吉村萬壱のレビュー一覧
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植物園のある町を舞台に、世間が決めた型からどうしようもなくはみ出してしまう人々の日常を描く連作短編集。
いやいや…連なるな連なるな!!
歪んだ性癖を持つ男、裸踊りをする老夫婦、公開生活する男、世界の速さに取り残される女、精神病患者を演じる会員制倶楽部、ドM宗教家。
そして表題作である最後の章で混ぜるな危険が大集結するのである。悍ましや。
世間のスピードにはついていけなかったのに狂うスピードでは勝っていた女が「また追い抜かれました」とつぶやいたのには笑った。それほどの疾走感のある狂い方が描かれている。爽快。
圧倒的自由を求めて狂いたくなる、そんな作品であった。 -
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著者は芥川賞作家の吉村萬壱さん。震災から復興した町の物語、ディストピア小説等の触れ込みがあり、怖いもの見たさで手にしました。
物語は、主人公の恭子が小5の頃を回想する形で始まります。舞台はB県海塚市。長い避難生活から戻ってきた人々は、〝結び合い〟で繋がった人たちです。
ところが、何ということでしょう! 少しずつ不穏な様子が描かれていきます。同級生がぽろぽろ死に、葬儀や学校での授業での異様な光景、海塚讃歌、食の安心・安全の同調圧力等々、不穏を通り越して、宗教がかった怖さと危うさを感じます。盲信する人にとっては理想郷、外から見たら暗黒社会です。
因みに、「ボラード」とは、船を繋ぎとめる -
Posted by ブクログ
最終章はまるで鈍器で頭を殴られたような衝撃があった。全編を通して作中にずっと漂っていた不気味さ、海塚市の気味の悪さがこの最終章で一気に昇華されている。見事な結末。
こんなに最後の一行で打ちのめされた小説は他に記憶にない。
主人公の小学五年生の恭子の目を通して描かれた海塚市民の姿がとにかく不気味。得体の知れない悍ましさが漂っている。大人の欺瞞に疑問を持ち斜に構えてしまう子供ならではの感性の裏に、「本当にこの街の人々はどこかおかしい」と思わせる確かな淡々とした描写。直接的なビッグブラザーが存在しない、よりグロテスクな日本的管理社会。“世間”という言葉の持つ異様性、異常性。
出版時期から間違いな -
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読書開始日:2022年2月6日
読書終了日:2022年2月7日
所感
最悪の読後。
引力がすごい。
ずっと気持ち悪いところに強制されているよう。
いつもの日々をこれほど愛おしく感じたのは久々かもしれない。
はやく日常を営みたい。
清潔で正常な愛情の中にいたい。
水面に出て呼吸をしたい。
そう感じる。
堕ちることをこれほどまでにリアルに書いた作品を読んだのは初めて。
この一文が一番怖かった。
決して終わることがないだろうと思えるような、さめざめときた泣き方だった
すでにサチコの顔が思い出せなかった
それがどんな毒であっても、ちょっとだけ舐めてみたい
飢え、かつえ
闖入者
われわれはその「はい」 -
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あなたは10年前に戻れるなら、戻りたいと思いますか? わたしは戻りたくないです。過去を変えることは未来を変えることに繋がるから、この作品を読んで改めてそう感じました。この作品はいわゆるタイムリープがテーマになった作品で、主人公の専業作家江川が、夫婦生活といい作品が書けない、いわゆるスランプに陥って、過去に戻りたいと思う所から始まります。タイムリープを繰り返すうちにある事に気付く江川の心情を読んでいったら悲しくなりました。でも読み応えが良く文章のテンポもよくて、読んでみて良かったと思いました。ぜひタイムリープに興味がある方読んでみてください。
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ネタバレ正直、これは愛の話なのか?と疑問が残った。
うーーーーーん。
前半は主人公にとって愛=色欲っていう感じ
でも後半は奈緒美への愛があったかな
何かを吹っ切った感じがした
主人公がひたすら利己的なのが目についた
自分が周りに及ぼす影響も考えず悪臭を放ち
周りに罵詈雑言を吐き
敦子を、奈緒美を、鑑賞物として見做している
奈緒美が死ねば自殺すると言いながら、
原稿のことばかり考えている
でも人間は、食べて排泄して生きていく生き物
奈緒美は巨大になっていくため
主人公は生活を営むために
そう考えると…仕方ないかなぁ
奈緒美を介護するのは二人が共に生きるためなのだとすればそれは愛だな。うん。
最後の -
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「クチュクチュバーン」「国営巨大浴場の午後」「人間離れ」の三作を収録しています。
「クチュクチュバーン」は、人びとが異形へとすがたを変えていく世界のなかで、生きる意味を求めるなどということがまったくうしなわれてしまった状況をえがいています。他の二作も同様の趣向で、「国営巨大浴場の午後」ではナッパン星人の襲来以後の世界がえがかれ、「人間離れ」は緑と藍色の奇妙な生物が人間たちを襲うなかで「人間離れ」を試みて助かろうとする人びとがおこなう「直腸出し」などの奇妙なふるまいをえがいています。
「解説」を担当している椹木野衣は、「クチュクチュバーン」に登場するシマウマ男が体現している「見る」ことを、本