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Posted by ブクログ 2023年12月30日
莫高窟で発見された文書群が、そこに保管されるに至った経緯を描く小説。宋代の河西回廊の政情と戦乱、その渦中にあって自らの誇りと意志を持ち続けた3人の男が主題となる。
描写が省かれることも多く、ある意味淡々と消化される日数だったり城邑のあいだの距離なんかがいちいち長いのが面白い。夷狄の土地の広大さを印...続きを読む象付けると同時に、故郷の潭州はおろか漢土に踏み入れることは二度とないであろうという中盤以降の行徳の意志が裏付けされるようである。
かなり好きな部類の作品なので、特に好きな箇所と解釈に迷った点と、あまり好きではない点を1点ずつ。
尉遅光は悪魔的に描かれる人物であり、善意を装って行徳らを嵌め込もうとする。しかし、自分は人を致しても人に致されることはないと断定する傲慢さの裏には一種のナイーブさがあり、実力行使を何度も逡巡するさまは可愛げすらある。生き生きとした悪役は、本書の魅力的な点だと思う。
よくわからないのが朱王礼の碑の伏線。私が正しく読めていれば行徳は碑を建てていないはずだが、折に触れてこの伏線を張る必要があったか。好意的に捉えるならば、朱王礼が戦死した以上、その義理を果たす必要はないというふてぶてしさの表現だろうか。結局、西夏文字訳の経典を回鶻の女のために完成させていないように、死んでしまった他者に依存しないという生き方を、行徳が選んだということだろうか。もしそうなら、中華の儒教的思考を棄て、精神的にも漢民族国家の重力圏から脱したということなのだろう。
物語上重要ではないが、作品美的観点から、最後に行徳の消息が判明するのは、なんとなく俗っぽい気がした。
Posted by ブクログ 2023年06月25日
初めての井上靖作品。元々敦煌含めシルクロードに興味があり、のめり込んでしまった。描写が一つ一つ繊細で、コロナの前に敦煌で行けていればより臨場感があったかもしれない。但し、読み終えた今となっては逆に想像が掻き立てられ、行く先にこの本に出会えてよかったと思う。
Posted by ブクログ 2022年01月09日
とっても好きな本。
主人公が好き勝手世界史を放浪する。妻子を持たずにいることが推しポイント。
夢に向かってひたすら突き進むことができて楽しそう。
所属や見た目にどうしても囚われてしまう女にとって、こういう自由な生き方に憧れるし羨ましく思う。
Posted by ブクログ 2017年05月18日
世界史を勉強していた時にたまたま読んだ本。薄い本だがストーリーは重厚で歴史ロマンを感じられる。男の生き様としても何かしら憧れる所もある。いつか行ってみたい敦煌
Posted by ブクログ 2024年02月25日
物語の舞台は1026年から30年代ごろ中国の西域
想像もつかないくらい大きな大陸で始終多民族が侵攻して、戦って、占領して、征服して、滅ぼされて‥という中で生きるとは。
主人公が敦煌に至り、仏教の経典に出会うまでの運命に引き込まれました。
砂漠、どんなに広いんだろう。どんな景色なんだろう。
敦煌、す...続きを読むごく行ってみたいです
Posted by ブクログ 2023年12月31日
30年振りに再読した。
読後の印象は、記憶にあるものとは違っていた。記憶では、主人公の生き方に対して、一貫性と達成感を感じていたが、今回は、それよりも結末に至る過程におけるさまざまな選択の潔さ良さを心地良く感じた。
Posted by ブクログ 2022年08月05日
科挙受験中に居眠りをしてしまった趙行徳は全裸で売りに出されている女を救った。対価として女から貰ったボロ布には見たことのない文字が書かれていた。その文字で書かれていることを知ろうと西夏に向かうが途中で遭遇した軍隊に捕まり軍兵の一人とされてしまう。文字の読み書きができることで西夏の武将朱王礼に重用され始...続きを読むめた行徳は彼と共に西夏の将軍李元暠に対し反乱を起こす。何万点という経典や写経が灰塵と化すことを危惧した行徳は反乱前夜に仏教遺跡にそれらを隠し、1900年代に歴史的発見となる。人の生き方は出会によりこうも変わるものかという面白さが光る作品。
Posted by ブクログ 2022年05月30日
1900年初め、王円籙という道士が窟の一つからたまたま発見した空洞の中には、経巻類が大量に収められていた。
