井上靖のレビュー一覧
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本作を読む前に映画「わが母の記」を観て、樹木希林、役所広司の名演を含め甚く感動したことが一つ。そしてもうひとつには、過去2年の間に母、義母を続けて亡くしたこともあり、たまたま書店で背表紙を見つけた本作を読んでみた次第。
これが、思った以上に平易で軽く読み易い。これまで読んだ著者の作品の中でも珍しいほどに。映画を観た後でもあるので、もう少し胸に迫る重厚な読み応えを期待して読んだ割には、正直やや肩透かしを食った気さえしたほどに。
しかし裏返せば、それこそがまさに著者が意図した作風なのかも知れない。必要以上に感情に流されず、出来るだけ客観的に淡々と。しかし随所に著者らしい風趣ある文学的な表現や描写も差し込まれ、単なる軽妙なエッセイとは明らかに一線を画す「文学」「小説」として完成しているとも云えるのか。
読む前に観た映画の印象が鮮明だった故か、読んでいてもつい映画の一コマ一コマを思い描いてしまう。その意味では、やや先入観が強過ぎた感もある。 -
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『あすなろ物語』聞き覚えのあるタイトルだけど、どんな物語が思い出せず手に取った作品。
タイトルの『あすなろ』を漢字で書くと翌檜、「明日は檜になろう、明日は檜になろう」と願いながらも永遠に檜になれない。
この木の姿が、いつか何者かになろうと懸命にいきる人間の姿に重ね合わせられており、「なろう係」の物語を想像させられた。
読み進めると想像を見事に裏切られた。
主人公の鮎太が「あすなろ」であったのも小学生の頃までだ。その後は親の脛をかじり時間とお金を無駄に消費する自堕落な生活。周囲が檜になろうと努力するなか彼はただ羨んだり卑屈になったりするだけで動かない。極めつけは、憧れの女性・信子からは「貴方は翌檜でさえなれていない。何にもなろうと思ってらっしゃらない」と快心の一撃をくらっても、本人はまだ翌檜のつもりでいるから救いようがない。
でもそのメンタルだけは檜の木より図太いかもしれない。
結局、鮎太は節目ごとに現れる女性の母性に甘え、状況に流されているだけで主体性がない。
戦地で「人間は生きる事だけが貴い」とお坊さんが悟りを開いたような言葉を発するが、私が鮎太にイラついているせいか、翌檜でさえない自分を正当化する開き直りにしか聞こえない。
タイトルには『あすなろ物語』とあるが、何だろう?この違和感とモヤモヤは。
鮎太はなぜ「翌檜でさえなくなってしまったのか?」そして「著者はこの物語を通して何を伝えたかったのか?」私の頭のなかにこの問いがずっと離れない。
鮎太が此処まで拗らせたのは、受験の失敗や都会へのコンプレックスが原因なのか。
確かにそれは現代社会でも有り得る事だけど、
人生はたった一度きりだ。
そんなことで早々に檜になるのを諦めるのはあまりにも勿体ない。人生、損しているよ。
著者は鮎太の情けない姿を通して「何者かにならなくてもいいんだよ。生きているだけで貴い。」という言葉の裏側に「じゃあお前はどう生きるんだ?」と問われているようにも感じた。
私自身、鮎太と同じ何者でもないが檜にならなくてもせめて「明日は檜になろう」と志の翌檜でありたい。
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11月に井上靖さんの短篇集を読み、いずれは長篇も、と思っていたので、まず、本作「敦煌」を読んでみた。
20世紀初頭清朝末期に、敦煌の石窟から四万点を超える経典が発見され、漢語、西夏語、ウイグル語、他多言語で書かれていた、という史実(世紀の大発見)から、作者が西域に思いを馳せ、経典が陰徳されるまでの話をフィクションで描いた作品。
分量的には大作の一歩手前だが、描かれたスケールは空間的にも時間的にもスケールが大きく、喜多郎の「シルクロードのテーマ」をBGMとして耳に入れながら読んだ。
ウイグルの王族の女が飛び降り自殺する流れは、作者の女性観を反映していて(出版は1960年代)、共感が難しいかも。
話は逸れるが、米中の覇権争いでは、政治体制としては共産党一党独裁よりも民主主義の方が圧倒的に魅力的だが、歴史の厚みとしては、四千年対250年の差を感じる。反中のひともきっと三国志は好きだったりするだろう。
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流石井上靖だけあって特に抑揚のないストーリーではあるのに飽きずに読める。
だけど…額田女王のキャラ設定がどうにも好きになれない。十市皇女について周囲には「大海人ではなく梅の精の子」と頑なに言い張るくせに、侍女にだけ「この子は誰に似てると思う?」と迫って、侍女が畏れをなして黙っていると「気のちいさいひとね」と突き放すくだりは人が悪すぎる。近江に都移りしてからも、鵜野讃良(後の持統帝)に対して「あのお方が?[私より]若くて美しい?」と自信たっぷりに陰口を叩くあたりも、伝わっている歌に垣間見える額田の人柄とは大きく乖離しているようにしか感じられなかった。これなら澤田瞳子の『恋ふらむ鳥は』での額田の方が人物像としてまだ魅力的だった。
井上靖に川端康成並みの女心理解術を求める方が酷なのかもしれないけれど…だから井上靖は紀行文の方が読んでで面白いんですね。 -
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時代背景になかなかついていけず、四苦八苦して読みました。「男の嫉妬」がたくさん出てくる印象です。
主人公はそれぞれに関わる女性を中心に、少年から中年へと成長していく過程があります。あまり理想的な幼少期だったとは言えませんが、青年期は成績優秀で友人にも恵まれ充実しています。しかし戦争の招集令状が届き、その後はつらい経験を重ねます。
主人公は、女性に対して臆病で引っ込み思案です。長年好きだった女性にも対しても、冷静に会う勇気がありません。そんな彼の周りで戦後の時代、懸命に生きようとする人物達が印象的でした。
強く生き抜いた時代だったんだと、感じさせられます。 -
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初めて井上靖さんの小説を読みました。
また、天平の時代を舞台にした小説を読むのも初めてです。
会話文や、心情を表す表現が少なく、歴史書を読んでいるかのような印象を受けました。
用語も難しく、ページ数の割には読むのに時間がかかってしまいました。
鑑真が度重なる苦難の末、失明しながらも日本にやって来たことは歴史の授業で習いました。
しかし、その裏で普照のような日本人留学僧の尽力があったことは知りませんでした。
最も印象に残ったのは、ひたすら写経に没頭する業行さん。自身が書き写した経典に執着する彼に、共感を覚える普照。この2人の関係性が良いなと思いました。
それだけに、あの結末は切ないものがあります。
唐招提寺にも、いつかは行ってみたいものです。