井上靖のレビュー一覧
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エッセイとは取りにくいけれど私小説とも違う不思議な語り口。自分の母親の老いた姿を通して人生の集約を見ている著者がいるが、その著者は読者自身でもある気がする。読み始めた当初は、この作品はいったい何を伝えたいのかと思ったほど的が絞れなかったが、これは人間の業(ごう)と言われる物が書かれているのではないだろうかと感じるようになった。一人の母の人生ではなく人間すべての避ける事の出来ない人生のひな形のような物、でしょうか。
そして人生の終焉に近づいた母が状況感覚の中に生きて、その人生舞台の照明は消え、きらびやかな道具立ても無くなってまだらな記憶の中でただ一面に降る雪を眺めるようにして周囲から隔たった自分 -
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ネタバレ闘牛」は、井上靖の第二作目の作品である。処女作は『猟銃』で、芥川賞の候補には、この二作とも選はれていた。が、第二十二回の芥川賞は『聞牛」に決定している。
新聞社内部の実話をもとに
『聞牛』は、新聞社内部を描いたモデル小説だと言われている。モデルとなったのは、新大阪新聞が行った闘牛大会である。作品では伏せ字にしたり名社を変えてはいるが、阪神球場というのは、西ノ宮球場。B新聞というのは、井上賭がいた毎日新聞社であり、大阪新夕刊というのが、新大阪新聞のことである。生人公津上は、新大阪新聞の小谷正一氏のことであるが、そこまで現実と重複(だぶ)らせては、ノンフイクション物になってしまう。この小説は -
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琵琶湖で娘のみはるを失った架山。しかし、遺体は7年経った今も、まだあがらないままである――。
『名短編、ここにあり』に井上靖の「考える人」が収録されていて、それがとてもよかったので、今回長編も手に取ってみた。
本書では、娘を亡くした父親が主人公である。
娘の死という題材を扱っていながら、井上靖の筆は哀しみに寄りかからず、かといって虚勢も張らない。
私は、死は乗り越えるものでもなければ、受け入れるものでもないと思う。変な言い方だが、死というものは、馴染んでいくものではないかと思うときがある。
架山はみはるのことを考えるうちに、次第に彼女がまるで自分の愛人であったかのような気持ちになっていく