学がなく、字が読めなかった王円籙は、地方官に報告するも「適当に処理しておけ」と言われるだけであった。
しかしその大量の文書群は、唐代以前の非常に貴重な資料で、遺失した書物の復活ができた歴史的な...続きを読む大発見だった。
この文書"敦煌文献"の発見という史実を元に、なぜこれほど大量の貴重な文書が洞窟に封じ込まれていたのか、その経緯を描いた歴史小説です。
なお、敦煌文献が封じ込まれていた経緯については2つの説がありますが、今日では"不要なものをとりあえず置いておいただけ"であるという説が定説となっています。
本小説に書かれているのはもう一方の説で、五代十国時代の終期、中国西北部を支配した夏(西夏)王朝が敦煌を占領する際に、西夏に破壊され、焼き捨てられることを恐れた人々が、貴重な文献を隠したという説が採用されています。
それは今から1000年近い昔の出来事で、その頃に生きた人々のドラマが栄枯盛衰し、忘れ去られてしまった後に発掘されるという、なんとも壮大な展開になっています。
井上靖によって書かれた敦煌は、大部分は創作ですが、敦煌文献で判明した史実や、実在したとされる人物名が登場しています。
中国史に興味が無くても、読めば長い時間を飛び越えた歴史ドラマを感じることができると思います。
主人公は趙行徳という青年です。
非常に頭脳明晰で、三十二歳で進士試験(官吏任用試験)に挑んだのですが、最終試験の一つ前の試験で不覚にも眠りこけてしまい、大事な試験を自ら放棄してしまったことに気づきます。
絶望にいた彼はただ歩きに歩いたのですが、狭い路地の中で、西夏出身という女が生きたまま切り売りに売られている場面に出くわします。
これを見た行徳は回鶻の男から女を買い取り、自由にしてやりました。
ただで自由になったことを嫌がる女は、唯一の持ち物だという西夏の文字が書かれた布切れを渡します。
その出来事に運命を感じた行徳は、そこに書かれた"西夏の文字"を学ぶために西へと旅立つという展開です。
難しい文体、表現が出てきて、スイスイ読めるような作品ではないですが、文章は簡潔で、ある程度読めば慣れると思います。
歴史が積み重ねられ、中国という国自体も大きく変遷し、忘れ去られた先に発見された文献、その発掘物では伝わらない物語が描かれています。
特に終盤、敦煌文献が生まれた軌跡が刻まれるプロセスは見事で、ドラマティックでした。
井上靖氏の中国西域ものとして著名な作品ですが、一冊の小説としてシンプルに楽しめる名作です。
Posted by ブクログ 2021年05月02日
おもしろかった
とくに後半に進むにつれてその内容に惹きつけられた
語学学習が趣味の私ですが、西夏文字に魅了されて故郷を離れ自分の人生を全うした行徳、素敵だなと思うと同時に、言語を身につけることで、普通に生きてるだけは出会えない人々や価値観に出会えるのは、今も昔も変わらないことだと感じた。
敦煌...続きを読む、いつか行ってみたいな
Posted by ブクログ 2020年03月07日
実在の人物より、架空の人物に重きを置いていて、どちらかというと時代小説みたいな感じ?面白かったけど、ウイグルのお姫様の話は蛇足のような... 個人的には、歴史小説の中の中途半端なロマンスは要らないなぁ。まぁ、主人公が運命に翻弄されている感じがとても良い。
Posted by ブクログ 2020年02月04日
テレビで作者の特集を観て気になった。
思っていたのとは違うストーリー。
登場人物は予測不可の活躍だったり、その逆も。
総評して面白い、中国の歴史に詳しいともっと楽しめるょ
Posted by ブクログ 2019年10月15日
古い時代なのに、
色鮮やかな光景が思い浮かぶ。
賑やかな街や、荒々しい争い。
砂と岩と、人間の感情。
読書で世界旅行できた。
この作品は、井上靖の「天平の甍」と同様に、
同じようなテーマ、つまり貴重な経典や史書を
後世に残したいというミッションに身を捧げる
主人公の高揚感で満ちている。
今...続きを読むの時代、身を捧げて守り抜こうと思える
経典は、あるのだろうか。
やはりそれは仏教典や聖書、などなのだろうか。
科学技術などは対象になるのだろうか。
色々と面白く考えてしまう。
Posted by ブクログ 2019年05月07日
数十年ぶりに再読しました
10代の私は壮大な中国宋代の物語に感動したことを覚えています
淡々と歯切れよく、読み進められる文章は井上靖先生ならではのものだなぁと改めて思いました
難しい漢字が多く使われていたことにも驚きました
中学生の私、よく読んだ!
