井上靖のレビュー一覧

  • わが母の記

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    全編にわたり、母への強い思慕を感じさせる本だった。
    いつまでも元気だと思っていた親がだんだんと老いてゆく。老いてゆくだけではなくて、だんだんと壊れてゆく。壊れていって、そのうち、家族のことを忘れてゆく。
    認知症で次第に記憶や社会性を失っていく母の姿を、時に冷静に厳しく綴っているが、その筆致は冷酷でも残酷でもなく、親が子を戒めるような愛情あるものとなっている。
    次第に我を失っていく親の姿は同時に、次第に親を失っていく子どもの切なさと悲しみを投影していて、心を打つ。
    ひっそりと、しんみりと、気がつくと父母を想う気持ちになっていた。

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    2014年02月04日
  • 孔子

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    井上靖の人間愛に溢れた筆致で描かれた孔子像は、人としてなにが正しいのかを考えさせられる。論語にも興味を持った。

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    2014年01月08日
  • 蒼き狼

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    遊牧民モンゴル一部族の長として多民族との激しい闘争を繰り返し、やがて全蒙古を統一してから金国やさらに欧州にまで及ぶ大遠征を試みた、鉄木真―成吉思汗(テムジン―チンギスカン)の六十五年の生涯を描いた歴史小説。著者自身の特別な批評は加えず、ただ史実に即して成吉思汗という人物の行動と姿を淡々と、そして硬派に描いている。

    ―上天より命ありて生まれたる蒼き狼ありき。その妻なる惨白き牝鹿ありき。大いなる湖を渡りて来ぬ。オノン河の源なるブルカン嶽に営磐して生まれたるバタチカンありき....
    己が部族(モンゴル人)には蒼き狼の血が流れていると云う伝承を聞いて育った鉄木真少年は己の血筋に誇りを持ち、その生涯で

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    2013年11月04日
  • 蒼き狼

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    20130901 チンギスハンの一生を淡々と綴った。静かなようで激しい。今の人にはこの文体での長編は書けないのではないだろうか。

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    2013年09月01日
  • 氷壁

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    ミステリーなんだけど、人間ドラマ。

    ナイロンザイルが切れたのは事件なのか自殺なのか…

    山に関して無知なので、冬山登山に関する描写は「へぇ〜」と思う事が多く面白かった。

    時代背景は古い。

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    2013年08月31日
  • 本覚坊遺文

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    千利休が太閤から賜った死に、抗いもせずに従ったのはなぜなのか?
    千利休の弟子・本覚坊の日記からという設定にて、利休死後の隠遁生活中の出会いの折々に触れられる師・利休の在りし日の想いや評価を通じて、本覚坊が「その時」の内面から利休とその侘茶の真の精神を半生をかけて悟るという物語。
    物語の各章はかなりの年月が開いており、前章にて本覚坊が出会い会話した人物が既に他界していて次章にまた新たな人物が登場してくるという趣向だが、その人選はなかなか凝らされていて面白い。東陽坊、岡野江雪斎、古田織部、織田有楽、千宗旦、それら利休ゆかりの人物と穏やかな時間の流れにて慎ましく語られる利休への想いが、本覚坊に師・利

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    2013年07月27日
  • 楊貴妃伝

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    井上靖作品を読むのは「額田女王」以来2作目ですが、時の権力者に愛された女性を描いた作品という点では同様でありながら、この楊貴妃伝はかなり趣の違う作品だと感じました。解説でも触れられていますが、心理描写が少なく、淡白すぎるくらいに淡々と話が進められていきます。一見欠点のようですが、これがフィクションでありながら歴史を見るかのような感覚にする効果を生んでいると思います。さらに比較すると、額田女王は自分の役目に誇りを持った女性の物語で、楊貴妃伝は自分に与えられた役割に覚悟を決めた女性の物語。という気がします。

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    2013年06月24日
  • 蒼き狼

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    「蒼き狼」のタイトルの通り、モンゴル帝国チンギスカンの話です。広大な土地を支配したチンギスカンはどうしてそこまで領土を広げたのか、また広げることが出来たのか。

    彼にとって、おそらくもっとも大事であった民族というアイデンティティーに疑問を持たなければならなかったこと。そして、自分は「蒼き狼」であることを、行動で示さなければならず、それは誰かを納得させるものではなく、自分自身を納得させることだったのではないかなと思います。

