井上靖のレビュー一覧
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平信範、建春門院中納言、吉田経房、九条兼実の四人の人物の目から見られた、後白河法王の人物をえがいた歴史小説です。
平清盛をさんざんにてこずらせるほどの政治力を発揮し、今様に熱中して『梁塵秘抄』をものした文化人でもある後白河法王ですが、本作は四つの視点から後白河法王の姿が語られているとはいえ、彼のさまざまな側面を順に映していくのではなく、あくまでその人間像に注目しているようです。その点では、著者の人間中心的な歴史小説の特色が強く出ているように思うのですが、同時代人の視点を借りることで、大岡昇平が提起した「借景小説」という批判を寄せつけないところに、本作の構成の上手さがあるといえるのではないかと -
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遣唐使の一員として唐に渡り、鑑真の招聘を実現することに努力した普照という留学僧の視点でえがかれた歴史小説です。
普照は当初、みずからの学問のことにのみ関心を向けており、高僧を日本へ招聘するという計画には、それほど熱心ではない若者として設定されています。そんな彼の冷静な視点から、ことばには出さずとも、日本へわたる決意にほんのすこしの揺るぎもみせない鑑真をはじめ、鑑真の招聘にひときわ熱心な栄叡、唐の国土を歩いて真実の仏教を求める戒融、学問への志を捨てて唐の女性と結婚した玄朗、そして、みずからの才能に見切りをつけ、今は経典を日本に送りとどけることだけに情熱を傾ける業行など、他の登場人物たちの生き方 -
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主人公の梶鮎太に託して、著者の少年時代から壮年になるまでの半生を描いた、自伝的作品のです。
まずは、13歳の鮎太と、彼の曽祖父の妾になるりょうの暮らす土蔵に、りょうの姪で19歳になる冴子という少女がやってくる場面から、物語が始まります。冴子と、彼女が想いを寄せていた大学生の加島との関係は、同じ自伝的著作である『しろばんば』のさき子と中川基の関係を思わせます。
中学生になった鮎太は、渓林寺に下宿し、寺の一人娘である雪枝という女性と出会い、高校時代には2人の美しい娘を持つ佐分利信子という未亡人に心を奪われます。大学卒業後、新聞記者になった鮎太は、先輩記者の杉村春三郎の妹の清香から好意を寄せられ -
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孔子の死から30年後に、魯都の「孔子研究会」の人びとが、門弟の一人だった蔫薑という人物のもとを訪れ、孔子やその高弟の子路、子肯、顔回らの人となりを尋ねる話です。
著者の歴史小説に対しては、大岡昇平が「借景小説」だという批判をおこなっており、本作に対しても呉智英が同様の観点からの批判をおこなっています。それらの批判は要するに、著者の歴史小説に登場する人物は近代的な人間像だというものなのですが、確かにそうした印象はあります。
たとえば、本書の最後に蔫薑が故郷の蔡の国を訪れたときのことを語っているのですが、国の興亡という大きな運命に翻弄される人間の尊重を謳い上げるところなどは、近代的な人間賛歌と -
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ネタバレ孔子のありがたいお言葉の意味を知るための本。伝記ではない。弟子達の孔子研究の様子を描いた不思議な本。
孔子の伝記小説で、孔子の苦しむ姿が描かれているのかと思って読み始めたが、全然違った。
孔子の『論語』は孔子の死後すぐにできたわけではなく、死後300年後くらいに孔子門下生によってまとめられた。それってすごいことだよな。
その様子を描くっていうのは、読み終わってすごいことだと思いました。(小並感)
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p70 仁
人が二人出会ったら、その二人がどんな間柄だろうと関係なく、お互いが守らなければいけない規約のようなものが発生する。それが仁である。思いやりのようなもの。だから、 -
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ネタバレチンギス・カンは自分は正当なモンゴルの血を継いでいるのだろうかと、不確かな自分の出生に悩む。
モンゴル族の創生神話による蒼き狼と白い牝鹿の血を受け継ぐ蒼き狼たるべく、彼はひたすら敵を求め侵略征服を続け、歴史上最大の大帝国の礎を築く。
自分とは何者かと自問自答し、自分というものを自分の力で作り上げていくチンギス・カン。。。自分も自分というものをもっと積極的に作り上げる努力をしなくてはいけないなあ、、、。
流されない、切り開く力。(最近めっきりそういうのから遠のいてます)
モンゴルを平定して他国に出て行きますが、それにしても機動力がすさまじい。
モンゴルの馬って、モンゴル人のバイタリティって本当に -
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今、乱世であると思う…いや乱世でない世があったろうか?
…と思いを馳せたとき、古典・経典の読み継がれる意味が、
ことさら感じられ手にした一冊だった。
まさに「論語」成立の過程を臨場感あふれる筆致で描くような小説。
いつの世も、人は悩み、惑い、糧となる指針を欲するものだろう。
終盤、本書では、こう語る…
ー人が自分の力で、世の中を動かしたとか、動かそうなどと考えるのは、とんでもないことで、大きい天命の動きの下で、それを応援させて貰ったり、それに逆らって、闘わせて貰ったりする。ただ、それだけの話であります。
それは、諦念だろうか? 違うと思う。
どんな世にあろうと、人は、希望を持つものと思う。 -
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四部構成で、四人の人物が一人ずつそれぞれに、
院や院の身の回りでおきた事柄を回想して語る形式の小説。
語るのは、平信範、建春門院中納言、吉田経房、九条兼実の四人。
一部(平信範)と二部(建春門院中納言)は、
場面の設定や身分の関係か、
ものすごく丁寧な言い回しになっているので、
まどろっこしくて、読みにくくて、ちょっと飽きつつ読んだ。
三部(吉田経房)、四部(九条兼実)になると、
面白くなってきたものの、
この時代に起きたことをそもそもよく知らなかったこともあって、
この本の面白さを充分に噛みしめることができなかったと思う。
この本は歴史の流れを説明してくれる丁寧さはなくて、
歴史を知