Posted by ブクログ 2019年05月04日
もし、行徳が普通に試験に合格し、官史になっていたら、彼の人生は充実したものになっていたかもしれないが、世界に何の影響も与えなかっただろう。
彼は失敗し、一度は絶望するが、さまざまな人物と出会い(特に女性と出会う時に大きな転機がある)好奇心や探究心を掻き立てられ、新たな人生を歩み出す。
自らの人生を水...続きを読むの流れや因縁に例えながらも、強い意思と行動力で大事を成し遂げる。
一度の失敗や、目にみえない未来の事を思い立ち止まるのではなく、今、自分が成すべき事や思いに誠実に向き合い、今を懸命に生きることで、いずれは予想もしなかった未来に繋がるのではないか。それが大きいことであれ小さいことであれ。
その他の登場人物も生き生きしていて、とても魅力的だった。胸が熱くなる良書。
Posted by ブクログ 2019年01月20日
官吏任用試験に失敗した趙行徳は、助けた西夏の女にもらった西夏文字に惹かれて西夏に向かう。西夏軍の朱王礼に認められ西域での戦いにも加わったが、沙州(敦煌)で王の李元こうに反旗する。滅ぼされる前に多くの貴重な仏典を石窟に隠そうとする。
Posted by ブクログ 2018年12月14日
10世紀の西域アジアを舞台とした歴史ロマン。西夏に吐蕃に契丹に高昌・・・出てくる単語がどれも懐かしい。司馬遼太郎より文体は好みかも。キャラクター立ってるし、しっかりとした知識に基づいた精緻な作り。ある程度前知識のあったほうが楽しめるかも。
Posted by ブクログ 2017年01月10日
恥ずかしながら井上靖の小説を読むのは初めて。
敦煌に関しては歴史的な部分がわからないと
面白くないので結果的には今読んだのが正解かも
しれない。
中国は実際多民族国家でいわゆる宋とかの時代でもこの小説に出てくる夏とか結構漢民族以外の勢力が強い時代もある。
また今あまり中国では大きな宗教ではない仏教も...続きを読む物語の核心で興味深かった。
敦煌は西との交易に欠かせない都市で機会があったら行ってみたいものだと思った。
Posted by ブクログ 2016年08月16日
敦煌で二十世紀に、洞窟から数万巻の経典が発掘された、というところが史実。その経典がどのような事情で、誰によって隠されたか、というところが作者のフィクション。
ひとつの史実から、ここまで物語を膨らませることが出来る、というところに単純に感動できる。物語構成的にも、ある意味、小説のお手本と云えるような安...続きを読む定感がある。
主人公の述懐するところ、運命に抗わずに生きてきたら途方もなく西の辺境にいる身、これは作者の憧憬でもあるのだろう。
Posted by ブクログ 2016年10月11日
小学生の頃に金曜ロードショウでやっていたのが頭を掠め読んでみようと思った。
舞台は中国の西域
主人公の趙行徳は官吏採用試験でまさかの居眠りをしてしまい、当たり前の不合格!
失意の彼の眼の前に現れた異国の女!
彼女を何となく助けたことにより異国の文字が書かれた布切れを貰い、何となく西を目指して旅立つ...続きを読むことに!
周りに流されやすい趙行徳は西に歩を進め時代の潮流に流されながらも愛する人や友と出会い、西の果ての地、敦煌に辿り着く。
敦煌で彼を待ち受ける運命とは!
