井上靖のレビュー一覧
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遊牧民モンゴル一部族の長として多民族との激しい闘争を繰り返し、やがて全蒙古を統一してから金国やさらに欧州にまで及ぶ大遠征を試みた、鉄木真―成吉思汗(テムジン―チンギスカン)の六十五年の生涯を描いた歴史小説。著者自身の特別な批評は加えず、ただ史実に即して成吉思汗という人物の行動と姿を淡々と、そして硬派に描いている。
―上天より命ありて生まれたる蒼き狼ありき。その妻なる惨白き牝鹿ありき。大いなる湖を渡りて来ぬ。オノン河の源なるブルカン嶽に営磐して生まれたるバタチカンありき....
己が部族(モンゴル人)には蒼き狼の血が流れていると云う伝承を聞いて育った鉄木真少年は己の血筋に誇りを持ち、その生涯で -
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千利休が太閤から賜った死に、抗いもせずに従ったのはなぜなのか?
千利休の弟子・本覚坊の日記からという設定にて、利休死後の隠遁生活中の出会いの折々に触れられる師・利休の在りし日の想いや評価を通じて、本覚坊が「その時」の内面から利休とその侘茶の真の精神を半生をかけて悟るという物語。
物語の各章はかなりの年月が開いており、前章にて本覚坊が出会い会話した人物が既に他界していて次章にまた新たな人物が登場してくるという趣向だが、その人選はなかなか凝らされていて面白い。東陽坊、岡野江雪斎、古田織部、織田有楽、千宗旦、それら利休ゆかりの人物と穏やかな時間の流れにて慎ましく語られる利休への想いが、本覚坊に師・利 -
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「蒼き狼」のタイトルの通り、モンゴル帝国チンギスカンの話です。広大な土地を支配したチンギスカンはどうしてそこまで領土を広げたのか、また広げることが出来たのか。
彼にとって、おそらくもっとも大事であった民族というアイデンティティーに疑問を持たなければならなかったこと。そして、自分は「蒼き狼」であることを、行動で示さなければならず、それは誰かを納得させるものではなく、自分自身を納得させることだったのではないかなと思います。
読んでいて、「まだ、侵略するの!?」と思ってしまうほどです。歴史に名を残す人は強靭な意志と背景を持っているんだなと感じました。
息子ジュチの亡くなった報に触れた時が -
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ナイロンザイル事件、松濤明の遭難など複数のモチーフがある小説。ナイロンザイル事件のことは知らなかったが、20年近くも危険性が黙殺され続けた上に今のPL法成立につながったこと、小説からそれほど間を開けず公開された映画のメガホンを取ったのが故・新藤兼人監督だったということに感じるものがあった。
山の話は最初と最後だけなので山岳小説という趣ではないし、松濤明という登山家の人生に触れるには「風雪のビヴァーク」のほうがいいけど、主人公とその上司「常盤大作」との関係性が魅力的で惹きつけられた。この時代の「カイシャ」全般がそうだったのか、小説のための脚色なのか。時代が違う、と言ってしまえばそれまでなのかもし -
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額田女王を挟んで描かれる、
中大兄皇子と大海人皇子の兄弟が大変魅力的で、
二人に非常に興味を持ちました。
中大兄皇子は、一番の権力者で、ときに大胆な振る舞いもしますが、
一方で孤独で、己を抑制していて冷静です。
とくに終盤、大海人皇子に対する感情を、
理性でなんとか抑えているように取れる場面があって、
私はその場面が好きでした。
非常に惚れ惚れしました。格好いい皇子です。
「茜さす紫野行きしめ野行き~」という歌が、
小説での人間関係を背景に語られるとびっくりするくらい面白かったです。
終盤、兄弟の間を取り持っていた、中臣鎌足が世を去ってしまい、
二人が静かにゆっくりと対立していく様子が、