心地が良い
静かな興奮がたまらない!
まだ「天平の甍」しか読んでいないが、こちらを読んだ時に間違いなく好きなタイプの作家だと大喜びしたものだ
2冊目読んだときに印象が変わったら…と不安だったが、まったく良い意味で期待外れ
好みの作家に出会えた人生の喜びを噛み締めております
まだまだたくさん読む作品があるので楽しみである -
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井上靖初読、映画は過去、樹木希林氏ご逝去の直後に観ていた。
著者の母が老い、主に認知症を進行させていく様を長男の立場でありながら極めて客観的に描く。
耄碌していく母は少女性を復活させ、我儘な振舞いを見せる。
人は歳を取る毎、ある一定の年齢を経ると子供へ還っていくと言うが、彼女の場合は無垢と狡猾がせめぎ合っている様だった。
淡々とした文章は、殆ど悲哀を介在させぬ。
靖自身はあくまで物書きとして実母を観察・取材していたのだ、と思う。
「全身小説家」と自称した井上光晴のみならず、近代の作家にはこう言ったタイプが多く見られる。
樹木氏は映画の見所を訊かれる事に辟易としていたが(没後展覧会の映像より)、本書にも同様の姿勢が窺えた。
昨今の過剰に情緒と泣き所を盛り込んだ小説の合間に読む事で、読書脳がリセットされた様な思いも。 -
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733年(天平5年)聖武天皇の時代
第九次遣唐使のお話
船に関連する人材は元より、訳語者、医師、画師、僧侶ら総勢580名くらいが船四艘で出航する
当時の目的として、宗教的、文化的なものであり、政治的意図は少なかったよう
というのもこの時期の日本の大きな目標は、近代国家成立である
外枠だけができて、中身は混沌としていたため、先進国唐から吸収しなければならないものが多くあった
また、課役を免れるために百姓は争って出家、かつ僧尼の行儀も堕落(乱れているなぁ…)
仏教に帰入した者の守るべき師範は定まっていなかった
そのため唐よりすぐれた戒師を迎えて、正式な授戒制度を布きたい
伝戒の師を請して日本は戒律を施行したかったようである
それが留学僧の主な目的でもあったようだ
奈良から日本最後の港まで騎馬で1ヶ月
洛陽に着くまで蘇州から実に8ヶ月である
想像を絶する船旅である
さてその留学僧に選ばれた4人
彼らは選ばれし時から、それぞれの運命に翻弄される
そして20年近い時を経てそれぞれに変化が…
【4人の留学僧】
■普照(ふしょう)
当初戒師を招ぶことに興味を持たず
自分が学び得る経典にだけ魅力を感じていた(マイペースだ)
↓
仲間の僧、栄叡の思いを引き継ぎ、鑒真を日本へ招聘しよう
業行の写した経巻を日本へ持ち込みたいと思うように
■栄叡(ようえい)
当初やる気があったが、「楽」に流される面も
↓
戒師の招聘に使命感を持ち始め、鑒真を日本に招聘する夢に取り憑かれ出す
■戒融(かいゆう)
他の留学僧たちとはつるまず、単独行動
「机に齧り付くことばかりが勉強か?」と普照に物申す(どの時代にもこういう人いますね!)
↓
「この広大な土地で僧衣をまとい布施を受けながら、歩けるだけ歩いてみる」といい
いち早く一人出奔する
■玄朗(げんろう)
頭脳明晰ながら、一つのことに深く入り込めない
帰国したいが、小舟の渡航に不安(僧らしからぬ立ち振る舞いが多い)
↓
皆と別れ長安へ
唐人の妻子を得る
結局20年間留学僧として何も身につけなかったと嘆くが…
【4人の僧以外の重要人物】
■業行(ぎょうこう)
20年以上唐におり、どこも見ないし誰にも会わない日本人
寺を渡り歩いてただ、ただ経論を写している
「いま日本で一番必要なのは、一文字の間違いもなく写された経典だ」といい、写経に没頭
他のことはすべて無関心
■鑒真(がんじん)
留学僧たちの戒師の招聘の依頼に対し、
「他に誰か行く者はないか
法のためである
生命を惜しむべきではあるまい
お前たちが行かないなら私が行くとしよう」
このように決意する
この業行及び鑒真との出会いが留学僧たちの日本への帰国を決心
業行が生涯をかけて写し取った経巻類を運ぶ
鑒真を招聘する
この2つのために普照と栄叡は長時間かけて準備し、遂行努力を重ねる
幾多もの困難が立ちはだかる
秘密裡のため、裏切りに遭い、投獄
海賊の出没で航路が塞がれる
時間をかけ準備した多くの将来品、仏像、仏具、食糧、薬品、香料(他にもよくわからない品々)
途中坐礁し、船に積み込んだものが悉く浪にさらわれる
食糧も飲料水もなくなる(雨水を飲んで渇きをしのぐ)
飢餓と渇きに苦しむ
それでも鑒真は再挙をはかる
鑒真と普照並び栄叡は行を供にする
師を得た気持ちで今までとは全く異なる勉強ができたという
入唐から17年
栄叡が志半ばで病死
普照は高齢の鑒真を無理をしてまで日本へ渡来させることが本当に正しいことなのか迷い始める
そのため、一旦鑒真と別れることを決意
普照は次の船が来るまで業行の写経を手伝う
自分の果すべき仕事に思えたという
自分のことしか考えていなかったような普照が多くの人と出会い成長していく
業行の最後
「私が何十年かかけて写した経典は日本の土を踏むと、自分で歩き出しますよ…
多勢の僧侶があれを読み、あれを写し、あれを学ぶ
仏陀の心が仏陀の教えが正しく弘まって行く…」
こんな会話をした普照は彼の思いをしっかり受け止めることができたであろう
そしてとうとう20年の時を経て、普照は日本の地へ
結局鑒真は
12年間に5回も渡航し失敗
視力を失う
6回目にようやく日本へ上陸