西夏の版図拡大と、20世紀初頭に発見された万巻の経典!
この二つの史実の結び目は敦煌にあり!!
昔の小説にしては読みやすい。
旅小説。
舞台は中世の中国、水滸伝の舞台となる少し前の時代?
次は同作者の【楼蘭】を読んでみたい!
Posted by ブクログ 2023年06月27日
昔の中国を舞台とした物語。
人の生きる様をときに熱く、ときに粛々と
描いている。
人生において、たとえ失敗したとしても
次の道がまた開けるものなのだろうか。
最後は…
この主人公は心に秘めた事を
成し遂げようとするが成功したのか失敗したのか?!
Posted by ブクログ 2023年04月29日
果てしなく広がる砂漠同様、スケールの大きな物語だった。 何十万の大軍や900年の時を経て陽の光を浴びた経巻など、大きな時の流れの中で何と人の人生の短く小さいことか・・・。 些細なことで悩んでいる自身がチッポケで、悩んでいること自体がバカバカしくなってくる。人の人生なんて、風や雨によって姿を変える砂漠...続きを読むの中の一粒の砂のようなもの。 人生なるようになるさ。おおらかに生きていこうっと・・・。(o^^o)v
Posted by ブクログ 2023年02月19日
どういう経緯でそれが其処に在ったのか、今となっては我々に知る術は無い。
色々あったけど、最後はやっぱり、皆んなのためになることをしようと思いました。
誰かのそんな物語が、想いがあったとしたら。そんな風に悠久の彼方に思いを馳せるのも良いかも知れない。想像力は自由だ。
Posted by ブクログ 2022年09月07日
中国西域でのちょうど1000年前の空想物語。都から遠くかつ広いゆえに宋時代の中国が統治しきれない西域、群小民族の覇権争い。現代のウイグル自治区の様相を思い浮かべてしまう、のと同時に、映画やTVシルクロードドキュメンタリーの映像記憶があるから、やすやすと思い浮かべるイメージが、なお空想を馳せさせて面白...続きを読むく且つ意義深く読んだ。
Posted by ブクログ 2021年08月21日
Eテレの「深読み読書会」で話してたので、
興味を持ち読み始めました。
本屋さんで見かけてもお買い上げしないかもと思う難しい内容でした。
理解できるまでには達していないですが
中国の歴史
Posted by ブクログ 2021年04月18日
シルクロードの分岐点であり、重要なオアシス都市である敦煌。
その敦煌にある莫高窟で20世紀に大量の書物が発掘され、文化人類学上の大発見になるのだが、書物がなぜ莫高窟に保存されていたかは不明。この謎を、史実と創造で描いた歴史作品が本書である。
敦煌と莫高窟に旅行したので読書感想ではないけどメモ
莫...続きを読む高窟は1000年に渡り岩をくり抜き、中に壁画や仏像を構築しているのだが、1000年という長い歳月がかかっている為、窟によって文様などの様式が異なる。政治の強さにもよりチベット式、インド式など様々変わるのだが、これを長きに渡り掘り続ける事ができる財力を持った土地が敦煌であり、シルクロードのもたらした富の大きさを感じた
Posted by ブクログ 2016年02月22日
史実かと思っていたのに、行徳も朱王礼も架空の人物とは…。驚いた。三国志もかじった程度だが、地名などが多少わかるだけでだいぶん読みやすかった。
歴史物を読むと、今に至るまでの時代の連なりを感じ、今に遺産を遺してくれた人々に感謝したくなる。
Posted by ブクログ 2015年11月17日
母が自分の名前説明するのに「敦煌の『敦』に子供の『子』」と言ってたためにずっと気になっていた敦煌.
いざ読んでみると,敦煌での話がメインではなく,最終的に敦煌に辿り着く話(また,場所名も敦煌ではなく沙州).
話をシンプルにまとめると,
官吏を目指していた主人公が,売られていた西夏の女を助けた.そのと...続きを読むき,西夏文字や西夏の人々に惹かれ,いつしか夢がその首都興慶を訪れることになった.
話が進むたびに,徐々に世界観が広がっていく.
時間省略をすることが多かったことで,話は冗長せず読みやすかった.