吉村萬壱のレビュー一覧
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行列
「クチュクチュバーン」的不条理リアリアズムをシンプルに。寓意がちょっと鼻につくも、吉村ワールド全開で、気持ちいい(悪い)読書感が楽しめた。後ろ見ちゃダメなわけな。そういうルールってことな。
夏の友
ノスタルジーグロとでもいうべきか。主人公以外の登場人物の闇とその必然による地獄のような不幸が、どうしてかすっきりとしてしまう。
虚ろまんてぃっく
主人公は埠頭。構成が発明的で、最後に大笑いできた。
メリットシャンプーを選ぶセンスがちょうどよい腐り庶民的。次作「家族ゼリー」に頭だけリンクする。
家族ゼリー
とりあえず感情移入して気持ち悪くなるわけで、そこには「娘」設定が無くて助かった。この家族に娘がいたら、完全な総当たり戦になる。基本ギャグ作品としてとらえるべきか。それにしてもくしゃみの匂いだのゴルフボール大の疣痔だの、よくぞまあ思いつくものだ。
コップ2030
2030年のディストピア。どうやらデジタルによって認知が破壊されているらしいが、壊れているのが主人公なので、文章描写も壊れるのだ。職員役は1984パロディだし、それを筒井風のメタ狂気手法でまじめにやっている感じ。なんのこっちゃ。
樟脳風味枯木汁
この辺になるとどうも「人としてどうも嫌だなと感じること」を苦労して探し出して綴っているような気がし出した。今回は老女性愛である。老女が決して上品ではなく、醜怪なキャラであるのも納得する。単にエロ小説ではないのだ。
大穴(ダイアナ)
「家族ゼリー」「樟脳風味枯木汁」とリンクしつつ、「臣女」のプリクエルともとれる内容。特に家の間取りや造作は「臣女」の舞台と一致している。同じように愛情の底深さが漂うにょだ。
希望
ショートショート。「行列」の別パターンのメモみたいなものかと。
歯車の音
老人偏愛性欲が露骨だ。幼少時に見たという祖母の陰部が繰り返し実体験として別稿で記されているが、そんなに強烈だったのだろうか。息子の罵詈雑言がおもしろい。半ば植物化したした父親への復讐譚であるが、嘗ての性交日記を耳元で朗読するなど、考えるだに恐ろしい。でも短編として良く出来ているよにゃ。
大きな助け
DV、児童虐待。とにかく胸糞悪くなるし、人類全体がクズ化していく様はどこかリアルだ。しかも爆笑してしまう。
あとがきにもあるように宇宙人目線で人類のクズっぷりを抽出するというのは、確かに必要だし、読んでいる読者はそれが気持ちいいのだから、もっともっと欲しがるにょだ。 -
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夫の浮気を知り、絶望となった妻にもたらされた変化は巨大化だった。
妻の身長は4メートルを超え、服も着れない、外出もできない。ただ、大量の食料を食べ、大量の排泄をするだけ。そんな妻を眼の前にした夫は苦悩と嫌悪、愛情を投げかけながら、妻に尽くし続ける。
カフカの「変身」のように理由もなく異形になってしまった人間に対しての周囲の反応を描き、人間の残酷さや身勝手さ、愛しさを浮かび上がらせるフィクション。
自らの社会的地位を放棄し、排泄物まみれになった妻を愛することができるのか。読んでいるだけで臭ってきそうな汚物の描写は凄まじい。だけど、似たようなことは現実でも「介護」という名で行われている。 -
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作品紹介・あらすじ
仰げば彼方は鏡のようにある。記憶になかったことばかり思われる。――「ラサンドーハ手稿」
蜃気楼のように現れる塔。ざぶんざぶんと波の音。へそから出てくるうなぎたち。母がクリーニング店に預けたもの。画家が描く瓜二つの妹たち。ある日、人類に備わった特殊能力……
九人の実力派作家が紡ぐ幻想アンソロジー。
【目次】
ラサンドーハ手稿 高原英理
串 マーサ・ナカムラ
うなぎ 大木芙沙子
マルギット・Kの鏡像 石沢麻依
茶会 沼田真佑
いぬ 坂崎かおる
開花 大濱普美子
ニトロシンドローム 吉村萬壱