76歳までの10年間のうち、5年間は東大寺、残り5年間は唐招提寺で過ごし、多くの日本人は授戒を施した
733年からおよそ20年間の話だ
今から1200年以上前である
このころ我々の祖先は何をするにも命がけであった
命をかけて何かを成し遂げること…崇高で勇気ある姿
誰もかれもが美しい
普照も当初はなんとなく心が定まらず煮え切らない僧であったが、栄叡の熱意と志を引き継ぎ、はたまた業行の実績も引き継ぐのである
彼は人に対してとても情が厚く、人との和を大切にすることができる人物であった
運命に翻弄されながら、皆それなりの人生を手に入れる
普照は人(誰しも)の素晴らしさを見いだすことを知った
栄叡は信念を持てばそれが実現することを知った
戒融はその目、その肌で感じることができる世界を知った
玄朗は異国で家庭を持ち、生きる世界を知った
業行は将来の日本の仏道を知っていた
良し悪しじゃない「生きる」という姿にまぶしさを感じた
歴史ロマンでもあるが、人間の底力を感じた
命がけの人の行為が歴史を作り、日本という国を発展させたのだ
心が震える書であった
そのころ日本では、仏教の力で国を治めようとして寺や大仏を作りました。その建設のため、農民たちには重い税や労働が課せられ、苦しい生活を強いられていました。一方、その当時、僧(そう)には税がかかりませんでした。そのため、仏教をろくに知らないのに僧になって税をのがれようとする者が急に増え、仏教界はみだれました。そこで朝廷(ちょうてい)は、正しい仏教を教えてくれる僧を日本に招こうと、唐に遣唐使(けんとうし)を送りました。 -
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ネタバレ架山のエベレスト観月旅行から始まる。いつかテレビで紹介していた「エベレスト街道の旅」を思い出しながら、エベレストの勇姿を描く。2020年以降、海外旅行が思い通りにならない現在であるが、いつかは登山をと考えていたが、数十年前に実現されていたことに感銘を受けてしまった。現在と比べて、どれほど、大変な旅行だったのだろうか。それゆえ、どれほどの「永劫」とか「宿命」といったものを感じることができたのでしょうか?東北の海に、夜空に私たちが感じる「永劫」とか「宿命」といったものと比べて。
そして、春の満月の下、琵琶湖に船を浮かべて二人の供養をする架山は、『殯』を終わらせてお墓にまつる。十一面観音と月と湖に、運命を沈める父親の姿が目に浮かぶ。
エベレスト街道はどうなるかわからないけど、琵琶湖湖畔の十一面観音を巡ってみたいと思って本を閉じた。
印象的なフレーズは:
★この石に、ラマ教の経文を刻んだ人のことを考えた。いつ刻んだのか、いかなる人が刻んだのか知らないが、判っていることは、これが自分一人のための祈りではないということである。
★人は生まれ、人は死んで行く。ただそれだけのことである。生まれる意味もなければ、死んで行く意味もなさそうであった。そんなことを、いま大地の真上にかかっている月は言っているようである。
★瞬間言い知れぬ畏怖感に襲われた。深夜こんなところをうろついていると、何となく一人一人、消えてゆきそうな気がする。ここはみなが必死に神に祈って生きているヒマラヤ山地なのである。深夜うろつき歩くような場所ではないに違いなかった。
★どんなに生きにくい条件があっても、なおそこから離れないで、そこに定着している人間があるということを知った。生きにくい条件の中で、神に祈って生きている。打たれたね。
★自分の過去にどれだけの時間が降り積んでいるか知らない。何事が起ったか、いかなることがあったか、一切知らない。自分はただこうしていつも一人で立っていただけである。――小さい十一面観音像はそう言っているかのようである -
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ネタバレ山本勘助の物語。
300ページほどの本だったので数日で読めました。
本書では軍師として描かれています。
間者より軍師の方がピタッときますね。
今川家で士官が叶わないところから、武田家で召し抱えられ、軍師となり川中島の戦いで死去するところまでが描かれています。
物語の導入が上手かったです。
青木大膳という浪人者を最初描いておいて、少ししてから勘助を登場させるところが上手く話に引き込まれました。
信玄との関係性の他に由布姫(諏訪御料人)と勝頼に忠誠を誓うところも話の柱となっていますね。
信玄は於琴姫も妾としたので、勘助は一度於琴姫の命を奪おうとしたりもします。
軍師としての活躍も十分描かれており、評価の高い本であるのがわかりました。 -
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帰国後隔離期間中の2冊目。
私も一時期祖母と2人で1年間ほど暮らしたことがあり、その間両親と兄弟とは別々だった。
大人同士の会話は、当の大人と子どもとではその捉え方が違い、子どもの年齢に応じても違うのだろう。そこは子どもワールドで、大人には想像も及ばない。感受性、人生経験、距離感など色々影響される。大人同士の人間関係に子どもは敏感。確かに振り返ると自分もそうだったと思い出す。
大人になった今、親になった今、子どもたちがどう感じるのか、ということも考えながら発言したい、と考えた。
親や祖母がだんだん物理的に小さく見てくるのは、その通りだと思う。そこに複雑な思いが去来した。
こういう本、中学生か高校生くらいの時に読んでおきたかった。そしたらどんな大人になっただろうか。今とは違う自分だろうか。