あらすじ
両親の許をはなれて、血のつながらない祖母と送った伊豆湯ケ島での幼年時代――茫漠とした薄明の過去のなかから鮮やかに浮び上がるなつかしい思い出の数々を愛惜の念をこめて綴った「幼き日のこと」。ほかに、沼津から金沢・京都と移り住んだ学生時代を“文学放浪”の視点から描いた「青春放浪」、影響を受けた人物・書物・風土などを自由な感懐を交えつつ回顧した「私の自己形成史」。
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Posted by ブクログ
随筆調の自伝
まったくの私的な見解だが
伊豆地方民は地元愛がすこぶるうすい気がする
井上靖ほどの作家はもちろん
修善寺も韮山も先も後も北条氏に対するおらが感がまったくない
といって江川家をみるに江戸時代の人心統治が優れていたとも思えない
というふうに風土をこじつけるような話が随所にみられるが
昭和も遠くになりけるかな
Posted by ブクログ
「幼き日のこと」「青春放浪」「私の自己形成史」収録。
「幼き日のこと」には大正時代の農村の生活が詳細にユーモラスに登場する。
おばあちゃんの昔話を聞いているような感覚!祖母亡き今、もっとちゃんと話を聞いておけばよかったという後悔を、少し軽くしてくれる。
実際の出来事が起こった順番を、自伝的小説「しろばんば」では変えたという創作背景も触れられていて、面白い。
全体を通じて、自分にまつわる事柄が淡々と語られている調子が、なんというか、気持ちいい!
延々と自分について語るくどさのようなものが、まったく無いのだ。
ふと、今の自分が作られた背景にどんな出来事が起きてきたか、どんな人との出会いがあったのか・・・などなど考えたくなります。
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「幼き日のこと」は自伝的小説「しろばんば」と対をなすかのうようなエッセイである。事実をもとにしたフィクションがいくつか小説に散りばめられていることがわかり面白い。「青春放浪」も自伝的小説「夏草冬濤」と「北の海」の基になった日々を語っている。著者が幼少期に暮らす年月の少なかった父母との思い出を、その場面毎の絵画として記憶していることが印象的である。
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井上靖の作品で、中学生か高校生の時に読んだものは『額田女王』と『黒い蝶』。それ以来読んでいなかった。歴史的作品を多く書く、品の良い作家というイメージだった。先日、『しろばんば』を読み、イメージが少し変わり、親近感が増して、『しろばんば』の世界をもっと知りたくなって手に取った。
湯ヶ島での、おかのお婆さんとの暮らしについて書いているところが、やはり一番面白かった。エッセイなので、『しろばんば』のようにその世界に引き込まれることはなく、お婆さんの語り口も現代風で情感はないけれど、『しろばんば』の背景を色々と知ることができた。
「…わが儘いっぱいに振舞ってはいたが、家庭で育つのと異って、甘えというものはなかったと思う。おかのお婆さんの方も、盲愛と言っていい愛情を注いではいたが、血の繋がりから来るどろどろしたものはなかった筈である。祖母と孫の関係ではなく、世の男女の愛の形のようなものが、私とおかのお婆さんの間には置かれていたのではないかと思う。」
「私は今でも、おかのお婆さんの墓石の前に立つと、祖母の墓に詣でている気持ではなく、遠い昔の愛人の墓の前に立っている気持である。ずいぶん愛されたが、幾らかはこちらも苦労した、そんな感慨である。」(233頁)
青年期以降は、随分と、のりしろの多い生活を送っていたようだ。こののりしろこそ、後に数々の優れた作品を生み出した作家の源泉となったのだろう。
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著者が生涯に大きく影響を与えたとする幼年、青年時代の随筆。特に曽祖父の妾であるおかのお婆さんに愛されたことへの思いは子どもであるが故の純粋さのみならず美しさを感じる。14.1.25
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井上靖が幼少時代を振り返ったエッセイ。
小説「しろばんば」「あすなろ物語」の登場人物たちが実際に数多く登場してきて、なんだか舞台裏を覗いたようで新鮮です。そしてエッセイといえども世界観は「しろばんば」のそれで、久しぶりに伊豆の田舎町の夕暮れと“おぬい婆さん”が思い出されました。