    読んでいて、「まだ、侵略するの!?」と思ってしまうほどです。歴史に名を残す人は強靭な意志と背景を持っているんだなと感じました。

    息子ジュチの亡くなった報に触れた時が

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    2013年06月26日
  • 氷壁

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    ナイロンザイル事件、松濤明の遭難など複数のモチーフがある小説。ナイロンザイル事件のことは知らなかったが、20年近くも危険性が黙殺され続けた上に今のPL法成立につながったこと、小説からそれほど間を開けず公開された映画のメガホンを取ったのが故・新藤兼人監督だったということに感じるものがあった。
    山の話は最初と最後だけなので山岳小説という趣ではないし、松濤明という登山家の人生に触れるには「風雪のビヴァーク」のほうがいいけど、主人公とその上司「常盤大作」との関係性が魅力的で惹きつけられた。この時代の「カイシャ」全般がそうだったのか、小説のための脚色なのか。時代が違う、と言ってしまえばそれまでなのかもし

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    2013年06月10日
  • 後白河院

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    周囲の人間の話により、浮かび上がっていく後白河院の人物像…というのが面白かった。後白河院って、謎が多くて調べれば調べるほどもっと知りたくなる人物。
    ちょっと難しいので読み進めるペースが遅くなった。

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    2013年05月25日
  • 夏草冬濤(上)

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    30数年前に読んだ。今回再読。ほとんど内容を覚えてなかった。
    淡々としていて山場もないけれど、瑞々しい。人物描写も味がある。
    久々の文学作品。後編も読みたいけれど、いつになるかな・・・

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    2013年05月11日
  • わが母の記 花の下・月の光・雪の面

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    とにかく切ない。家族の老いと死について、考えずにはいられなくなる。
    老いていく母親を見つめる作者もすでにこの世の人ではないんだと思うと、不思議な感慨があります。

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    2013年04月13日
  • 氷壁

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    山岳小説としてとても面白かった。穂高岳の地図を片手に読んでしまった。是非訪れてみたい。
    ストーリーは冬山登攀と、その冬山登攀で起こった事件、その山男たちのを取り巻く人間模様。
    グイグイと引き込まれていったが、登場人物の心理などとても昭和感じがした。昭和30年代?が舞台なんだから当たり前だが、少し理解できない部分もありそのような時代だったんだなと感じた。
    山への憧れ畏怖は今も昔も変わらないもののように心に響いた。

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    2013年03月27日
  • わが母の記

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    枯葉ほどの軽さの肉体、毀れた頭。歩んできた長い人生を端から少しずつ消しゴムで消して行く母--老耄の母の姿を愛惜をこめて静謐な語り口で綴り、昭和の文豪の家庭人としての一面をも映し出す珠玉の三部作。モントリオール世界映画祭審査員特別グランプリ受賞ほか、世界を感動に包んだ傑作映画の原作。

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    2013年01月21日
  • 氷壁

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    おもしろい。すぐに引き込まれて、すいすい読めた。本を読んで寝不足になるのも久しぶり。もっと井上作品を読みたくなった。

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    2012年11月25日
  • 風濤

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    さすがと言うべき御大の大作。被征服国家の悲哀と一言では表せない歴史。誰が主人公なんだろう、とちょっとぼやけているという点で星4つ。

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    2012年11月25日
  • 孔子

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    正直言って、話が次から次へと進む小説ではない。「では最後に・・・」などと言いながら、その後にもズルズルと話が変わって続いていくこともしばしば。その点で快適な読み心地とは言えないのかも知れない。しかし、小説全体を通して流れているゆったりとした雰囲気は心地よく、またどこか背筋を伸ばさずにはいられないような気持ちにさせられる所がある、井上靖最後の長編小説である。

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    2012年10月08日
  • 夏草冬濤(下)

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    時代背景の違いをはっきり感じさせられるが、明治の学校生活や田舎と都会の雰囲気を味わうことができる。柔道の青春小説でもある。

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    2012年09月02日
  • 額田女王

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    額田女王を挟んで描かれる、
    中大兄皇子と大海人皇子の兄弟が大変魅力的で、
    二人に非常に興味を持ちました。

    中大兄皇子は、一番の権力者で、ときに大胆な振る舞いもしますが、
    一方で孤独で、己を抑制していて冷静です。
    とくに終盤、大海人皇子に対する感情を、
    理性でなんとか抑えているように取れる場面があって、
    私はその場面が好きでした。
    非常に惚れ惚れしました。格好いい皇子です。

    「茜さす紫野行きしめ野行き~」という歌が、
    小説での人間関係を背景に語られるとびっくりするくらい面白かったです。

    終盤、兄弟の間を取り持っていた、中臣鎌足が世を去ってしまい、
    二人が静かにゆっくりと対立していく様子が、

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    2012年09月02日
  • おろしや国酔夢譚

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    日本海で漂流し、ロシア領へ流れ着いた光太夫ら仲間たち。
    ロシア語を学び、女帝エカテリーナへの謁見。江戸へ帰れる日は来るのか。

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    2012年07月30日