井上靖のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
ナイロンザイル事件、松濤明の遭難など複数のモチーフがある小説。ナイロンザイル事件のことは知らなかったが、20年近くも危険性が黙殺され続けた上に今のPL法成立につながったこと、小説からそれほど間を開けず公開された映画のメガホンを取ったのが故・新藤兼人監督だったということに感じるものがあった。
山の話は最初と最後だけなので山岳小説という趣ではないし、松濤明という登山家の人生に触れるには「風雪のビヴァーク」のほうがいいけど、主人公とその上司「常盤大作」との関係性が魅力的で惹きつけられた。この時代の「カイシャ」全般がそうだったのか、小説のための脚色なのか。時代が違う、と言ってしまえばそれまでなのかもし -
Posted by ブクログ
額田女王を挟んで描かれる、
中大兄皇子と大海人皇子の兄弟が大変魅力的で、
二人に非常に興味を持ちました。
中大兄皇子は、一番の権力者で、ときに大胆な振る舞いもしますが、
一方で孤独で、己を抑制していて冷静です。
とくに終盤、大海人皇子に対する感情を、
理性でなんとか抑えているように取れる場面があって、
私はその場面が好きでした。
非常に惚れ惚れしました。格好いい皇子です。
「茜さす紫野行きしめ野行き~」という歌が、
小説での人間関係を背景に語られるとびっくりするくらい面白かったです。
終盤、兄弟の間を取り持っていた、中臣鎌足が世を去ってしまい、
二人が静かにゆっくりと対立していく様子が、 -
Posted by ブクログ
「野守は見ずや 君が袖振る」の相聞歌から、額田という女性は、もっとビッチなイメージがあったけど(失礼w)、井上靖が、歴史に翻弄されながら、その中で、当時珍しいであろう「自己」を持ち続けている女性として描いているところが面白い。大海人皇子の子を宿しても「神の子を宿しました」と言って大海人へなびかぬ姿、日本を牛耳る中大兄皇子を火/
大海人皇子を水と天秤にかけるように評する様など、なにか痛快w
中大兄皇子らの、大化の改新後の混乱した政局と待ち構える国難への対応の克明な描写、万葉集で詠まれている歌への井上靖流の解釈とそれに合わせた当時の政治状況の組み合わせ等、大いに読み応えあり。