井上靖のレビュー一覧
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樋口明雄を皮切りに山岳小説に興味を持ち始めて、一度読んでみたいと思っていた本。山岳小説の傑作らしく、数年前はNHKでドラマ化されたのを見た。これは新装版で、初出は1957年。読めば一目瞭然。文体が古く、昭和臭の香り。といっても若干固いと思うだけで読む分には師匠はない。むしろこれも一つの味に見える。
結果的にはうーんというような小説だった。期待が大きすぎたか、全体的に冗長に感じた。また年代からして仕方ないかもしれないが、登場人物の価値観が理解しにくかった。主要人物の行動、思考が皆芝居がかったような印象を受ける。それでも何だかんだ言って最後まで読んでしまった。その意味では悪い作品ではない。でも結局 -
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井上靖を読むなんて何年ぶり?
少女の頃、「茜さすむらさきの……」「むらさきの匂へる……」
大海人皇子との恋歌に憧れました。
あれから何十年……
歴史的にも文学的にも、研究は進み、
おそらく解釈も変わってきているでしょう……
そんな昔少女のせいか、井上靖の描く
額田と言う女性は、私のイメージにピッタリ。
だいたい、井上靖は私の頃のビッグネーム。
確か、日本ペンクラブの会長だった頃のスピーチが
国語の教科書に載ってたいたはず。
久々に、きちんとした(?)小説を堪能した感があります。
ただ小説の勢いとしては、後半が失速するというか……
物語としてはダダダ~っと話が進むのですが
味わいとしては欠 -
Posted by ブクログ
ネタバレ成吉思汗(チンギスカン)、その若き日は鉄木真(テムジン)と呼ばれた。鉄木真の生まれた十二世紀の中葉には、モンゴル部のほかに、キルギス、オイライト、メルキト、タタル、ケレイト、ナイマン、オングートといった諸部族が蒙古高原地帯の住民たちで、その中で、モンゴルとタタルの二部族がこの高原地帯における諸集落の指導権を握ろうとして、絶えず小戦闘を繰り返していた。鉄木真の生まれたのはこの二部族の闘争の最中であった。モンゴル部族もその中で幾つかの氏族に分かれ、各氏族は独立した集落を持って、ともすれば拮抗しがちであったが、鉄木真の父エスガイの属するボルジキン氏族は昔からモンゴルの本家筋に当たる家柄となっており、
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エッセイとは取りにくいけれど私小説とも違う不思議な語り口。自分の母親の老いた姿を通して人生の集約を見ている著者がいるが、その著者は読者自身でもある気がする。読み始めた当初は、この作品はいったい何を伝えたいのかと思ったほど的が絞れなかったが、これは人間の業(ごう)と言われる物が書かれているのではないだろうかと感じるようになった。一人の母の人生ではなく人間すべての避ける事の出来ない人生のひな形のような物、でしょうか。
そして人生の終焉に近づいた母が状況感覚の中に生きて、その人生舞台の照明は消え、きらびやかな道具立ても無くなってまだらな記憶の中でただ一面に降る雪を眺めるようにして周囲から隔たった自分