天の岩戸ごっこ 谷崎由依
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全9編からなる短編集。タイトルの通り幻想的な内容の作品を集めている。
本書の刊行が2023年9月25日。本書の元となった雑誌「文學界」の発売が2023年4月7日。この「文學界」には12編の短編が掲載されており、そのうちの9編が本書に収録された。ただし坂崎かおるの「いぬ」は「文學界」では「母の散歩」となっていた。
本書に収録されなかった残りの3編は山尾悠子「メランコリア」、諏訪哲史「昏色の都」、川野芽生「奇病庭園(抄)」。なぜこの3編が除外されたのかは分からないけれど、内容的なものなのかもしれないと推測される。
幻想的な内容を集めたとされているけれど、僕の考える“幻想的”とは少し違う方向性の作品が多かった。ただしそれでつまらなかったかというと、そんなことはなく、かなり面白く読み進めることができた。「うなぎ」や「いぬ」などは幻想的な内容、というよりもかなり現実的な主題に傾いているように思えるし、「天の岩戸ごっこ」などは可愛らしくもある。「茶会」や「開花」は少し分かりづらい印象もあったけれど、それでも作品の持つ雰囲気に十分に没入することができた。「ラサンドーハ手稿」や「マルギット・Kの鏡像」は映像が目に浮かんでくるようだし、「ニトロシンドローム」はちょっとスラップスティック的な要素も感じられた。
そんな中にあってマーサ・ナカムラの「串」は僕にとって出色の作品。僕がイメージしていた幻想的なものに最もマッチしており、此岸と彼岸の行き来に無理がなく、不気味な中に暖かみや優しさ、そして哀愁すら感じることができた。この作品を機に彼女の詩集を読み始めることとなった。 -
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人に勧められねぇ〜!!!!!
強くそう思います。エロとグロ。三作の短編、そのどれもが地球の末期を舞台にして描かれた物語です。突然に、準備も出来ず殺戮と混沌が覆い被さる世界。そこに暮らす人間は余りにも無力です。殺され、犯され、引き摺り出される。もはや強いエンタメ性すら感じるこれらの物語を読むうちに、脅かされることの少ない自分達の日常の輪郭をぞりぞりとなぞられる様な、不愉快にも似た感覚を胸の中で感じます。ここまで圧倒的な退廃の世界では確かに見ることしか出来ません。いや、見ることすら…。『クチュクチュバーン』『国営巨大浴場の午後』『人間離れ』、どれにもウォッチャーが存在します。その彼らも最後には見ることすら出来なくなる展開にはむしろ爽快感すら感じました。
人には勧められませんが、たま〜にはこういう物語も読んでみるのもいいのかな。うーん、きっとそう。 -
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吉村萬壱『CF』徳間文庫。
元総理への凶弾と宗教問題を描いたことから、刊行時に予言的作品とメディアを揺るがせた超問題作らしい。しかし、読んでみると現実に起きた事件とは全く違うようで、がっかりした。
ピカレスク小説のような、近未来ディストピアSF小説のような奇妙なテイストの小説であった。
まるで輪廻転生のように登場人物が加害者と被害者の関係で次々と繋がって行く。罪と悲しみの連鎖は果てしなく続く。
誰もが罪を背負い、その罪は消えることなどない。病める日本社会の本質がこの小説の通りだったとしてもおかしくはない。
政府も加担しているというCFと呼ばれる超巨大企業Central Factoryは犯罪加害者の責任と被害者の苦しみを取り除く『無化』を行い、人々を平穏な世へ導いてくれているという噂だった。そこで働く工員たちは皆、過去に何らかの罪を犯し、通常の3倍の賃金で得体の知れない液体をひたすら撹拌する仕事に従事していた。
数年働けば工員たちの犯罪加害者の責任は『無化』されるが、工員たちの肉体は得体の知れない液体に蝕まれていく。
このCFの『無化』という人類最高のシステムに疑問を持つ男が、CFへのテロを計画するが……
本体価格800円
★★★★